炸裂する大神弓

 クサマはガンダロスの顔面に向けて、鉄拳をお見舞いする。

 だが、ガンダロスはそれを交差させた両腕でガードした。強靭な金属同士がぶつかり合い、轟音が響き渡る。

 その拳の威力でガンダロスは転倒しそうになるが、どうにか耐えたようだ。踏ん張ったため、ガンダロスの足下の地面は大きく抉れている。そして殴られた前腕部はベッコリとへこんでいたが、すぐに変形箇所を液状化させて修復してしまった。


「ン゛マッ」


 クサマは修復されたガンダロスの腕を見て一歩さがった。

 ガンダロスに決定的なダメージが与えられず、戦いに終わりが見えない。

 しかし、ガンダロスの行動に変化が表れている。

 さっきまで体を液状化させてクサマの攻撃を回避する手段を行っていたが、今はガードで攻撃を受け止めるだけになっている。

 おそらく体全体を液状にして瞬時に甲冑の体を形成する機能は長時間使うことができないのだろう。エネルギーの消費が激しいのか、あるいは多用すると何かしらの悪影響がでるのか。

 いずれにせよ、攻めるチャンスではある。


「ドワッシ!」


 するとガンダロスは左手をいきなり砲身に変形させた。そして閃光のごとき白色の火炎をクサマ目掛け放射した。

 超高熱の炎で焼かれそうになるが、クサマは跳躍し火炎を避ける。先程まで立っていた土壌が瞬時に飴のように融解してしまった。

 跳躍したクサマは、そのまま落下する力を利用して踏みつけるような蹴りをガンダロスの頭に見舞う。

 凄まじい音とともにガンダロスの頭部が粉々に吹き飛んだ。しかし砕けた破片一つ一つが液状化し、意思を持つがごとく頭のない胴体に集まり頭部を再生させてしまった。

 ダメージを与えても、こうも回復されたのでは打つ手がない。

 と、その時ナルミから指示が届いた。彼女の懐中時計型声紋コントローラーから発せられた情報がクサマの頭脳に受信された。


(クサマ、あいつの体の組成を高熱で崩壊させれば倒せるよ。まず大きなダメージを与えて、そしたら再生途中のあいつに、あの武器を撃ち込んで!)


「ン゛マッ!」


 ナルミの指示に返答し、クサマは足下に斥力場を発生させて飛翔した。

 その巨体はみるみる高度をあげる、ガンダロスからは豆粒のようにしか見えないだろう。


「ドワッシ!」


 すると、ガンダロスは腰部装甲と下腿部にノズルのような器官を生成させた。そして、そのノズルから強烈な閃光と爆音が発せられる。

 ノズルから噴き出したのは、高温のプラズマであった。

 プラズマを噴射することで推進力を得たガンダロスも夜の大空を飛翔した。

 ガンダロスはクサマと同じ高度まで達すると、右手を変形させる。右手は剣へと変化した。


「ドワッシ!」


 ガンダロスは剣を振り回しながら、クサマに襲いかかった。





 地上から上空の戦いを見守るニオン、ナルミ、ミース。

 空中の戦闘は、地上スレスレだったり、遥か上空だったりと、高速かつ苛烈を極めた。幾度も金属がぶつかり合う凄まじい音が響き渡る。


「ドワッシ!」


 ガンダロスの剣による刺突が、クサマの肩を貫いた。


「副長! クサマが!」

「大丈夫。あの程度のダメージで、やられたりしないさ」

「クサマの装甲を貫くなんて……」

「ガンダロスの体を構成する思考流体金属しこうりゅうたいきんぞくは高密度に圧縮させて硬質化させると、とてつもない硬度を誇るようになるんだ。クサマの装甲が削られるのは仕方のないことだよ」


 ニオンが説明し終わると、ナルミは考え込み何かを思いついたのか、パッと顔をあげる。


「……そんなに優れた物質なら、ガンダロスの流体金属を何かに利用できないかな?」


 ナルミの提案に、ニオンは横に頭を振った。

 一見非常に便利な金属に見えるが、危険な物質なのだ。


「それは、やめたほうがいい。金属生命体とは意思を持つ金属のこと。だからこそ制御は極めて困難なんだ。仮に制御に成功しても相手は生物、生命は必ず人知の制御下から脱け出そうとするものだよ」


 ナルミはその難解な言葉に頭を抱えたが、納得したように返事をした。


「天才の副長が言うことだから、そうなんだろうね」

星外魔獣コズミックビーストがもたらすテクノロジーは、今だに理解できないものが多い。クサマに用いられている技術は原理を解明して制御できるようになったものだけだ。だからこそ奴等の情報は細心の注意をはらって管理しているのだよ」


 星外魔獣コズミックビーストの能力を解明することでクサマの建造に成功したが、まだ宇宙生命体の力には未知の部分が多いのだ。

 原理が解明できない以上は確実な制御はできないし、また悪用されればとんでもないことになるからだ。

 ゆえに、解明できていない星外魔獣コズミックビーストの技術は流出しないように、ニオンが厳重に管理しているのだ。

 そんな二人の会話にはついていけず、ミースは二人の背後で佇むだけだった。





 クサマの装甲はあらゆる箇所が削られていた。

 ガンダロスの剣はクサマの装甲を上回る程の硬度なのだ。

 しかし、この程度の損傷ではクサマは倒れない。


「ン゛マッ!」


 クサマは装甲の破損など気にしないかのように身構えた。


「ドワッシ!」


 すると、ガンダロスは肩部をパックリと開き無数の噴進弾ロケットを発射した。

 すかさず、クサマは指から機関砲を掃射して向かってきていた噴進弾を迎撃した。

 クサマとガンダロスの間で大爆発がおこり、黒煙に飲まれた。

 周囲が煙で見えなくなるが、クサマは搭載されたセンサーを稼働させることでガンダロスの位置は把握している。

 これは、チャンスであった。

 発生した黒煙のせいでガンダロスは、クサマの位置を見失っているだろう。むろんガンダロスもセンサーのような器官を保有してる可能性はあるが、攻撃を仕掛ける価値はあった。

 クサマは煙を掻き分けガンダロス目掛け突っ込んだ。


「ン゛マッ!」 


 どうやら上手くいったようだ。

 ガンダロスはいきなり煙の中から飛び出してきたクサマに反応できなかった。

 クサマはガンダロスをぶん殴り無理矢理に後ろを向かせると、羽交い締めにして急降下を始めた。

 足底の水素プラズマロケットが火を噴き、超音速で地面に向かっていく。

 そして地面に激突寸前に体勢を変えて、ガンダロスを押し潰すように大地に叩きつけた。

 凄まじい轟音と衝撃波とともにガンダロスは、粉々に砕け散る。膨大な土砂が飛散した。

 もちろん、この程度で死んだとは思えない。

 クサマは、すぐさま上昇して砕けたガンダロスの破片に視線を向けた。

 破片が液化して一ヶ所に集まろうとしている。もう再生が始まっているのだ。

 だが大きな隙を作ることはできた。


(クサマ、今だよ! 閃爆せんばく大神弓ごうがん!)


 ナルミからの指示が届いた。

 クサマは胸部の装甲を左右に展開し、その中に収納されていた、金属製の棒状の物と、複雑に折り畳まれた物、を取り出した。

 その折り畳まれた物は展開して巨大な弓になり、そして棒状の物は伸長して長大な一本の矢と化した。

 しかし、それはただの矢ではない。その矢にはロケットエンジンが搭載され、鏃内には強力な磁場で凝縮された高温・高密度のプラズマが封入されている。

 クサマは狙いを定めて、矢をつがう。その剛力で弓が引き絞る。

 そしてガンダロスの体が完全に再生する前に、巨大な一撃が放たれた。

 弓の弾力とロケットエンジンによる二段加速式の巨大な矢は、マッハ十を越えて再生途上のガンダロスに突き刺さった。

 さらにとどめを刺すべく、鏃内のプラズマがガンダロスの内部で解放された。

 解放された超高温・超高圧のプラズマは、ガンダロスを構成する金属を一瞬にして破砕し、プラズマ化させた。そして大爆発が起きた。

 爆風で周囲一帯が吹き飛ぶ。そして巨大なキノコ雲が発生した。

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