第281話 代わりの護衛

ボイン ボイン

コツコツ コツコツ


ピタッ


「ここが駄竜がお世話になっているお城ですか······。」

「そのようです······。」


ボイン ボイン


二人のメイドが目の前にお城の前に立っていた。

衛兵二人が厳重に警備する城門の前で。何故かふてぶてしく堂々と前に立つ一人のメイドは腕を組んではふんぞり返っては偉そうにしている。カチューシャの着飾る頭は後ろ髪を束ねられ。目もとがキリッとした鋭い眼鏡をかけている。大中小の中に位置する膨らみがエプロンのかかるメイド服の胸元からこぼれている。その隣ではボインボインとがはち切れんばかりの巨大な胸を弾ませるメイドも横に並ぶ。


「駄竜のくせに城住まいなんていい御身分ですね。」


はんと鼻を鳴らし。一人のキリッとした眼鏡をかけるメイドは悪態をつく。


「仕方ありませんよ。シャンゼルグ竜騎士校には来客専用竜舎が無かったんですから。」


ボインボイン


「にしても駄竜に城住まいは勿体なさすぎます!。駄竜にはやっぱ頑丈で硬い鉄格子のある部屋がお似合いですよ。お嬢様が頼めばちゃんと私が用意したのに。」


キリッとした眼鏡をかけるメイドはそうぼやくと残念そうな顔を浮かべる。


それって檻ですよね?と内心胸の大きいメイドが言いそうになるが思い止まる。


コツコツコツコツ

ボインボインボイン


「誰だっ‼。」


怪しげなメイド二人がつり橋を渡り。城門を通ろうとしたことで二人の衛兵は身構え。門のまえで槍を交差させ通せんぼする。


「ここはシャンゼベルグの国王と王族が住まうシャンゼベルグ城である。王族や関係者以外は立ち入り禁止である。アポをとるか王族関係者でなければお通しできない。速やかにお引き取り願おう。」


怪しげな二人のメイドが主人も連れずに城を目指して出歩いていることに城門の門番は怪しむ。

城のメイド隊ならばメイド服の胸元には特殊な紋章のバッチをつけているがそれもない。


「控えなさい!。私達は東方大陸を統治するマーヴェラス伯爵家に遣えるものです。此方に我が騎竜がやっかいになってると聞き。馳せ参じ参りました。我が主人ありお嬢様でもあらせられるアイシャ・マーヴェラスの命で様子を観に参りました。」

「り、リリシャです。ライナのお世話に参りました。」


メイドのカーラは門番の態度にも何も動じず堂々といい放つ。メイドのリリシャは逆に門番の機嫌を損ねないように謙虚に対応する。



「アイシャ・マーヴェラスの騎竜?。」

「ほら、シャルローゼ王女様が一時預かっているあのノーマル種だよ。」

「ああ、あの王族のペットか。」

「ペット?。」


ぴく

メイドのカーラは門番の口にしたペットという言葉に敏感に反応する。


「王族のペットの関係者であるならば問題ない。通ってよし!。」

「失礼します。」

「あ、ありがとうございました。」


スタスタスタスタ

ボインボインボイン


カーラとリリシャはアポもとらず城門に寸なり入れた。


「か、カーラ。一応ここお城なんですからもう少し謙虚にいきましょうよ。」


堂々と物怖じもしないカーラの不遜な態度にリリシャは内心ヒヤヒヤする。


「それよりもペットという言葉が気になります!。急ぎますよ!リリシャ。あの駄竜がお城でペット扱いされるなんて気にいりません。ライナはマーヴェラス家のペットなんですから。」 


あれ?さっき騎竜って言ってなかったっけ?。


リリシャはライナの素性が騎竜からいつの間にかペットにされていることに疑問に思う。


「あっ!?待って!カーラ。」


ボインボイン

リリシャの呼び止めも聞かず。カーラはさっさと勝手に王城の敷地へと入ってしまう。


「アーミット団長、長期に渡るお使いご苦労様です!。」


ペコり

薔薇竜騎士団の一団が城の中庭廊下を進むと獣耳をぴくぴくさせ。シャンゼルグ竜騎士校の臨時講師もしている薔薇竜騎士団団員の一人ミリス・ニーデルが元気よく出迎える。


「ミリス、ありがとう。貴女も学園の講師の方はどうですか?。」


アーミット団長は団員のミリスに授業のことを尋ねる。

アーミットの妹であるシャロム・フェネゼエラ薔薇竜騎士候補生として在しているのだ。王家直属護衛騎竜である白薔薇竜マリアンを騎竜している時点で将来的にも妹も薔薇竜騎士団に配属なるのは必然であった。


「どうもこうも無いですよ~。特待生の彼女達授業そっちのけで白薔薇竜マリアンのケアやブラッシングしたりしてるんですよ。騎士と訓練を真面目に受けるどころか。何か美しさ?みたいなことに重点を置いたりして。薔薇竜騎士団がお飾り騎士団と勘違いしてるんじゃないんですか?。あっ!?すみません。妹さんことを悪く言う訳じゃないんですが······。」


ミリスは申し訳なさそうにアーミット団長に謝罪する。


「いいのです。私も妹にたいして少し甘やかし過ぎました。ここは厳しくする必要性があります。」

「あ!?でも何か相棒の白薔薇竜のマリアンがノーマル種に恋したせいで大変みたいですよ。何か候補生が一団となって邪魔しようと躍起になってるみたいです。」

「あの子ったら····。」


アーミット団長は深いため息を吐く。

薔薇竜騎士団の候補生としてもっと別の所に力を注ぐところがあるでしょうに。

妹の不甲斐なさにアーミット団長の頭を痛める。


「それで王女様達の様子はどうですか?。」


気を取り直して王女達の様子を確認する。


「問題ないですね。シャルローゼ王女様は日々3校祭に向けてのレースの訓練に勤しんでいます。メディア王女は剣の修行していますね。次期闘技大会のストロンゲスドラゴンヒューマが近いからでしょう。マリス王女様はいつもライナと遊んでおります。」

「ライナ?。」


聞きなれない名前にアーミット団長は首をかしげる。


「あ!?ライナとはシャルローゼ王女様が一時預かることになった後輩の騎竜です。さっき話した白薔薇竜マリアンが恋してるオスですよ。マーヴェラス家の騎竜と言えば解りますよね?。」

「マーヴェラス家の騎竜がここにいるのですか!?。」

「はい。」

「·······。」


アーミット団長は驚く。マーヴェラス家がノーマル種を騎竜にしているのは解るが。まさかお城に住んでいるとはおもわなかった。

隣では赤薔薇竜イングリスが妹の意中の相手であるオスが今そこのお城に住んでいる知り。少し気になりソワソワしている。


「シャンゼルグ竜騎士校に来客専用竜舎が無くて。人化もできないから寮にもとめられず。仕方なくシャルローゼ王女様が王族のペットとしてお城に泊めることにしたんです。」


初耳である。オルドス国王はこういった重要事項を何故教えてくれなかったのだろう?。本当の意味でマーヴェラス家の騎竜とは関わりたくない?。

神足る竜が関係しているとは思えないが······。


「それと、カーネギー副団長に逢いました。アルビナス騎竜女学園の一年生顧問をしていましたよ。」

「カーネギー副団長が来ているのですか!?。」


普段は冷静である薔薇竜騎士団の副団長であるエメラルダ・パライトスは狼狽える。


「そうですか····。カーネギーとは積もる話もあるでしょう。いずれ席をあけていつか世間話など致しましょう。」


教師になるために副団長を辞めてしまった元副団長カーネギーをアーミット団長は気にかけていた。今副団長しているエメラルダもカーネギーとは元先輩後輩の間柄である。


「では先ずメディア王女の様子を確認し致しましよう。」


     シャンゼルグ城訓練場


ぶんぶん


メディアは訓練場で模擬刀を振り上げ。素振りの練習をしていた。コロシアムで開催される闘技大会ストロンゲスドラゴンヒューマの日が近いからである。コロシアムで開催される闘技大会ストロンゲスドラゴンヒューマは三部門存在する。一つは対人同士の戦闘を行うヒュール部門、もう一つは人は乗らず竜同士だけで戦闘を行うドラグーン部門。そして人と騎竜が協力しあって戦闘を行うジョスト部門がある。メディアはその中のヒュール部門にいつも出場している。ジョスト部門には己の騎竜がいないから断念しているが。それでもヒュール部門では毎年出場しては優勝しているチャンピオンである。しかし学園のクラウンの称号を持つ生徒ゼクス・ジェロニクスでは毎度決勝でギリギリの闘いをしいられている。メディアが隙をつけばやられるそんな強敵である。故にメディアは闘技大会前の鍛練を忘れることはなかった。


