ヌード・ザ・パニック

 王都の大きさはゲン・ドラゴンの数倍はあるだろう。そして、その中央部には国王の大きな城が鎮座するようにそびえている。

 しかし、その偉大なる城で前代未聞の騒ぎがおきていた。

 夜が明けると同時に迅速に例の作戦が開始されていたのだ。

 城では怒号や破壊音が響きわたる。

 オボロが地下牢を、ぶち壊して脱獄をはかったのだ。そして兵士達を陽動するため、城内でやりたい放題に暴れているのだ。


「だーはっはっはっ! オレを捕まえてみそー!」

「待ちやがれー! あの毛玉野郎、なんて姿で……」

「牢にぶち込むときオレを御裸おヌードにしたのは、お前達だ。文句は言わせんぞ! いーひっひっ!」


 オボロは幽閉されるとき危険性が無いように服を脱がされている。しかし逆に、それが仇となり大変なことが城内で起きていた。

 そう彼は全裸の怪物と化し、城の中を駆け巡っているのだ。

 一国の統治者の城内を裸で暴れまわるなど、無礼どころの話ではないだろう。


「ひゃーはっはっ! 城内を御裸おヌードで走り回るのは、癖になりそうだー」

「あのクソ毛玉、どうやって脱獄しやがった?」

「牢の施錠は、しっかりしてたぞ! つーか、あいつ走るのはぇー」


 オボロの怪力にかかれば鉄格子など熱した飴細工と変わりない。グチャグチャに、ひん曲げられていた。牢など彼にとっては無意味なものなのだ。

 多くの兵士が全裸の怪物と化した熊を追跡しているため、彼等を引き付けると言うオボロの目的はうまくいっている。


「どうした? つかまえてみろぉ」


 しかしオボロは自分自身を見せびらかすことにも夢中であった。どこか嬉しく楽しそうにしているのである。


「あんの、変態毛玉め。牢をぶっ壊しやがった!」

「とんでもねぇ馬鹿力出しやがって!」

「気をつけろ、人間おれらでは比較にならない膂力を誇るぞ!」


 オボロは普通の毛玉人を遥かに凌駕する筋力を持つため、屈強な兵士でも迂闊には近づけない。彼の剛力にかかれば、ただ振り払われただけでも普通の人間にとっては致命傷いのちとりになりかねないのだ。


