超戦力集結
時は日が沈む寸前。
ドワーフの集落のあちこちで焚き火が行われている。けして夕食だからではない、敵の襲撃に備えているのだ。
ここに残っているのは戦う意思があるものだけで、非戦闘員達はみな別の街に避難した。
そして狼超人との戦いで傷を負った人々が治療を受けていた。
その役割を僧侶であるルナと何人かの魔術士が引き受けていた。
治療魔術を持つ者は数が少ないのだ。
「ルナ、あまり無理するなよ。いつまた魔王軍が来るか分からないんだから。温存しとかないと」
「だからこそよ、ロラン。いつ来るか分からないから、みんな戦えるようにしとかないと」
幹部三人と大部隊が殲滅されたのだ。
これに激怒し、いつ魔王が新手を送ってくるか分からない状況。
ゆえに全員を戦える状態に、しとかなければならない。
「そうだ。お前達が戦う意思を見せなければ、オレ達は力を貸さない。間違ってもオレ達がどうにかしてくれる、何て思うな。これは、お前達と魔王との戦いだからな」
そう言いながらオボロが二人のもとにやって来た。
「ほれ、力強い助っ人が来たぞ。石カブトの一員でな、最高の治療魔術が使えるんだ」
オボロの傍らには、ぽっちゃりとした少女のようにも見える青年が立っていた。
しかし、その背丈はロランやルナよりもだいぶ低い。だが操る癒しの力は一流である。
「石カブトのアサムです。僕も、みなさんの治療を手伝いますので」
そう言いながら、ルナに近寄るアサム。
するとルナは、いきなり彼のたぷたぷした腹部に頬ずりを始めた。
「……これって、子供を作るための空間だよね?」
「あ……あのぅ」
彼女の突如な発言に戸惑うアサム。
それを見て、ロランは頭を抱えた。
「すみません師匠、ルナは年下好きなんです……」
「いや、アサムはこう見えて、お前達より十三も上だぞ。てか、オレよりも年上だがな」
オボロのその言葉をしっかり聞きとっていたらしく、ルナはアサムをギュッと抱き寄せる。
そして非常に真面目な目付きでオボロに言った。
「お父さん。息子さんをください、是非とも妻に……」
「お前は、いったい何を言っているんだ……」
彼女の一方的な結婚挨拶を聞いてオボロはボリボリと頭をかきむしる、するといきなり巨大なものが彼等の頭上を通過した。
「うおっ!」
突然の突風で驚くオボロ。そして通過した巨大なもを見上げる。
「ニオンの奴、いつの間にあんなものを……」
石カブト全員が集結したのは一時間前ほど。
オボロが転送してもらった隊員集合指示の手紙は狂うことなくニオン達のもとに送り届けられた。
そして手紙を受け取った彼等は、あるものに乗って集落にやってきた。
最初それが空から飛来したときは、みなパニックなった。
そして到着後も、ニオンとナルミはそれの試運転を行っている。
ズーンと地面が揺れた。飛行訓練を終えて集落の近くに、機動超人が着陸したのだ。
機動超人クサマが飛行テストを終えて、地に降り立つ。
ゲン・ドラゴンでも多少試運転を行っていたが、今は最終調整と言ったところだろう。
しかし設計と開発を行った人物のことを考えれば、不備などは皆無と言える。
「完璧だね、副長。メルガロスまで飛行してきても不備は無し。最終チェックも異常なしだよ」
クサマの手からナルミが飛び降りた。そして軽やかに着地する。
飛行性能の最終チェックを行っていたのは彼女だ。事実ナルミの首には懐中時計型の声紋コントローラーが下げてある。
「うむ、飛行面は問題ないようだ。武装に関しては、魔王軍との戦闘で試すしかないだろう。……本来なら、使い道が違うがね」
ニオンはクサマの足下付近で穏やかに言う。
「ナルミ殿、クサマは君に一任しよう。声紋コントローラーには私とナルミ殿の声しか登録されていないからね」
「えぇ! あたしがクサマを指揮していいのぉ?」
「ああ。ナルミ殿なら、きっとクサマを上手に扱えるだろう」
「やったぁ! これからよろしくねクサマ!」
「ン゛マッ!」
高性能な玩具を与えられた子供のようにはしゃぐナルミにクサマは機械的な声で返答した。
「すまん兄ちゃん、聞きてぇことがあるんだ。あのゴーレムみてぇなのは、何なんだ?」
「いったいどんな材料で作られてるんだ?」
「あれほどの質量が、なぜ飛べるんだ?」
物作りの職人達である樽のような体型をしたドワーフ達がこぞってニオンのもとにやって来た。
クサマはオーバーテクノロジーの塊、ドワーフ達でもクサマの仕組みが分からないのは当然である。
