大空襲
飛竜や蛮竜と違い俺は空を飛ぶことはできない。
しかし、空中の敵に手出しができないわけではない。
「アドバ隊長。俺が奴等を撃ち落とします。落下しても死なない奴がいるはずですから、そいつ等を手分けしながら息の根を止めてください」
「何を言っている、飛んでいる奴等をどうやって……」
ベーンは俺が何を仕掛けるのかを察したのだろう、素早く触角から離れた。
俺には強力な対空攻撃の能力がある。それを使えば奴等を落とすなど容易い。
顔を上空に向け、触覚を半回転させ狙いを定める。蛮竜共を正確に捕捉して強力な殺獣光線を照射し、凪ぎ払った。
高エネルギーの光線が空気中の物質を焼きながら蛮竜達の体を真っ二つにしていく。光線の一払いで数十匹の蛮竜が悪臭のする内臓や、そこから漏れでた未消化物や糞尿をぶちまけながら地面に落下してきた。
一挙に複数の巨体が落下したため地鳴りが響く。
それに合わせての飛竜達の反応は早かった。地に叩きつけられた後もしぶとく生き延びている蛮竜共に恨みを込めて、前肢の爪を振りおろし、火炎の吐息を吐きかけ、次々と息の根を止めていく。
「ギィギャアァァァ!!」
袋叩きにされる蛮竜の甲高い断末魔が響きわたる。
アドバ隊長は一瞬の出来事に呆気になっていた。いつものことだが初めてこの光線攻撃を目撃した人は、みな言葉を失う。
「……すごい、一瞬にして蛮竜が……」
「アドバ隊長、俺から離れていたほうが良いですよ」
蛮竜共は俺を一番危険な存在と見なしたのか、一斉に向かってきた。
俺一体に集中してくれるなら好都合だ。
「大勢でつるんで来やがってクズどもが! 来やがれ残らず捻り潰してやる!」
右の張り手で突っ込んできた蛮竜を叩き払らった。怪獣のパワーは強烈である、破裂音と共に蛮竜は血霧のように飛び散った。
粉々にしてしまえば、いくら生命力が強くとも生きてはいられまい。
俺の全身に蛮竜どもがまとわりつき、爪、牙、舌を突き立ててきた。連中は本気で攻撃しているのだろうが、俺にとってはわずかにくすぐったい程度だ。
「くっつくんじゃねぇよ!」
体中にまとわりつく蛮竜共を蚊のように片っ端から叩き潰していく。滝のように足下に鮮血と内臓や肉片が流れ落ち、肉の山が形成された。
不意に顔面に飛び付いてきた奴を鷲掴みにして握り潰した。今の俺の握力は推定三十万トンにもなる、ひとたまりもないだろう。
「きゃっ!」
握り潰した蛮竜から吹き出した血と内臓が診察室の窓にかかり、それに驚いてか室内にいるエリンダ様の悲鳴が聞こえた。
そして俺は上空と地上を一瞥する。
飛竜達は地上に降りた蛮竜をブレスや爪や牙で応戦しているが、囲まれると飛竜でも太刀打ちできないようだ。現に舌による刺突攻撃や溶解液で負傷している奴等が続出している。
「フガァ!!」
ベーンも他の飛竜に引けを取らない。むしろ小さく、すばしっこいためか、巨大な蛮竜ではベーンの動きを捉えられないようだ。
ベーンは蛮竜の顔面に飛び乗り
そのとき、パリーンっとガラスが割れる音がした。
「きゃあぁっ!」
エリンダ様の悲鳴が聞こえる。
一匹の蛮竜が診察室の窓をぶち破り、室内に頭を突っ込んでいた。目標の少女を見つけたのか頭を潜り込ませていく。
「このぉ! 寄るなぁ!」
ナルミが蛮竜の単眼目掛けクナイを投擲したようだ。蛮竜は凄まじい絶叫をあげ建物を振動させる。
「この化け物! エリンダ様に近寄るんじゃねぇ!」
アドバ隊長が建物から蛮竜を離そうと奴の体に噛みつき引っ張るが体格に差がある。彼は全長十二メートル、蛮竜には到底力では敵わないようだ。
「離れやがれぇ!」
俺は診療所内に頭を突っ込む蛮竜の尻尾をつまむ。それに合わせ、とっさにアドバ隊長は蛮竜から離れた。
蛮竜を無理矢理建物から引きずり出し、地面に叩きつける。ぺしゃんこになり、中身を四散させた。
今だ敵の数が多く状況が良いとは言えないが、今のところ蛮竜の攻撃では俺にダメージは通らないため、体にへばりついている奴等は後回しにして、上空にいる奴等の撃墜に専念することにした。
都市内に落とさないように、防壁外の上空にいる蛮竜のみに狙いを絞る。
触角の先端に噛みついて来る奴もいるが、そいつはゼロ距離光線で頭をふっ飛ばしてやった。
レーザーカッターのような光線では、あまり広い範囲を攻撃できないため、機関砲のごときパルス掃射に切り替えた。
一気に広範囲に光線をばらまき、飛翔する蛮竜共に浴びせつける。
たちまちに蛮竜の挽き肉が雨の如く降り注ぎ、大地をびしょびしょに濡らした。
弾幕を張るような攻撃方が良かったのか、蛮竜の数が一気に減っていく。体中にまとわりつく蛮竜を叩き潰しながら光線をばらまき続けた。
「あともう少しだ! グガァァァ!」
アドバ隊長が上空で蛮竜の喉笛を食い千切り吠えた。
するといきなり彼は、背後から溶解液の高圧噴射で左の翼を撃ち抜かれた。
「うがぁ!」
「アドバ隊長!」
落下してきた彼を左手で受け止め、彼を負傷させた蛮竜を殺獣光線で粉微塵にする。
幸いにもアドバ隊長の怪我は酷いものではなかった。
「大丈夫です。急所は外れてます、しばらくそこにいてください」
「すまねぇ……」
俺はアドバ隊長を手にしながら再び攻撃を再開した。
蛮竜の数も半分を切っている。
あと、もう少しである。
全ての蛮竜を全滅させたのは、日の出と共にだった。
辺り一帯は真っ赤に染まり、肉片と内臓があちらこちらに飛散していた。そして凄まじい悪臭がたちこめる。
俺も蛮竜の返り血で体中ベットリしていた。
俺以外の奴等は疲労困憊でまともに体を動かせないでいる竜がほとんど。仲間の死に涙を流している飛竜もいた。
アサムは負傷したアドバ隊長や飛竜達を治療魔術で癒している。
「よく頑張ったねぇ。ありがとう。……そして、ごめんねぇ」
エリンダ様は飛竜達の亡骸を撫でながら、彼等の死を悼んでいる。彼女の顔からは、涙がこぼれ落ちていた。
「大丈夫? 歩ける?」
するとナルミに手を引かれてやって来たのは希竜の少女。
体調もある程度回復したのだろう、足どりはしっかりしていた。
そして彼女は凄惨な光景を見渡した。
「ああ、あ……私のせいだ……私が来たばっかりに……」
少女は膝を地につき泣き始める。
そんな彼女に、俺は地面をあまり震動させないように近寄った。
「たしかに、お前をあのまま放置しておけば何も起きなかったかもしれん。だがな、お前を見捨てて蛮竜共に
そう言うと、少女は俺を見上げ何度も礼を言った。
「ありがとう……ありがとう……」
涙を拭いながら何度も頭を下げてきた。
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