第291話 山と絶壁
「ライナ!。」
タタタタ
嬉しそうにキリネが俺に駆け寄る。
キリネのブラウン髪が姉と同じ白銀のブロンド銀髪になっていた。コンタクトかどうかわからないが。瞳もすんだ青色に輝いている。
ギャアガアギャアラギャアギャアガアギャア
(あはよう。キリネ、イメチェンしたんだね。)
「ライナがこっちの方が綺麗というから思いきって変えてみたの。どうかな?。」
ギャラギャアガアギャギャア
(うん、凄く似合っているよ。)
俺は素直に感想を述べる。
「ライナ、貴方わたしの妹にどんな魔法を使ったのかしら?。あんなに元の姿になることを嫌がっていたのに。」
「ライナ様のおかげで昔のキリネが戻ってきました。感謝しております。」
キリネのイメチェンしたことに姉セシリアとキリネの相棒である幻竜ラナシスさんにも感謝された。イメチェンぐらいで大袈裟な気もするが。
「ライナ、昨日はお嬢が迷惑かけたようだな。」
無精髭の侍風のオッサン姿である剣帝竜ロゾンは声をかける。
ギャアラギャアガアギャアラギャアギャアガアギャア
(いえ、自分も決闘の際に色々やらかしてしまって。)
不可抗力とはいえイーリスお嬢様のドレスを台無しにしてしまったのである。真っ赤なに染まった正に勝負服のようなドレスだった(勝負したけど)。
高そうだったから矢張弁償しなくてはならないのだろうか?。アイシャお嬢様にイーリス先輩のドレスを台無しにしたと知ったら相当怒られそう。
「いや、此方にも非があるのだ。お嬢がライナと再戦を望んでいたのは知っていた。それを止められなかったのは此方の落ち度だ。本当に申し訳ない。」
剣帝竜ロゾンは深く頭を下げる。
ギャラギャアガアギャアラギャアギャアラギャアガアギャアラギャアギャアガアギャア
(いえ、いいですよ。気にしていませんから。寧ろ此方がドレス代弁償する立場ですし。)
この流れだと破れて飛散したドレスを弁償しなくてよさそうである。アイシャお嬢様に知られたら大目玉を喰らってしまう。
「イーリスがお世話になったようね。」
イーリスお嬢様と同じ濡れ鴉の髪を長く伸ばす騎竜乗り科の令嬢が前にでる。
紅色の唇に笑みをこぼしていたが。心の内面の奥には何かどす黒いものを秘めているようにライナは感じられた。
「イーリス。貴方のことをどう想うか勝手だけど。もしイーリスを傷物にしたならその時は刀に斬られるだけじゃすみませんよ。」
「さ、咲夜様!。 」
彼女の騎竜である百花繚乱竜の蛍は慌てて主人を静止しようとする。
何で刀で斬られたこと知ってるんだ?。
ああ、イーリスお嬢様が聞いたのかな?。
城の方では俺が斬られたことは伏せられている。
「·········。」
ギャアラギャア?、
(イーリスお嬢様?。)
イーリスお嬢様は無言のまま俺の前に立つ。
前の件もあってか俺は少し身構えてしまう。まさか校庭前で戦わないよなあ?。
俺は嫌な予感がした。
むにゅう♥
えっ?
(ギャ?)
イーリスお嬢様は何も言わぬままそのまま俺に抱きつき胸を押し付けてきた。
俺としては嬉しいのだが。いきなりの行動にちょっと驚いてしまう。
「お嬢がお詫びの印と言っている。」
剣帝竜ロゾンが主人の行動の説明をする。
ギャアラギャアガアギャアラギャアギャアガアギャアラギャアギャア
(ああ、そうなんですか。ありがとうございます。イーリスお嬢様。)
コク
「あ~~!。イーリス先輩だけズルい!。僕も抱き付く!。」
「えいっ!」
ダッ むにゅう♥
キリネもまけじと俺に抱き付いてくる。
イーリスお嬢様とキリネの柔かな感触が俺の竜の胴体に伝わる。
あああ~俺はやっと厄日から解放されたのねえ~。至福♥。
俺は尻尾をふりふりして二人の胸の感触を堪能する。
災難が災難だったために今日この日の為にあったのだと実感する。
「矢張。あのノーマル種。早々に始末した方がよさそうね。イーリスには悪影響しか与えないわ。何かこう合法的に亡きものにする方法はないかしら?。」
「咲夜様···· 」
西方の令嬢はそんな物騒なことを陰の隅で口にして。相棒であり付き人の百花繚乱竜の蛍は顔が青ざめる。
授業を受ける為キリネとイーリス達はシャンゼルグ竜騎士校校舎に入っていく。また一匹ノーマル種の俺取り残される。
人化できないから主人と同じ授業を受けられないから当たり前だが。別にボッチになったわけではないぞ!。ていうかボッチが何が悪い!。こちとら彼女いない歴、異世界の歳を交ぜても40年以上もあるんだ。文句あっか!。
はっ!いかんいかん。おもわず前世からの溜まりたまった不平不満、鬱憤を漏らしてしまった。
さて、気を取り直してアイシャお嬢様の教室の授業が野外授業に変わるまで待ちますか。
俺は玄関前で再び待つことにした。
コツコツコツコツ
ん?
俺は竜瞳を凝らす。
前方にピンクの制服を着た令嬢が歩いてくる。てっきり殆んどの生徒達がシャンゼルグ竜騎士校校舎に入っていったとおもったが。まだ登校する生徒がいて驚いた。何故なら校舎の玄関前がガランと人っ子一人いなかったらからだ。てっきり全校生徒が学園に入ってとおもっていたが。
まだ登校する生徒がいたのか。
遅刻かなあ?。
遅く登校する令嬢の隣には剣帝竜ロゾンのようにメタル色の鋼鉄の鱗に覆われた竜が人化せず主人の傍に寄り添うように歩いている。鋼鉄の鱗に覆われた竜は剣帝竜ロゾンのように鋭利にギザギザしているわけでなく。つるつるスベスベまるで鉄壁のような鱗をしていた。鱗がつるつるスベスベしているせいで背中が乗りずらそうにも見える。
鋼鉄の鱗に覆われた竜と一緒に登校する令嬢は段々とライナの前に近付いてくる。
コツコツコツ ピタッ
目の鼻の先まで到達した。身近でみると生徒の身なりの背格好が大分小さい。幼さを残したというよりは幼女といっていいほどの少女である。胸も当然ペッタンである。マリス王女様よりもちょっとくらい上かなあ?ていうくらいの容姿をした生徒である。
容姿が鼠色の肌と濃い目の金髪に瞳が血のように真っ赤な独特の色をしている。
学園を登校しにきた赤目の少女はライナの前に立つ。何か品定めをするかのようにじろりとライナを観察する。
「ね?このノーマル種って···」
ギャバギャババギャバ
(左様で御座います。)
赤目の少女は相棒の騎竜に尋ねると鉄壁の鱗をした竜は相づちをうつかのように頷く。。
赤目の少女はライナをまじまじと見る。
「ふ~ん。なるほど···。確かに普通のノーマル種ではなさそうね。六大元素の精霊だけでなく銀氷の精霊まで体内に取り込んでいるんだなんて。よく普通のノーマル種が零の精霊とも言える銀氷の精霊を体内に取り込めているのか不思議に思うわ。銀氷の精霊は全てにおいてマイナスに作用を与える精霊なのに。」
なっ?。俺の中の精霊の存在に気付いている?。
俺の竜顔は絶句する。
初対面で一目で俺の精霊の存在に気付いたのだ。見た目からしてもただ者ではない。
「ふむ。そうね·······」
フッ
ギャ!?
(えっ!?。)
突然俺の視界から赤目の少女が消えた。
一瞬の刹那である。
一体何処に·····
俺はキョロキョロと竜の長首を回し辺りを確認する。
ちうううううううう
ギャアああああああああああガアギャアラギャアギャーーーー!
(ギャアああああああーーーー!。血を!血を吸われるーーーー!!。)
俺は絶叫をあげ悶える。
赤目の少女が消えたと思ったらいつの間にか俺の長首にしがみつき血を吸っていたのだ。
俺の胸の感触に関して反応速度は高めだが。しかし赤目の少女は容姿が幼女のように幼く。胸もペッタンである故に感知するのが遅れた。
ちぅううううううううううーーーーーー
ギャああああああ~~~
『お嬢様。それ以上は·····。』
「あら?ご免なさいね。つい美味しそうだったもので。味見をしてしまったわ。」
サッ
赤目の少女は俺の長首筋からサッと素早く離れる。
何なんだよ!この少女は····
いきなり初対面で血を吸われるなんて聞いたことがないぞ。
この子絶対ヴァンパイアか吸血鬼の類いだろう。
俺はそう断言する。
「安心して。貧血になるほどの血を吸っていないわ。ホンのご挨拶程度よ。」
赤目の少女は悪びれもなく俺にそう呟く
ご挨拶程度で他人(他竜)の血を吸ったりしませんけどね。俺は内心この赤目の少女に文句を言いたかったが。これ以上騎竜乗り科との揉め事を起こしたくなかった。ピンクの制服を着ている以上シャンゼルグ竜騎士校の騎竜乗り科の生徒だろうし。
パインオブザデットと言われて騎竜乗り科の令嬢から怖れられているのに更に揉め事を起こせばアイシャお嬢様に多大な迷惑をかけてしまう。
ここはじっと我慢するしかない。
色々不満はあるけど····。
『お嬢様。朝の授業が始まってしまいます。』
鉄壁の鱗をした竜は赤目の主人に伝える。
「え?もうそんな時間?。じゃ急がないとね。それじゃノーマル種さん。また逢いましょう。私は貴方と貴方の主人にとても興味があるの。それじゃね。」
赤目の少女はそう捨て台詞を残して去っていく。鉄壁の鱗をした竜は瞬時に人化すると初老の男へと変わる。
はあ···正直関わりたくないんだが····。
赤目の少女と人化した鉄壁の鱗の竜はそのまま校舎に入っていく。
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
やあーーーー! たあーーーー!
