通史日本史 第一巻 第二章 縄文時代の暮らし
〇竪穴式住居の並ぶ村
十くらいの竪穴式住居の並ぶ、四十人くらいの住む村。村の中心には、環状列石のある広場。
N「縄文時代に入ると、日本の人々は定住するようになった」
〇森林
ドングリを拾っている縄文人たち。植物の繊維で編んだ服を着ており、大人の体には入れ墨が入っている。
N「気温の上昇により、日本が森林に覆われるようになり、移動しなくても食糧が安定して手に入るようになったからである」
その中にハセオ(十五歳くらい、男)。
ハセオ(M)「もうじき成人式か……」
身震いするハセオ。
〇竪穴式住居の中
何人もの大人の男性がハセオを抑えつけている。覚悟を決めて、真っ青な顔のハセオ。
医師が、木槌と石器のノミをハセオの歯に当てる。
N「縄文時代には、成人の儀式として抜歯をしていたらしいことがわかっている」
〇村
誇らしげな表情で歩くハセオ。歯が抜かれ、体のあちこちに入れ墨も入っている。
N「入れ墨やアクセサリーの存在がわかっており、縄文人はなかなかファッショナブルだったようである」
〇森
ウサギの巣穴に、犬がワンワン吠え立てている。
弓矢を手に後を追ってきたハセオ、
ハセオ「よーし、よくやった」
犬をひとしきり撫でた後、ウサギの巣穴に手を突っ込む。ごそごそやって、大きめのウサギを一匹引っ張り出す。
ハセオ「やったぞ!」
浮かれるハセオの足下に、犬がじゃれつく。
N「この頃になるとナウマン象などの大型動物は減少し、ウサギや、大きくとも鹿などの動物が狩りの獲物となった」
〇村の一角
男女が調理をしている。ハセオの獲ってきたウサギをさばく横では、火にかけられた土器の中で、ドングリが煮えている。
N「旧石器時代と縄文時代を分ける大きな特徴は、土器の存在である。土器により煮炊きができるようになったことは、食べ物の幅を大きく広げた」
〇海辺
ハセオがヤスで魚を捕る脇で、アヤナが貝を拾っている。ちらちらアヤナを見るハセオ。視線に気づき、にっこりと微笑むアヤナ。真っ赤になって目を逸らすハセオ。
N「魚や貝も、旧石器時代と変わらず、重要な食料源であった。縄文人が食べた海産物を捨てた跡が、『貝塚』として残っている」
〇村の広場(夜)
環状列石をぐるりと取り囲んでいる村人たち。列石の脇で焚かれている火に向かい、一心不乱に祈っている女性のシャーマン。
N「縄文の村の中央で発見される環状列石は、宗教的な祭事の場であったと考えられている」
X X X
環状列石を囲んで踊り狂う村人たち。木の太鼓や琴を演奏している者たちもいる。
踊りながら、アヤナに近づくハセオ。アヤナ、ハセオを受け入れ、抱き合うようにして踊る二人。
N「祭事の場は、恋の舞台でもあったのだろう」
〇村の一角
粘土で縄文式土器を作っている男女に交じって、ハセオ(十七歳くらい)が土偶を作っている。
村人「アヤナのためのまじないか?」
ハセオ「(嬉しそうに)うん。健康な子が産まれますように。アヤナが出産で死にませんように」
N「縄文時代の妊婦にとって、出産は文字通り命がけであった。現在でも途上国における妊産婦の死亡率は、十六人に一人程度である」
〇ハセオの家
無事産まれた子供を抱いてあやしているハセオ。アヤナも疲労してはいるが無事である。
ハセオ「そうだ!」
ハセオ、赤子をアヤナに預けると、アヤナの枕元の土偶を持ち出す。
〇村の一角
ハセオ、土偶を粉々に打ち砕いて、一箇所に丁寧に埋める。
N「土偶は出産や多産のまじないと考えられているが、何故か発見される土偶のほとんどには、破壊された痕跡がある。縄文時代の呪術だったのだろうか」
〇村の外れ
畑に大豆を植えているハセオ(二十歳くらい)と、その後をついてまわるミイナ(ハセオの娘、三歳くらい)。
ミイナ「ねえ、何してるの?」
ハセオ「大豆を植えてるんだ」
ミイナ「???」
ハセオ、大豆を見せながら
ハセオ「この種を地面に植えて、時々水をやる。しばらくすると、たくさんの大豆がなる」
ミイナ「ふーん、不思議だね!」
微笑み合う二人。
N「本格的な農耕の開始は弥生時代になってからだが、縄文時代にすでに、栽培植物の畑作はおこなわれていた形跡がある」
〇村の一角
村人たちが、他の村から来た村人と交易をしている。
山人、熊の毛皮を広げて
山人「どうだ、冬はこれを着ると暖かいぞ!」
村人「うーん……塩を甕に一杯でどうか」
山人「干し魚もつけてくれんか?」
N「交易は盛んだったが、まだ貨幣は存在せず、物々交換が基本であった」
ハセオに山人が囁く。
山人「海を渡って、大勢やって来とるぞ」
ハセオ「?」
山人「色が白くて、顔の平たい連中だ。何でもそいつらは……土地を欲しがっているらしい」
ハセオ「土地なんかどうするんだ?」
山人「水を張って、イネとかいう草を植えるらしい。何でも、一粒を植えると、百粒になるそうな」
ピンと来ない様子のハセオ。
〇森の中
弓矢を持ったハセオが、犬を連れて狩りをしている。
と、遠くを大勢の人が通っているのが見える。
ハセオ(M)「……白くて平たい奴ら?」
ハッとして、村に戻ろうとするハセオ。だが気がつくと、白くて平たい奴ら=弥生人に囲まれている。怯えるハセオ。
と、弥生人の集団の中から、縄文人が進み出てくる。
縄文人「彼らは言葉が違うから、俺が代わりに話す」
えっ、という顔をするハセオ。
弥生人たち、微笑みを浮かべて、精一杯敵意がないことを示そうとしている。
〇村の広場
村の全員が集まっている。村長に報告しているハセオ。
村長「……そいつらは、土地が欲しいと言うのか」
ハセオ「はい。沼地に、イネという草を植えるそうです」
村長「確かにわしらに、沼地は無用じゃ。だが、大勢なんじゃろう?」
ハセオ「この村と同じくらいの人数です」
村長「……争いには、ならんじゃろうか」
ハセオ、弥生人たちの笑顔を思い出す。
ハセオ「……俺は、ならないと思います」
村長「……そうか」
村人たちの、喧々諤々の議論がはじまる。
アヤナに抱かれたミイナ、心配そうに、
ミイナ「私たち、この村から、追い出されてしまうの?」
アヤナも不安そうな顔。
ハセオ、ミイナの頭を撫でて、
ハセオ「そんなことにはならないよ。仲良くできるさ、白くて平たい奴らとも」
〇村の一角
ハセオたち村人と、弥生人の集団が顔合わせをしている。どちらも武器は持っていないが、緊張感が漂う。
村長と弥生人の村長がハグをして、緊張感がほどける。
〇村の広場(夜)
縄文人と弥生人が、火の回りで一緒に宴会をしている。
ハセオ、弥生人から差し出された米の飯を恐る恐る一口口にして
ハセオ(M)「……うまい!」
ハセオ、たちまち一椀たいらげてはっとする。物欲しそうに見ているミイナ。
弥生人、ミイナにも一椀米の飯を渡す。やはり恐る恐る一口食べて、それからがっついて一椀食べる。それを微笑ましげに見ているハセオと弥生人、顔を見合わせて笑い合う。
火の回りで踊る縄文人たちと弥生人たち。すでに縄文人と弥生人のカップルも誕生している。
N「縄文から弥生への移行は、長らく弥生人が縄文人を戦って北へ追いやったかのように思われていたが、近年の研究で、平和裡に共存と混血が進んだ可能性が指摘されている。また、縄文人の人骨から、暴力による死亡率は二パーセント以下であることが判明しており、縄文時代までは戦争がなかった可能性も指摘されている」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます