怪獣出現の真相
全ての黒スーツどもを倒し終えた。
このケガでは、こいつらしばらく
まっ、それ以前にプライドはメチャクチャだろうが。
顔を上げると、目線の先に立っているのは、あわてふためく取締役のみ。
「む、村戸さん……」
後から梢さんが、恐る恐る歩み寄ってきたようだ。
こんなものを見せられては怖がるのも仕方ない。
常人から見れば、物騒極まりない行為だ。
「すみません、梢さん。子供の前で……こんな能しかない人間です。どんな目を向けられても仕方ないですよね……」
昔からだ。
親父に武道を仕込まれ道場破りばかりしていた。
俺は
何人もの格闘家、アスリート達の選手生命を絶ってきた。
骨を砕き、目を抉り、耳を削ぎ、相手の肉体を破壊した記憶ばかり。
おかげで友人なんて呼べる奴が、いたかどうか分からない。
「村戸さん、わたしは大丈夫だから……もう止めましょう」
「……村戸さんのこと怖いなんて思ってないよ」
「もちろん、こんな馬鹿げたことは、やめましょう」
梢さんと友也が俺の背後に佇み言った、俺は振り返らず答える。
二人は少なからず俺に恐怖感を持っている様子だ。
だが、そんなことを言ってくれるだけで嬉しいものだ。
「プロがチンピラ相手に……のされおって。恥を知れ恥を、この給料泥棒め!」
取締役が倒された黒スーツ達を見て、彼等にひどい言葉を発するが、それには賛同する。
重要な公人の安全を確保することを生業とする
もし
もう三年前に死んだがな……。
「貴様は……化け物か?」
「……化け物か、昔からよく言われたよ。もう謝罪は結構です。そのかわり、しっかり列に並んでもらえますか? 生き延びたいと思っているのは、あんただけではないんだ」
梢さんと友也のことを考えると、これ以上ことを大きくしたくはない。
最低限、順番だけは守ってもらうとしよう。
さすがに戦意もなく鍛えられてもない普通の人を殴り飛ばす気にはなれない。
「なんだと! いいかよく聞け! 私が生き延びなければ日本の復興が難しくなるんだぞ!」
一人になっても、まだ抗うつもりか。
日本の復興?
……俺達は日本を放棄するのに、なにを言っているんだ?
「あの怪獣がいるかぎり
取締役が冷や汗をかきながら口を開いた。やや怯えた表情でだ。
「国連が核攻撃を決議した。怪獣を抹殺するためにな。……日本政府も世界からの復興支援の約束で承諾した。すでに核ミサイルを搭載したミサイル駆逐艦が配備してある……次に怪獣が姿を見せたときが最後だ」
「……か、核だと!」
「冗談だろ……」
核ミサイルという発言に周囲の人達が騒ぎだした。
俺だって驚きをかくせなかった。
正気なのか? 怪獣抹殺のためとは言え日本政府は……なにを考えている。
また目の前の太った男がゆっくり口を開いた。
「たしかに、一部の地域は犠牲になるだろう。だが合理的に考えれば、これしかない。それで奴を倒せるなら仕方ないことだ」
「……合理的もそこまでいけば、ただの狂気だな。日本の、
「それに怪獣が日本だけの攻撃で終わるとは限らない。他国も、あんな奴を迎え入れたくはないからな。日本で抑えておきたいのだろう。仮に日本政府が許さなかったとしても、核攻撃は強行されていただろう」
「クソったれどもめ!!」
もはや暴走だ。自分達の所業を気にしなくなった人間の。
「全てがおさまるまで、かなりの時間が必要だろう。しかし世界中からの融資、それに私がいれば日本と言う国はやり直せる。我々が数年前から研究していた成果があれば……」
口角を上げて、ブツブツと取締役が何かを言い出す。
研究の成果?
訳の分からぬことを。
その研究が、どんなものかなんて興味はねぇ。
だいたい今は、そんなことどうでもいい。
「あれさえあれば……私は、この地獄の責任をとれる」
取締役がそう呟いたとき、俺は男の襟首を乱暴に掴みとった。
聞き捨てならない言葉があった。
……この地獄の責任。
「おい、今なん
襟首を引き寄せて問い詰める。
取締役は「しまった」と言わんばかりの表情をしたあと、降参するように口を開いた。
「怪獣は会津地方から姿を現したんだ。……そう、私達が地熱の調査を行っていた場所だ」
「あんたらが、怪獣を目覚めさせたのか!」
「そうだ、なにもかも私達の責任だ。調査していた地中から偶然にも特殊な物質が多数見つかってな、それを採取するために秘密裏に掘削作業をしていたんだ。その物質を利用すれば、現代のエネルギー開発を飛躍的に発展させらる」
俺は襟首から手を離し、おとなしく話を聞くことにした。
周囲の人達は怪獣が出現した原因が分かり、取締役を怒り狂った表情で睨み付けている。
無理もない、こいつが目覚めさせた怪獣のせいで人命も生活も奪われたんだ。
人々は今にも集団暴行を加えそうな雰囲気だ。
そんななか取締役は、また説明を始めた。
自分達が発見した物質についての。
「非常に効率良く熱を電力に変換したり、莫大な電力を蓄えることができたりなど、これらの物質を素子として使用すれば今までにないような超高効率の発電システムや小型の超大容量電池が開発できると考えたのだ」
そう語る取締役の顔は嬉々とし、まるで何かにとりつかれているようだった。
「そうなれば私達はエネルギー工学のトップに立つことができる。……そうなるはずだったんだ」
今度は、さっきとは真逆に落ち込んだように口を開いた。
「あんな物質が天然に産出されるとは、とてもじゃないが考えられなかった。だから発掘を始めたのだ、地中に何かとんでもない未知の
「怪獣か?」
「……そうだ。そして分かったのだ、私達が手にした物質は怪獣由来のものだった」
そうして取締役は項垂れた。
欲に取りつかれた結果招いたことか。
それで多くの人たちが虐殺された。
反吐がでそうだ!
「私は泥をすすてっでも生き延びて日本を復興させる。私は、この
腐っても責任感はあるようだな。
それに国を見捨ててはいない。
悪人だが外道ではない、もうなにも言うまい好きにするといい。
「あんたがしたいことは、わかった。勝手にしろ!」
そう言って、梢さんの所に戻ろうとしたときだった。
突如地面が揺れだしたのだ。
地震?
だが震動はおさまるどころか、激しくなっていく。
まさかっ!
「みんな、ここから離れろぉ!」
振り返り叫んだが、遅かった。
轟音と共に地面から火柱が噴き出し、目の前の人達を炭素の塊に変えていく。
そして一気に地面が吹き飛び、俺達は宙を舞う。
一瞬巨大な目玉のようなものが見えて、そこで俺は意識を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます