第292話 性癖の意地


「さておまえ達はこれから他校とペアを組み競走をして貰う。あくまで競争ではなく競走だからな。シャンゼルグ竜騎士校の専用のグランドコースで競走を行う。勝敗などは関係なく。お互いの力量を計ることが目的である。だが結して手を抜かず真面目にやること!。いいな!。」

『イエス!マーム!。』


カーネギー教官の指示にアルビナス騎竜女学園は一年クラス全員が元気良く返事をする。


一年の騎竜乗り科の野外授業では他校生徒の交流を兼ねて。騎竜に乗って競走を行うこととなった。戦闘は行わず校庭グランドのスタートから始まり。広い校舎敷地を回るシンプルなコースである。


「競走って。今更ね····。」

「お嬢様······。」


乗り気ではいパトリシアに相棒である黒眼竜ナーティアは困った顔を浮かべる。


『さあ、これよりシャンゼルグ竜騎士校とアルビナス騎竜女学園の騎竜乗りの生徒同士の競走が行われようとしています。どんな競走を見せてくれるか楽しみですねえ。』

『そうですね。戦闘は行われずあくまで純粋にスピードを誘う競走ですから。竜種によっては得意不得意が出てきてしまうかもしれませんねえ。』

『矢張競走はスピードに関しては有利なのはエレメント種の風竜族に軍配がくだりますかね?。飛行スピードに関しては風竜族に右に出るものはいませんからね。』

『そうですね。しかし風竜族と同じくスピードに長けた竜がいないとは限りませんよ。』

『競走もまたレースと同じで。やってみなきゃ分からないとことでしょうか?。』

『その通りです。』


「何か建国記念杯で実況解説していた二人がいるんだけど····。」


アイシャは建国記念杯で実況、解説を務めていた竜騎士科の生徒サイク・ラッパーヌと騎竜乗り科の生徒ネレミア・エレクトローンが何故か校庭グランドにテントを張って席に座っていた。学生でありながらレースで実況、解説していた二人が何故ここにいるのとアイシャは不思議におもう。


「あの二人はああやって時折、訓練や模擬レースや授業を機に実況解説したりするんですよ。将来二人は実況解説の職業とすることが確定していますから。生徒の授業を利用しては実況解説の練習をしたりするんですよ。先生方の許可も得ていますし。薔薇竜騎士団候補生と同じ特別枠とともいえますね。」


騎竜乗り科のオリンがアイシャに説明する。


「へえ~そうなんだ。」


アイシャは素直に二人を感心する。

次々にアルビナス騎竜女学園の令嬢生徒とシャンゼルグ竜騎士校の騎竜乗り科の生徒が担任に指名され互いの生徒が騎竜に乗って競走する。


「では次!アイシャ・マーヴェラス!。」

「あ、はい!。ライナ、行くよ。」

ギャジャー

(はい!)


アイシャの番になり立ち上がる。ライナを連れてグランドのスタートラインへとスタンバイする。


「それじゃこっちはそうね····。」


騎竜乗り科の一年担任もクラスから他校の競走相手を探す。

しかし騎竜乗り科のクラス全員は何故か恐怖で青ざめていた。競走相手の名を聞いて震え上がっている

原因は乗り手が騎竜にしているノーマル種である。狂姫のニ投流を扱う彼女よりもあのノーマル種を騎竜乗り科全てのクラスが怖れているのだ。何でもあのノーマル種は騎竜乗り科の生徒達からはパインオブザデット、死を呼ぶ胸と呼ばれているらしい。。建国記念杯の女性達の胸が勝手に揺れた事件もあのノーマル種が引き起こしたと校内では噂になっているのだ。馬鹿馬鹿しい。ノーマル種にそんな能力がある筈ないのに。少し騎竜乗り科の担任として一から生徒達に常識というものを教えなくてはならないと考える。


取りあえず他校の相手としては彼女と親しくなっているオリン・ナターシスかラム・カナリエが妥当かなあ?。


騎竜乗り科の一年担任は友人となった二人を指名しようかと考えたが。ふと視線がとある生徒に向かう。鼠色の肌に濃い目の金髪、血のように真っ赤な瞳をした生徒の姿に担任は目に入ったのだ。

そう言えば彼女は病弱で1ヶ月以上授業を欠席していたけど復帰したのね。一年騎竜乗り科の担任は彼女の実情、正体を知らなかった。故に病弱故の欠席となっている。


「セヴィヴィ・ジオ・ルターシ。」

「はい、何でしょうか?。」


彼女は優雅に応える。


「身体の調子はどうなの?。」

「はい、今日はいたって健康でございます。」


セヴィはニッコリと微笑み返事をする。


「それでは競走はやれそう?。」


ピキィッ!

バキィッ!


何かが弾けた。

騎竜乗り科担任が呟いた言葉に二匹の竜(ドラゴン)が反応したのである。反応した二匹の竜とはアイシャの騎竜とセヴィの騎竜であった。二匹の竜はお互い竜瞳の瞳孔が開いたままお互いを睨みあい低い唸り声が上げる。

一触即発並みに相手を威圧する。


「はい、問題ありませんよ。」

「じゃ、お願いね。」

「ええ、畏まりました。私も復帰したばかりなので。多少肩慣らしたかったのですよ。」


セヴィはニッコリと微笑み。担任の指名を承諾する。


『聞いたか!。ノーマル種!。お嬢様が闘うと申した。ここで貴様に引導を渡してやる!。』

ギャアラギャアガアはギャ!アギャアギャアラギャアガアギャ!

(そりゃあ、こっちの台詞だ!。ここで白黒はっきりさせてやる!。)


ばちばちばち

校庭グランドのスタートラインに立つと二匹の竜はほぼ不良同士の眼飛ばしすかのようにお互いを睨み威嚇しあう。竜の眉間をありったけ寄せてお互い顔を逸らさずに眼を飛ばす。



「もう~ライナ、喧嘩は駄目だよ。」


アイシャは何故だかセヴィの騎竜と喧嘩しだすライナを止めようとする。



ギャアラギャアギャ!ギャアギャア!ギャアラギャア

(止めないで下さい!アイシャお嬢様!。あのわからず屋に山というものがどういうものか教えねばならないのです!)

「ちょ、シードル。といきなり喧嘩は止めてよね。」


セヴィは執事兼相棒でもある鉄壁竜シードルを制止しようとする。


『お嬢様。申し訳ありませんがお断り致します‼。あのノーマル種に絶壁とはなん足るかを教えねばならないのです!。』

 

バチバチと二匹の竜は火花が飛び散る。


一般のライバル関係が持つ火花ではない。己の存在意義或いは己の性癖とも呼べるプライド懸けた闘いである。二匹の想いは結して譲ることはない。それは互いに好みが最も対極に位置し。結して合間みれることはないからである。双方のオスはそれを本能的に理解していた。


ざわざわざわ

双方の竜の気迫に騎竜乗り科のクラスとアルビナス騎竜女学園のクラスが気圧されざわめく。

何をしてあそこまで怒りをふるっているのか知るよしもなく。

ただ双方の気迫と熱気にあてられ。騎竜でさえも二匹の竜の怒気に身を震えだす。


「ライナが他校の騎竜と揉めたって?。」


レインがパールに尋ねる。


「ええ、何でも山と絶壁で言い争いになったみたい。」

「何それ?。」


どういう理由で双方の竜が喧嘩しているのかレインは理解出来ず首を傾げる


「ふん!何にせよ。ライナに競走で勝負しようなどと。あの竜(ドラゴン)身の程知らずだな。ライナは我が高速スキル獄炎噴の翼の飛行スピードで競り勝ったのだぞ。風竜族の飛行スピードでもライナに足元にも及ばない!。」


ガーネットはふんとタンゴドレスの着た胸を前にだしてふんぞり返る。


校庭グランドのスタートラインに立った二匹の竜は飛び立つ準備をする。


ギャアラギャアガアギャアラギャアギャア!ギャアラギャアギャアガ

(アイシャお嬢様。Boin走行をお願います!。あの竜は速攻で倒しますので!。)

「もう!ライナ!。」


アイシャはライナの強情さに困り果てる。


『お嬢様。私も全力であのノーマル種倒したいと思います。ご協力お願い致します!。』

「ああ、もう好きにしてよ!。」


セヴィは鉄壁竜シードルの強情さに頭を抱える。こうなってしまったなら頑なに己の意志を曲げたりしないのだ。鉄壁竜故に意志も鉄壁のように硬い。


『さて、次は色々学園では注目されている狂姫のラチェット・メルクライの二投流を扱うアルビナス騎竜女学園の生徒アイシャ・マーヴェラスとその騎竜ノーマル種ライナの競走のようです。』

