第七巻 第三章 日露戦争

〇八幡製鐵所

高炉から勢いよく溶けた鉄が流れ出る。

N「日清戦争で得た、賠償金二億両は、当時の日本の国家予算の四倍に及び、日本は一気に財政の規模を拡大させて、富国強兵にまい進する」


〇横須賀に到着する戦艦三笠

N「イギリスで建造された戦艦・三笠をはじめ、日本は連合艦隊を充実させていく」


〇旅順港のロシア艦隊

N「一方、ロシアは清国から旅順・大連を租借し、清国、そして朝鮮への浸透を進める」


〇清国の農村

農民たちが集まっている前で、張義(羲和拳の指導者、中年)が、お札を燃やし、その灰を飲み干す。張義が合図すると、部下が刀で斬りかかる。張義の体に当たって、折れる刀。子供だましのトリックだが、驚愕する農民たち。

張義「羲和拳を信ずれば、鉄砲の弾も刀も跳ね返す! 今こそ羲和拳に従い、欧米の侵略者たちを叩き出すのだ!」

気勢を挙げる農民たち。

N「明治二十(一八八七)年に発生した、義和団による外国人襲撃は、たちまち二十万人にも及ぶ反乱になり、明治二十三(一八九〇)年には北京に迫った」


〇紫禁城の一室

西太后(五十六歳)に李鴻章(六十七歳)が謁見している。

西太后「清国は義和団を支持する。欧米列国に宣戦布告せよ」

李鴻章「(驚いて)それは余りにも無茶です!」

西太后「すでに義和団は北京に迫っておる。清国の軍隊が彼らを撃退できるのか?」

李鴻章「そ、それは……」

西太后「万に一つ、義和団が勝利すれば、欧米列強を叩き出すことができる。選択の余地はないではないか」

N「清国は義和団を支持し、欧米列国に宣戦布告した」


〇北京郊外

日本・イギリス・ロシアを含む、八ヶ国の連合軍が義和団と交戦している。

N「欧米列強七ヶ国は、日本を加えた八ヶ国連合軍を編成。北京に迫った」

日本軍指揮官「撃ーっ!」

一斉射撃にばたばたと倒れる義和団。そこに突撃していく日本軍。それを見ていたイギリス軍指揮官

イギリス軍指揮官(M)「日本はこれほど勇猛果敢な軍隊を持つに至ったのか……!」

N「連合軍は二ヶ月ほどで北京を陥落させ、清国はまたもや巨額の賠償金を支払い、各国の兵の駐留を認めることとなった」


〇満州・平原

ロシア陸軍が行軍している。

N「ロシアは、乱終結後も満州に駐留し、シベリア鉄道を満州まで延長する構えを見せた」


〇ロンドン、外務省の一室

林薫(特命全権公使、五十三歳)とペティ・フィッツモーリス(イギリス外務大臣、五十八歳)が握手している。

N「ロシアの中国・朝鮮への進出を憂いたイギリスは、明治三十五(一九〇二)年、日英同盟を締結する」


〇京都・無鄰菴(山縣有朋別荘)の一室

伊藤博文(六十三歳)・山縣有朋(六十六歳)・桂太郎(五十六歳)・小村壽太郎(四十九歳)が会議している。

桂「……満州はロシアに、くれてやるしかないでしょう。代わりに朝鮮における日本の権益を認めさせるのです」

山縣「だが、旅順のロシア艦隊は、日本に対する最大の脅威である。あそこだけでも……」

伊藤「……かつて我々が清国との戦争をためらわなかったように、ロシアにも日本との戦争をためらう理由はない。ロシアを譲歩させるのは、極めて難しい……」

一同を沈黙が包む。


〇朝鮮半島の地図

北緯三十九度に線が引かれている。

N「満州をロシアに、朝鮮を日本にという日本側の提案に対して、ロシアは『北緯三十九度以北を中立地帯に』と強硬な姿勢を崩さなかった」


〇御前会議

※映画「明治天皇と日露大戦争」を参考に

明治天皇(五十三歳)が、重々しくうなずく。一同もうなずく。