ドワーフは、その技術が発揮する超機能に興味が抑えられなかったのだろう。
彼等にたいし、ニオンは静かに言う。
「それは、お教えできませんね。誰も知らない、知られてはいけないものですからね。ただ一言だけいうなら、魔王以上の脅威に備えて」
「……魔王以上?」
彼の発言にドワーフ達は、頭を傾けるしかできなかった。
× × ×
集落から少し離れた位置で俺は考えこんでいた。
今になっても思うが、やはりおかしい。
あのハルと言う名の魔族は、自分を転生者だと言った。
おかしい? 現時点で召喚のような技術はないと言うし。
そして、この世界の創造主であり神であるリズエルは死んだとされる。転生や転移のように別世界に人を飛ばすことができるのは、神のような超常な存在ぐらいと、マエラさんは言っていた。
それなのになぜ……。
……色々考えるなか、集中を乱す存在がある。
ドワーフの集落から、黄色い声がたえまなく聞こえてくるのだ。
「いい具合の、むち尻してるわね。安産型だわ」
「ちょっとその布の下を見せてくれ……ほほう、陥没B地区ではないか」
「今、子供はいるのかしら?」
「あのぉ! ……それ以上は」
ダークエルフの褐色お姉さん達に大胆不敵なセクハラを受けているのはアサムだ。
尻を触られたり、胸の布をめくられたり、腹部に耳を当てられ子供の有無の確認をされるなど。
どう見ても、極めて危険な状況だ。もし姉さん方の箍が外れたら、そりゅあえらいことになるだろう。
アサムが似た肌の色をしてるため、彼女達は彼に親近感を感じているのかもしれない。ゆえに、なおさら愛しく感じられるのだろう。
「こらぁぁぁ!」
ナルミが救助に来た。
「アヨヨヨ」
そして、まだ集中を乱す存在がある。
ベーンが俺の右足近くでメラス・ゾーモスらしき物を煮込んでいるのだ。
材料はガーボの血液とモモ肉と肝臓と心臓、そこに酢や塩、さらに大量のニンニクとおぼしきものが加えられている。凄まじいものが作られているのだ。
……ドス黒い呪いの汁を生成してるようにしか見えない。
そして最後に左足近くで、いじけてる連中がいる。
勇者一党がグスグスと鼻を鳴らして、座りこんでいるのだ。
オボロ隊長を相手にして、まともに反撃もできず敗北したせいだろう。
三人はあのあと僧侶のルナとか言う子に治療してもらった。しかし、魔術でも心までは治せない。
今は人と顔を合わせたくないために三人は、竜である俺達のところにいるのかもしれない。
……だからって、俺達のところに来たからと言って何か変わるわけでもないのだがな。
「……お前ら、いつまでそうやってるつもりだ? 戦う気がないなら城に帰るか、非戦闘員が避難した街に行け」
「あんたに何が分かるのよ!」
涙を溢しながら、剣聖候補であるジュリが伏せていた顔を上げて喚くように言う。
「竜のあんたに分かるわけない……ここは人間至上の国なの! 勇者一党が毛玉人相手に何もできず負けたの……どんな顔して城に帰れって言うのよ! みんなからどんな目を向けらると思ってるの」
悲鳴のような声をあげるジュリ。彼女達は完全に自尊心をへし折られたのだろう。
この国は
そして英力は人間にしか宿っていない。
それゆえに英力を持ったもの達は慕われ、力を持たぬ人間以外の種族は亜人と総称され力無きものと見下されているらしい。
もともとこの国は何の偏見もなく、他種族が入り乱れた国だったと聞く。
しかし魔族がこの国に突如出現し猛威をふるい始めると、英力を持ったもの達が集まりメルガロスを建国した。
何にせよ今はこの勇者どもにハッキリしてもらわんとな。
「お前達は、なんのために戦っているんだ? 魔王を倒して人々にチヤホヤされたいだけなのか? それとも仕方なく女王にしたがってるだけなのか? なんのためだ」
俺の問いに勇者であるユウナが顔を上げた。
「……ただ立派な勇者になりたくて。先代の勇者は
そう言って彼女は、また顔を下げた。
すると今度は、賢者ヨナが顔をあげて問いかけてきた。
「……あのう、そう言うあなたは、なんのために戦うんです?」
「俺は今の現実を見ているだけだ。敵がいるのなら倒すし、殺すときは殺す。正義感も自尊心もない。……はっきり言えば、戦いのなかでしか生きられない存在だからだ。今も昔も、そしてこれからもだろう」
言うなれば、終わりが存在しない血生臭いことを続けていくと言うことだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます