通史日本史
DENNY喜多川
第一巻 第一話 日本列島に住みはじめた人々
〇恐竜時代・白亜紀(昼)
地上を闊歩するティラノサウルスやトリケラトプス。
N「今から六千五百五十万年前、中生代白亜紀。昼間の地上は、ティラノサウルスをはじめとする恐竜たちの世界であったが」
〇恐竜時代・白亜紀(夜)
木や草の影を機敏に動き回る、ネズミのような生物たち。
N「夜の闇を、我々哺乳類の祖先たちはすでに駆け回りはじめていた」
足を止め、空を見上げるネズミのような生物。
巨大な流星が、空を覆い尽くしていく。
〇大衝突
N「白亜紀末期、現在のメキシコ・ユカタン半島に衝突した巨大隕石により、恐竜は大絶滅し、哺乳類のほとんども絶滅したが」
〇地中から顔を出す「Protungulatum donnae(プロトゥンギュレイタム・ダネー)」
※ネズミのような生物
N「現在の哺乳類の祖先に当たる「Protungulatum donnae(プロトゥンギュレイタム・ダネー)」が生き残り、哺乳類繁栄の礎を築いた」
〇ホモ・サピエンス
N「二十万年前にアフリカで誕生した人類の祖先は」
〇人類拡散の図
N「世界中に広がっていき」
〇一万二千年前の日本
サハリン経由、対馬経由、台湾・琉球経由の三つのルートで渡来する日本人。
N「一万二千年ほど前に、三つのルートから日本列島に渡来、定着した」
〇平原
獣の皮で作った服をまとう、槍を手にした男たちが走っている。
N「その頃の気候は、今よりだいぶ寒冷で、まだ日本列島は森林に覆われていなかったと考えられている」
彼等が追っているのは、ナウマン象の足跡。
リーダー「獲物はだいぶ疲れているぞ! もうすぐ追いつく!」
N「人間はたいていの大型草食獣より足が遅いが、長距離が走れる。獲物が疲れ果てるまで追って、動けなくなったところを仕留めるか、落とし穴などに追い込むような狩りをしていたようだ」
ついに彼らの眼の前に、巨大なナウマン象が現れる。
槍を手に、じりじりとナウマン象に近づく男たち。
リーダー「落とし穴まで追い込め!」
と、ナウマン象が暴れ、先頭の男、イシ(十五歳くらい)が跳ね飛ばされる。
崖から落ちていくイシ。男たち、そちらを見るが
リーダー「……あいつはもう助からない。獲物を追うぞ!」
ナウマン象を追って行く男たち。
〇崖下
ぼんやりした意識で、それを見送り、意識を失うイシ。
〇旧石器時代の住居の中
意識を取り戻すイシ。自分が木と皮で作られたテントの中にいることに気づく。
イシ「ここは……」
イシを看病していた女性ナミ(十五歳くらい)、イシが意識を取り戻したことに気づく。
ナミ「……言葉、ワカル?」
イシ、半身を起こしながら
イシ「少し違うみたい。でも、わかる」
ナミ「ヨカッタ」
差し出された水を美味しそうに飲むイシ。それを見て微笑むナミ。
イシ「ここは?」
ナミ、テントの入り口をまくって見せる。同じようなテントがいくつも並んでいる。
ナミ「倒レテルノ、見ツケタ。マダ息、アッタ」
イシ「……ありがとう」
N「旧石器時代、日本人はまだ定住せず、移動しながら狩猟採集の暮らしを続けていた」
〇森の中
ナミが木の実を採集するのを、杖を突き、足を引きずりながら手伝うイシ。犬も付いてきている。
ナミ「大きい動物はなかなか獲れないから、毎日の食べ物はこうやって集めるの」
イシ「俺の村もそうだった」
ナミ「それに狩りは危険だしね」
イシの引きずっている足を見る。
イシ「……もう走れないから、狩りはできない」
〇石切場
石を砕いて石器を作っているイシと、それを見ているナミ。イシの脇には杖。犬も付いてきている。
ナミ「イシは石器作るのが上手ね」
イシ「でも狩りは上手くなかった……だから……」
落ち込むイシの背中を、優しく抱くナミ。
ナミ「……みんな得意なことは違うわ。だから一緒に暮らすの」
イシ「……そうだね」
ナミの手を握るイシ。
イシ「俺の村では、こういう石器も作ってたんだ」
大まかに砕いた石器を、別の石で擦りはじめるイシ。磨製石器である。
