決行されし殲滅作戦
俺には分からない。今、やってることは正しきことなのか。あるいは冷酷非道なのか。
この
しかし魔族どもからみれば、人道に反する虐殺にしか感じられないだろう。
……だが、一つだけ言える。このまま
ならば、やるべきことは分かっている。
この世界で一万以上の命を殺めた俺に正義や悪を語る資格はない。俺達がやってきたことは、何かを助けるために、何かを殺す。言うなれば、命に価値をつけてそれを天秤にかけること。
だからこそ俺は自分の意思で戦い、そして行動する。何かのせいにしないためにも。
そう決意して、今は怪獣であり、かつては人であった俺は地中を掘り進む。時は深夜である。
本日メリル様の命令のもと、魔族の一大殲滅作戦が実行された。それにより俺達石カブトを含め、メルガロスの大半の戦力が魔族達の領域に投入されている。
そんな中、俺の役割は魔族達が住まう小さな町などを探して、それをしらみ潰しにすることだ。おそらく索敵に優れているため、この仕事を任されたのだろう。
俺は魔族達の領域に侵入し、すでに奴等が住まう町を三つ壊滅させた。
魔族達に警戒されないためにも、陸上ではなく地中を移動している。
そして、以前と比べ地中の移動能力が向上している。巨大化に伴い、新たな能力を獲得したからだ。
怪獣の爪は凄まじく硬く鋭い。今までは、それを利用して地底を掘り進んでいたが、成長の影響で爪を任意に超高速振動させることができるようになったのだ。
そのため岩盤を容易く粉砕し砂や土を掻き分けることで、地中を高速で掘り進める。
そして、新たに察知した魔族の密集地点を目指していた。
目的の地点に到着した。俺は地表を粉砕して、その目的地の近くに巨体を出現させる。その影響で岩石が周囲に飛散し、舞い上がった土煙が月光を遮った。
そして目標のものに目をむける、やや大きめの魔族達の街であった。
だが、そこには街だけでなく、街から少し離れた位置に大きな柱のような物があった。
「こいつは、塔か」
それは、一四〇メートルはあろう巨大な塔であった。
ロールプレイングゲームなんかでは、こう言った建物はある種のステージとして扱われるだろう。
しかし俺はステージ攻略のために、ここにきたのではない。
「悪いが、これはゲームじゃない」
俺は巨大な塔に抱きつくように掴みかかり、倒壊させるべく力をこめた。
根本付近からビキビキと亀裂が入り、容易くへし折ることができた。
高層ビルをも破壊する怪獣の怪力、当然と言える結果だろう。
へし折った影響のためか、塔から砂埃のように落下する魔物どもが目に入った。
そして落ちた魔物達は地面に激突して、花火のように弾けて肉塊となりはてた。
そして、今度は魔族達の街に視線を向ける。へし折った塔を持ち上げて、街に目掛け投げつけた。
「ぶっ潰れろぉ!!」
投げつけた巨大な塔は街の中央付近に落下した。凄まじい震動がおき、破壊された木造の建物達が飛び散る。
投げ込んだ塔はよほどに強靭なのか、地面に激突しても壊れることなく、いきおいのまま転がって次々と建物を押し潰して魔族達を圧殺していく。
転がる塔が止まったのは街から数百メートル離れた地点だった。
むろんこれで街にいる魔族達が全てくたばった、とは思えない。
すかさず殺戮の閃光を放つため、触覚を正面に向ける。そして魔族達の悲鳴や絶叫が響き渡る街を光線でなぎ払った。
身長百メートルを越えた巨体から照射されたレーザーは予想以上に強力だった。
光線が照射された地点は瞬時に蒸発し、凄まじい後追いの爆発が起きた。
木造が多かったためか魔族の街は一瞬にして火の海と成り果て、深夜の空を真っ赤に染め上げた。
「出力の上昇は予想以上だな、気をつけなければ」
そう呟くと、燃え盛る街から多数の飛翔体が俺に向かってくることに気づいた。
それは怒りで表情を歪める数十人程の魔族。全員が血を流しボロボロになっている、羽ばたくのもやっとだろうに。
おそらく奴等は、俺に一矢報いるために突っ込んできているのだろう。
(メルガロスの化け物め!)
(こんなこと許されるのか? ちくしょう!)
(旦那と娘を返せぇ!!)
魔族達の心の叫びが俺の脳内に流れ込んできた。この能力も巨大化したときに発現したものだ。
テレパシー能力なのか読心術なのかよく分からない。……たぶん能力の制御は、まだ完璧ではないだろう。
そのためか、伝わって来るのは思念だけではないのだ。魔族達の各々の知識や記憶までもが俺のなかに入り込んでくる。
そして理解できた、コイツら全員が転生前に悲惨な死をとげていることに。犯罪、事故、自殺、病、戦争。
つまり例えようのない無念を持ちながら死んでいった奴等なのだ。
しかし、だからと言って生かしておいて言い訳ではない。
飛翔する魔族達を正確に狙い、レーザーで凪ぎ払った。
出力が強すぎたようだ。レーザーの熱量が強力すぎたため大気が電離してプラズマ化、射線上にいた魔族達は一瞬にして蒸発した。さらに加熱膨張した大気が強力な衝撃波を生み出し、レーザーに直撃にしなかった魔族達を粉微塵に吹き飛ばした。
「……蒸発したか。痛みは、なかっただろう」
そう小さく呟き、前方を見渡す。
数十人程いた魔族達は跡形もなく消し飛んでいた。
そして任務を完全に成し遂げるため、今だに燃え盛る街に足を向かわせる。
街の目前までたどり着くと、子供の泣き声が聞こえた。
「お母さん! お母ぁぁぁさぁぁん!」
それは息絶えた母親にすがり付く男の子だった。
母親の下半身は、倒壊した建物に押し潰されている。
……その男の子の記憶も俺の中に流れ込んできた。
「この子は転生者ではないな。この世で生を受けた魔族の子供か……」
こんなこと本当は言いたくない。この子は生まれない方がよかったのだ。
生まれたは良いが、世界に毒をばらまく病原菌でしたなどと聞かされたら悲惨すぎる。
何も知らずに死んでいくのが、一番かもしれない。
俺は巨大な顎を開き、超高熱火炎を街に浴びせつけた。
この能力も巨大化に伴い強化されていた。
真っ白な火炎は摂氏六千度と、とんでもない熱量であった。体内で生成される、火炎燃料の組成が変化したのだろう。
超高熱の火炎はあらゆる物を焼き、そして融解させていく。
街は跡形もなく溶けてなくなった。
そして俺は、次の街を探すべく触角を研ぎ澄ました。
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