令嬢達の気合いがこもった声が訓練所に飛び交う。
ギャ····ギャアラギャギャア
(はあ····山は良いなあ~。)
ライナはうっとりした竜顔で竜口から悩ましいため息が溢らしながらそんな訓練に励む令嬢達を観察する。
たあーー やあーーー
騎竜乗り科の専用の訓練場では騎竜乗り科の令嬢生徒が運動着を着て騎竜乗り専用の訓練を行っていた。合同授業であるアルビナス騎竜女学園の生徒もそれに習って一緒に訓練している。シャンゼルグ竜騎士校の特殊な運動着はピンクの制服と違い。薄着で動きやすい服装であった。今懐かしのあのブルマも着ている。今時代の子は知全然らないだろうと思うが。運動着の上着もピンクではなく。真っ白で運動する度にとある部分がよく弾む。俺はその部分をじっくり真面目に熱心に観察する。
ライナは遠くの土手で騎竜乗り科の令嬢生徒達の訓練の勇ましい姿を熱心に観察している。
近くにくると騎竜乗り科の令嬢生徒達は皆自分を恐れ。訓練がままならないので仕方なく遠くから離れて観察している。
竜瞳なので遠くからでも令嬢生徒達のたゆたゆの健康的な訓練姿を拝むことができる。
騎竜乗り科専用の白い運動着を着てるからたゆたゆにとある部分が弾んでいる。
ゴガ···ギャバラダバギャ~
(はあ····絶壁は良いなあ~。)
ふと、隣でも悩ましいため息交じりの竜言語がライナの耳に届く。
隣に竜瞳の視線を注ぐとさっき玄関前でヴァンパイアと名乗る赤目の少女に血を吸われ。その隣には確か鉄壁の鱗をした竜がいたっけ。その竜がライナと同じく騎竜乗り科の令嬢生徒達の訓練する姿を熱心に観察している。
主人である赤目の少女も今日の騎竜乗り科の訓練の授業を受けているのだろうか?。
主人がいないせいか何故か独り言は竜言語を使っている。
赤目の少女にさっき突然俺の長首から生き血を啜られて酷い目にあったが。騎竜となら仲良くできるかもしれないとライナは思った。
この頃シャンゼルグ竜騎士校の騎竜達(アイシャお嬢様の親しくなった者以外除いて)にかなり煙たがれるている。ここは一つ他校の騎竜の親睦を深める為にもこの鉄壁の鱗をした竜とは仲良くすべきだろう。主人であるアイシャお嬢様にも他校との交流をうちとける良い機会でもある。
鉄壁の鱗をした竜はライナの存在に気付くとにこやかな竜顔の笑顔を浮かべる。
長首で軽く会釈し双方の竜口が開く。
ギャアガアラギャアギャア?
(山がお好きなんですか?。)
グカギャバギャバギャア?
(絶壁がお好きなのですか?。)
·········
·········
何かお互い会話が被ってしまった。
どうやら相手も親睦を深めるつもりだったらしく。同じタイミングで話し掛けてしまったようである。
同じ考えでならここは一つ、世間話してお互いの親睦を深めよう。
ライナはより親しくなるためにも世間話をきりだすことにした。
ギャアギャアギャアギャアラギャアガアギャアギャア
(はい、むにゅうという柔らかな感触がなんとも。)
(パァーン!と背中に当たる反発感がなんともいやはや。)
ギャ?
(ん?)
グギャ?
(はっ?)
