緊急召集

 とある大部屋の中。

 中心にはピカピカに磨かれた高級感溢れるテーブルがあった。

 そこに掛けているのは、女王メリル。そしてメルガロスに住む、多くの種族の族長達である。エルフ、ドワーフ、毛玉人など。彼らは総称して亜人と呼ばれ、人間至高のメルガロスでは差別的な扱いをうけていた。

 ゆえに女王の城に入るなど、初めてのことである。緊急招集されたがため、族長達は城にやって来たのだ。

 彼らは、みな不愉快そうな視線をメリルに送っていた。長い間、彼女達に見下されてきたのだ仕方のない反応だろう。

 そんなメリルの様子だが、少女のような顔の目の下を黒く染め、かなり疲れきっているありさまである。さらに全身から死臭がしていた。

 ガンダロスが襲撃してきてから三日経つ。彼女は休まずに被害にあった人々の対応をしていたのだろう。

 

「各族長に告げたい。はるか大昔から続いた他種族への偏見、申し訳なかった」


 メリルは、迷うことなく族長達に頭を下げた。そして、言葉を続ける。


「それと、我々は英力が行使できないと分かり、途方に暮れて王都に閉じ籠っていた。その結果、みなに魔族との無理な戦いをいらせてしまい、多くの犠牲を出させてしまった。本当に申し訳ない」

「……それで、これからどうするおつもりですかな? 女王様」


 メリルの謝罪を聞いて、ドワーフの族長が厳しい目を向ける。

 散々に見下してきたのだから、一言謝れば解決など有り得ないだろう。そう言いたげだった。


「国の在り方を変える。人間至上の考えを捨てさり、今後みなを対等の立場と認識し、協力していきたい。……もちろん、虫がよすぎるだろう、全ては私の責任だからな。みなの、どんな望も聞き入れよう。私は覚悟を決めて、この場にいる」


 彼女の目に迷いはない。

 ニオンとの再開、宇宙生命体の襲撃、多くの人々の死。それらの修羅場がメリルを成長させたのだろう。もはや、英雄の歴史に執着していた小娘のような彼女はいなかった。

 そして、メリルは自分の額にあるバッテン状の傷を指差した。


「私は一度死んでいるんだ。これが証明なのだ、もうなにも恐れぬ。この身がどうなろうとも……」


 五年前に、ニオンに刻まれた額の傷である。彼に敗北した証、そして自分が死んだ証でもある。

 メリルの覚悟を見て、ドワーフの族長はポリポリと頭を掻いた。


「女王様、ワシらは別に、あなたに何かを寄越せと言うつもりはない。確かに鬱憤は貯まっているがね」


 ドワーフの族長がそう言うと、他の族長達は賛同するように頷いた。

 そして彼は話を続ける。


「今ワシらがやらなければならんことは、女王様の言うとおり、この国の者達を統合して新しい国のあり方を作るべきだろう。……今日、王都に来てたまげた、あまりの惨状にな。聞いた話だと、魔王どころではない化け物が現れたらしいですな」


 族長達はガンダロスによって破壊された王都を見て、そして話を聞いて理解したのだ。

 魔王など比較にもならない、恐るべき脅威が存在することを。

 ゆえに魔族などと、いつまでも戦っていられない。それほどの脅威に対応するには、国の総力を統一しなければならないと。


「……おっしゃるとおりだ」


 メリルが返答すると、ドアをノックする音が響いた。


「入れ」

「失礼します、メリル様」

「ニオンか、どうだ?」

「ガンダロスが爆砕した地点から広い範囲に渡って調査しました。思考流体金属しこうりゅうたいきんぞくは発見できず、ガンダロスは完全に消滅したと考えてよろしいでしょう」


 ガンダロスが吹き飛んだ地点からやっと熱が消えて、ニオン達が調査に当たっていたのだ。そして、たった今ガンダロスの完全消滅が言いわたされた。

 それにたいしメリルは、安堵の息を吐いた。


「そうか、良くやってくれた。……いや、良くやってくれたなどと……そんなこと言える立場ではないな」

「いえ、かまいません。あの怪物の対処が私達の役割ですから」


 暗い顔をするメリルをニオンが慰めていると、陽気な声が発せられた。


「よう! 兄さん!」


 さっきまで厳しい表情だったドワーフの族長がニオンを見た瞬間、豹変したように顔を緩めていた。

 彼だけでなく、他の族長達も穏やかな様子を見せた。

 そしてドワーフの族長は、ニオンのもとに駆け寄る。


「兄さん、あんたのおかげで集落の復興は速く終わりそうだ。ドワーフ族を代表して、礼を言いたいのだ」

「それは、何よりです」


 よほどニオンは彼等に好かれているのだろう。

 その様子を見ていたメリルは、ある考えに至った。


「ニオンよ、今回の出来事を説明してもらって良いか? お前が一番内容を知っているだろうし、みなもその方が納得いくだろうしな」


 彼女がそう言うと、族長達は一斉に頭を縦にふり真剣な眼差しでニオンを見据えた。


「分かりました」


 これにニオンも穏やかに承諾した。そして彼も真剣な目付きになる。


「あの怪物と接触した以上、無知ではいられません。まず、この度王都に大きな被害をもたらした存在について説明いたします。私達は、その存在を総称して星外魔獣と呼んでいます。宇宙空間と言う領域から飛来してきた、今だに得体の知れない脅威的な生物群です」

「……宇宙空間とは、何だね?」


 ニオンに問いかけたのは、エルフの族長である。

 長命で知識に優れる、エルフでさえ宇宙は理解できていないのだ。


「宇宙とは無限に見える空よりも先にある、計り知れない程に広大な領域です。この惑星で初めて、その領域に到達したのは、私の師かもしれません。そこは大気が存在しないうえ、無重力の極限な世界です」


 ニオンの『師』と言う言葉を聞いて、一番敏感に反応したのはメリルであった。

 そして恐る恐る、口を開く。


「……師とは、お前に剣や学門を教えたものか?」

「はい、そうです。師の話については、後にしましょう。今は星外魔獣についてです」

「……ああ、進めてくれ」 


 ニオン程の規格外の剣士を育てた存在だ、メリルは気になったが我慢して話を進めてもらった。


「今回出現した星外魔獣ガンダロスのについてですが、おそらく魔族が絡んでいると思われます」

「魔族だと! 奴等は一体何をしたんだ」


 ドワーフの族長が、テーブルを叩いて怒号をあげる。


「ガンダロスは一人の魔族を追跡してくる形で、この王都にやって来ました。恐らく最初に魔族達の領域に飛来した後、どう言うわけかその魔族を執念に追い回した末に王都に現れたのでしょう。星外魔獣は機械文明に引き寄せられる性質をもっています、それを考えると魔族達が独自の機械的な文明を持つようになったと推測します」

「……機械? そりゃ何だね、兄さん」

「電気や熱などと言った動力源を受けて有用な機能を起こすものです。私が今、従事している領地では機械文明が発展しているため、星外魔獣は度々出現しています。そのため私達の部隊は、その脅威に対処するための戦力なのです」

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