第289話 嵐の後に····

ギャうーんギャ!?

(う、うーん。はっ!?)


ライナの竜瞳の瞼は大きく見開く。

ベットの上に寝かされていた。頭上には見知らぬ天井がある。

仰向けの竜の巨体を起こす。


ギャラギャ?ガア~ギャ?

(ここは何処?、私は誰あ~れ?。)

「何寝ぼけているんだよ。ライナ。」


ジト瞳をしながら今さっき良い関係になりそうになりかけてた白銀ブロンドの御令嬢が俺のベットの横にある椅子に腰かけていた。俺の竜の巨体はノーマル種サイズの大きなベットに寝かされていた。確認すると胸から腹部まで包帯でぐるぐる巻きにされている。

包帯の下からズキンと斬られたような痛みが走る。


「お嬢さんがわたくしめを助けてくださったのですか?。」


確か俺は謎の裸腹掛け変態般若仮面の女に大太刀で一刀両断されたんだっけ。真っ二つにされたと思っていたが。無事のようである。流石はノーマル種でも腐っても竜(ドラゴン)である。ゴキブリ並みの生命力である。ゴキブリではないが。


「違うよ。薔薇竜騎士団の人達が手当てしてくれたんだよ。致命傷になりかけてて危なかったんだからね。」

ギャラギャ

(そうですか。)


あの謎の裸腹掛け変態般若仮面の女は本気で俺を殺しにかかってきたらしい。

俺、殺されるほどの恨みを買ったかなあ?。

日頃の行いは本当に悪くないと思うのだけど。


ギャアラギャアギャアラギャアガアギャアラギャア

(看病してくれたのですね。感謝します。お嬢さん。)

「もう!何で気付かないかなあ!。もう言葉遣いだって元に戻っているでしょうに!!。」


白銀ブロンドの令嬢は何処か腹の虫が悪いようでぷんぷんと湯気を立たせながら怒っている。

ギャ?

(えっ?)


そういえば上品な言葉遣いから少年みたいな言葉遣いになっているような·······。


ギャア····ラギャアガギャア?

(えっと·····どちら様ですか?。)

「僕だよ!。キリネだよ!!。」


頬を膨らませ自分の名を告げる。


ギャア?

(キリネ?。)


俺はまじまじと白銀ブロンド髪の令嬢の容姿を見る。確かにキリネの面影はある。ボーイッシュな髪型が少し下に流すような形をとっている以外は確かにキリネの面影がある。ブラウンの髪色はすっかり抜け。銀色に変わっている。確かに顔だちも目元もキリネである。

髪の色も違うのも姉のセシリアが銀髪だからこれが本来のキリネの姿なのだろう。


ギャアラギャアギャアガアギャギャア

(いや、本当、全然気付かなかったよ。)


遊びにくると約束していたが。まさか素っぴんで正装してくるとは思わなかった。


「全く。ライナがいつ僕に気付くか期待していたのに。全然気付いていないんだもん!。」


キリネの銀の眉がつり上がっている。かなりのお冠である。


ギャアギャアラギャアガアギャアラギャアギャアガアギャアラギャアギャ

(ごめん、ごめん。キリネの正装が見違えて。綺麗だったからつい気付かなくて。)


本当に仕草も作法も何処かのお嬢様のようでキリネであることが全然何も解らなかった。

俺は素直にキリネの容姿を褒め称える。


「きっ···麗··てっ、ふん!煽てても何もでないんだからね。」


キリネは腕を組んでそっぽを向く。胸元を腕を組むドレスの上から男装で隠されていた張りのある二つ膨らみがこぼれている。

耳元もひそかに赤くなっている。こ恥ずかしさを隠しているようである。本性を隠すの上手いはずの令嬢なのに珍しい。


「·········。」


無言で1人の令嬢が入ってくる。

濡れ鴉の結った長い後ろ髪が揺れる。

斬られる前の記憶で。彼女のドレスは無惨に飛散して真っ裸になってしまったが。今は別のドレスを着ている。どうやらお城で替えを用意してくれたようである。


ギャアラギャアガアギャアラギャアギャアガアギャアラギャギャ

(すみません。イーリスお嬢様。ドレスを台無しにしてしまい。)


イーリスお嬢様の赤いドレスをぼろぼろというかほぼ消してしまったことに俺は深く謝罪する。


コク

イーリスお嬢様は無言で頷く。

どうやら気にしていない様子である。

ただイーリスお嬢様もほのかに頬を染めてるような気がするが気のせいか?。


ガチャガチャ


薔薇模様の鎧を着た騎士が部屋に入ってくる。薔薇竜騎士団団長のアーミットさんである。続いて赤薔薇竜のイングリスも入ってきた。


アーミットは包帯に巻かれ寝かされた俺の前で頭を下げる。


「申し訳ない。賊を城にいれてしまい。王族のペットであるライナ様には大怪我させてしまいました。本来なら薔薇竜騎士団が全力で貴方を守るはずだったのに。薔薇竜騎士団代表として深くお詫び申しあげます!。」


アーミット団長は深々と俺に頭を下げる。



「全くだよ!。ライナは王族のペットととして迎えいれられたんでしょう?。それなの城外でなく城内で大怪我をさせれるなんて。ここのセキュリティはどうなっているの?。」 


キリネは容赦なくアーミット団長に追い討ちをかけるようにクレームを言い放つ。


「その事に関して弁明の余地もありません。」


薔薇竜騎士団として王族を守護する竜騎士団として。王族のペットさえも守れなかったことをアーミット団長は深く反省する。


ギャアラギャガアギャアラギャアギャアガアギャ?

(あの裸腹掛け変態般若仮面はどうなったんですか?。)


俺を3尺3寸大太刀で一刀両断した般若仮面の女である。相当の手練れな気がする。


「裸腹掛け変態般若仮面?。」


アーミット団長は俺の賊の命名に眉を寄せ困惑する。


ギャアラギャアガアギャアラギャアギャアラギャアギャアガアギャアガアギャアラギャアガアギャラギャア

(ああ、すみません。身なりからして自分がそう勝手に名付けているだけです。特に他意はありません。)


アーミット団長に俺はそう伝える。昔ながら肌着、下着でもある腹掛け一丁だけで。外を出歩き。大太刀持って般若の仮面を被る相手である。変態いがい何者でもないだろう。


「その裸腹掛け変態般若仮面の女は私達の包囲網を掻い潜り。城の外に取り逃してしまいました。竜(ドラゴン)でないのにあの身体能力は以上です。人化している私さえも追い付けなかったんですよ。」


赤薔薇竜イングリスは申し訳なさそうに俺にそう告げる。



「赤薔薇竜のイングリスは薔薇竜族の中では最も身体能力は高い方なんです。それが掻い潜り逃げだすなど。相当の手練れです。暫く城の警備を厳重にしようと思います。」

「怪我の方は明日の朝には完治しますのでご心配なく。うちの方で優秀な治癒魔法を使い手の騎竜がいて助かりましたよ。」


良かった。明日はアイシャお嬢様との合宿の登校日である。怪我で合宿の合同授業に出れなかったらどうしようかと思っていた。取りあえず明日の心配はしなくてよさそうである。治癒魔法に長けた騎竜?聖竜族の剣聖竜のことだろうか?。聖竜族は治癒魔法にも長けていると聞く。


「それでは失礼します。今後の警備の打ち合わせありますので」


アーミット団長と赤薔薇竜イングリスはお辞儀をして部屋を出る。


「はあ~、何だかんだで結局ライナとはあまり話せてないよ。」

ギャア?ラギャアガアギャアラギャアギャアガアギャアラギャ

(そうか?。正装していたキリネと充分に話したと思うけんだけど。)


キリネとは解らなかったが。中庭の噴水で充分な世間話をしたきがする。


「あれはノーカン!ノーカンだよ。だいちあんなの僕らしくないよ。姉さんの上っ面を良くするような真似したんだもん。それにやたら肩をこるし。」

ギャギャ···ギャアガアギャアラギャアギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャギャアラギャア

(はは、····そうか。でも俺は染めていないキリネがとても綺麗で美しいと思ったのは事実だよ。それは俺の正直な気持ちだから。)

「なっ、だ、だから煽てても何も出ないって!。」


キリネは顔を赤らめてしまう顔を隠す。

もじもじと恥ずかしそうにしている。

何か今日1日よく女性が赤らめる日だなとライナは思った。


「ねえ?ライナ。」

ギャ?

(ん?何だ?。)


キリネは上目遣いで聞いてくる。

そこに姉が持つ魔性が入ってることにライナは少しドキッとしてしまう。



「本来の僕の方がいい?。」


キリネは俺に変な質問してくる。

本来の僕?

うーんと俺は竜の長首を傾げ考える。


ギャアラギャアガアギャアラギャアギャアガアギャアラギャアギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアギャアガアギャアラギャアギャアガアギャア

(まあ、本来のキリネが綺麗だと思うけど。男装でありたいなら好きにしたらいいと思うよ。確かに今のキリネが綺麗だと思ったのは正直な気持ちだけど。キリネが元の男装に戻りたいというなら好きにしたらいいと思う。)


ギャア····ガアギャアガ

(そうか····うん。解った。)


キリネは頷く。

何かに吹っ切れたようにずっと少年の格好していた令嬢はライナの一言にとある決意を固める。



     ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


シャンゼルグ竜騎士校の敷地内の何処かにあると思われる地下部屋。薄暗い光が射さぬその石垣造りの部屋でポツンと部屋の中心に遺体を埋葬すると思われる棺が置かれていた。しかしその棺の中身は死体ではなく。とある少女が眠っていた。長く魔力を蓄えるために深い眠りについていたのである。

そこに一匹の竜(ドラゴン)が現れる。竜の容姿はまるで鉄壁を思わせるほど硬く。鱗がほぼ鋼鉄のように滑らかである。ゴツゴツはしてはいないが。つるつるの滑らかな鱗故にその竜の背は乗りずらそうにもおもえる。

その竜は棺の主が目覚めることを今か今かと待ち望む。充分な魔力を蓄え。やっと目覚めるこの日がやって来たのである。主人の覚醒をその鉄壁の鱗をした竜は嬉しそうに鎮座して待ち続ける。


ゴ、ゴゴゴゴッ!


重い棺の蓋が開かれる。

黒く塗られたような棺の中から白みがかった長い銀色の髪がふわりと揺れる。主人はゆっくりと起き上がる。上半身が少しずつ露となる。透き通った薄いねずみ色がかった肌が棺の中から覗く。白みがかった銀髪が垂れさがる顔から血のような真っ赤な瞳がゆらめく。その容姿は幼く。胸も成長が皆無に等しくペッタンである。




『お目覚めおめでとうございます。我が主よ。』


鉄壁の鱗をした竜は深々と幼い身なりをした主人に頭を垂れる。

血のように真っ赤な瞳の奥に竜の同じく縦線の瞳孔が開く。


「どれくらい眠っておったのじゃ?。」

『はっ、かれこれ6ヶ月であります。』

「そうか。何か変わったことはあったか?。」

『アルビナス騎竜女学園が合宿にきております。』

「もう、そんな時期か。で、他には。」

『いえ····特に。ただ相変わらず竜騎士科と騎竜乗り科は喧嘩しております。』

「またなのか?。いい加減にして欲しいものじゃな。あやつら卒業するまで喧嘩するつもりか?。」


赤目の少女は細眉が寄る。

竜騎士科と騎竜乗り科がどちらが王国に貢献しているかでいがみ合い争い初めてから早数ヶ月。6ヶ月たっても止めるつもりはないとはつくづく人間は愚かである。ヴァンパイアの血族でも喧嘩は希にあるが。ここまで長くは続かない。本当に頭が痛くなる。

