第268話 カナリエ家の悲願



『アクア・ブール(水球)。』


魔剣竜ホロホスの水色に変貌した竜のくちばしから強烈な水球の玉を放出する。

ただの水玉でなく飛ぶ威力あるスピードが重なった水球である。


『こんなもの!。』


バシン


清王竜ナギスは魔剣竜ホロホスが竜のくちばしから水球を己の尻尾ではたき落とす。


「媒介したか····。ナギス、気つけろ!。魔剣竜の魔剣の媒介は脅威だ!。魔剣を媒介する隙を与えさせるな!。」


レースで何度か魔剣竜という竜種と闘った経験をもっていた竜騎士科二年サテライト・ベーシックは魔剣竜の本質を理解していた。魔剣竜の強みは魔剣を媒介するその能力とスキルである。あらゆる魔剣を媒介することで能力の本質、スキル、魔法さえも大きく変わる。竜種によっては攻撃タイプ、スピードタイプ、防御タイプ、特殊タイプなど分けられるが。魔剣竜に関してはそれは当てはまらない。媒介する魔剣によってその能力も魔法もスキルさえも大きくかわるのだ。魔剣竜に対抗策として結して魔剣を媒介させてはならない。それが唯一無二に魔剣竜を対抗するための策である。魔剣竜を媒介させたまま対抗できるとすれば矢張世界に五匹いるとされる最強の一角であろう。絶滅危惧種にして幻の竜族最強種、白銀竜や絶帝竜の爺さん、或いは無差別に筋力のみでねじふせた狂姫の相棒、強靭のレッドモンドなどがあげられる。それ以外では学園最強のクラウンとタクトの称号を持つ二人の騎竜も当てはまる。また帝国にいる最低最悪な騎竜、無情も一応あてはまる。兎に角、魔剣竜に関しては結して魔剣を媒介させないことが魔剣竜攻略するための一番の突破口などである。


シュ スッ

むっちむちの太ももからラムは更に二本のナイフの魔剣専用の太ももホルスターから抜き取る。二本のナイフのような魔剣は一本は刃が赤く染まり。もう一本は黄緑に染まっていた。それをラムは交互に双剣のように手に取り身構える。


「ラムは魔剣士です。彼女の魔力は相当なものです。更に二本の魔剣を器用に扱えるのはラムくらいしかおりません。ラムは水魔精剣(すいませいけん)アビューネを魔剣竜ホロホスの媒介に使いました。そしてラムの持つ二本の魔剣は炎魔精剣アグニエルと風魔精剣エルフィンマッハです。その二本を同時にラムは使いこなします。そして魔剣竜ホロホスに媒介させた魔剣をラムが代わり番こに魔剣を媒介させながら使いこなすのです。」


オリンはラムの戦闘スタイルを丁寧に説明する。


「す、凄い····。」


アイシャは二本の魔剣のナイフ持つラムに目を見開き圧倒される。


はあ~チートだよなあ~。もうどんだけチート重ねれば気がすむんだろう。この異世界はチートだらけだよ。全く···。


ライナはまだやさぐれていた。


「取り敢えず。ナギス。主人である魔剣士に精神攻撃しろ!。やつさえ戦闘不能にしてしまえば勝機は充分にある。魔剣竜は魔剣あってこその魔剣竜だからな。」

『それ姑息じゃねえか?。』

「戦略と言え!。そもそもナギス。お前はまともに闘って勝てるのか!?。あの魔剣竜に。」


水色の鱗とヒレのついた竜に変貌した魔剣竜ホロホスの竜の姿に清王竜ナギスの竜瞳を見据える。


『まあ、普通に無理だわなあ。俺は攻撃タイプというわけでもないし。魔剣竜の媒介はその竜種のタイプさえも大きく変わるからな。普通に闘っては無理だ。』

「なら、文句垂れずにさっさと主人に精神攻撃しろ!。」

『へいへい、相変わらず家の主人はせっかちだねえ。んじゃ記憶の罪をというかシガラミを掘り起こすとしますかねえ。』


清王竜ナギスは翼を大きく広げ。竜瞳の瞳孔が開く。


『ラム、気をつけて!。清王竜ナギスの精神攻撃が来ます。』


ラムは精神を保つよう身構える。


『シュバーツ・フラッシュバック(痛みの走馬灯)。』


ぐあああああああーーーーーーー


『ラム!?。』


ラムの清王竜ナギスの精神攻撃のスキルにあてられ。身体が固まったように硬直する。


ラムは邸の中でドレスを着ていた。目の前には何百年も生きるカナリエ家の始祖、おばば様がいる。おばば様の耳はエルフの特有の長い耳と琥珀色の瞳をしていた。


「やはり駄目でしたか····。」


おばば様は深いため息を吐く。


「申し訳ありません···。おばば様。私が不甲斐ないばかりに···。」


耳元が厚い髪に覆われたドレスを着たラムは申し訳なさそうに謝罪する。


「よいのです。人の血がより濃くなれば精霊とも心通わせることが出来なくなることは昔から解っておりました。更にエルフの生涯の騎竜でもあり。相棒でもある妖精竜と精霊竜さえも今後貴方を主人として認めないでしょう。」

