第一巻 第六章 大化の改新
〇唐の最大支配領域
N「隋を滅ぼして中国を治めた唐帝国は、その支配領域の広さだけでなく、属国や周辺国からの文化を積極的に取り込む点でも、まさしく世界帝国であった」
〇飛鳥板蓋宮の一角
遣唐使が持ち帰った唐三彩(焼き物)や、ガラス器、書画などの数々の素晴らしさに、驚嘆している中大兄王子(少年)。
中大兄(M)「何という美しさだ……これほど素晴らしい芸術品の数々を、惜しげもなく下
賜するとは、唐という国の国力は、いったいどれほどのものなのだろう」
南淵請安「お気に召しましたかな」
N「南淵請安は遣隋使として中国へ赴き、唐建国の過程を見聞して帰国した学問僧である」
中大兄「請安先生、教えてください。大唐帝国はどうやって、これほど強大な国になったのですか?」
請安「一言で言えば、中央集権です」
中大兄「中央集権?」
請安「諸国を支配する豪族から、土地と私有民を取り上げ、公のものとしたのです。そして科挙によって、家柄にかかわらず優秀な者たちを官僚とし、効率的に国を運営しているのです」
中大兄「素晴らしい! 我が国も早く、そのような仕組みを取り入れるべきです!」
興奮ぎみに話す中大兄に、悲しげな微笑みで応える請安。中大兄、はっとして
中大兄「そうでした。我が国は……」
恥ずかしげにうつむく。
〇蘇我入鹿と蘇我蝦夷
N「厩戸王子と蘇我馬子は協調して政治を行ったが、馬子の孫の入鹿の代になると、蘇我氏は権勢を振るいはじめた」
〇燃える斑鳩宮
入鹿の兵が逃げ惑う人々を虐殺している。
N「皇極天皇二(六四三)年、入鹿はついに、厩戸王子の長男である山背大兄王を斑鳩宮に襲撃、亡き者とする」
〇飛鳥板蓋宮の一角
請安に学んでいる中大兄王子(十八歳)と中臣鎌足(三十歳)。
鎌足「入鹿め、ここまでやるとは! 王子、あなたも身辺に十分お気をつけてください」
中大兄「豪族に過ぎない蘇我氏が、これほどまでに権勢を振るっているようでは、我が国はとうてい、先進国とは言えない……」
請安「……『快刀乱麻を断つ』!」
請安の一喝に驚く二人。
請安「王子、いずれは大王になるやも知れぬあなたがそのようなことでは、我が国が先進国になる日は永遠に訪れませぬぞ!」
中大兄「それは……」
請安「あなたが自ら先頭に立って蘇我氏を討ち、我が国を先進的な中央集権国家にするための改革を進めなくてはならぬのではありませぬか!」
中大兄と請安、じっと見つめ合う。請安の熱量が、次第に中大兄に伝染していく。
中大兄「……先生、おっしゃる通りです。蘇我氏の専横が続いたために、蘇我氏以外の豪族は力を失っております。今、蘇我氏を倒せば、政治を改革する好機ともなりましょう!」
鎌足「王子、私も及ばずながらお力になります!」
鎌足の手を取る中大兄。
N「南淵請安は間もなく亡くなるが、二人は蘇我一族の長老である蘇我倉山田石川麻呂を仲間に引き入れ、周到に準備を進めた」
〇太極殿
新羅・百済・高句麗の使者が皇極天皇(五十二歳、中大兄の母)に謁見している。入鹿(帯剣していない)も列席している。
N「皇極天皇四(六四五)年六月十二日、太極殿で、新羅・百済・高句麗の使者が皇極天皇に謁見する」
石川麻呂が表文を読み上げているが、その手は震え、汗にまみれ、声がうわずって出ない。
入鹿「どうしてそれほどまでに動揺しているのか?」
麻呂「……へ、陛下の御前であることが、あまりにも恐れ多くて……」
と、隠れていた中大兄(二十歳)が躍り出て、入鹿に長槍を向ける。驚愕する入鹿を、躍り出た鎌足(三十二歳)が矢で射る。さらに躍り出た同志二人、入鹿を剣で斬りつける。必死で皇極の前に這っていく入鹿。
入鹿「陛下、お助けを! 無法者どもが……」
皇極、驚いて
皇極「王子(中大兄)……これはいかなる事態か」
