第288話 天誅ちゅううう!!

「もう、何だよ!。兵士に城を案内されて貰っていたらいきなりイーリス先輩が1人でどっかいっちゃうし。城の案内していた兵士もイーリス先輩を追ってどっかいっちゃうし。僕だけ1人取り残されたよ。ふざけんな!。これじゃ全然ライナと逢えないじゃないか!。」


青と白のコントラストのドレスを着飾る綺麗なお嬢様として転身したキリネは城の中庭で頬を脹らませ不貞腐れる。

兵士に城を案内されていたが。突然イーリス先輩が猛ダッシュしてどっかに行ってしまったのである。城を案内していた兵士も慌ててイーリス先輩を追っていってしまい。キリネは城内で1人取り残されてしまったのである。キリネは迷い歩きながら城内を進み中庭に辿り着いて途方に暮れていた。城の中庭には何故か芝生庭園が見え。今キリネはその芝生庭園に入る気力すらない。


「はあ····シャンゼベルグ城に来たのは子供の時以来だけど。あまり覚えてないよ。無駄に広いんだよなあ。この城。」


キリネが幼い頃に一度お城にはいったことがある。だが城内のことは全て把握しているわけではなかった。


「少し休もう。」


キリネは城の中庭にあった噴水の淵に座る。

噴水の中心には竜の型どった銅像があり。その竜口から水がどばどばと流れでている。正直このモチーフは竜の口からどばどばと涎を垂れ流してるようにしか見えない。よくこんなのがお城の中庭の噴水の銅像として設置されているのかとキリネは不思議に思う。



ドボッドボッドボッドボッ


キリネは噴水に淵に座り顔を下に俯く。


はあ····ライナに逢いに来たのにこんなに苦労するとは思わなかったよ。これもそれもあの寮長がライナを学園の女子寮に入れなかったのが悪い。

どうしてやろうか。

キリネは合宿先である宿泊を断ったシャンゼルグ竜騎士校の女子寮の寮長にどう仕返ししようかと企む。生物的に消すよりは経済的に消す方があの寮長には効くだろうか?とキリネの中に黒い感情がふつふつと沸いてきた。


ドシドシドシドシ


ギャ?ギャアガアギャアラギャア

(あれ?こんな場所に綺麗なお嬢様が。)

「えっ?。」


聞き慣れた竜言語にキリネは顔を上げる。

···········


慣れ親しんだ緑色の竜顔がキリネの瞳に写る。


ライナ·······

キリネはやっと大好きなライナに逢えたことにふつふつと沸いていたどす黒い感情が一瞬にして消え笑顔に変わる。

やっと目的が達成できたことに心から歓ぶ。


ギャアラギャアギャ?ギャアラギャアギャアラギャアギャアガア?

(どうかしましたか?。お嬢さん。何処か具合が悪いのでしょうか?。)


ライナは敬語でキリネの体調を心配する。

もしかしてライナ、僕だと解らないのかなあ?。

キリネは正装し。染めた髪も変わったことでライナにはキリネが別人に写るらしい。

何だか面白そうなのでこのまま何処かのお嬢様のふりをしてみようとキリネは思った。


「ええ、少し具合が悪くて···。少しここで涼んでおりました。」

ギャアラギャガアギャアラギャアギャアラギャアガアギャアラギャア?

(そうですか。そうですか。何か私めに出来ることがありましょうか?。)


キリネは笑い込み上げてくるのを我慢する。ライナがらしくない敬語をするので。腹を抱えて笑い転げるのを耐えていた。


「だ、大丈夫でございますくくく。ただ少し具合悪くなっただけでございまふふふ。」


キリネは手で口元を抑える。

笑っていることを悟らせない為である。


「コ、コホン。でしたら背中に乗せて貰えないでしょうか?。歩くのも疲れましたので」

ギャアラギャア!ギャア!ラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアギャアラギャアギャアラギャアギャアガアギャ

(それならば是非!是非!。私めの背中にお乗りくださいませ。乗り心地はいい方ではありませんが。それなりのスピードを有しております故。)