ぶんぶんぶん


「メディア王女。」


ぶん ピタッ

メディアは呼ぶ声に素振りをする模擬刀の手が止まる。


「アーミットか?。使いから戻ったのだな。」

「はい、メディア王女もお元気そうで何よりです。」

「王女とは呼ばんでくれ。あまりそう呼ばれるのに慣れてない。」

「相変わらずですね。メディア様。」


アーミット団長は苦笑する。


「闘技大会の準備ですか。」

「ああ、決勝に出てくるゼクスは更に強くなってる筈だ。油断できない。」

「シャルローゼ王女様はどちらに?。」


てっきりメディア王女と一緒だと思っていた。

何だかんだで二人は姉妹仲は良い。


「学園だな。殆んど家にいる時間よりも学園に滞在する時間が多いのではないか?。まあ、姉は帝国の無情を倒すことに躍起になってるからな。仕方ない。」

「そうですか······。」


アーミット団長は眉を寄せる。

本来なら無情の騎竜を持つ貴族もまた神足る竜とマーヴェラス家を守護する役目を担った王家7大貴族の一つミリアネル家である。忠実であった彼等と王族が三校祭のレースで亀裂が生まれたことで。争わなければならないとはいたたまれない。

どうやらミリアネル家は騎竜には恵まれなかったようだ。それは能力以外に関してのことだが。


「マリス王女様は?。」


マリス王女はお城では遊び相手がいない。故に実質遊び相手になっているのはマリス王女のお抱えのメイドメニーとメディア王女、そしてメイド隊である。しかしそれでも四六時中マリス王女の相手するわけにもいかず。一人心細く遊ぶマリス王女をアーミット団長は不憫に思っていた。


「マリスならライナと遊んでいる。本当にライナが来てくれて助かっている。いつもマリスは遊び相手がいなくて寂しくしていたからな。ライナという遊び相手が出来て本当に嬉しそうだ。ライナも前のレース疲れで大変だろうに。」


メディア王女はライナというノーマル種に本当に申し訳なさそうにしていた。


「レースと言えば建国記念杯ですか。私達も任務終えてレースに間に合わせたかったのですが。」


アーミット団長は残念そうに眉を寄せる

バザルニス帝国の皇帝の長い愚痴に付き合わされ。そのせいで王都に帰るのが遅くなってしまった。本来なら王族のパレードに警護として参加する筈だったのに。


「ああ、ライナはかなり良いレースをしたよ。優勝したわけではないが。出場していた三竜騎士の二人を相手にして勝利をおさめたのだからな。」

「あの三竜騎士に勝利したんですか!?。」

「··········。」


シャンゼルグ竜騎士校の三竜騎士は竜騎士科学年最強の竜騎士である。竜騎士と騎竜の強さは一般の竜騎士以上の強さを持つという。

その三竜騎士の騎竜に打ち勝つなど。普通のノーマル種なら先ずあり得ない。オルドス国王のいった通りノーマル種だが普通ではない竜なのだろう。でも関わりたくない強さというのはよく意味が解らない。


「アーミットはこれからどうするんだ?。休暇をとるのか?。」

「いいえ、このまま王女の護衛に戻ろうかと。」


アーミット団長の言葉にメディアは頭を抱える。そしてため息も吐く


「あのな····アーミット。普通は長期の任務が入った後は休暇をとるものだぞ。」

「いいえ、我々、薔薇竜騎士団は王女様達を護衛する大切な業務が在りますゆえ。」


アーミットは頑なにメディア王女の言葉を断る。

こう言う強情で頑固なところは幼い頃から変わっていない。


「メディア様もなんとかいって下さいよ~!。私達本当は休みとりたいんですよ~!。」

「ブラック!ブラック!ブラック!。」


薔薇竜騎士団の団員の中で比較的緩いチェシー・エロムロエと魅華竜イロメはメディア王女に休暇のとれない実情を訴える。


「貴方達!。王女の手前ですよ!。」


アーミット団長は無作法にお願いする一人一匹の団員に厳しく叱りつける。


「解った。なら私と妹のマリスとで王都をみて回る。そのついではお前達はショッピングするなにお茶するなり休みをとればいい。私達が王都が見回る間は自由にしていい。」


このまま強情なアーミット団長を説得するのを無駄と判断したメディアはとある提案をアーミットに提示じする。

これならば頭の硬いアーミットと折れると踏んだ。


「やったーーーー!。これで羽目外せるわ!。」

「さあ!王都のオスを漁りまくるわよ!。」


チェシーと魅華竜イロメは悦びのあまり絶叫する。


「?、それでは護衛にならないかと?。」


アーミットはメディア王女の提案に困惑する。

王女達についていくのに護衛がないなど危険である。確かにメディア王女は王都一の剣の使い手である。だけど妹であらせられるマリス王女は護衛無しでは王都観光などままならない。


「大丈夫だ。マリスにはたのもしい護衛も付いているしな。」

「?。」


メディア王女のニヤリと不適な笑みを浮かべた。


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