第283話 期待の星
「ヒョッ!ヒョヒョヒョ!!。」
「龍神様、そんなにはしゃぐと転びますよ。」
王都の南地区の騎竜船の船着き場で変わった身なりをした二人がいた。一人は小柄な老人で服装が和風の着物を来ており。老人でありながらひょうひょうと軽やかな身軽な動きをしている。
もう一人は天女の羽衣のような着物を着た三十代くらいの美しい女性がいた。艶のある黒髪を流し。落ち着いた佇まいをしている。二人とも騎竜特有の角を生やしていたが。その角は普通の角とは全く違い。七支刀のような独特の形をしていた。
「何を言う!。やっと重い責務から解放されたんじゃ!。今宵は無礼講!無礼講じゃよ~!。ヒョッ!フォフォフォフォ!!。」
龍神と呼ばれた老人は嬉しそうに船着き場の周りを跳び跳ねはしゃぎ回る。
そんな老人を船着き場にいた王都国民は奇異な眼差しで見つめている。
「はあ·······。」
流れる艶のある黒髪に七支刀のような角を生やす天女のような着物の着た女性は深いため息を漏らす。
▼▼▼▼▼▼▼▼
ギャ······ラギャアギャギャア
(はあ·······何でこんなことに。)
ライナの竜口から深いため息が漏れる。
ぞろぞろ がやがや
何故だが王女達の護衛をする羽目になってしまった。王都に王女達がお出掛けするのはいいが。その王女達を俺が護衛しなくてはならない。メディア王女なら王都一の剣の使い手だから守られる必要性はないだろうが。幼いマリス王女は俺が全力で守らなくてはならない。しかも王族護衛する役目である薔薇竜騎士団の面々は王女達のお出掛けついでに王都中を遊びまわるという。何かおかしくねえ?。そもそも王族のペットはペットであって護衛じゃないのに。ただの愛玩動物のポジションが最早ペットの域を越えている。
時々思ってしまう。
ペットって一体何なんだろう·····?と。
「わあ~!。」
マリス王女は俺の背中の上ではしゃいでいる。滅多に城の外にでれないことと。姉であるメディア王女と一緒にお出掛けできたことが本当に嬉しいようだ。
傍にはメニーさんとリリシャさんが付き添っている。
薔薇竜騎士団の中で遊びまわずにそのまま残ったのは団長のアーミットさんと赤薔薇竜のイングリス、副団長エメラルダさんに剣聖竜シルリアンと獣王竜ゾレである。
獣王竜ゾレの主人である獣っ娘のミリスさんはなにやら用があるようで何処かに行ってしまった。
「アーミット、遠慮せずに王都で買い物してもいいのだぞ。」
「いいえ、メディア様とマリス王女をお守りするのが私の務めですから。」
メディア王女の快い申し出を薔薇竜騎士団の団長アーミットは頑なに拒む。
「はあ、全く頑固だな·····。」
アーミット団長の強情さにメディア王女は頭を抱える。
メディア王女はライナを薔薇竜騎士団の代わりに護衛につかせ。薔薇竜騎士団の面々には暇を与えさせようとしたのだ。しかしアーミット団長の責務を忠実にまもろうとする硬い意志にメディア王女の計らいは失敗に終わってしまう。
ここは矢張アーミット団長の好きな趣味で釣るしかないとメディア王女は考える。
アーミット団長の唯一の趣味は意外にもコロシアムの賭け試合の観戦である。堅物とされるアーミット・フェネゼエラは特に男同士の戦闘に関してとてつもなく熱が入れるのだ。コロシアムの賭け試合で彼女は確かに賭けるには賭けるのだが。あくまでそれは建前であり。彼女の真の目的は純粋に男同士の戦闘である。何故か彼女は女同士の戦闘に関しては全く見向きもしないが男同士の戦闘に関しては絶叫を浴びせるほど熱をあげるのである。その秘密を知ったのはアーミット団長と長年付きあいである副団長のエメラルダ・パライトスの助言である。
メディア王女は密かに副団長のエメラルダからどうやってアーミット団長に暇を与えさせるかと相談していたのだ。
流れてきに上手く誘導させ。アーミット団長には休みをとらせたいとメディア王女は考えである。普通に説得しても頑固で堅物である薔薇竜騎士団団長のアーミットを説得するのは不可能である。