イシ「持ち手をこうすると手を石で切らないし、刃をこうすると切れ味が良くなる」
感心して見ているナミ。
〇海岸
イシ(二十歳くらい)が、息子のマド(五歳くらい)と一緒に釣り糸を垂れている。イシの脇には杖。犬も脇に座っている。
マド「……なあ、父ちゃん」
イシ「どうした、マド」
マド「どうして父ちゃんは、みんなと一緒に狩りに行かないんだ?」
イシ「(笑って杖を手にして)父ちゃんの足で狩りに行ったら、みんなの足手まといになる」
マド「だけどみんなの父ちゃんは……!」
イシ、マドの頭を撫でて
イシ「この釣り針だって父ちゃんが作った。みんなの父ちゃんみたいなことはできないけど、父ちゃんもちゃんとみんなの役に立っている」
納得しない顔のマド。
〇林
木片を石器で削っているイシ。マドは犬とたわむれている。
イシ「……できた! おい、マド!」
イシ、マドを呼び寄せる。槍を手にして、
イシ「いいか、普通に槍を投げると……」
槍を投げる。三十メートルくらい飛ぶ。
イシ「だけどこの、新しい道具を使うと……!」
投槍器(アトラトル)に槍を引っかけて投げると、百メートル近く飛ぶ。目を丸くするマドと、自慢げなイシ。
マド「すげえや……だけど父ちゃんが狩りに行くわけじゃないんだろ?」
イシ「(笑って)ははは、それもそうだ」
上機嫌なマドに不満げなイシ。
〇草原
ナウマン象を百メートルくらいの距離で包囲しているイシの村の男たち。手には槍とアトラトル。
リーダー「投げろ!」
一斉に投げると、ほとんどの槍がナウマン象に命中。ひとしきりもがいて、息絶えるナウマン象。
リーダー「やった!」
わっと沸き上がり、ナウマン象に駆け寄る男たち。
N「旧石器時代の狩りのもう一つのテクニックが、投石と投槍である。これによって安全に大型獣を仕留めることができるようになった」
〇集落
男たちが解体したナウマン象の肉を持って帰ってくる。
男「やったぞ!」
誇らしげな男たち。出迎える女子供とイシ(二十五歳くらい)。嬉しそうなイシを見て、がっかりしているマド(十歳くらい)。
マド(M)「俺の父ちゃんは、ダメな奴だ……」
しかし男たちはイシの元に集まって、
男「イシ、お前の道具のおかげで、象をうまく仕留められた!」
男「この成果はイシのおかげだ!」
皆がイシを褒め称えているのでびっくりするマド。マドの妹、ルカ(五歳くらい)がマドのところにやってきて、
ルカ「(キラキラした目で)父ちゃんはスゴイんだね!」
マド「あ、ああ……(きっとルカを見据えて)そうさ、父ちゃんはスゴイんだ!」
〇集落(夜)
三十人くらいの村人たちが大きな火を囲んで車座に座って、焼いた肉を食べている。太鼓を叩く者や、踊っている者たちもいる。長老(五十歳くらい)が口を開く。
長老「……次の長は、イシがよいのではないかと思う」
村人「うん、俺も賛成だ」
イシ「……俺はよそものだ。足も悪い。本当にいいのか?」
村人「もう子供も二人居る。お前は俺たちの身内だ」
村人「それに、イシの道具がないと、俺たちは狩りができない」
村人「そうだそうだ!」
イシ「(感激して)ありがとう……」
びっくりしてイシを見つめるマドに、「今頃気づいたか」という視線を向けるナミ。
〇集落
村人たちがそれぞれのテントを解体している。
イシとマドも自分たちのテントを解体している。
マド「また引っ越すの?」
イシ「このあたりには、もう象がいないみたいだ。大きな動物が、もっとたくさんいるところを探す」
ナミとルカも荷物をまとめている。
N「まだ人々は定住しておらず、狩猟や採集に適した場所を求めて、移動しながら生活していたと考えられている」
マド「どこへ行くの?」
イシ「太陽が昇る方へだ。父さんが長になる前も、太陽が昇る方へ、太陽が昇る方へと移動してきた」
X X X
それなりの大荷物を持って移動するイシの村人たち。
N「こうして人々は、日本列島のあちこちへと拡散していった」
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