第七巻 第六章 普通選挙、大正モダン、関東大震災

〇講演会場

吉野作造(政治学者、三十七歳)が演台で講演している。

吉野「『democracy』とは、国家の主権が、法理上、人民にあること。そして、主権者は人民のために政治を為すべきことを指す。これを『民本主義』と呼ぶ」

質問者「我が国には天皇陛下が居られます」

吉野「ゆえに、我が国では『民主主義』は存在し得ない。しかし『民本主義』は目指すべきである」

N「吉野の『民本主義』思想がきっかけとなり、『大正デモクラシー』運動が活発化していく」


〇講演会場

美濃部達吉(憲法学者、四十歳)が講演している。

美濃部「国家を一つの法人(会社)として捉えた時、議会や裁判所がそうであるように、天皇陛下もまた、一つの機関と考えられる」

N「後年不敬罪とされる、美濃部達吉の『天皇機関説』も、この時点では盛んになった言論の一つに過ぎなかった」


〇帝国議会

尾崎行雄(立憲政友会、五十六歳)が演説している。

尾崎「維新以来、国政は絶えず元老たちに牛耳られてきた。彼らは口を開けば忠君愛国を唱えるが、実際は玉座(天皇の権威)を盾にして、詔勅で反対者たちを攻撃してきたのである」

わーっと気勢を挙げる立憲政友会・立憲国民党の議員たち。

尾崎「国会は憲政の基本に立ち返らねばならない。桂内閣に不信任案を提出する!」


〇国会議事堂

興奮した民衆が国会議事堂に押し寄せ、警備の警官ともみ合っている。

N「尾崎の演説に対し、桂首相は詔勅を使って不信任案を撤回させた。これに怒った群衆が、国会議事堂や各地の議会・新聞社を襲撃。桂内閣は総辞職を余儀なくされた」


〇工場

労働者たちが手を繋いで構内に座り込んでいる。工場の機械は停止したままである。労働者たちが掲げたプラカードには

プラカード「十%賃上げ!」

プラカード「週休二日!」

プラカード「資本家の搾取に強く抗議する!」

N「都市部で広まった労働運動は」


〇田園

小作人たちが手を繋いで座り込んでいる。

プラカード「小作料を半減せよ!」

N「農村部の小作人の間にも広がっていった」


〇銀座の町並み

映画館やカフェが立ち並び、モボ・モガが歩き回っている。

N「都市部では映画が娯楽として定着し、カフェが流行。最新のファッションに身を包んだ男女は、モボ(モダン・ボーイ)・モガ(モダン・ガール)と呼ばれた」


〇女学校

袴姿の女学生たちが、自転車で通学している。

N「女学校も普及し、女性も学問を学べるようになった」


〇路面電車

そこそこ混雑した路面電車。椅子に座ってうとうとしていた、軍服姿の兵隊が頭を小突かれる。

乗客「やい、兵隊は席を譲りやがれ!」

恥ずかしそうに席を立つ兵隊。乗客がそこにどっかと座る。

N「第一次世界大戦後には、兵隊を差別する風潮が生まれるに至ったのである」


〇国際連盟例会

各国代表が会議している。

N「第一次世界大戦の反省から作られた『国際連盟』では日本は常任理事国を務め」


〇ワシントン・会議場

アメリカ・イギリス・フランス・イタリア、日本の代表が会議している。日本代表は加藤友三郎(海軍大将、六十二歳)・幣原喜重郎(外相・五十一歳)・徳川家達(貴族院議員・六十歳)。議長はウォレン・ハーディング(米大統領、五十八歳)。

ハーディング「ではそれぞれの国の軍艦の保有制限を、アメリカ五:イギリス五:日本三とします」

拍手する一同。

N「各国が協調して軍縮する流れも生まれていた」


〇関東大震災

激しい揺れに崩れるビルディング。木像の民家が燃え上がる。

N「大正十二(一九二三)年九月一日、東京一円を関東大震災が襲う」


〇東京・夜

廃墟となった東京を、懐中電灯を持った自警団が巡回している。

廃墟にうずくまった朝鮮人が彼らの目に止まり

自警団員「おい! 『十五円五十銭』と言ってみろ!」

朝鮮人「チ、チュウゴチェンゴチュウエン……」

自警団員「朝鮮人だ! 打ち殺せ!」

暴行を加えられる朝鮮人。そこに警官が駆けつけ

警官「何をしておるか!」

自警団員「不逞鮮人を懲らしめております!」

警官「やめんか! その鮮人は警察が保護する! 自警団はただちに解散せよ!」

にらみ合う警官と自警団。

N「壊滅した東京では、デマに踊らされた自警団が朝鮮人を襲撃。軍や警官が保護に当たった」


〇国会

議事堂前で万歳三唱する民衆たち。

N「大正十四(一九二五)年、加藤高明内閣によって普通選挙法が成立。成人男性全員に選挙権が与えられることになった」


〇警察署・『特別高等係』

特高の警官が、吊された社会主義者を竹のムチで叩いている。

N「同時に『治安維持法』も成立、特別高等警察に強い権限が与えられ、恐れられるようになった」

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