「マリス、何処か行きたい所はあるか?。」
俺の背に乗るマリス王女に姉であるメディアさんが問いかける。
「しんりゅうだいせいどう!。」
マリス王女は元気よく答える。
ええー!あそこ行くの!?。
ライナは嫌な渋い竜顔を浮かべる。
神竜大聖堂は神竜聖導教会が管轄にしている神足る竜が祀る大聖堂である。信徒達がノーマル種のことを穢れし竜と言って嫌われている場所でもある。再びそこに行くとなると絶対に嫌な顔されるに決まっている。
はあ~行きたくないな~。
己が嫌われている場所に普通行ったりはしない。しかしマリス王女の要望なので完全拒否も出来ない。
「ふむ···そうだな···。なら、北地区の神竜大聖堂を見て回った後は西地区のコロシアムに行こうか。アーミットはそれでいいか?。」
「ええ、構いません。メディア様とマリス王女様を護れるなら何処へなりともお供します。」
「そ、そうか····。」
メディア王女は相変わらず堅いなあと苦笑する。
俺とメディア王女一行は北地区の聖竜族の装飾が施された教会の建物を過ぎ。大聖堂の敷地へと入る。
いつも通りの長い大理石の石畳の路を進むと神竜大聖堂の巨大な装飾が施された大扉に到着する。
白いベール服で武装したいつもの警備の兵士の二人が立っている。
メディア王女様の一行を見ると白いベール服を着た兵士二人はパアッと『ようこそお越し下さいました』と言うような清々しい笑顔をしてくるが。俺ノーマル種である緑色の竜顔が目に入ると『何でいるんだよ』とこれでもか!と言うくほど嫌そうで渋い顔を露にする。
わかりやす‼
「これはこれはメディア王女様にマリス王女様。そして薔薇竜騎士団の方々よくぞお越しなりました。」
二人の神竜聖導教会の警備の二人は嬉しそうに出迎える。
ちなみに王族のペットである俺(ノーマル種)は完全にスルーである。
「私とマリスと薔薇竜騎士団とメイド二人にライナとで大聖堂を見学したい。宜しいか?。」
「構いませんよ。王族であるメディア王女様とマリス王女が大聖堂に来訪したならば神足る竜もさぞ祝福なさるでしょう。一部除いて。」
最後刺入れてきたな·····コイツ。
あからさまにノーマル種はお呼びではないという態度に俺は少しムッとなる。
「神竜聖導教会としてノーマル種が穢れし竜(ドラゴン)と忌み嫌われているということは解っているつもりだが。しかしライナは私達にとって大切な王族のペットでもある。それにたいしてその態度は頂けないな·····。」
メディア王女様もあからさまに俺(ノーマル種)に対する悪態に冷静でありながらも圧を含んだ怒りを発する。
俺の背に乗るマリス王女も頬を膨らませ激おこになっていた。
「「も、申し訳ありません!。」」
警備の兵士二人は深く頭を下げ謝罪する。
「ど、どうぞお通り下さい!。」
「王族のペットであるライナ様もどうぞどうぞ!。ご遠慮なく大聖堂の館内を御覧下さいませ。足音などもお気になさらずに····。」
げんきんな二人だな·······
俺は二人の神竜聖導教会の信徒の兵士二人に冷めた竜瞳を向ける。
王女様達に怒られて態度を改めたようだが。と言っても一時的なものだろうと俺は感じる。
大聖堂を大扉を潜り。再び神足る竜が祀る神竜大聖堂にはいる。
一度アイシャお嬢様と来たことはあったけど。矢張内部は迷路のように迷いやすい。
中型の竜が通れそうなだだっ広い廊下に建物建物がいりくんでいる構造。これぜってい迷うように設計されているだろう。方向感覚が完全に狂うんだが。
神足る竜を祀る大聖堂が迷宮でもあることにライナは微妙な竜顔を浮かべる。
ドシドシドシ
コツコツコツコツ
「ライナ、我が信徒の兵が失礼なことをしてすまない。」
突然薔薇竜騎士団の騎竜である美男が俺に謝罪する。
「あ、いえ、ていうか貴方と教会は全然関係ないですよねえ?。」
神竜聖導教会の兵士の無礼が何故薔薇竜騎士団の騎竜が謝罪することになるのかわからない。そもそも全然関連性はないと思うが。
「いや、私は剣聖竜シルリアン。聖竜族だ。神竜聖導教会の本拠地である聖都アヴァルレイクは我々聖竜族の故郷なのだ。だから関係ないとはいえない。」
ギャアラギャ····
(そうですか·····。)
聖竜族は礼儀正しいな。
てっきり教会では聖竜族もノーマル種は穢れし竜と言われて嫌れていると思っていた。
もしかしたら穢れし竜とノーマル種を嫌っているのは人間だけかもしれない。或いは目の前の剣聖竜シルリアンが礼儀正しいのかもしれない。
「ライナ、建国記念杯は中々の闘いっぷりだった。」
美男の剣聖竜シルリアン隣に美男ではなく。武骨な毛深い筋骨隆々の大男が話しかける。薔薇竜騎士団で人間の団員と騎竜は皆、美男美少揃いではあるが。その中で一匹だけ筋骨粒々で武骨な大男はいるのはかなり浮いていた。
ギャア·····ギャアギャ?ギャラギャア
(えっと·····獣王竜ゾレ?さんですか。)
確か薔薇竜騎士団員の獣っ娘ミリスさんの騎竜である。建国記念杯で西地区のフラッグの番人をしていたが。騎竜乗り科の集団戦後に闘わずにフラッグを譲ってくれたのだ。
「左様。貴様の闘いぶりは久方ぶり血わき肉踊ったわ!。」
ライオンのような髭の口が豪快に笑う。
ギャ····
(はあ·····)
正直こういう体育会系の性格の竜は苦手である。師であるレッドモンドさんも同じ性格をしているが。テンションがいつもハイだからとてつもなく押しが強い。竜騎士団の騎竜、ジョー副竜団長も似たような性格をしているけど。
「どうだ。折角だ。その強さを生かして近々コロシアムに開催される闘技大会ストロンゲスドラゴンヒューマに出場しないか?。竜(ドラゴン)最強No.1を決める竜部門、ドラグーンあるんだが。お前ならいい線いくとおもうんだがなあ。」
獣王竜ゾレは俺にそう提案する。
ギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアギャア
(いえ、お断りします。俺はしがない一介の騎竜乗りの騎竜です。レース専門であって戦闘に関してからっきしでして。)
俺は丁重に断る。
闘技大会の竜部門のドラグーンなんて戦闘のエキスパートな竜が出場するに決まっている。そんな奴らに俺が勝ち上がるなんて不可能である。俺はあくまでレース専門であって戦闘専門ではないのだ。ストロンゲスドラゴンヒューマと言う闘技大会に師であるレッドモンドさんと狂姫の学園長が出場してチャンピオンになったようだけど。それはただ単にあの一人一匹がとてつもない化け物だったというだけである。俺は至って普通なノーマル種である。彼らのようになれない。つうかなりたくない。
「そうか····残念だ。」
獣王竜ゾレは毛深い口がへの時に曲げる。
本当に残念そうであった。
神竜大聖堂ではメディア王女とマリス王女が仲睦まじく堂内を探検している。
俺とメイドのリリシャさんとメニーさんと薔薇竜騎士団の面々は姉妹の邪魔にならないように後を着くようについている。
ぞろぞろ
「ラウラ、そろそろ南地区の商店街に行こうよ。」
「待ってよ。シヴァ。私はまだこの絵をみたいのよ。あの竜を描くことに右にでるものはない世界一の名画家チェコスバルティニチェスフィトルドニフスの名画よ。ちゃんと目に焼き付けないと。」
「はあ····ラウラって。絵のことなると本当に性格変わるよねえ。」
廊下を進むと騎竜乗りの主人と思われる令嬢が廊下に飾られている絵を熱心に観賞している。隣には角を生やした三つ目の女子が呆れ果てている。
「あら?。」
ひゅん
角を生やした三つ目の女性が俺(ノーマル種)の存在に気付くと嬉しそうに物凄い速さで駆け寄る。
ひゅん
ギャアガア!?
(うわっと!?。)
気づいたら三つ目の人化の女性は俺の間近まで接近していた。
「貴方、他校のノーマル種のライナね。逢いたかったわ!。」
ギャ?ギャ?ガ?
(え?あ?え?)
初対面で俊敏な速さで接近した三つ目の人化の騎竜に俺は思わずてんばってしまう。
「あ、ごめんなさい。私は騎竜乗り科三年ラウラ・ベセソフィナの騎竜、三眼竜のシヴァよ。宜しくね♥。」
ギャラギャア···
(ど、どうも····)
俺はどもりながらも挨拶を返す。
かなりフレンドリーな竜だなあ。
「建国記念杯のレース見たわよ!。私、貴方の大ファンになりそう。」
ギャ···ギャアギャア
(はあ…そうですか。)
三眼竜シヴァは俺のことを楽しそうに語る。
騎竜乗り科の騎竜なら普通に嫌われているようなもんだが。
一年の鳳凰竜フェニスや魔剣竜ホロホスさん以外は騎竜乗り科の騎竜に俺は大抵嫌われていた。
ギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャア
(でも俺建国記念杯でかなりやらかしてしまったみたいなんですけど。)
後から知ったことだが。建国記念杯で俺が発気おっぱーいを発動させて。王都中に混乱を招いてしまったようである。あの一帯だけでなく王都全体に発気おっぱーいの効果が出てしまったようである。
「あら?別に気にしないわよ。私達三眼竜という竜族は破壊と混乱を招く竜族と呼ばれているの。貴方の行為は私達竜族にとってたぐりまれなる誉れなのよ。」
破壊と混乱って·····何て物騒な竜なんだ。
竜族や竜種には色々あるかもしれいが。俺は別に破壊と混乱を招いているつもりはないと思うんだけど。
「今後のレースも期待しているわ!。貴方ならきっと王都だけでなく。世界全体に破壊と混乱を招くことが出来るわ。」
いや、何でそうなるんですか。俺、全然破壊も混乱も招くつもりもないんだが····。
三眼竜シヴァに変な期待されてしまう
俺そんなつもり全然無いんだけどなあ。神足る竜じゃあるまいし。もう片割れの神足る竜フォールも同じくして滅びと終焉を司る竜だった気がする。
話している内に王女達はかなり前に進んでおり距離ができてしまった。
ギャ!?ギャギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアギャ
(あ!?すみません。俺ここで失礼します。王女達の護衛をしなくてはならないので。)
話している内に王女達との距離がかなり離れてしまった
メディア王女に頼まれた手前すっぽかすわけにはいかない。
「貴方に良い混沌を·····。」
三眼竜シヴァは笑顔で変わった別れの挨拶をする。
良い混沌ってどんな混沌よと突っ込み入れそうになったが。そのままスルーして俺は王女達の後を追う。
ドシドシドシドシ
ギャ?
(ん?)
先に行ってしまった王女を追うと前方に見覚えある二人の姿が俺の竜瞳に入る。
一人は鮮やかな濡れ鴉色の真っ黒に染まる髪を靡かせ。
発育のよい慎ましさと豊かさを併せ持つ二つの膨らみが後ろで結った流れる黒髪と一緒に歩く度に揺れる。もう一人は無精髭を生やし。頭に角が生やす侍の格好した男性の騎竜である。
二人の他にも古風な着物を着た令嬢と小さめの角を生やした付き人のようなおかっぱ頭の着物の少女が二人の傍で親しそうに歩いていた。
「············。」
ギロッ
無言の唇を閉ざしたまま彼女は俺の存在に気付くと。まるで弓で射るかのような鋭い視線で俺の姿を凝視している
うっ、まだ根にもっているんですか?と内心思いながら俺はばつの悪そうにそのまま彼女を通りすぎようとする。
「ん?ライナではないか?。」
侍の格好した無償髭の騎竜のオッサンが俺の存在に気付き呼び止める。
呼ばないでよ~と内心思ったが仕方なく挨拶する。
「どうも、ロゾンさん。お久しぶり····ではないね。」
俺は取り繕うようなにヘラとした竜顔を浮かべる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
ん?何だ····何か物凄い殺気を感じるんだが。
イーリスお嬢様と違い。明らに此方に殺気を放つ視線に俺は竜瞳の視線を殺気を放つ方向へと向ける。
·········
そこに親しく話していた二人の内一人。着物の着た人間の令嬢(多分騎竜乗り科の令嬢生徒)がとてつもないほどの満面の笑みをしながら此方を見ているのだ。
満面な笑みといっても心からくる笑顔ではない。寧ろ内になにかしらぬどす黒いものを秘めたあちら側の笑顔である。
笑顔が笑顔でない笑顔である。
ああ····今日何か···こんなのばっかだなあ····
カーラさんの件やメディア王女様から護衛の依頼の件もあり。今日1日女難の相であるのではないかと俺は本能的に確信した。
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