中大兄「入鹿は王族を滅ぼし、自ら大王の位に就こうとしています」
皇極、無言で席を立ち、殿中へ消えて行く。がっくりと肩を落とす入鹿に、同志二人がとどめを刺す。
〇燃える蘇我氏の館
N「息子の死を知った蝦夷も館に火を放って自害、蘇我本宗家はここに滅びた。この一連の争乱を、『乙巳の変』と呼ぶ」
〇宮廷
孝徳天皇(五十一歳)が改新の詔を、豪族たちに読み聞かせている。孝徳の脇に控えている中大兄(二十一歳)。
N「中大兄は自ら即位はせず、叔父の軽王子を孝徳天皇に即位させて、自らは皇太子として実質的に政権を運営した」
孝徳「豪族のみならず、王族も土地や人民を私有してはならない。全ての土地と人民は、国家のものである」
どよめく豪族たちだが、中大兄が一にらみすると、皆沈黙する。
N「『公地公民』を柱とした、中大兄による一連の改革を『大化の改新』と呼ぶが、その改革がどの程度徹底されたかについては、疑問の声も多い。しかし、『大化の改新』によって、日本が中央集権国家への第一歩を踏み出したことは確かである」
〇戦火に焼かれる百済
N「斉明天皇六(六六〇)年、唐と新羅の連合軍が、百済を攻め滅ぼした」
〇岡本宮、宮廷
百済の使者が中大兄(三十五歳)、斉明天皇(皇極天皇が重祚、六十七歳)、鎌足(四十七歳)らに謁見している。
使者「倭国の援助があれば、必ずや百済を再興してみせます!」
斉明「……よくわかった。いったん下がるが良い」
退出していく使者。
斉明「王子、どう思いますか?」
中大兄「……唐は確かに強大です。しかし、唐そのものを相手にするわけではなく、敵は唐の遠征軍と新羅の連合軍です。しかも彼らは、百済を滅ぼした戦いで、疲れ切っているはずです」
鎌足「しかし、唐を敵に回しては……直接の矛先が我が国へ向いたら、大変なことになります」
中大兄「失った半島への足がかりを取り戻す、またとない好機ではないか。唐に、もはや我が国が、蛮族ではないことを見せつけてやるのだ!」
沈黙する鎌足。うなずく斉明。
〇白村江の戦い
唐の大型船に火矢を射かけられ、次々炎上していく倭国の小型船。
N「しかし天智天皇二(六六三)年七月、日本・百済連合軍は白村江の戦いで唐・新羅連合軍に大敗」
※天智天皇の即位は六六八年ですが、日本書紀の記述に基づき、六六二年を天智天皇元年とします
〇畿内の地図
岡本宮から近江大津宮への遷都の図。
N「唐からの追撃を恐れた中大兄は、都を内陸の近江大津宮に移し」
〇水城の復元図
N「北九州に防御施設である水城を築き」
〇進軍する防人たち
その表情は疲れ切り、装備もぼろぼろである。
N「諸国から防人を徴兵して防衛に当たらせたが、唐と新羅が高句麗討伐を優先したため、唐・新羅連合軍が日本に攻めてくることはなかった」
〇近江大津宮の一角
天智天皇(中大兄、四十四歳)が死の床の鎌足(五十六歳)を見舞っている。
天智「鎌足、お前が正しかった……まだまだ我が国の国力は、唐には及びもつかなかったのだ……」
鎌足「唐を敵とするのではなく、師として、強き国のあり方を学ぶのです……」
天智「今、臣民の戸籍を作る準備をしている。これが完成すれば、徴兵も徴税も、確実に公平におこなえるだろう」
N「この『庚午年籍』は翌年に完成、日本の戸籍制度の礎となった」
鎌足「息子たちには、大王に忠義を尽くすよう、固く命じておきました。息子たちをよろしくお願いします」
天智「本日をもってそちを内大臣に任じ、一族には藤原姓を与える。そちの息子たちを、決してないがしろにはせぬ」
鎌足「(涙を流して)ありがとうございます……」
N「この翌日、藤原鎌足は亡くなった」
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