第294話 騎竜の亡霊

バァサッ バァサッ


「大分遅くなっちゃったわね。」


騎竜乗り科の令嬢生徒が騎竜に乗ってシャンゼルグ竜騎士校の広大な敷地上空を飛行し。寮に帰ろうとしていた。建国記念杯を終え。連休中に夜遅くまで自主練に励み。女子寮目指して飛行している。シャンゼルグ竜騎士校の女子寮は確かに門限があるが。申請すれば遅くなっても許されている。但し部活やレース、自主練など正規の理由があればの話である。

寮に帰る一人一匹は夜遅くまで自主練に励んでいた。


バァサッバァサッ


「あの子憎たらしい二投流の他校生とノーマル種に勝つためにも日々鍛練、訓練は怠れないわ。建国記念杯の一件以来騎竜乗り科のみんなはあの他校生とノーマル種を相手することを諦めちゃってるだもの。私達だけでもしっかりしないと!。」

『そうです!。私達だけでも頑張りましょう!。』


騎竜乗り科の中で熱心な令嬢生徒である彼女とその騎竜は毎日毎日の日々の練習、鍛練をかかせなかった。あの狂姫の二投流を扱うアルビナス騎竜女学園の他校生とノーマル種に騎竜乗り科のみんなが建国記念杯で完全敗北してしまったのである。まともな勝負なら納得しただろう。しかしあの他校のノーマル種の変な能力?(スキル)によって騎竜乗り科のみんなは心身ともにかき乱され完全敗北したのである。敗北した理由が彼女達の胸が勝手に揺れパニックを起こしたからである。それによって統制、連携、チームワーク激しく乱され。正確には騎竜乗り科のみんなあの他校生のノーマル種の変な能力?(スキル)によって恥を欠かかせられ敗北したのである。結して許せるわけがない。騎竜乗り科のみんなはリベンジすることもやめてしまい。先輩達ももう完全に諦め(あのノーマル種にだけはかかわりたくない)みたいな怖れモードに入ってしまい話にならない。


私達だけでもしっかりしないと···。


バァサッバァサッ


騎竜乗り科の熱心な令嬢生徒は広大なシャンゼルグ竜騎士校の広大な敷地上空から真下を見下ろす。

そこにはレンガ積まれボロボロに崩れた何かしらの遺跡跡地があった。どれだけの年月が経っているのか解らない。何でもシャンゼルグ竜騎士校が設立した前からあると聞かされている。


「相変わらず不気味な遺跡よね····。」


昼間はそうでもないが。夜になる心霊スポットの並みの不気味さと薄気味悪さを醸し出す。魔物や幽霊が出てもおかしくない雰囲気である。竜騎士科や騎竜乗り科でも深夜のシャンゼルク竜騎士校内にある遺跡跡地には結して立ち寄らない。自分達は自主練で遅くなってしまい。仕方なく遺跡跡地上空を通っているが本来なら結して立ち寄らない場所である。迂回して通ることも可能だが。自分も相棒も自主練でヘトヘトなどで迂回する気分にもならない。


バァサッバァサッ


『そういえば聞いたことがありますか?』

「何っ?。」


自分の相棒がふと思いだしように思念を発する。


『竜(ドラゴン)の亡霊の話ですよ。年にこの時期になるとこの遺跡跡地に現れるそうです。そして現れた竜の亡霊に遭遇すると強制的にレースをさせられるという話ですよ。』

「はっ、馬鹿馬鹿しい!。この世に幽霊なんているわけないでしょう!。しかも竜(ドラゴン)の幽霊なんて。竜の幽霊よりも竜が死んでドラゴンゾンビになるほうがまだしっくりくるわ。」


熱心な騎竜乗り科の令嬢生徒は竜の亡霊の話を聞いて鼻で笑う。竜の亡霊など聞いたことがない。竜が死んだら希にドラゴンゾンビになるとは聞かされている。その時は神竜聖導教会の聖徒や聖竜族が浄化、鎮魂を行って。静め成仏させると聞く。もしいるというなら竜の幽霊は教会でも成仏させることは可能だろう。が、竜(ドラゴン)の幽霊など彼女は一切見たことがないし全然信じていなかった。


バァサッバァサッ


『まあ、確かに学園の噂ですけどね。ただ、学園の方ではその時期なると遺跡跡地を通うことを全面的に禁止にしているそうですよ。そういえばその時期が今日でしたね?。今日含めて3日間出没するらしいです。』

「はっ、本当に馬鹿馬鹿しいわね。学園も竜の亡霊程度で大げさなのよ。私達騎竜乗り科が竜の幽霊程度で臆すると思っているのかしら?。」


熱心な騎竜乗り科の令嬢生徒は竜の亡霊程度で騎竜乗り科は怖じ気付くなどあり得ないと思っていた。


『そうですね····。』


バァサッバァサッ

彼女の相棒の騎竜はゆっくりと遺跡跡地上空を進んでいく。


··········何故·····何故·······


「んっ?。貴女何か言った?。」


熱心な騎竜乗り科の令嬢は耳元から流れる風とともに微かな声が聞こえてきた。


『いえ、私は何も言ってませんよ。』


彼女の相棒の騎竜は何か口にしたかを否定する。


「そう····変ねえ?。何か聞こえてきたような気がしたんだけど。空耳だったのかしら?。」


彼女は不思議げに首を傾げる。


············何故?·····何故?······何故?······


「やっぱ聞こえるわ!。」


彼女は確実に誰かが何故と言う言葉を連呼する言葉が耳元に届いていた。


『ええ、確かに私の竜の耳にも聴こえました。』


相棒の騎竜にも聴こえたということは幻聴ではない。


何ああああ故ええええええええーーーーーーーーーー!?


「ちょ、い、一体何なのよっ!?。」


誰かの名前を連呼し。克つ何故?を繰り返す言葉に彼女は激しい冷たい悪寒と恐怖を感じる。


ぼおおおおおおおおおおおおおお

突然彼女達の前に鈍く青白い光が発光する。

青白い光は少しずつ形を成し。炎のようにメラメラと燃え上がり輪郭を型どる。それは竜(ドラゴン)の姿となった。青白い発光が形を為して現れた竜には鱗と呼べる皮膚など一切なく。ただただ竜の輪郭が鈍い青白くぼやけ発光していた。


《サああリぃぃいいいいいいいい!。ぬああああああああぜぇええええええええええええええええええーーーーーーーーー!?》


鈍く発光する竜の形を為したそれは身体全身から思念秘めた低い唸り声を発する。


「きゃあああああああああーーーーーーー!」

『ギゃあああああああああーーーーーーー!』


彼女達の絶叫と悲鳴がシャンゼルク竜騎士校敷地内にある深夜の遺跡跡地に木霊する。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇


わいわいわい


「おはよう。ラム!オリン!。」


アイシャはシャンゼルク竜騎士校一年教室で親しくなったシャンゼルグ竜騎士校の騎竜乗り科で同じ一年の二人に元気よく挨拶する。今日は相棒であるライナをお城でお留守番をさせている。今日と明日の授業はどうやら騎竜に関わる授業が一切ないようなので。特別にライナをお城に預けたままにしたのである。お世話になっているシャルローゼ先輩のお礼も兼ねて。ライナにはお城の人達にサービスするように言いつけている。正直自分が直々にライナを預けて貰ったお礼をしたかったのだが。合宿と授業の手前それが出来ないので。仕方なく相棒のライナに頼むことにした。ライナは快く引き受けてくれた。シャルローゼ先輩の妹であるマリス王女のお世話もしているようなので頼ましい限りである。ただライナは何故王族のペットなのに子守りをしているのかと不平不満を言い始めたので。一宿一飯の恩だよと叱って納得させた。

そしたらライナは大人しくなって遠い目をしながらペットって何なんでしょうねえ?と何か物思いに耽始めた。もしかしてストレス感じてるのかなあ?。後でライナの大好物である肉の串焼きを差し入れしなきゃ。ストレスは竜の天敵だとオリンから聞いている。何でも竜がストレスを感じると金貨ハゲというものが出来るそうだ。頭の鱗が剥げ落ち。

金貨の形をした丸いハゲができるそうだ。ライナにはハゲて欲しくないのでストレスのケアはちゃんとしないと。


「あっ、おはようございます。アイシャ。」

「おはよう····。」


挨拶を返す二人は何処かよそよそしく深刻そうな顔をしている。

何かを気にする素振りを見せていた。


「どうかしたの?。」


二人の様子に心配になったアイシャは尋ねる。


「遺跡の亡霊が出たのよ。」

「遺跡の亡霊?。」


アイシャは首を傾げる。


「アイシャは知らないだろうけど。このシャンゼルグ竜騎士校にはホラースポットというか怪奇スポットがあるの。ほら模擬レースのコースにあった遺跡跡地があったでしょう。」

「あ、うん。あったね。壁とか柱とか崩れてボロボロだったけど。」


アイシャはシャンゼルク竜騎士校の敷地内にある遺跡と呼べるほど建物の形を為していない遺跡を記憶していた。


「その場所に出るのです。竜(ドラゴン)の亡霊が···。」

「竜の亡霊?。」


アイシャは目をぱちくりさせ驚く。

竜の亡霊など見たことも聞いたこともない。幽霊という存在は信じていないわけではない。アイシャにもライナが使役する精霊を視覚することはできていた。赤、青、黄緑、茶、白、黒の粒子の光がライナの周りで見えていたので。幽霊も似たようなものだとアイシャは思った。


「兎に角、一度見て貰ったほうがいいんじゃない?。」


オレンジ色の三本のオバ○のようなアホ毛をびんびんと揺らし。鳳凰竜フェニスは主人であるオリンにそう提案する。


「そうね···。竜の亡霊とその危険性についてアイシャには知って貰わないといけないですね。アイシャの騎竜のライナにも被害が出るといけないですし。」

「?。」


アイシャは理解出来ないままそのままオリン達についていく。シャンゼルグ竜騎士校専用の医務室に向かう。人間、騎竜、両方手当てできる特別なシャンゼルク竜騎士校専用の医務室である。


「うーん」

「あ~~。」

「うっ、嫌、嫌、嫌、嫌ーーー。」

「怖い!怖い!怖い!怖い!。」


医務室にはシャンゼルク竜騎士校の生徒と人化している騎竜がベッドに寝かされうなされている。よく見れば竜騎士科の令息生徒と騎竜もベッドに寝かされていた。


「またこの時期がきたのですね····。」


くいと深刻そうにマキシ・マム教頭はベッドでうなされる生徒達を見て。眼鏡のブリッジを上へとあげる。


「生徒と騎竜の生気を吸われております。うなされているのはトラウマ級の幻影や幻覚を見せられてたからでしょう。おそらくまたあの例の遺跡の亡霊の仕業でしょう。」


医務室の担当の保険医がマキシ・マム教頭に生徒の状態を伝える。


「そうですか····。しばらく今日含めてこの3日間は学園は休校にします。王都上空の飛行することも全面的に禁止です。そう騎竜乗り科と竜騎士科にも伝えておいて下さい。もしかしたら無謀な正義感をもった生徒が遺跡の亡霊に挑むかもしれません。それに関して注視してください。」

「畏まりました。」


医務室の保険医は頷く。


「これは·····。」


アイシャはそんな異様な光景に絶句する。


「王都のシャンゼルク竜騎士校の敷地にある遺跡跡地に一年のとある時期になると竜の亡霊が出現するの。竜の亡霊は幻影や幻覚を扱い。遭遇した騎竜にレースを仕掛けるの。遭遇した時点で拒否することもできず。操れたように半場強制的にレースをさせられ。そして敗けたらああやって生気を吸われて。ベッドで悪夢にうなされるの。人間騎竜関係なくね。」


ラムはアイシャに遺跡の竜の亡霊のことを説明する。


「そんな·····。」


アイシャは竜の亡霊と医務室でベッドで寝かされうなされる生徒達をみてショックを受ける。


「もうこのまま黙って見過ごすわけにもいかないわね。オリン、私はその遺跡の亡霊を黄泉に返すことにするわ。」


鳳凰竜フェニスは何か決意したかのように主人であるオリンにそう訴える。


「黄泉に返す?。」


アイシャは鳳凰竜フェニスの言葉に首を傾げる。


「鳳凰竜フェニスはさ迷える魂を冥界に返す力があるのですよ。」

「私達、鳳凰竜は死んで蘇る能力を有しているけど。それと同時にさ迷える魂を冥界に返す力もあるの。遺跡にさ迷える魂もこのまま野放しにしておくことは出来ないわ。特にあの遺跡に出現する竜の亡霊に関してはあまりにも同情の余地がありすぎるから·····。」


鳳凰竜フェニスはシャンゼルク竜騎士校の生徒達に悪さをする竜の亡霊でも。過去の出来事で完全に憎みきれなかった。


「どうするつもりなの?。オリン達は危くないの?。」


相手は竜でも幽霊である。オリンとフェニスが対処できるのかと正直アイシャは不安になる。


「大丈夫です。こうみえてもフェニスは何度もさ迷える魂を黄泉に返しておりますから。」


オリンは自信満々にアイシャに告げる。

どうやら何度かオリン達は魂を黄泉に返す仕事をしてたらしい。


「明日の夜に決行するつもりよ。先生にも外出届けだすし。」

「鳳凰竜フェニスが遺跡の亡霊を黄泉に返すというならきっと先生も許してくれるはずですから」


オリンとフェニスはどうやら決意を揺らがないようである。遺跡の竜の亡霊を本気で黄泉に返すつもりらしい。


「オリン、フェニス。私も一緒に行っていいかな?。私もオリン達の仕事手伝いたい。」


竜の幽霊にたいして自分は役にたたないかもしれないけどアイシャはいてもたってといられなかった。


「いいけど。ライナは連れていけないからね。遺跡の亡霊は騎竜や乗り手を乗せた騎竜とレースしたがるから。」

「解った。」


アイシャは素直に頷く。


「じゃ、私も行く。ホロホスは一緒に連れていけないけど。いいよね?。」

「はあ、仕方ありませんね。ラム。無茶はしないで下さい。」

「解ってる。」


ラムはうんと頷く。

そして三人一匹は作戦を建て。明日の晩、遺跡の竜の亡霊を黄泉に返すことを決行する。


       

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