「······。」


ラムは暗くふさぎこむ。

カナリエ家の悲願である精霊杯の優勝、出場権利が途絶えたからである。精霊杯の出場条件は騎竜が精霊を使役することである。妖精竜、精霊竜が騎竜に出来なければほぼ絶望的である。妖精竜、精霊竜の竜種以外に精霊を使役できる竜(ドラゴン)はほぼ存在しない。いるとすれば銀氷という特殊な精霊を使役できる白銀竜や銀晶竜だけである。しかし二頭の白銀竜も銀晶竜も絶滅危惧種である。白銀竜という竜種は銀姫が所有する白銀竜しかみたことがない。もう一頭の銀晶竜は噂では寿命が迫っていて。レースに出れるような状態ではないと聞く。


「しかし、それでも貴方は精霊杯には出場することを諦めてはなりません。それがカナリエ家の当主の悲願であり。貴方をエルフ達に認めさせるための唯一の方法なのですから···。」


カナリエ家の始祖でもあるおおばば様はラムに冷たく厳しくいい放つ。


「はい、おおばば様·····。」


ラムは力強くこくりと頷く


『ラム!ラム!しっかりなさい!!。貴方はここで敗けるのですか!。』


はっ!?

ラムはスッと瞳に生気が満ち正気に戻る。


「なんだと!?。」


サテライト・ベーシックは清王竜ナギスの精神攻撃攻撃を受けたのに直ぐにラムが正気を取り戻したことに困惑する。


『ああ、こりゃあ無理だわ···。』


清王竜ナギスはこれはお手上げというような竜顔を浮かべる


「どういうことだ!?。ナギス。」


サテライトは理解が追いつかなかい。


「サテライト。あの魔剣竜の主人は痛みを己の強さに変えている。ああいった人間には精神攻撃はあまり効かない。罪も痛みも苦しみも己の強さに変えているんだ。ああいったタイプはちょっとやそっとじゃ揺らがない。ほぼお手上げだぜ。」


清王竜は無理無理という竜の掌のジェスチャーする。


「く、さすがは魔剣士というとこか。騎竜乗りじゃなくて竜騎士の方が向いているんじゃねえか?。揺るぎない信念こそが竜騎士の本質だしな。」


サテライトは皮肉めいた口調で顔をしかめる。


『んで、これからどうするよ。俺のスキルはあてにならないぜ。』

「知れたこと。竜騎士は竜騎士らしく接近戦でかち合うだけよ!。魔剣士とて竜騎士の接近戦でかち合えるだけの武力を持ち合せてないだろうに。」


魔剣士はあくまで魔剣を使うことに特化した剣士である。純粋に剣術や竜騎士が扱う対人騎竜戦術に長けているわけではない。


『そうこなくっちゃな。じゃ、俺は精神攻撃スキルを接近戦に持ち込むためのサポートに回ることにするわ。』

「頼む。」


サテライト・ベーシックは身を低くし。長剣を

サテライト・ ベーシックは清王竜ナギスの精神攻撃スキルをあてにせず。竜騎士道らしく接近戦に持ち込むことにした。純粋の剣技であるならばこちらが上であろう。


『ラム、どうやらあちらは接近戦を持ち込むようです。どうしますか?。』

「······。」


ラムはサテライト・ベーシックの様子を窺い。二本のナイフのような魔剣を握りしめる。


「ホロホス。魔剣のトレード戦を実行する。準備して。」


ラムは迷いもなく言いはなつ。


『安心しましたよ。ラム。貴方はここで挫けるような人間ではないことを私が一番よく理解しています。しかしカナリエ家の悲願でもある精霊杯に関して私が力になれなくて本当にご免なさい。』


魔剣竜ホロホスは深く謝罪する。魔剣竜は精霊を使役できない。精霊が備わった魔剣を媒介にして精霊を使役したら精霊杯に出場できるとおもわれたが。残念ながら精霊杯の出場の許可はおりなかったのだ。やはり騎竜が生身で精霊を使役出来なければ精霊杯の審査員は精霊杯の出場を認めてはくれない。


