第七巻 第二章 朝鮮進出と日清戦争

〇朝鮮近海

突如現れた三隻の日本の軍艦に、驚く朝鮮の民衆。

N「明治九(一八七六)年、日本は軍艦を使って圧力をかけ、朝鮮との間に不平等条約を結んで開国させた」


〇進駐する清の軍隊

N「日本の朝鮮進出に危惧を抱いた清国は、軍隊を朝鮮に進駐させるが」


〇清(西太后)をバックに付けた事大党と、日本(伊藤博文)をバックに付けた独立党

N「それは朝鮮国内で、清の保護国であり続けようとする『事大党』と、自主独立を目指す『独立党』の対立を生み、それぞれ清と日本の支援を受けることとなる」


〇慶応義塾の一室

福澤諭吉(四十九歳)が金玉均(三十三歳)と会話している。

福澤「日本・朝鮮・清国は、力を合わせて近代化を進め、欧米列強の圧力に対抗すべきだ。君が朝鮮を革命することを期待している」

金「(感激して)はい!」

N「しかし金玉均のクーデター(甲申政変)は清国の介入で失敗する」


〇時事新報・紙面

社説に福澤の記事が載っている。


〇福沢諭吉(五十歳)

福澤「支那・朝鮮の開化を助け、共に列強に対抗せんとする試みはすでに挫折した。これより日本は、亜細亜東方の悪友を謝絶し、列強に遅れず、その権益を奪取するべきである」

N「この社説は『脱亜論』と呼ばれた」


〇天津・会議場

それぞれ通訳をつけた、伊藤博文(特命全権大使、四十五歳)と李鴻章(清国北洋通商大臣、六十三歳)が議論している。

N「この後結ばれた天津条約で、日本は自国の撤兵と引き換えに、清国の撤兵を勝ち取るが、清国の朝鮮支配はますます強化された」


〇国会議事堂(第一次仮議事堂)の一室

山縣有朋(総理大臣、五十三歳)・青木周蔵(外務大臣、四十七歳)・大山巌(陸軍大臣、四十九歳)・樺山資紀(海軍大臣、五十四歳)らが閣議をしている。

山縣「……従って日本は、清国・ロシアと協議し、朝鮮を独立・中立の国家として、利害の衝突を避けるべきなのであります」

青木「それは愚策です! 日本が手を引けば、清国とロシアは朝鮮を分け取りにするでしょう!」

うなずく大山・樺山。

N「日本政府内でも、朝鮮の扱いを巡って議論が割れていた」


〇朝鮮・慶州・村の広場

崔時亨(東学二代目教祖、中年)と全琫準(東学幹部、四十一歳)が、集まった村人に向かって演説をしている。

崔「天主(朝鮮の天の神)は良民・賎民を問わず、全ての人の内にあり!」

全「閔氏など王朝の簒奪者に過ぎない! 閔氏政権を倒し、日本・清国・西洋のいずれからも独立した朝鮮を築くのだ!」

わっと歓声を挙げた群衆、それぞれ家から農具を持ち寄って気勢を挙げる。

N「明治二十七(一八九四)年春、新興宗教・東学を信奉する朝鮮の農民たちが、悪政に反抗して蜂起(甲午農民戦争)する」


〇朝鮮・漢城付近

数百メートルの距離を隔てて、日本軍と清軍が対峙している。漂う緊張感。

N「朝鮮政府は、鎮圧のため清国に派兵を要請。天津条約に基づいて日本も派兵したため、両軍は首都・漢城周辺で対峙することとなった」


〇広島・大本営の一室

伊藤博文(総理・五十四歳)と陸奥宗光(外相・五十一歳)が会談している。

伊藤「何とか、清国との戦を避けることはできないものか……」

陸奥「勝てる戦争をやらないのは、愚か者のすることです」

驚く博文。

宗光「清国軍は練度も低く、装備も我々の方が上です。清国に一撃を加え、朝鮮の権益を確保するとなれば、国民も賛成するでしょう」

博文「しかし、清国はあまりに巨大だ……」

宗光「我々は朝鮮半島から清国を追い出せばよいのであって、清国の奥まで攻め込んで行く必要はありません。せいぜい北京を攻める構えを見せれば、向こうから講和を申し出てきます」

博文「だが……」

宗光「現在、内閣は自由党から激しい攻撃を受けていますが、戦争となれば政党も政府に協力してくれるでしょう。外交と内政、二つの問題を一度に片付ける好機です」

博文「(目を光らせて)なるほど……」

N「日本は清国の先手をうち、朝鮮王宮を制圧、新政権を樹立した。新政権の依頼を受け、日本軍は朝鮮から清国軍を排除すべく、軍事行動を開始する」


〇平壌

激突する日清両軍。

N「日本陸軍は平壌で清国陸軍を破り」


〇黄海海戦

火を噴く松島・赤城の速射砲を受け、炎上する定遠・鎮遠。

N「黄海海戦で清国艦隊を撃破」


〇威海衛の戦い

陸岸は占領した湾岸の要塞から、海軍は海から、北洋艦隊に砲撃を加えて挟み撃ちにする。

N「北洋艦隊を降伏させて、清国との講和会議に臨んだ」


〇下関・春帆楼の一室

日本側は伊藤博文(五十四歳)・陸奥宗光(四十八歳)。清国側は李鴻章(北洋大臣直隷総督、七十三歳)・李経方(欽差大臣、四十一歳)。李鴻章は負傷している。それぞれ通訳が付く。

N「明治二十八(一八九五)年三月十七日、下関条約が締結され、清国は朝鮮から手を引き、台湾(及び澎湖列島)と遼東半島を日本に割譲し、賠償金二億両(三億六千万円、現在の価値で四十三兆円ほど)を支払うこととなった」


〇外務省の一室

伊藤博文と陸奥宗光が会議している。

宗光「ロシアとドイツとフランスが、『遼東半島を清国に返還せよ』と強硬に迫っています」

博文「イギリスとアメリカに反論してもらうことはできないだろうか。たとえば遼東半島の経営に、両国を加えるなどして……」

宗光「ドイツ・フランスはともかく、ロシアは戦争も辞さない構えです」

博文「(息を飲んで)ロシアとの戦争……!」

宗光「清国との戦争ですら、日本の国力を振り絞っての戦いでした。今、ロシアと事を構えるのは不可能です」

博文「……その通りだ」

宗光「幸い清国からは、二億両もの賠償金を取ることができました。軍艦を購入し、産業を育て、富国強兵して好機を待ちましょう」

博文「……うむ」


〇台湾・ジャングル

ジャングルの中を進む日本兵たち。と、半裸に近い民族衣装をまとい、全身に入れ墨をほどこした先住民たちと鉢合わせする。

※「台湾先住民」でググれば画像あります

日本兵「うわあ!」

思わず発砲する日本兵。倒れた男を残して、逃げて行く先住民たち。

N「当時の台湾は、清国も『化外の地』として放置していた密林地帯であった。日本は先住民と衝突しながらも、密林を切り拓き、台湾を平定していった」

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