ヴァンパイアである種族である少女は老いる事がない。容姿も代わり映えせず。学園に在籍しているのも単なる暇潰しである。本来なら学校に在籍する必要性はないのだが。更なる刺激を求めては騎竜乗り科の生徒として入学しているのである。ただヴァンパイアという種族は魔族に位置付けられいる。魔族は人間にとって忌み嫌われた存在であり。神竜聖導教会では討伐対象にもなっている。何故ここまで魔族が人間達に忌み嫌われているかというとちゃんとした理由が存在する。とある周期に何度か死と転生を繰り返してきた双極の神足る竜は復活する度に世界の命運を賭けた聖戦を行ってきた。その中で人間達は繁栄と再生を司る神足る竜プロスペリテについた。しかし魔族はその逆でもう片方の滅びと終焉を司る神足るフォールの味方をしたのである。それ故に魔族は人間達に反逆者、裏切り者として忌み嫌われるようになったのである。我々ヴァンパイアの一族は神足る竜の聖戦には介入しなかったが。それでも人間達は魔族に良い印象を持っていない。ま、嫌われているのには慣れてはいるが。何故ならヴァンパイアは人間の血を吸う。人間の血を吸う種族故に人間達からいつもヒルと罵られては嫌われているのだ。それに関してはどうとことでもない。


『それと。』


相棒の鉄壁の鱗を持つ竜は話を続ける。


「何じゃ?また何かあるの?。」


赤目の少女は不快に細眉がよる。

これ以上学園の面白くない話など聞きたくない。人間の糞面白くもない争い事など全くもって興味はないのだ。ただ人間の極上の血の持ち主なら断然興味はある。それだけでなく竜(ドラゴン)の血さえも彼女には興味あるのだ。大抵ヴァンパイアは人間の血を吸うのが定番であるが。彼女は竜の血も啜る変わりものでもあった。


『その合宿の合同相手であるアルビナス騎竜学園の生徒にノーマル種を引き連れたものがおりました。』

「なぬ?ノーマル種じゃと。」


ノーマル種は人間の世界では竜種の中で最も下等な種とされている。魔法もスキルも使えない役ただすと聞かされている。魔族の界隈でもノーマル種は無能な竜と見なされている。魔族の方では強さが全てであり。故に闘えないものは全て無能とされてしまうのである。ノーマル種も例外ではない。


「ほう·····それはとてもとても面白そうな話じゃな。」


不機嫌であったが赤目の少女はその話に興味を持つ。

無能とされるノーマル種を貴族の合宿に参加させるなど前代未聞である。それ以上にアルビナス騎竜女学園がノーマル種を騎竜にする令嬢を入学させたこと自体不思議である。


「それで、そのノーマル種はただの竜ではないのじゃろう?。」

『はい、合宿の初登校日にその騎竜は威圧を放ち。全学園の騎竜を敵に回しました。』

「なぬ?それを詳しく話せ。」


鉄壁のすべすべした鋼鉄の鱗をした竜はノーマル種が起こした全ての出来事を詳しく説明する。


「くわ!かっ!かっ!かっ!。それは愉快じゃな。建国記念杯に全ての女性の胸を揺らすなど。そんなもの我等魔族の王でさえも考え付かんよ。」


魔族の王である魔王でさえそんな非常識なことを起こすものはいない。昔は虐殺やら惨殺やら残酷なことを散々してきたが。そんな全ての女性の胸を揺らす非常識なことは魔王の中で1人もやるものはおらんかった。というか考えつかん。

鼠色の肌を持つ幼い身なりをした赤目の少女は合宿にきたという他校の生徒が連れているそのノーマル種に興味がわいてきた。


「面白くなりそうじゃな······。」


鼠色肌の赤目の少女は不適な笑みをうかべる。小さな薄い唇からはくっきりの上には立派な犬歯が牙が見えていた。



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