「気にしない···。私が貴方を相棒にしたことを後悔してない。」


魔剣竜ホロホスが精霊を使役できなくても精霊杯に出場できなくても自分にとって頼もしい相棒であることには変わりはない。それに関しては後悔はしていない。


「それに····。」


チラッと視線を平凡な緑色の鱗に覆われた竜(ドラゴン)に移す。

他校の合宿相手である騎竜のノーマル種のライナである。

ライナを確認するとは死んだ魚の竜瞳をしながらやさぐれた竜顔で此方を観察している。


友達となったアルビナス騎竜女学園の生徒、アイシャ・マーヴェラスの騎竜、ノーマル種のライナ。ノーマル種でありながら精霊が使役できる特別なノーマル種。


「精霊杯の出場権利を得る方法を見つけたかもしれない。優勝する可能性も····。」

『ラム?。』


ラムは確信めいた力強い瞳でノーマル種ライナを凝視する。



「それじゃ、いっちょいくか!。気張れや、!ナギス‼️。」

『おうよ!。』


サテライト・ベーシックを乗せた清王竜ナギスは魔剣竜ホロホス目掛けて特効する。


『来ます!。ラム!。』


ラムはくるっと握っていた炎魔精剣アグニエルのを握りを返す。炎魔精剣アグニエルに付着する赤い光の粒子である火の精霊がより濃く凝縮される。

もう片方の風魔精剣エルフィンマッハを向かってくる清王竜ナギスに向ける。

風魔精剣エルフィンマッハの黄緑の刃に黄緑の光の粒子の輝きが増す。



「マッハウィンド(音速の風)!。」


ひゅううううう


『くっ、』

「ナギス!持ちこたえろ!。接近させてしまえばこちらのもんだ!。」


音速並みの風が清王竜ナギスを襲う。

しかし音速の風でも竜騎士科の騎竜として鍛え抜かれた清王竜ナギスは耐え抜く。


『ホロホス!、魔剣を解除。風魔精剣エルフィンマッハと水魔精剣アビューネをトレード。』

『畏まりました。』


魔剣竜ホロホスは媒介した水魔精剣アビューネの媒介を解除する。漆黒の角とアイボリーブラックの竜の姿に戻る。

解除された水魔精剣アビューネは即、ラムのむっちむちの太ももホルスターに収められ。続いてラムは即座に風魔精剣エルフィンマッハを目の前に翳す。


「風魔精剣エルフィンマッハ!。」

『媒介!!。』


ぱあああああ

魔剣竜ホロホスのアイボリーブラックの鱗が瞬時に変わり。黄緑の鱗へと変貌する。飛行型特有の風の抵抗を軽減する翼へと変わる。

ラムは更に刃が茶色に染まった地魔精剣クラックアースを抜き取る。


「よし!、接近は成功した!。このまま戦闘続行だ。ナギス。」


清王竜ナギスに間合いをとられる魔剣竜ホロホスは黄緑の光の粒子が集まる。風のスキルを発動させる。


『このまま肉弾戦だ!。ホロホス。』


ニヤリと清王竜ナギスの竜口は勝ち誇っあような不適な笑みを浮かべる。


『それはどうかしら?。ナギス。』

『何っ!?。』


「おらああああーーーーーーーーーっ!。」


ひゅん! キィン!

清王竜ナギスの背中の上に騎乗するサテライト・ベーシックは力強く長剣をラムに向けて斬りつける。

ラムは両手に持つ片方の炎魔精剣アグニエルでサテライト・ベーシックの長剣を防ぐ。


「ふん!そんなちんけな魔剣で俺の剣技はとめられるとでも!魔剣士!。」

「止めなくていい····。送り返せばいいだけ。」

「何っ!?。」


サテライト・ベーシックの長剣を受け止めたナイフの長さしかない炎魔剣アグニエルから炎が吹き出る。その炎はサテライト・ベーシックの長剣を握る腕ごと燃え広がる。


「バーニング・エクステンド(燃え広がる炎)」

「ぐわああああああああーーーーー!。」


ぼおおおおおおおおおおおおおお


『サテライトっ!?。』


主人のサテライトが炎が燃える姿に清王竜は焦る。


『竜騎士の騎竜としてよそ見するなどなってませんね。』

『しまった!?』


風魔精剣エルフィンマッハを媒介した魔剣竜の黄緑の鱗の竜体から風の精霊特有の黄緑の光の粒子が集まる。


『ラフ・トルメンタ(風波の嵐。)』

ごわああああああーー


ぐギャあああああああーーーーーー


嵐の波が清王竜ナギスを襲い。そのまま地面に叩き落とす。

ラムはもう片方の魔剣、地魔精剣クラックアースを真下に突き立てるように翳す。刃から茶色の光の粒子が輝きだす。


「ウェルダネスクラック(荒れた大地の地割れ)。」


グバッ

清王竜が落下する地面の大きく裂け。そのままサテライトとともに清王竜ナギスを呑み込む。


ガコン

裂けた大地がそのまま閉じる。

彼らの姿は裂ける地面とともに姿を消す。


「ラム、持久戦は苦手ですが。短期決戦ならほぼ無敵なんです。」


オリンはラムが勝利することは疑いもしなかった。



『おおっと!。騎竜乗り科の魔剣竜と竜騎士科の清王竜の勝敗は騎竜乗り科の魔剣竜に軍配があがったぞーーーー!。』

『正に逆転劇ね♥️。』


わーーーーーーわーーーーーーー!!

王都中の観客が盛り上がりを見せる。



ピキィッ バリバリバリバリバリバリ

ぼおおおおおおおおおお


魔剣竜の闘いから少し離れた場所で炎帝のレインと炎速のガーネットの闘いは氷結竜が凍り付けにした透明な壁を檻のように構築し。ガーネット達その氷の壁の檻に閉じ込められていた。

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