人喰いの異形
……いったい何匹出てきやがるんだ? 広場の穴からアリのようにゾロゾロと醜い怪物が這い出てくる。
くそ! 広場の真下で
「ムラトどうしたのだ? 城下で何かあったのか?」
メガエラ様も異常に気づいたのだろう。
しかし壁に覆われた中庭にいるため彼女は町の様子を確認できない、今城下町を確認できるのは巨体の俺だけだ。
俺はメガエラ様に町の惨状を告げた。
「メガエラ様! 城下の広場から化け物が! 住民達を喰い散らしてます」
「何だと!」
それを聞いた隊長が骸骨男に凄まじい形相で顔を向けた。
「お前! 城下に異形獣を放ったな!」
「今町に放ったのは、母体である成獣が産み出した子供である従属体だ。従属体も人を食って成長すれぼ並の魔物よりも強力だ。
ふざけやがって! これ以上この
俺はすぐさまレーザーで精密に化け物達を狙撃する。動きを止めるため腕や脚を狙ってみた。
従属体の腕や脚は抵抗なく切断され転倒させることができた。しかし奴等は手足が無くなった程度では動きを止めず、這いずるように住民を追い回している。
痛覚がないのか? それどころか従属体の切断面が泡立つように膨張し、新しい手足が生えてきた。不気味な生命力だ。
「ムラト、頭だ! 脳髄を潰さねぇと異形獣は
俺はオボロ隊長の言葉に従い、奴等の頭に照準をつける。そして幼獣の脳天にデカイ風穴を開けると、バタリと倒れ活動を停止した。
よし! 頭を潰せば
だが建物は仕方ないとして、逃げる人々が邪魔で
こうも、もたもたしていては犠牲が……。
そして、この事態にオボロ隊長も動きだした。
「ナルミー! ナルミー!」
「はいっ! 隊長」
隊長が大声をあげると、城内に身を潜めていたであろうナルミが隊長の傍らに姿を現した。
「王都付近にニオン達が待機してる。あいつらに異形獣を殲滅するように伝えろ」
「わかったよ!」
オボロ隊長に命令を受けたナルミは高く跳躍すると、俺の背びれと頭を踏み台にして城下の建物に着地して王都の南門に向け疾走した。
その間にも俺は化け物連中を始末していく。
しかし、穴から這い出てくる幼獣の勢いに衰えは見えない。
くそっ! アリみてぇに穴からわいてきやがるさすがに手が足りない。
だが俺達だけではない、まだ協力してくれる者達がいる。メガエラ様の命令で、王都周辺には多くの騎士と兵達が待機している。
「メガエラ様! 騎士達に指示を」
「分かった」
すると彼女は詠唱を始めた。
「皆のものよ緊急事態だ! 今、国を牛耳ってる国王は偽者だ。奴は町に異形の怪物を解き放った、これ以上住民に犠牲を出させてはならない、町の人々を避難させるのだ!」
どうやらメガエラ様が使った魔術は、遠く離れた者に言葉を伝達するものらしい。
すると防壁の外から「おぉー!」と、声が響いた。騎士や兵達の雄叫びだ。メガエラ様がいるためか、かなり士気が高まっている様子だ。
やはり姫様は相当に慕われているのだな。
王都の門は東西南北の四ヶ所にあり、一番危険な南門付近の守りはニオン副長と俺のレーザー狙撃で、西にはアサムとベーン、東はギルドマスターとギルドの冒険者達、そして一番安全な北にはナルミがついた。
そして騎士達と兵達は、住民達の避難誘導と手助けにまわるようだ。。
× × ×
「……子供を産み出すとは、ずいぶん変わったの異形獣をつくりだしたな」
オボロは不快そうにギョロリと偽者の王に向き直った。
骸骨のような男は気にかけた様子もなく、ニヤリと白い歯を見せる。
「ほう、分かるか。さすが石カブトの創設者だ」
「本業は雇われ屋だが、裏では化け物の始末もやってる。嫌でも分かる。お前、異形獣の本体である
オボロの問いに、エンドルは面度くさそうに中庭の塔を指差した。
「あの塔の中で寝込んでた病人だよ。なんの役にも立ってねぇんだから、働けるようにしてやったぜ」
その発言を聞いて、オボロは表情を険しくさせ、メガエラは顔色を豹変させた。
搭の中の病人。それは一人しかいない。
「……お前……まさか、王妃様を」
「は、母上が……」
エンドルが異形獣を寄生させたのは王妃、そうメガエラの母親だったのだ。
それを聞いた、メガエラの形相が鬼のように変わっていく。そして両親を奪った男を睨みつける。
「貴様! は、母上を! 母上を異形の怪物に……殺してやる。殺してやるー!」
半狂乱になった彼女は、一心不乱に魔術の詠唱を開始した。矢継ぎ早に電撃や氷の砲弾がエンドルに向けられるが、防御壁のような魔術に防がれてしまう。
……許せない、許さない。メガエラは怒りに任せて魔術を放つ。しかし、高い魔力を持つ彼女にも限界はある。
「がっ! ……うぐぅ」
魔力を多く消費したらしくメガエラは、地に両腕を着いた。凄まじい疲労感が体を襲う。
「お前ごときの魔術で、おれが殺せると思ったか? お前の母親ミューズ王妃様は、異形獣のおかげで元気になれたんだぜ。まあ、飢餓でもないのに人肉をむさぼるようになっちまったけどな」
「おのれ! 父上を……母上を……」
悔しさのあまりかメガエラの目から大粒の涙が流れ落ちる。
しかし現実は非道だ。今の彼女では、親の仇に一矢報いる力もない。
そこに息を荒くしながら偽者の王が歩み寄ってきた。そして自分の姪の泣き顔をじっくりと観察する。
白い肌、愛らしい目、綺麗な金髪、放たれるかぐわしい香り。男を
「なぁ、メガエラよぉ。おれも大事な姪を傷つけたくはない。どうだ妻になって、おれの子を産まないか? ひでぇ見た目になっちまったが母親はいるし、
下衆な男が口元を舐め回しながら、目を血走らせている。国だけでなく、メガエラの美貌と肉体も目的の一つであることを言い放っているようなものだった。
だが、それが引き金となった。その発言を聞いていた巨漢の怒りが爆発したのだ。
「ぐがあぁぁ!」
オボロは凄まじい咆哮をあげ、エンドルに向かって駆け出した。山のごとく全身の筋肉が隆起しており、まるで要塞が高速で向かってくるようだった。
「うわあぁぁ! 来るな、来るな。ケダモノー!」
男はオボロの怪物のような勢いに狼狽し、闇雲に氷の矢を放つが分厚い筋肉に穴を開けることはできなかった。そして、逃げ出そうと背を向けるがオボロの方が速かった。
オボロは右手でエンドルの頭を鷲掴みにすると軽々と持ち上げた。
「これ以上きたねぇ口を開くな。うせろぉー!」
オボロは左手で偽者の背中の皮膚を服ごしに握り、怪力に任せて
「うげあぁぁぁ! 熱い! 熱い! 水をくれえぇぇ!」
背中の大部分の皮膚を失った男は絶叫し、地を転げ回る。
オボロの怪力なら容易く殺せたはずだった、しかし苦痛を与えるため手加減をしたのだ。あっさりと殺してしまっては意味がない。
「あとで、たっぷり塩水ぶっかけてやる。そこでしばらく騒いでな」
オボロは転げ回る男に向けて無慈悲に言いはなつ。
しかしこの男を倒したからと言って、従属体の活動が止まるわけではない。一匹残らず殲滅するしか方法はないのだ。
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