第一巻 第五章 聖徳太子の国づくり

〇朝鮮半島(百済・新羅・高句麗)と隋

N「四世紀から六世紀にかけて、朝鮮半島では百済・新羅・高句麗の三国が分立する時代が続く。しかし六世紀後半に、中国が隋によって再統一されると、その争いは終焉に向かう」


〇来日する僧侶たち

N「日本は積極的にこの争いに関与した。六世紀中頃、百済から日本に仏教が伝えられたのは、日本の軍事的援助に対する返礼だったと考えられている」


〇仏教寺院

仏教寺院が、武装した兵士たちに取り囲まれ、火をかけられている。兵士たちは仏像を運び出して破壊し、僧侶や尼僧を捕らえている。それを指揮している物部守屋(中年)。

N「敏達天皇十四(五八五)年、飛鳥」

そこに馬に乗って駆けつけてくる蘇我馬子(中年)。

馬子「物部どの、いったい何をなさる!?」

守屋「近頃、疫病が流行しておるのは、異国の教えである仏教を受け入れ、神祇をないがしろにした罰である。大王(おおきみ、敏達天皇)からも、仏法を止めるよう詔が出ておる!」

歯がみする馬子を背に、高笑いする守屋。

N「有力な豪族であった、蘇我氏と物部氏は、仏教受容をめぐり、激しく対立した」

〇磐余池辺雙槻宮(いけのへのなみつきのみや)、王宮

用明天皇、馬子、守屋、豪族たちが会議している。

用明「……大陸の文化と、仏法とを切り離すことはできぬ。これよりは仏法を積極的に受け入れ、多くの渡来人を招いて、国を豊かにするのだ」

歯がみする守屋を見て、ほくそ笑む馬子。

〇飛鳥寺

五重塔と、それを取り囲む三つの金堂でできた、壮麗な建物。

庭では百済からの渡来人たちが、仏像を彫っている。

その様子を、豪族たちに見せて回っている馬子。

豪族「こんな高い塔が、雨にも風にも、地震にも耐えるとは……」

豪族「百済の技術は素晴らしいものですな」

得意げな馬子。

N「馬子はその後も仏教の受容を進め、百済からの渡来人を招いて、最新の大陸の技術を取り入れた」

〇物部邸(夜)

