もう一つの神
「じゃあ、その機械とやらが無ければ、その怪物どもはやってこないのだな?」
「機械が存在しない場所に出現したことは、ありません」
「ふう、そうか。安心した……」
ドワーフの族長は、ニオンの答えに安堵したかのように息を吐いた。
星外魔獣は、機械などから発せられるエネルギーや電磁波に反応して姿を見せる宇宙生物。今のところは、機械がある場所にしか出現したことがないのだ。
だがしかし、ニオンは険しい表情で語りだした。
「しかし、安心はできません。飛来してきた星外魔獣がガンダロスだけとは、かぎりません」
「……どういうことだ?」
メリルが問う。
「先程も言った通り、星外魔獣は機械的な文明に引き寄せられる怪物。いつから魔族達が機械に手を出し始めたのか分かりません、もしも長期に渡り魔族達が機械を使用していたとしたら、引き寄せられたのがガンダロスだけとは限りません。いずれにせよ、魔族の領域を調査しなければ」
「ではなんだ、まさか、まだ他にもあんな怪物達がこの国のどこかに潜んでいる可能性があると言うのか?」
驚愕したメリルの声に釣られ、族長達も表情を険しくさせた。
相手は魔術を使用不能にしてしまう怪物。ただの魔物や魔族とは、あまりにも脅威度が違いすぎる。わずか一体だけで国が崩壊してもおかしくないほどに。
それが、もしまだ潜伏しているとしたら……それも一体、二体だけでないとしたら。
ニオンは、静かに頷く。
「もうすでに、複数の個体が飛来してこの国に潜伏している可能性は十分にあり得ます。……これから苦難の道になるかもしれません。相手は人類では太刀打ち不可能なほどの存在」
「……どうすれば」
メリルは深刻そうな雰囲気で頭を抱えた。
あまり聞きたくない説明内容だった。
今回はニオン達がいたから、どうにか乗り越えられた。しかし彼ら無しで今後あんな脅威に立ち向かえるわけがない。
だが、ニオンは話を続けた。
「これからは種族など関係無く、みなが力を集結させることが重要です。このメルガロスを救うためにも必要なことでしょう。それに、ここは私を育んでくれた故郷です、見捨てはしません」
その発言を聞いて、怯えた表情をしていたメリルや族長達の顔に落ち着きが戻った。
「すまないな、ニオン。何から何まで……私は、お前の話を信じず極刑にしようとした愚か者だと言うのに……本来なら助けなど望んではいけないのに」
「……女王よ、それは何の話かな?」
メリルの言葉を聞いて、ドワーフの族長が鋭く問いかけた。
次は自分が全てを伝える番だ。塗り替えられた数年に及ぶ、偽りの英雄の歴史を。
「みな心して聞いてほしい。許してくれとは、言わない。私達は……いや、私は国民達をだまし続けていた」
メリルは覚悟を決めて、数年間偽り続けていたことを暴露し始めた。
最強の剣聖、最高の勇者一党、多数の
その不名誉を隠蔽するために、当時脅威となっていた
そして騙されたとは言え、ニオンを親殺しの冤罪で極刑にしようとしたことを。
メリルは洗いざらい全てを族長達に伝えるのであった。
しかし族長達は怒りよりも、驚愕の方が勝ったようだ。
「……し、信じられん。兄さん、あんた一人で英雄達を……」
ドワーフの族長は目を丸くして、メリルの傍らに立つ美青年を見据えた。
みな、あまりのことに困惑しているなかエルフの族長が冷静な面持ちで口を開いた。
「女王よ、では
「すまない、私もその者については良くは分からんのだ。……しかし毛玉人達で構成された少数精鋭の傭兵達だった。そして、その傭兵達の首領はまるで山のような熊の毛玉人だったことは覚えている」
山のような熊の毛玉人?
族長達は何かに気づいたのか、いきなり立ち上がり互いに目を合わせだした。
「……まさか、あの男か?」
「たしかに、山のような熊……」
程なくし緊急招集による会議は、終わった。
族長達は里に帰ったあと、今後のことについて方針を決議することになるだろう。
ただし混乱を避けるため星外魔獣については、すぐには公表しないという事となった。
そして城の、とある大部屋。族長達と会議をしていた場所だ。
そこには、ニオン、メリル、ミースの三人だけ。
「それで重要な話とはなんだ、ニオン?」
「あなた方が持つ、英力についてお伝えしておきましょう。驚愕の内容になるため、心して聞いてください」
それを聞いて、メリルとミースは固唾を飲んだ。
英力は創造の女神リズエルの遺品とされているが、詳しいことは分かってない。
しかし、ニオンはそれについて知っているようだ。行使してる自分達も詳しくは理解できていない、超常の力を。
そしてニオンは小さめの声で説明を始めた。それだけとんでもない内容なのだろう。
「あなた方に英力を与えた存在は、神であることには間違いありません」
「では兄上、やはり創造の女神の力なのですね?」
「いや、リズエルがもたらした力ではないよ。……この世界を造り上げた神は二柱いるのだから」
最後の一言が衝撃的だった、メリルとミース総毛立つ。
驚愕どころの内容ではない。しかしニオンが言うことだ、冗談だとも言えない。
正規の歴史では、この世界を造ったのは女神リズエルとされている。
別の神がいるなど、そんな話は聞いたことがなかった。
「それについては師から教わりました。さらに、こうおっしゃっておりました。『発達した科学は神との対話を可能にする』と。それを考えると師は高度なテクノロジーを用いることで我々が認知していなかった、もう一つの神との接触に成功したと思われます」
「……二つめの神だと、そんな……」
メリルは頭を抱えた。とても、すぐに理解も認めることもできるような内容ではない。
……信じていいものかどうなのか。
「その神は、この世界に魔物を生み出したことで創造の女神リズエルの怒りに触れて封印されていたと聞いています。しかしリズエルが消えたことにより、目覚めた」
「……女神の死とともに。まさか、その神は魔族達と何か関係あるのか? 魔族も女神が消滅するとともに出現した種族だ」
「はい。魔族達の出現に関わり、奴等が神と崇める存在。
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