『建国記念杯ではスポットをあてられませんでしたが。竜騎士科の三竜騎士のうち二人を倒してしまい。騎竜乗り科の集団戦闘を勝利したと聞いております。解説出来なかったのは残念ですねえ。』

『相手はあのブラットムーン(鮮血の月)のセヴィヴィ・ジオ・ルターシではありませんか!。彼女はいつも病弱で学園では出席日数が足りず進級出来ずにいました。しかし騎竜乗りの実力は本物です。何度もレースに出場しては必ず優勝をもぎ取っております。』

『騎竜は鉄壁竜のようですね。鉄壁竜は私はあまり詳しくはしりませんが。スピードタイプの竜には見えませんけど。見た目からして防御タイプでしょうか?。ならば競走は不利かもしれませんねえ。』


解説のネレミア・エレクトーンは鉄壁竜という竜種の特性、能力を詳しく知らなかった。鉄壁竜はレア(希少)種に入るが。レースに頻繁に出場する竜でも進んでレースに出場する竜でもない。極めて数の少ない竜種でもある。


『いえいえ、ネレミアさん。鉄壁竜は極めて強い竜種ですよ。とある条件下ならば他のレア種やエンペラー種には引けをとりません。スピードだって風竜族の飛行スピードを越えることもあるんですよ。』

『そうなんですか?。』


解説のネレミアは信じられないという顔を浮かべる。


『まあ、それはレースを見れば解ることです。』

『楽しみですね。』


二人は放送席で二人二匹の競走を見守る。


「ではこれよりアイシャ・マーヴェラスとセヴィヴィ・ジオ・ルターシの競走を行う。説明した通り。校舎周辺の敷地をつかったコースだ。校庭グランドからスタート地点とし。運動場を周りながら再びこの校庭グランド戻ってくること。いいな。」


スターター役はカーネギー教官であった。

ギャアラギャアガアギャアラギャアギャアガアギャア!ギャアラギャアガアギャ!ギャアラギャアギャアガアギャアラギャ!

(アイシャお嬢様。我が背中に胸を押し付けて下さい!。Boin走行を頼みます!。あの絶壁竜には敗けたくないんです!。)

「はあ···」


アイシャはライナの背でため息を吐く。


『鉄壁竜だ‼。お嬢様!どうか我が背中にあなた様の偉大なるまっ平らをお納め下さい!。わが力を持って。あの愚かなノーマル種を下しましょう!。』

「それ以上ほざくとぶちこますからね!。」


まっ平らと言われ。ヴァンパイアの主人であるセヴィは半ギレする。


「それでは一について」


カーネギー教官は右手をあげる。


むにゅう♥

アイシャはライナの背の上で身を低くする。アイシャの胸の膨らみがライナの背の鱗肌に押し付けられる。

柔らかな感触が背中全身に伝わる。


はあ~これこそが至上の至福♥。たく、あの鉄壁竜はこの山の偉大さと素晴らしさを全くもって解っていない。山の偉大さとその内に秘めるパワーを見せつけてやる!。


「ふん!。」


パァーン!

勢い良くセヴィはほぼ投げやりのように鉄壁竜シードルの背中に自分の胸を当て····のではなくぶつける。鉄壁竜のスベスベツルツルした背中にセヴィの肌がパァーんと晴れやかな音を鳴らす。


『はああ~。矢張お嬢様のまっ平らは最高だー!。何ともいえないこの・は・ん・ぱ・つ・感♥。矢張絶壁こそ全てにおいて完璧であり。最上級の肉体美である。あのような贅肉の塊よりもお嬢様全ての無を現す絶壁こそ至高。あのノーマル種に絶壁の秘めたる偉大なる力をみせてやろう!。』


二匹のオスの思惑など露しらず。主人達は競走に集中する。


「ヨーーーイ。」


双方の二匹は身を屈め翼を低姿勢に落とす。二人の主人もそれに応じて身を屈め自分の騎竜の背中に密着する。




「ドラGOーー‼。」


カーネギー教官は激しく右手を振り下ろす。



バサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサ


二匹のオスは己の存在意義(性癖)を賭け。校舎上空を駆け巡る。





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