ライナは尻尾をふりふりさせて。興奮したかのように正装したキリネに自分の背中に騎乗することを誘う。

何か前の僕の態度よりも今の態度の方が優しくないか?。

男装していた前の姿よりも素っぴんの正装した自分の姿の方が食い付きのよさに何だかキリネは段々ムカムカしてきた。

何かこのままライナの背中に乗るのもしゃくだし。ちょっとからかっちゃおかなあ?。

キリネは素直にライナの背中に乗るよりは少しからかうことにした。


「ええ、でも、やっぱり遠慮します。見ず知らず騎竜に乗るのも失礼ですし。」


キリネは上品に口に手を添えお断りの返事をする。姉セシリアが男性を手玉にとるときは大抵こんな色気づいたお断り方をする。正直キリネにとってはこの仕草も作法も内心虫酸が走るのだが。ライナをからかうのには充分である。


ギャアラギャアギャアガア!ギャアラギャアガアギャアラギャアギャアガアギャアラギャアギャアラギャアガアキリネギャアラギャアギャアラギャアギャアガアギャアラギャアギャアラギャアガアキリネギャアガアギャアラギャアギャアラギャアギャアガア

(そんなことはありませんよ!。私は全ての女性に関してオンリーでございます!。私めの背中にはあらゆる種族は問いません!。昨日も西方の龍族の美人さんを乗せましたし。マリス王女、私の子守り相手なのですが、いつも背中に乗せて駆けっこしております。姉であるメディア王女様も私めの背中に乗せる約束もしておりますから。遠慮せずどうぞどうぞお乗りくださいませ。)


むッ!

キリネはライナの発言に眉を吊り上げ不機嫌になる。こんなにライナに逢うことに苦労しているのに。当の本竜は何処ぞの女性を背中に乗せては楽しんでいたのだ。どうせライナのことだからその女性達の胸の感触を背中で味わっていたに違いない。

段々とキリネはライナのことがムカついてきた。

目的変更だ!。このまま背中に乗るのではなく。乗る乗らない中間を維持して生殺しにしてやる!。僕が味わった気持ちをライナにも同じも味わせてやる!。キリネはライナに復讐することを誓う。


ギャアラギャギャアラギャ

(どうぞどうぞ、遠慮なく。)

「う~ん、どうしようかなあ?。」


キリネは姉のセシリアのように気を持たせるような仕草をする。男を手玉に取る基本は相手が乗り気かそうでないかという先入観を与えることであると姉セシリアから教わった。人間の男に全く興味を持っていないキリネには無用の産物だと思っていたが。オスであるライナには効き目があるのだから姉セシリアから教わったことは無駄ではなかったようである。不本意であるが。


ギャアガアギャアガアギャアガアギャアラギャギャ

(大丈夫です。遠慮なさらずに私めの背中にどうぞ)

「う~ん、どうしようかなあ?。乗ろっかなあ?それとも止めよっかなあ?。」


キリネは迷ってる仕草をする。

ライナは正装したキリネが乗り気になっていると勘違いして。尻尾を激しくふりふりさせて興奮している。


ギャアラギャアガアギャアラギャアギャアガアギャアガアギャア

(お気になさらずに。どうぞどうぞ我が背中にお乗りくださいませ。)


ライナは低姿勢で女装しているキリネに騎乗を誘う。


「う~ん、それじゃ······。」


キリネは承諾しそうな返事をしようとするが総は問屋は卸さない!。乗る乗らないを中間を維持して。ライナあおずけ状態の半生殺しにしてやると。キリネの頭の中ではそんなどす黒い野心が渦巻いていた。


「それじゃ·····。」


キリネは薄紅の唇を吊り上がる。ライナがウキウキ気分に返答を待つ。


むっ!?殺気!! 


ぶん! スッ

ザスッ!

「えっ?」


ライナは噴水に座るキリネの傍から瞬時に離れる。ライナのいた位置に刃が地面に突き刺さる。

キリネの目の前には今さっき猛ダッシュでどっかに行ってしまったイーリス先輩がカタナを引き抜き。ライナがいた位置に刃を地面に突き刺さるように振り下ろされていた。

そんなイーリス先輩の姿を正装したキリネが呆然と見つめている。


「········。」


チャッ

イーリスは地面に突き刺さった空ぶったカタナを掴みあげ。再びライナに目掛けて振りかざす。


ぶん!

ギャラギャアガアギャ!ギャアラギャ?

(ちょ、イーリスお嬢様!何でここに?。)


ライナの返答など関係なく。無造作にイーリスは手持ちのカタナを振り回してライナに襲い掛かる。


ぶん!

ギャ!ラギャ!

(わ!ちょっと!)


キン! キン! キン!

イーリスの振ったカタナの刃はライナの竜の掌の鉤爪で弾き返される。イーリスはそんなライナの動作にほぼ向きになってカタナを無造作に斬りつけの連打を繰り返す。


キンキンキンキン

ライナはイーリスから逃げるように間合いを取ろうとするが。イーリスはしつこく追いかけ追いまわし斬り続ける。

バッ! ザッ!


あっという間にキリネの目の前から1人一匹の姿は消えていった。

はっと我に返るふるふるとドレスかかるキリネの肩が震えだす。

後から後から煮えたぎるほどの怒りが腹の底から沸いてでた。

キリネのにこやかな上品の顔も今は怒りの感情で崩れ。本来の表情に戻っている。


「もう!いったい何なんだよーー!。」


だんだんだんだん

キリネは悔しげに中庭の芝生におもいっきりハイヒールを踏みつけ地団駄を踏む。全てにおいて置いてけぼりにされたことにキリネは激しくムカつきと怒りを覚えていた。


シュッ! キン!

ガッ! キン!


ギャラギャアガアギャアラギャアギャ!ギャアラギャギャ

(ちょ、本当にいい加減にして下さい!。イーリスお嬢様。)

「············。」


キンキンキン


ライナの制止も聞かずイーリスは無言でライナを斬り続ける。

本当にここまで根に持つお嬢様だとは思わなかった。まさかお城まできて。闘いを挑むなんて普通のお嬢様なら絶対にしない。

いや、イーリスお嬢様が普通じゃないということは知ってたけど。ここまでするか!?。

ライナはまさかお城に来訪してまで自分に闘いに挑んでくるとは思っていなかった。

イーリスお嬢様は負けず嫌いは相当である。


キン ガキッ!

ひゅん ガッ!


「あらん?」

「どうかしたのですか?。」


王城の渡り廊下を歩いていた露出が高い煌びやかな服を着る人化の魅華竜イロメは何かに気付く。


「あのノーマル種。赤いドレスを着た人間の女性と闘っておりますわ。」

「はい?。」


薔薇竜騎士団の団員の魅華竜ソリティアが上を見上げそう呟く。

薔薇竜騎士団団長のアーミットは何を言っているのかと首を傾げる。


「ほら、あそこ。屋根づたいに例のノーマル種と赤いドレス着た人間のお嬢様が。あれは確か西方のカタナというのかしら。それを振りかざしてノーマル種のライナを斬りつけていますわ。」


魅華竜イロメが指差す方向に視線を向けると確かにノーマル種のライナと真っ赤なドレスに着飾った濡れ鴉の髪を後ろ髪を結った何処かの令嬢が王族のペットでもあるノーマル種ライナに西方のカタナと呼ばれる剣で斬りつけていた。


「た、大変!止めないと!?。」


薔薇竜騎士団のアーミット団長は慌てる。一時的とはいえ王族のペットと迎えられたノーマル種ライナに危害を加えるなど問題になりかねない。あの真っ赤なドレスを着た濡れ鴉の髪をした女性は何者は知らないが。王族のペットであるノーマル種ライナを斬りつけるなど確実に問題になる。


「イングリス!。」

「解っておりますとも。」


赤薔薇竜イングリスは急いで人化を解く。

美女の赤い薔薇模様の鱗に覆われた竜が

急いで1人一匹の後を追う。


イーリスはカタナをふりかざし何度もライナを斬りつける。

ギャラギャ!ギャアラギャアギャア!ギャアラギャギャ!

(く、もう!いい加減にして下さい!。イーリスお嬢様!。)


ライナの非難する竜声など気にも止めず無我夢中でイーリスはライナを斬り続ける。聞く耳持たないというよりは無我の境地に入っているようだ。

くっ、このままでは埒が明かない。何とかしてイーリスお嬢様の攻撃を止めないと。暴走するイーリスお嬢様を何とか止める為ライナは考える。


そうだ!一か八かこれで止める!。

スッ ピタッ

ライナは鉤爪の竜の掌をイーリスお嬢様の胸ではなく腹に当てる。


ギャアあああああああああーーーー!!

(ドラゴンバイブレーション(竜振動)!!)