篝火の焚かれる中、武装した兵士たちが集まっている。

N「仏教が広がり、蘇我氏が力を増して行くことに焦った守屋は、ついに挙兵する」

〇磐余池辺雙槻宮・王宮の一室

厩戸王子(聖徳太子、十四歳)、馬子、額田部王女(推古天皇、三十四歳)が密談

している。

馬子「物部は兵を集め、泊瀬部王子(崇峻天皇)に代わって、穴穂部王子を大王に立てようとしているようです」

皇女「豪族たちもどちらに付くべきか、迷うておる様子。このままでは……」

厩戸「……恐れることはありませぬ」

厩戸を見る二人。

厩戸「仏法は常に、正しい者の味方です。必ず我らが勝ちます」

厩戸の背後に、後光差す仏の姿を見る二人。

N「『聖徳太子』は後世の諡であり、生前は厩戸王子と呼ばれていた。また、太子の業績とされてきたものは、厩戸を含む複数の人物によるものだった可能性が指摘されている」


〇戦場

蘇我軍と物部軍が激しく戦っている。蘇我軍を指揮しているのは、厩戸と馬子。

乱戦の中、厩戸が何かに気づき、部下を呼ぶ。

厩戸「あの樹の影を射よ」

部下「え? ……あ、はい」

部下が射ると、樹上から人影が落ちてくる。射抜かれた守屋である。

厩戸「守屋は倒れた! 一気に敵軍を突き崩せ!」

意気上がる蘇我軍と、パニックに陥る物部軍。

N「この戦いで物部氏は没落、蘇我氏はその権力を盤石のものにした」

〇四天王寺の建設現場

N「五九二年に推古天皇が即位、推古・厩戸・馬子の三人が中心となって、四天王寺を建立するなど、仏教に基づく国づくりを進めて行く」

百済系の渡来人たちが日本人の大工を指揮している。

〇隋の宮廷

文帝に謁見している遣隋使の一行。

N「推古天皇八(六〇〇)年、日本は隋と国交を結ぶべく、遣隋使を派遣するが」

だが、遣隋使は格好一つ取っても、隋の宮廷の群臣たちと比べて、余りにもみすぼらしい。群臣たちは、笑いを押し殺している。居心地悪そうにしている遣隋使たち。

文帝「倭国はどのような法に基づいて政を執り行っているのか」

遣隋使「大王の徳に拠っております」

どっと笑う廷臣たち。

文帝「……では、官吏の位はどうなっている」

遣隋使「力のある豪族が政を助けております」

さらに大きな声で笑う廷臣たち。恥ずかしさに真っ赤になる遣隋使たち。

N「この遣隋使の存在は、日本側の記録から抹消されている」

〇豊浦宮

遣隋使の報告を受けている、厩戸(二十八歳)・推古(四十八歳)・馬子。

推古「……『国としての体裁を整えてから、出直して参れ』と……」

悔しそうにしている遣隋使たち。顔を見合わせる厩戸と馬子。


〇冠位十二階の図解

N「厩戸らはまず、それまで豪族たちが世襲で務めていた国の仕事を再編、冠位十二階を定め、能力で人材を登用するようにした」


〇小墾田宮の一室

厩戸が文机を前に考え込んでいる。

厩戸(M)「国としての基本は、やはり法律だ。だが、我が国には、どのような法律がふさわしいのだろう……」

いつしかうとうとする厩戸。


〇厩戸の夢

雲の上の、天上界のような神々しい世界に立っている厩戸。

気がつくと、救世観音菩薩が隣に立っていて、

菩薩「人の和なくしては、何事も成し遂げることはできませぬ」


〇小墾田宮の一室

はっと目を覚ます厩戸。猛烈に筆を走らせる。

厩戸(M)「和を以て貴しと為す……」

少し考えて、

厩戸(M)「篤く三宝を敬え。三宝とは、仏(釈迦)・法(仏法)・僧(僧侶)なり」

N「推古天皇十二(六〇四)年、十七条憲法が制定された。日本ではじめての明文法である」

〇隋の宮廷

小野妹子ら遣隋使が、煬帝に謁見している。

N「推古天皇十五(六〇七)年、厩戸らは再度の遣隋使を派遣する」

国書を読み上げる妹子。

妹子「日出ずる処の天子、日没する処の天子に致す。つつがなきや……」

煬帝「……待て。倭王は自らを『天子』と称しておるのか?」

ビクっとして沈黙する妹子に、鋭い視線を投げる煬帝。

N「『天子』は皇帝にしか許されない称号であった」

煬帝「この地上に天子は、朕一人である。そうであろう?」

答えられない妹子。

煬帝「倭王ごときが、自らを『天子』と称するなど、言語道断。その思い上がり、正しておかねばならぬなあ?」

冷や汗が妹子の額と背中を濡らす。緊張に包まれる遣隋使たち。

煬帝「……だが今は、倭よりもまず、高句麗を征伐せねばならぬ。この非礼、見なかったものとしよう」

ほっと息をつく妹子と遣隋使たち。

N「この後、日本は遣隋使を何度も派遣し、多くの留学生を隋に送り、最新の大陸の知識や文化を積極的に取り入れていく」

〇法隆寺・西院伽藍

N「法隆寺は厩戸が推古十五年に創建した。西院伽藍は創建当時のものではないが、現存する世界最古の木造建築物群である」

〇法隆寺・夢殿

瞑想している厩戸。

〇仏像を彫る仏師

N「百済からの渡来人の影響を大きく受けた、四天王寺や飛鳥寺などの寺院建築や、飛鳥寺釈迦如来像・法隆寺金堂釈迦三尊像 などの仏像群などを総称して『飛鳥文化』と呼ぶ」

〇文机に向かう厩戸

N「厩戸は歴史書と思われる『天皇記』『国記』や、仏教の解説書である『三経義疏』など、多くの著作を遺したとされているが、そのほとんどは失われている。『三経義疏』中の『法華義疏』のみ、厩戸の真筆とされる物が、御物として皇室に伝えられている」

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