「本当なら男どもじゃなくて、美人さんに追っかけられてぇぜ。……うごわぁ!」


 余計なことを言いながら猛進していたためか、何かにつまずきオボロはすっ転んだ。

 一二〇〇キロにもなる巨漢が凄まじい勢いで転倒したため、床が砕け散り、すさまじい破壊音が場内に響き渡った。


「見ぃろ! すっ転んだぞ、今だ取り押さえろ!」

「あでででで! お前、そこ握んな……もげちまうだろ」

「貴様のをへし折ってやるぅ! ……なんつうデカさだ!」


 転んだところを男兵士達に群むらがられるオボロ。さらには大事なものを握られ、いじめられてしまう。

 そんな状態でもオボロはすぐさま立ち上がり、兵達を体にまとわりつけたまま再び走り出した。

 しかし一人の男が顔面にへばりついているため視界不良。前が見えないのだ。


「おいっ! 顔から離れろ。前が見えん……うおぉぉ!」


 気づいたときには、目の前に壁が迫っていた。勢いがつきすぎているため、もはや止まれない。

 オボロは思いきって壁をぶち抜いた。

 壁の破片が四散し、またも轟音が響き渡る。

 ことが、すべて終えても城の片付けは大変なことになるだろう。

 しかし壁に激突した衝撃で、体にまとわりついていた兵士を吹き飛ばすことができた。

 オボロが走り去ったあとでは兵達が壁に衝突した痛みで地面を、のたうち回っていた。


「変質毛玉人! ここから先には行かさんぞ。大人しく牢に戻れ!」

「これ以上、好きにさせるか!」

「この露出狂めぇ!」


 また進行を妨害するものが現れた。

 三人の兵に前方をふさがれるが、オボロはかまわずに突き進む。


「無理にでも通るぜぇ! 食らえ! 大開脚おっぴろげアタック!!」


 叫びながらオボロは跳躍して開脚する。

 下半身から兵達に飛びつき、三人まとめて股の間で挟みこむように捕獲した。


「ぐおぉぉ! 立派ものがあぁぁ!」

「……こ、これ凶器か? ま、魔剣か!」

「うぉっ! 温かい! みゃ、脈が伝わってくるぅ!」


 でっかいものを押し付けられた兵士達は個々にコメントを叫ぶ。男根を密着された状態で両脚で圧迫するオボロの攻撃だ。


「三人まとめて、とどめだ! 失神おポンチめ!!」


 一気にオボロは股で三人を締め上げた。股間部をさらに密着させられ圧迫されていく。想像もしたくない絞め技である。


「見たか! 華麗なる根技ねわざ!! うおっ! また来たあぁぁぁ」


 三人の意識を別の世にいざなうと、増援が来たのでオボロはまた逃走を開始した。

 どこかの部屋に飛び込むと、そこにはメイド達がいた。

 なにを考えたのか、オボロは大の字に五体をひろげ、彼女達に全裸すべてを見せつけ始めた。


「うほっ! 美人べっぴんのメイドさん方。どーだい、オレの御裸おヌード? 美しいでしょう! ……うばあぁぁ!」

「バカじゃないの! なに考えてんのよ、この変態!」

「訴えるわよ!」

「い野郎やろおぉぉ! ぶっ切除ちぎってやるうぅぅ!」


 全てを見せつけたオボロは、問答無用にメイド達から集団暴行をうけるはめになった。

 そこら辺にある椅子や花瓶などで、ぶん殴られるしまつ。

 なかには、一物むすこを切り取ろうとハサミを手にした娘もいた。

 すると、いきなりローブをはおった四人組が部屋の中に飛び込んできた。そして問答無用詠唱を始めたのだ。

 彼等は宮廷魔導師。言うまでもなく、操る魔術は強力である。四人は部屋の中にメイド達がいるにも、かまわずに氷の矢を放とうとしていた。


「えっ! やめてぇぇぇ!」

「はっ! ちょっ!」


 美女メイド達は自分達も巻き込まれることを悟り、悲鳴をあげた。


「ちっ! ……こいつら!」


 舌打ちしたオボロは怒りで顔を歪ませると、魔導師達に背を向けメイド達を巨体で覆い隠すようにして彼女達を寄せ集めしゃがみこむ。

 自分の分厚い背中をメイド達の盾にしたのだ。 

 高速で放たれた、無数の矢がオボロの背中に突き刺さった。


「よし! 仕留めたぞ!」


 一人の魔導師が確信の声をあげるが、大ハズレだった。

 オボロはムクリと立ち上がり、魔導師達を睨みつける。強力な氷の矢は筋肉の要塞に、わずかに傷つけた程度だったのだ。

 自分達の魔術が生身の体に通用しないなど、初めてだった。魔導師達は背筋を凍らせて三メートルを楽々越える筋肉の塊を見上げる。


「……お前ら。女達がいることを分かっていながらぁ……」


 巨漢の熊が凄まじい形相で、鋭い牙をあらわにした。

 それを見た魔導師達は狼狽し迎撃もせずにオボロの接近をゆるしてしまった。

 四人まとめてその剛腕に捕まり、抱き上げられた。

 オボロはメイド達に「御便所おべんじょどーこ?」とトイレの場所を聞き出すと、抱っこした魔導士達に言いはなつ。


健気けなげな女達を大事にしねぇ野郎は、御便所に流してやらぁ!」


 トイレに向かって走るオボロ。

 言うまでもないが魔導師達は大慌てである。


「は、はなせぇ! どうするつもりだ?」

「……おい! なにを考えている? よせぇ!」


 オボロは魔導師の叫びなどに、聞く耳もたずにトイレのドアを蹴破る。

 中には洋式に似た便座がポツリとある、しかし最先端のトイレを利用する巨大クマには不服な様式であった。


「あーもう! なんで一国の城の御便所が落下式ボットンなんだよ。衛生面が良くないでしょ! 水洗すいせんにしなさい! 水洗に!」


 汲み取り便所に文句を吐きつつ、悪臭の奈落につづく穴の上で抱えた魔導士達を宙吊りにした。


「まってくれ! 話せばわかる!」

汚物くそにまみれるのは、嫌だー!」

「ここに落とす意味は、ないだろう。たのむから、やめてくれ! なっ! なっ! なっ!」


 魔導師は青ざめ悲鳴をあげて懇願するしかもう手段がない。オボロが手を離せば汚物にまみれる運命は確実だった。


「まあ、たしかにここに落とす意味はないかもな。……とくに意味はないが、まあその御手おててだけは離させてもらう」


 そう言って、オボロは無慈悲に一人一人を便所の中に落下させていった。


「ぬわぁぁぁ!!」


 ドポンっ、という音が四つ聞こえたあと、絶叫が反響する。

 そして、オマケとばかりにオボロは便器に腰をかけ始めた。


「ついでに、ようをしていくか」

「ぬわぁぁ! 上からくるぞぉ! 散開!」


 糞尿を掻き分けながら騒ぐ魔導師のことなど気にせず、オボロは踏ん張りはじめた。

 しかし、どうやら便器の強度が不足していたようだ。


でっ!」


 体重に耐えきれず便座が潰れた。

 オボロが尻を強打すると同時に何かが落下していく。そして、ポッチャンと音が響いた。

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