剥がれる
オボロの吐血が治まり二日後のこと、また異様な症状が始まった。
ロッパは、オボロの寝ている部屋に入ると、ベッドの脇に何か落ちていることに気づいた。それは包帯。
何かの拍子にほどけてしまったのだろうか?
ロッパは、その包帯を拾う。白かった包帯は赤黒く染まり、強烈な異臭を放っている。
だが、おかしなことだ。
「頭からの出血は止まってるはずなのに……まさか、また吐血が?」
ふと、包帯が落ちていた脇に茶色い毛の塊のようなものが、落ちていることに気づく。
ロッパは、その茶色い物を拾った。それは熊の耳、自分も熊の毛玉人なので一目で分かる。
恐らく右耳、それにはかなり広い範囲の毛皮がくっついていた。
「……これは」
ロッパは恐る恐るとオボロの顔に目を向けた。
オボロの右頭部の半分近くが、皮下組織が剥き出しの状態となっていたのだ。
拾ったこの耳と毛皮は、オボロから剥がれ落ちた物に違いない。
壊死しているのか、拾った耳から鼻が曲がりそうな腐汁があふれでてきた。
ロッパは、ものすごい気分の悪さに襲われる。
なぜ、こんな症状が出ているのか?
医師に聞いても「分からない」と言われるだけだった。
だが異常なのは次の日に起きていた。
皮下組織が剥き出しだった部分の包帯を外すと、そこには耳があったのだ。しかも一緒に剥がれ落ちていた毛皮も綺麗に戻っている。
……再生したのだろうか。いや、蜥蜴じゃあるまいし、そんなことあるはずがない。
次の日には鼻がとれ、その次の日には背中の皮が剥がれ落ち、また次の日には左耳が落ちていた。
そして、不気味なことに剥がれたその各部位は次の日には綺麗に元通りになっていたのだ。
その日は、医師とロッパが一緒にオボロの寝ている部屋に入室したときに起きた。
いきなりオボロの右腕全体の皮がパックリと裂けて、ベチャッと剥がれ落ちたのだ。
オボロの右腕は赤い筋繊維が剥き出しの状態となった。
「……うっ!」
「……うあっ!」
目の前でいきなりおぞましいことが起きたため、二人は思わず小さな悲鳴をあげてしまった。
「……先生、これはいったい?」
「すいません、分かりません……分からんのです。いったい彼の身に何がおきているのか」
医師は頭を抱えたくなった。現状の医学では説明不可能なのだ。
一部の優れた生物などは損傷した組織を取り除いて、まったく新しく部位を復元したりなどするが、人にはそんな機能などない。
第一、オボロから剥がれ落ちている部位には損傷などない。……じゃあ、なぜ?
可能性があるとすれば……不必要だから?
いや、それなら耳がとれたあと、また耳が復元するはずがない。
結局、答えは出なかった。
医師がオボロの剥がれ落ちた右腕に包帯を巻いていると、ブクブクと異様な音が聞こえてきた。
その音が出ているのは、オボロの顔から。いや、左目からだった。
オボロの目から黄色い泡が吹き出ていたのだ。腐敗液なのだろうか、ひどい臭いがしている。
あまりの気味の悪さに、医師は包帯を巻く作業を止めて遠ざかった。ロッパも、たまらず後ずさる。
そして、いきなりオボロの顔から球体のようなものが飛び出した。
飛び出た球体は天井にあたり、床に落下した。そして、コロコロと転がりロッパの足にぶつかった。
「……ふうぅ」
ロッパは息がつまったような声をあげた。
足にぶつかったのは、赤い神経がこびりついた眼球だったのだ。
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