第271話 想定の想定


わーーーーーーー!わーーーーーーーー!


「ラベク。どっちが勝つと思う?。」

········


ギザギザした逆立つ赤髪を生やす屈強そうな男が人化した相棒に話し掛ける。

唯一三竜騎士の中で建国記念杯の出場を辞退した三竜騎士の一人ガホード・ベーカーこと愚王竜ラベクは王都内で設置された巨大魔法具スクリーンでレースの様子を観戦していた。

愚王竜ラベクの人化した姿はごつい顔をした渋いオッサンであった。


「当然童帝竜のチェリーだ。あれはああ見えて結構できる。戦闘力も他のレア種やエンペラー種にも劣らない。」

「しかし、そのノーマル種の乗り手はあの狂姫の二投流を使うんだろ?。俺としては勝ち目ないと思うがなあ。」


三竜騎士ガホード・ベーカーは昔狂姫のレースを観たことがある。あれは最早暴力というなの殺戮ぷりである。竜騎士科でも未だに彼女の熱烈のファンがまだ多くいるが。正直自分的にはあれは絶対真似したくないというかできない。


「ふん。乗り手が強かろうが騎竜はあのノーマル種だ。付け入る隙はいくらでもある。」


人化したごつい顔をした渋いオッサン姿の愚王竜ラベクは向きになったように主人であるガホードに強く反論する。


「ノーマル種が上位種に優れているなどあってはならないのだ!。敗北した氷結竜も上位種の面汚しだ。敗北しながら二度も再戦を臨むなど言語道断だ!。だが結局敗北したあの炎帝、炎速に返り討ちにされているのだから世話がない!。」


愚王竜ラベクはふんと不機嫌に鼻を鳴らす。


「ラベク。お前はまだあの事を気にしているのか?。」


愚王竜ラベクがこれ程ノーマル種に拘るのは過去の出来事が要因になっている。

ガホードはラベクの過去に関して心配していた。


「絶対にノーマル種が上位種よりも強いなどあってはならないのだ。絶対にだっ‼️。」

「ラベク·····。」


ガホードは少し哀しげな視線を自分の相棒である愚王竜ラベクに向ける。


       王城屋上テラス


「素晴らしい!、矢張救世の聖女の血は伊達ではありませんね!。これ程の技量持つものなど。我が優秀な聖徒の騎竜乗りにはおりませんよ。ただ、しかし·····。」


魔法具スクリーンに写るアイシャを乗せるノーマル種にバンディアムス教皇は蔑みを帯びた冷たい視線を向ける。


「偉大なる救世の聖女の子孫の足を引っ張るあのノーマル種。あれは一体なんなんですか!。あまりにも彼女の役に立っていない!。しかも訳も解らずいきなり身体全身を震え出す始末。ふざけているのですか!!。全くこのようなことになるならば我が神竜聖導教会誇る聖竜騎士精鋭部隊、神竜十字聖の聖竜をあてたほうがまだましだ!。」


神竜十字聖とは神竜聖導教会が誇る選りすぐれた聖竜騎士と聖竜を集めた10人10匹で構成された聖竜騎士の精鋭部隊である。全ての騎竜が上位の聖竜族で構成されており。その乗り手もまた魔力属性が光属性の才を持った者ばかりである。実力は一般の竜騎士やベテランの騎竜乗りの数10倍も上回るとも言われており。普通一般に聖竜騎士である神竜十字聖はコロシアムやレースなどには出場したりしないが。しかしもし出場したならばその実力と戦績はあの世界最強と吟われる最強の一角に並ぶとも言われている。


「ああ、嘆かわしい···。矢張我等神竜聖導教会が彼女に相応しい聖竜を用意すべきか···,」

「それは···。」


バンディアムス教皇の言葉にオルドス国王はギョッと顔が硬直する。


「ええ、解っておりますとも。国に決めた誓約でしょう。ですがオルドス国王、バザルニス神竜帝国皇帝に交渉して貰えませんかね?。国同士が決めた誓約とはいえあまりにも聖女様の子孫が不憫すぎます。」

「か、考えておきます····。」


オルドス国王はハンカチで額の冷や汗を拭う。助け船を出して欲しそうに流し目を自分の娘であるシャルローゼに送る。

シャルローゼはまるで大丈夫ですよといわんばかりにニッコリとにこやかな笑顔を父親であるオルドス国王に返す。


ガックリ

そんな娘の様子にオルドス国王は力なく項垂れる。


「大分手こずっているようだな。ライナは。主人であるアイシャ・マーヴェラスは三竜騎士の1人ジェロームと童帝竜チェリーボーイの攻撃をさばけているようだが。」


魔法具スクリーンから見えるライナ達のレースの戦況を銀髪レイヤーショートヘアーの第二王女メディアは静かに腕を組み見守る。


「大丈夫ですよ。メディア様。これはライナにとってはいつものことですから。直ぐに窮地の場面で巻き返します。」


シャルローゼの友人であり護衛役でもあるセラン・マカダインは妹であるメディア王女にそう進言する。


「ライナのことを知っているようだな?。」

「ええ、一緒にレースに出た仲ですから。」


風車杯でスリーマンセルでアイシャとライナと一緒に出場した経験がある。あのノーマル種は苦戦している時に予測不可能な方法でいつも巻き返すのである。三竜騎士とその騎竜は確かに強そうではあるが。あの規格外で非常識で常識外れのノーマル種に対抗できるとは思えない。バザルニス神竜帝国大学のホープである6騎特性生の1人夜叉と鬼竜を倒したライナである。この程度で終わる筈がない。



「ライナーー頑張れえええーー!、」


マリス王女は幼い手をあげライナに熱い声援を送る。


『さあ、三竜騎士の1人ジェロームとノーマル種を騎竜にする他校の騎竜乗り。一触即発の戦闘が続いております。次々繰り出されるジェロームと童帝竜チェリーボーイの攻撃。ノーマル種の他校の乗り手はそれら全て見事な身のこなしで返しております。しかしその騎竜であるノーマル種は手も脚もでない様子です。矢張上位種とノーマル種の能力差は埋められないのでしょうか?。』


竜騎士科の実況サイクは深刻そうに放送席でマイクをとる。



『本来なら貴族がノーマル種を騎竜にするとこはないですからねえ。でも例のノーマル種は学園では上位種を遠くの訓練場までぶっ飛ばしたという噂もあります。ただで終わるとは思えませんねえ。そしてそのノーマル種は今正に身体全身を震わせております。何か仕掛ける様子ですね!。』

『実に見物ですね。』


城の放送席で竜騎士科の実況者サイク・ラッパーヌと騎竜乗り科の解説者ネレミン・エレクトーンは他校生とそのノーマル種の実力に期待する。



ブッ ブブブッブブブブブブブブブブブッ 

ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶるぶるぶるぶるぶるぶる


『訓練の時に氷結竜をぶっ飛ばしたやつを僕にするつもり?。そんなの不可能だよ。何せ僕は氷結竜コルゴよりも強いんだからね。氷を張れなくとも三竜騎士としての騎竜の強さは学年一位なんだから。そこんとこ解ってる?。』


童帝竜チェリーボーイは悪ガキが大人をおちょくるのような小馬鹿にした態度をとる。

そんなやっすい挑発には今のライナ何人たりとも動じない。

童帝竜チェリーボーイは学年一位の騎竜の強さを誇るといっていた。

氷結竜コルゴに比べて100の分身と残像の身がわりという少し地味さを感じるが。学年一位強さを誇るというならばそれなりの実力秘めているのが妥当だろう。もしかしたらまだ分身、残像以外にも隠し球を持っているかもしれない。シャンゼルグ竜騎士校学年最強であるならばそれは結して油断はできない。


ファサッ

ジェロームは艶やかに前髪のカール髪をかきあげる。


「狂姫の二投流を使うようだね。狂姫の千羽鶴という大技のスキルは確かに回避不可能な技に見えるけれど。穴がない訳じゃない。100の分身を相手どればその隙は生まれるものさ。」


ファサ

その隙を使って俺が攻撃する算段なんですけどね····。

俺はたらりと竜顔の冷や汗が流れる。

もしかしたら自分達の作戦が筒抜けなんじゃないかと不安になる。


「ら、ららライナ、だ、だだ、だ大丈夫だよ、よ、よよ。わ、わわ、わたし、しし、とライナな、ななな、なら。ぜ、ぜぜ、ぜ絶っ対か、かか、かてる、か、らららららら。」


ぶるぶるぶるぶる

俺の激しい震動で会話がおかしいことになってしまっているアイシャお嬢様は健気に俺を勇気づけるように後押ししてくれる。



ま、考えても仕方ないか·····。

精霊を使役した技を相手にはまだ知られていない。そこんとこつければまだ付け入る隙は充分にある。


アイシャお嬢様は頭上にブルーメロイ(蒼の美神)を掲げる。

バッテンを描くように二丁のブーメランを高々に交差させる。


「チェリー準備を。」

『オッケイー!。』


ジェロームの指示に童帝竜チェリーは小さな翼が大きく広げる。


『ハンドレッドファー(100の分身)!!。』


カッ‼️

ぶうんぶうんぶうんぶうんぶうんぶうんぶうんぶうんぶうんぶうんぶうんぶうんぶうんぶうん

ぶうんぶうんぶうんぶうんぶうんぶうんぶうんぶうんぶうんぶうんぶうんぶうんぶうんぶうん


童帝竜チェリーの身体が発光すると。何か未来的な擬音を発しながら実体のある100の分身を童帝竜チェリーボーイは生み出す。

南地区の塀塔が数百匹ものチェリーの分身を覆われる。


アイシャが交差させたブルーメロイ(蒼の美神)の二丁に白い光の粒子、光の精霊が集まる。


「秘技、千羽鶴!!。」


ザッ パああああ~~~~~~~~~ーん!。


バサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサ


千の数ある鶴の形をした白い光がアイシャお嬢様のブルーメロイ(蒼の美神)から飛散するように放たれる。


『今だ!!僕の分身。千の白い光に突っ込んで。』


行くよ行くよ行くよ行くよ行くよ行くよ行くよ行くよ行くよ行くよ行くよ行くよ行くよ行くよ行くよ行くよ行くよ行くよ行くよ行くよ行くよ

行くよ行くよ行くよ行くよ行くよ行くよ行くよ


童帝竜チェリーの100の分身体が意志を持ったようにアイシャお嬢様の放った千の数もある折鶴のような白い光に皆突っ込む。


バサッ


「そう、これを待っていた。狂姫の千羽鶴の致命的な弱点。それは放った時使い手が武器無しとなり。懐ががら空きになるということだ。そしてそれは私達はより優勢により有利に闘えるということを示す。」


ジェロームを乗せた童帝竜チェリーは白い千の鶴と自らの100の分身体をかいくぐり。ライナ達の元へと即座に接近する。


ぶっ ブブブブブブぶるぶるぶるぶるぶるぶる


童帝竜チェリーは激しく振動して震えるライナの目前へと入る。


今だっ!?


ドッ ドドドドドドドドドドドドドドドド‼️

ガッガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ


ライナは激しく振動する己の竜の右腕の掌を目の前に接近する童帝竜チェリーにかざす。


ギャアあああああああああーーーーーーー‼️。

(竜牙列破掌 ”10連破„ ‼️ )


『残念だけど。その対策は既に用意してあるんだよねえ~。』


童帝竜チェリーはライナを小馬鹿にしたように竜の太い舌をベロンとだしておちょくる。


『オブラ・アトメイチ(多重の残像)』


ぶあぶあぶあぶあぶあぶあぶあぶあぶあぶあ


ドッ!ドッ!ドドッ!ドドドドドドドッ‼️‼️‼️


ライナの10連にも及ぶ気の衝撃波を童帝竜チェリーは多重の残像を生み出し。身代わりにあてるようにライナの気の衝撃波の連射を受け持つ。受ける童帝竜チェリーの残像がモーションのように後ろへ後ろへと下がる。空振りした気の衝撃破だけが残像とともに残る。


『残念だったね。これで万策尽きたでしょう。これで僕達の勝ちだね。』



ファサ

ジェロームが前髪のカール髪をかきあげる。


「準備とは事前にするものさ。君たちの攻撃の対策もちゃんと立てているのでね。悪いけどこの決闘は私達が勝たせても貰うよ。」


ジェロームは剣を華麗に構える。

童帝竜チェリーはライナ達の間合に入り込み勝ちを確信する。


『じゃ、これでお仕舞いだよ。』


ジェロームが千羽鶴によって手持ちががら空きになったアイシャに素早い動作で斬りつける。


『カレイドスターソード(華麗な星の剣)!。』


ジェロームの剣先がキラキラと星のように輝き発光しだす。星の輝きを秘めた剣技を千羽鶴をを放ち。斬撃が武器無しでがら空きとなったアイシャお嬢様に向けられる。


『これで僕達の勝ちだね。』


童帝竜の幼い竜顔が勝ち誇った笑みを浮かべる。、

ギャアラギャアギャラギャア!。

(悪いがこちらも想定済みだ!。)


ごおおおお~~はああああ~~~~~~


ライナは火の精霊を呼び寄せる呼吸を行う。

赤い光の粒子がライナの竜の右掌に集まる。


『な、何っ!?。』


童帝竜チェリーは精霊を関知する能力が長けているわけではないが。ライナの周囲に何か異様な気配を肌で感じとる。


ギャアああああああーーーーー!!

(竜炎掌おおおおおーーーーー!!)


ごおおおおおおおおおおおおおーーー


『なっ!?。ノーマル種が炎をだした!!。』

「馬鹿なっ!?。あのノーマル種、精霊を使役できるのか?。」


三竜騎士の1人ジェロームと童帝竜チェリーはノーマル種ライナが炎を掌から炎を出したことに驚く。そして次の反応に遅れる。

ライナの右腕が振りかざした炎がそのまま童帝竜チェリーの小柄の身体を襲う。


ごおおおおおおおおおおおおおお


『ちっ。この!。』


ブワッ

童帝竜チェリーは身代わりの残像を生み出そうとするが。対応が遅れ。残像だけでなく火種が本体であるチェリーへと微小だが移る。

童帝竜チェリーの小柄の身体に残り火ような炎がメラメラと燃え移る。


『あっち、あちちちちちちち!!。』

「チェリー!?。」


あまり燃える経験がないのか。チェリーは自分の身体に小さな炎が燃え移ったことにパニックに陥る。


ギャアラギャアギャアラギャア!

(まだまだこれで終わりではないぞ!。)


童帝竜チェリーが炎の熱さで気をとられている隙にライナは次の行動に移る。


ひゅうううううう こぁおおおおおーーーーーー


ライナの竜口が風が嘶くような音が漏れる。

次にライナはありッたけの風の精霊を呼び寄せる呼吸を行う。さっきレインお嬢様とガーネットが塀の外へと旅立ってしまった時(実際に違うけど)に閃いたのだ。

ありったけの王都中の風という風を再びライナの右掌に集める。


「まさか、これは風の精霊····。」

『あっ ちちちちちちちちちちちちち!!。』


ジェロームはライナの起こすこと火と風を操る力に茫然としながらも。童帝竜チェリーは小柄の身体に燃え続ける小さなかがり火の熱さにそれ所でない。


ぐあああああああああーーーーーーーー!

(竜風掌おおおおおおおおーーーーーー!)


どおおおおおおおおおおおーーーーーーーー!


「うわあああああああああーーーーーーー!」

『熱っち ぎゃあああああああーーーーーー!』


強烈なソニックブーム並の威力ある突風がジェロームと童帝竜チェリーもろとも塀の外へ吹き飛ばす。童帝竜チェリーに関しては熱さとソニックブーム並の威力ある突風によって。訳の解らぬままで吹き飛ばされた。


びゅうううううううううううううううーーー

あっという間に一人一匹の姿が王都から消える。


『おおっとこれは!?、三竜騎士ジェロームと童帝竜チェリーボーイが南地区の塀の外へと吹き飛ばされたあああーーーー!。これはコースアウト!コースアウトだーーー!!。』


竜騎士科の実況ラッパーヌは魔法具スクリーンの写るレースの様子を熱弁する。


【··································】


王都中でレースを観戦する住民は歓声をあげるどごろか。ライナが起こした現象にただただ何も発せられず茫然と眺めていた。







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