二大巨人激突

 クサマは、またガンダロスに掴みかかろうと走り出す。その巨体に不似合いなほどの高速な機動であった。

 クサマ程の巨体が高速で動いたため突風がおき、地面を踏みしめるたびに王都が震える。


「ン゛マッ!」

「ドワッシ!」


 しかしガンダロスは掴まれた途端、体を液状化させてクサマの手から逃れた。そして水溜まりのようになり、また地面を滑るように移動する。

 液状化したガンダロスは高速でクサマの背後に回り込み、液状化していた体を再び甲冑へと瞬時に変形させクサマの背中を蹴り飛ばした。

 いくつもの建物を潰しながらクサマは転がる。


「ン゛マッ!」


 しかし大したダメージはないのか、ムクリとクサマは立ち上がる。





 このままでは拉致があかない。被害が増える一方だ。ガンダロスを倒さなければ、なにも解決しない。

 しかし避難が終わらない内に戦闘を開始させれば、多くの犠牲者が出るだろう。

 それこそクサマの攻撃の巻き添えで、多くの死者を出しかねない。そんなこと、あってはならない。

 ナルミは苛立ちながらクサマとガンダロスを見つめた。


「副長! 住民の避難は、まだ終わらないの?」

「さきほどの噴進弾で剣士や騎士達にもだいぶ被害がでてしまってね、もう少しで終わるとは思うのだが……」


 ナルミの問いに険しい表情でニオンは返答する。

 なにぶん住民達は非常事態など初めてのため、避難に手こずっているのだろう。

 その時、二人の下に一人の少年が駆けつけた。


「兄上! この周囲の人々の避難は完了しました」

「良くやってくれた、ミース! ナルミ殿」


 もはや加減の心配はない。ナルミは戦闘開始の号令を声紋コントローラーを通してクサマに投げ掛けた。


「クサマ! 本気でやっちゃって! まず被害がこれ以上でないように、王都の外に追い出して!」


 ナルミの指示を受け取ったクサマは、待ってましたとばかりに両拳をガンガンとぶつけ合わせる。


「ン゛マッシ!」


 クサマはガンダロスの顔面を目掛け鉄拳を叩き込んだ。金属がぶつかり合う轟音が周囲を振動させる。

 ガンダロスは半回転して後頭部を地面に強打させた。その衝撃たるや凄まじく広範囲に渡り建物が倒壊し、頭部が叩きつけられた地面にはクレーターが形成された。


「ン゛マッ!」


 クサマは倒れたガンダロスに掴みかかった。そして、すぐさま斥力の場を発生させ推定一五〇〇トンものガンダロスを抱えたまま空へ舞い上がる。

 そのまま空中を飛行し、王都の外へとガンダロスを運び出した。

 ナルミの指示どおり、クサマはガンダロスを都の外に追い出したのだ。


「ン゛マッ!」


 クサマは空中で抱えていた手を離すと、ガンダロスを下に向かって蹴り飛ばした。

 ガンダロスは、そのまま物凄い速さで大地に叩きつけられた。凄まじく地面がゆれ、大量の土砂がまきあがる。

 そしてクサマは、ガンダロスが激突した場所付近に着陸した。

 ガンダロスの体には所々に亀裂が入っており多少なりダメージを受けた様子であった。

 しかしガンダロスは損傷部を液状にして破損箇所を再生させた。そして、その巨体にも関わらず後方回転してクサマから距離を離し体勢を立て直した。


「ドワッシ!」


 ガンダロスは走りだすと、先ほどの仕返しと言わんばかりにクサマの顔面にパンチを叩きこむ。

 クサマはその攻撃で仰け反るが、どうにか体勢を立て直して反撃のラリアットでガンダロスを地面に叩きつけた。

 すぐさまクサマは倒れたガンダロスを踏みつけようとしたが、ガンダロスはまたもや体を液状化させ踏みつけを回避した。

 その後も激しい格闘戦が続く。





 二体の巨人の格闘を見て唖然とするミース。

 なぜ、あれほどの巨体であんなに俊敏かつ速く動き回れるのか?

 元正位剣士しょういけんしの長である自分の目を持ってしても、二体の動きを追うのは大変であった。挙動一つ一つが軽く音速を越えているのだ。


「兄上、味方である黒い巨人はいったいなんなのですか?」

「クサマは星外魔獣コズミックビーストを分析したデータを利用して開発した存在、しかしけして怪物ではないよ。彼は、ある種の機械生命体と言える」

「機械生命体?」

「大型の星外魔獣コズミックビーストの出現を考慮して、私が建造したんだ」

「兄上がですか! しかし兄上は魔術は使えないはず。それに現状の魔術であのような巨人を作成するなど不可能。あれほどの巨体で、なぜあんな動きが?」


 ミースの問いに、ニオンは二体の巨人達の戦いを見据えながら答える。


「クサマに搭載されている斥力生成装置から発生される斥力場は、推進力や飛行時の制御だけでなく、機動の補助にも用いることができる。ゆえに、あのように質量や大きさを無視したような動きができるんだ」


 そして背後に佇むミースに、ゆっくりと振り返り告げる。


「クサマの開発には魔術など一切用いていない」

「……兄上、あなたはいったい?」

「こう見えて、私は科学者でもあるのでね。クサマには、君達が知らない科学技術が利用されている。だからこそ、君には物理法則を無視したように見えているんだ」


 ミースは息を飲んで、改めて兄が規格外であることを認識した。もはや千年以上にもなる英雄神話ですら、足下におよばない。

 兄はいったい今まで何を見て、聞いて、経験してきたのか。

 それに比べたら、今までの剣聖候補としての経験など……。


「兄上、全てが終わったら、あなたと色々と話したいことがあります」

「私もだよ、兄弟同士での会話は少なかったからね。色々と教えてやることができる。剣術、学問、その他にも色々とだ」


 ニオンはそう言って、二体の巨人達に視線を戻した。

 今だに格闘戦が続いており、金属がぶつかり合う音が響き渡る。

 互いに中々、決定打が与えられてないようだ。


「副長、どうすれば? 格闘だけじゃ倒せないよ」


 クサマを操るナルミが慌て気味に、ニオンに問いかける。

 それにたいしてニオンは冷静に返答した。


「大丈夫だよ、落ち着いて。金属生命体は、その体を構成する金属の組成を崩壊させることで倒すことができる」

「クサマの武装で、できる?」

「もちろん。うまく隙を作って、あれを撃ち込めば倒せるはず。そのためにも、再生に時間がかかる程のダメージをガンダロスに与える必要がある」

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