また会話が被ってしまった。
ていうか会話が全然全く噛み合っていない。
双方の竜は不思議そうな竜顔を浮かべる。
ギャアラギャアガアギャアギャアギャ?
(山の話をしているんじゃないですか?)
ギャアラギャアガアギャアラギャギャア?
(絶壁の話をしているんじゃないですか?。)
お互い竜の長首を傾げる。
やーーーー! たあーーーーー!
「さて、誰と組もうかなあ?。」
アイシャは訓練相手を探していた。
合同合宿ではシャンゼルグ竜騎士校の生徒と一緒に訓練することが習わしである。アイシャもパインオブザデット(死を呼ぶ胸)の主人である故騎竜乗り科から怖れられてはいないが避けられていた。
親しくなったオリンとラムにお願いするのも正直申し訳ないとおもっていた。
「お相手出来ますか?。」
訓練相手の誘いの声にアイシャは声の主を方を見るとそこには鼠肌の赤目の少女が立っていた。アイシャは騎竜乗り科の全ての令嬢生徒を把握している訳ではないが。目の前の鼠肌の赤目の少女など騎竜乗り科の生徒の中では見たことはない。
「えっと·····どちら様?。」
アイシャお嬢様も鼠肌で赤目の少女に尋ねる
「これは申し遅れました。私はセヴィヴィ・ジオ・ルターシと申します。セヴィとお呼び下さい。」
「ああ、どうも·····」
アイシャは取りあえず会釈する。
見知らぬ赤目の少女に対してアイシャは少し警戒心を持つ。
ピンクの制服を着た赤目の少女はアイシャの細い首筋を見る。
赤目の瞳が妖しく光る。
「美味しそうね····。」
「はい?。」
「いえ····此方の話です。」
セヴィという赤目の少女はふふと唇に手を添える。
「セヴィ、起きたのね。」
親しくなった騎竜乗り科のオリンが嬉しそうに駆け寄る。
鳳凰竜フェニスとラムと魔剣竜ホロホスも続いて現れる。
「ええ、大分遅くなってしまったれけど。」
どうやらオリンの知りあいらしい。アイシャは少し警戒を解く。
「アイシャ、気を付けて!。このセヴィという女、油断していると首筋から血を吸うから。」
「えっ!?。」
ラムの突然の忠告にアイシャは困惑する。
「血を吸うなんて大袈裟な···。あれはほんのご挨拶よ。ラムまだあのこと根にもってるの?。」
ラムは警戒心丸出しな視線で睨む。
この子と何かあったのかなあ?。
「アイシャ。この女はヴァンパイアよ。血を吸う魔族なの。」
「魔族?。」
アイシャは魔族という単語を初めて聞いた。魔族は最も魔力の高い種族だとされている。
「貴方のノーマル種にとても興味があります。そして貴方はアイシャ・マーヴェラスでしたね。神の竜の担い手が底辺と言われたノーマル種で何を成そうとしているのかもそれもとてもとても興味があります。」
「はあ······。」
アイシャお嬢様はこの赤目の少女は何を言っているのか正直解らなかった。
「取りあえず今後とも宜しくね。」
「あ、はい!此方こそ宜しくお願いします。」
ぎゅ
アイシャとセヴィは互いに握手する。
グワギャッハ!ギャアガアギャアガアギャアラギャアガアギャア‼
(何故解らぬ!!。あの背中に当たるパァーーン!という反発感が良いではないかっ‼。)
ギャアギャ‼ギャアラギャアガアギャアラギャアギャアガアギャアラギャアギャ!
(何を言う‼。あのむにゅうと何ともいえない柔らかい感触がいいんじゃないか‼。)
二匹の竜言語交じりの竜の咆哮が騎竜乗り科の訓練場まで届く。
ギャバギャ!ギャバガバギャバギャバガバギャバ!
(何もない!そこに無限の可能性があるのだ‼。)
ギャアラギャアガアギャアギャアラギャアガアギャアラギャアギャア
(何を言う!。大いなる偉大なる山に未知の可能性が秘めてるものだ‼。)
二匹の竜の竜言語の言い争いが段々ヒートアップする。
そんな意味不明な単語で言い争いをする二匹のオス竜を訓練していたアルビナス騎竜女学園の生徒達と騎竜乗り科達の生徒が不思議そうに見つめている。
ギャア‼
(山‼)
ギャバ‼
(絶壁‼)
ギャア‼
(山‼)
ギャバ‼
(絶壁‼)
ギャア‼
(山‼)
ギャバ
(絶壁‼)
暫く騎竜乗り科の訓練場で二匹のオス竜の不毛な言い争いが続いた。
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