ブッ ブブブブブブブブフブブブブブッッッ


激しい振動がライナを通じてイーリスお嬢様の身体全身に伝わる。


「···ぐっ········」


イーリスは眉を寄せ。苦悶の表情を浮かべる。

無言であった彼女でもライナの攻撃で初めて声を発する。

痛みというよりはこちょがしさを我慢するような顔であった。


よし!ドラゴンバイブレーションは竜(ドラゴン)だけでなく人間にも効くな!。


それならこのまま·····


ライナは新しい試みを始める。ドラゴンバイブレーションと一緒に気を一気に注ぎ込むというやり方である。気功の使い手で触れて気で治療する者もいるのだからイーリスお嬢様に害は与えないであろう。

俺はドラゴンバイブレーションと同時に気をイーリスお嬢様の体内に一気に気をを注ぎ込む。


ブッ ブブブブブブブブブッ‼‼


「うっ···あ···ああ······。」


イーリスお嬢様の唇から少し甘美の秘めた甘えた声が発せられる。

苦悶の表情とかではないから痛みとかではないだろう。

よし!このまま一気に出力を上げる!。


ブッブブブブブブブ!!ドッ!ドドドドドドドドドドガッ!ガガガガガガガガガガガガッッッ‼‼‼‼‼



バッババババッ‼バリバリバリ!びりびりびりびりびりびりびりびり スッパァーーン!


ギャ!?

(えっ!?)


イーリスお嬢様に出力を上げた気を注ぎ込むドラゴンバイブレーションを使っていたらイーリスお嬢様の着ていた赤いドレスがびりびりびりと破け。一気に飛散してしまう。イーリスお嬢様の格好が何も着ていない一系まとわぬ姿へとなってしまう。

下とイーリスお嬢様の慎ましさと豊かさを併せ持つ胸の膨らみが完全に丸見えである。


ギャ!ガア

(あっ!御免。)


俺は思わずに謝罪する。


カアあああああああああーーー!


ぶん!! ドおおおおーーーーーーーーーー!!


ギャあああああああああーーーーッ!


イーリスお嬢様の顔が真っ赤に赤面し。俺の竜の身体をおもいっきり城上空へとカタナで吹っ飛ばす。

イーリスお嬢様におもいっきりカタナで吹っ飛ばされた俺は城上空の宙を舞う。そのまま真下に落下せず。走馬灯のようにゆっくりと上空を漂いながら静かに地上に落ちていく。地上からふと見慣れた四匹の竜の姿がライナの竜瞳の視界にはいる。親しくなった竜騎士団のジョーとツルン、ベロン、ゴロンである。

ジョーとツルンとベロンとゴロンは吹っ飛ばされて空中に漂うライナ姿に竜の親指を立てる。


四匹の竜瞳の奥底からお前の中に漢を見たぜ!とう訴えているようであった。 


グッ!

ライナも笑顔で親指を立てて返事を返す。


シュッ!!


突然ライナが静かにお城の上空から落下する最中に何かが城の地上からどびだす。空中に漂うライナの目前に姿を現す。


ギャ!?

(誰っ!?)


ライナに目前に現れた者は容姿が極めて可笑しかった。服が金太郎が着るような腹掛けをしており。後は全て素っぴんでまっ裸である。腹掛けの胸部にふっくらと膨らみがあることからその者は女性であることが判断できる。裸エプロンならぬ裸腹掛けである。

しかも腹掛けを着るその女性の顔には鬼の形相を模した般若のような仮面を被っていた。裸エプロンならぬ裸腹掛け般若仮面である。

変態だろうか?。



裸腹掛けの容姿をした般若仮面の女はそのまま手に持っていた3尺3寸の大太刀を鞘から何の苦もせず引き抜く


するするするるギリギリぎりぎりぎりぎり


チャキ

そのまま大きく真っ直ぐ頭上へと振り上げる。


ギャ!?

(えっ!?。)

「天誅ちゅゅゅううううーーーーーー」‼。」


ぶん!


謎の裸腹掛け変態般若仮面は冷たい低い声を発し。何の躊躇いもなく手持ちの3尺三寸の大太刀で宙に漂うライナの横になった身体を一刀両断する。


ズバァンッ‼


ギャッ ハァッ‼。


ライナは呻き声をあげ白目となる。視界が黒くそまる。


俺は謎の裸腹掛け変態般若仮面に斬られ。そこで意識が途切れた。

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