N「明治三十七(一九〇四)年二月六日、日本はロシアに対し国交断絶を宣言。その二日後に旅順港に対する攻撃を開始し、日露戦争がはじまった」


〇ロンドン・銀行の一室

高橋是清(日本銀行副総裁、五十一歳)が、イギリスの銀行家たちと交渉している。

N「戦費をまかなうため、高橋是清は一億三千万ポンド(十三億円弱、現在の一兆七千億円)の外債をロンドンで調達した。当時の日本の国家予算は、四億円ほどである」


〇ジュネーヴ、レーニン支度

明石元二郎(陸軍大佐、四十一歳)がウラジ-ミル・レーニン(ロシア共産党指導者、三十五歳)と会見している。明石、トランクに詰まったポンド紙幣を見せる。驚くレーニン。

明石「金に糸目はつけない。ロシア共産党の総力を挙げて、ロシア軍の動きを妨害してくれ」

息を飲んでうなずくレーニン。

N「戦費の何割かは、ロシア国内の反政府勢力に、活動資金として渡されたという」


〇旅順要塞

塹壕が幾重にも掘られた大要塞。

匍匐しながらじりじりと接近する日本軍の部隊。

日本軍部隊長「突撃!」

ラッパの音と共に一斉に起き上がり、姿勢を低くして突撃する日本軍。塹壕に据え付けられた機関銃が火を噴き、薙ぎ払われてばたばたと倒れる。地に伏せた部隊長

部隊長「(悔しげに)あの機関銃を何とかしなくては……!」

N「ロシア軍は最新兵器である機関銃を投入し、日本軍は大きな犠牲を出した」


〇二百三高地

大型の大砲が続々と据え付けられる。

指揮官「撃ーっ!」

大砲の弾丸は、眼下の旅順艦隊に降り注ぐ。

N「それでも日本は二百三高地を奪取し、旅順港の艦隊への直接砲撃とその後の制圧で、旅順艦隊は無力化された」


〇バルチック艦隊航路図

N「ロシアのバルチック艦隊は地球を半周以上する航海を強いられた上、各地の港での補給はイギリスに妨害された」


〇日本海海戦

激しい砲撃戦を繰り広げる、連合艦隊とバルチック艦隊。

N「疲弊したバルチック艦隊に、訓練と補給の完全な連合艦隊が襲いかかる。日本海海戦は、連合艦隊の圧勝であった」


〇アメリカ・ポーツマス海軍工廠八十六号棟

小村壽太郎(外務大臣、五十一歳)をはじめとする日本代表団と、セルゲイ・ウイッテ(元蔵相、五十七歳)らロシア代表団が会議している。

セルゲイ「ロシアは負けていない。その気になれば、いくらでも戦争を続けることができる。それとも日本軍はシベリアを越えて、モスクワまで攻め込んで来られるというのかね?」

歯がみする小村。

N「明治三十八(一九〇五)年九月五日、アメリカ・ポーツマスで開催された講和会議の結果、日本は朝鮮半島の利権を確定し、旅順の租借権などを得たが、賠償金を取ることはできなかった」


〇日比谷公園

大勢の群衆が詰めかけている。一様に怒気を露わにしている群衆。演台の上では、

野党議員「我々は戦争に勝った! だと言うのに、賠償を一文も取れないとはいかなる次第か! 政府無能なり!」

群衆「政府無能なり!」

警官隊が群衆に接近する。

野党議員「(警官隊を指さして)政府の犬どもが、我々を脅かそうとしている!」

わっと衝突する、群衆と警官隊。

N「講和の内容が伝わると、東京ではおさまらない群衆が暴徒と化した」


〇首相官邸

暴徒の群れが取り巻き、石などを投げている。周辺の建物の一部では火があがっている。

N「九月六日、政府は戒厳令を敷いて、近衛師団を出動させてようやくこの暴動を鎮めたのである」

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