超絶的脅威

 宇宙生物の攻撃を受けてためだろう、魔王の城は今にも倒壊しそうなありさまであった。

 そして、その城の中庭に直径十メートルはあろう大穴が穿たれていた。底は真っ暗で何も見えない。

 そこが、青肌の美女に案内されてオボロとニオンがたどり着いた場所であった。


「……この穴は、ガンダロスが開けたもののようだね」


 ニオンは大穴を少し覗きこんだあと、女性に問いかけた。

 おそらく、ガンダロスはその得意の変形機能を用いて体の一部を旋回式掘削機ドリルのような物に変形させて、この大穴を開けたのだろう、とニオンは推測した。


「あの巨大なガンダロスは、ここで活動源エネルギーを供給するため、この都市を襲撃したのです。どうぞ中へ、有害なものは除去済みです」

「うむ、分かった」


 彼女の返答に、ニオンは頷く。

 星外魔獣コズミックビーストは、機械や装置などから放たれる電磁波やエネルギーを感じて襲撃してくる危険な存在。

 どうやら、それを引き寄せた何かはこの下のようだ。


「……まあ、そのなんだ。この下に、ガンダロスを誘き寄せたものがあるのか?」


 オボロも同じく、大穴を覗きこんだ。

 むろんオボロも星外魔獣が機械的なエネルギーに引き寄せられるのは理解している。


「……どうやら、この城の地下には莫大なエネルギーを発生させるシステムがあるようですね」


 そう言ってニオンは、穴の中に飛び降りた。


「ああ、おい! どういうことだ?」


 オボロも続いて穴の中に向かって飛びこんだ。深さは十五メートル程だろう、底に着地した二十トンを越える肉体は大いに暗い空間を揺るがした。そして、いくつかの機材らしき物が倒れたような音が響いた。


「……暗くて、見えんな」


 着地したオボロは暗い地下室の空間を見渡す。しかし光源がないため、何も見えない。


「核融合炉ですね。水素やヘリウムなどの軽元素を反応させて膨大なエネルギーを発生させる装置と言っておきましょう」


 ニオンの声が暗い空間に反響すると、パッと全体が明るくなった。彼が照明の電源を入れたのだろう。

 そして目の前に現れたのは、高さ八メートル程あろう円柱状の装置であった。その周囲にはコンソールやモニターのような物がある。


「人工太陽を発生させる装置とも言えますね。あきらかに現代には不似合いな技術です」


 そう言ってニオンは円柱状の装置を見上げる。

 このエネルギー発生メカニズムは、この世の基準ではありえない技術であった。

 ならなぜ、そんなものが存在できているのか、答えは一つである。


「転生者である魔族が前世の知識を利用して開発したのだろうね。今の文明レベルでは、こんなものはありえない」


 ニオンは、そう言って顔をしかめた。


「はい、その通りです。なぜ魔族達が、これ程のエネルギー発生装置を作り上げることができたのか、その理由が異界の知識です」


 そう言いながら、遅れてやって来た青肌の美女はニオンの傍らに佇んだ。

 そして、ニオンを見つめた。


「その頭脳と知識、やはりあの方から直に教授を受けただけのことはありますね」


 すると彼女は近くにあったデスクから何かを掴みとった。


「この融合炉を製作したのは、魔王軍幹部のハルと言う少女でした」


 女性がデスクから取ったものは、誰かの日記のようであった。そして話を続けた。


「彼女は以前の世界では、人工太陽の研究を行っていた天才少女だったのです。……でも、あるとき実験中に事故が起きて、彼女は放射線を浴びてしまったのです。高線量被曝により彼女は染色体を破壊され、細胞生成することが出来なくなりました。そして、彼女は身体中から体液を滲み出させて、苦痛にもがきながら死んだのです。……それへの復讐のせいか、彼女はこの世で人工太陽を開発させたのです」


 そう言って、青肌の美女は日記をデスクの上に戻した。

 思うところがあったのか、ニオンは終始無言で彼女の話を聞いていた。


「……とても哀れな話です。しかし、この人工太陽が思いもよらない存在を引き寄せたのも事実」


 女性は、やや険しい表情を見せる。 


「この装置により、もうすでに二体の怪物がこの国に飛来しています。甲殻こうかくマグマじゅうグランドドス、大凶獣だいきょうじゅうジェノラと呼ばれる個体です」


 それを聞いて、ニオンはカッと目を見開いた。


「その二体は、ただの宇宙生物ではないのだろう。銀河系を渡り歩く超絶的な存在。単独で惑星の文明を滅ぼす怪物の中の怪物。……星外超獣せいがいちょうじゅう」     

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