第258話 王都案内⑦
コツコツ ドシドシ
「············。」
·········
広く入り組むステンドグラスに囲まれた神竜大聖堂の廊下を俺とアイシャお嬢様は無言で進む。
大聖堂でありながら何故こんな入り組んだ迷宮の造りにしたのだろうと疑問に思う。
コツコツ ドシドシ
天井に射す光がステンドグラスに反射し。より一層幻想的で神秘的な雰囲気を醸し出す。
迷宮のような廊下を抜けると広いホールへと出る。左右に聖竜族と思われる像がならんでいた。
コツコツ ドシドシ
俺とアイシャお嬢様は巨大なホールを進む。左右に真っ白な神秘的な雰囲気を醸し出す聖竜族族の像が佇む。どうやら俺とアイシャお嬢様は目的である神足る竜の像が奉っている大聖堂に到着したようである。
奥には神足る竜プロスペリテと思われる像とその後ろには天井にまで届きそうな巨大な絵画が壁に飾られていた。
ドシドシドシ コツコツコツコツ
アイシャお嬢様と俺は神足る竜の像に視線を向ける。
それは像でありながら白くもなく銅像のように茶色でもない。澄みきった蒼白い色をしていた。俺の前世の世界でいうLEDのブルー色に近い。
特殊な材質を使っているのだろうか?。
目の前の神足る竜プロスペリテの像は優しげな穏やかな蒼白い竜瞳の瞳をしていた。
これが銀晶竜ソーラさんの親友であった神足る竜プロスペリテか····。
「綺麗だね。ライナ。」
ギャアギャ···
(そうですね···。)
神足る竜の像を目の前にして俺は少し感傷に浸る。
本来ならばこの神足る竜が正式なアイシャお嬢様の騎竜になる筈だったんだな····。
マーヴェラス家で寿命で亡くなっていなければ本当ならアイシャお嬢様の騎竜はこの神足る竜プロスペリテなんだと実感する。
正直俺が竜(ドラゴン)に転生しなければ神足る竜の立ち位置を奪わずにすんだかもしれないと少し負い目を感じる。だが竜に転生しなければアイシャお嬢様と出逢えなかったこともまた事実である。
俺は神足る竜プロスペリテの像の前で貴方の分まで頑張ります。アイシャお嬢様を守っていきますと心から誓う。
アイシャお嬢様は神足る竜の像の後ろにある天井まで伸びる巨大な絵画に視線を向ける。
巨大な絵画に蒼白く輝く竜に股がった凛々しく気高い金髪の少女が描かれていた。何処と無くアイシャお嬢様の顔立ちが似ているような気がする。しかし胸の膨らみはアイシャお嬢様より絵に描かれている彼女の方が少し大きい。
いや、他意はないのだけど·····。
それと相対するように紫黒(しこく)というべきか。紫と黒が合わさった色の鱗に覆われた禍々しき竜が対峙していた。おそらくこの竜(ドラゴン)が滅びと終焉を司る神足る竜プロスペリテと対極を為す竜なのだろう。
紫黒色の竜(ドラゴン)の真下には四匹のどす黒く塗り潰されたようなシルエットの竜が不気味に佇んでいた。紫黒の竜に付き従うように蒼白い竜と対峙している。紫黒色の竜は極めて黒に近い深い赤紫色の鱗に覆われており。禍々しさを秘めてはいるが。その反面、向ける竜瞳の視線は何処か哀しげで寂しげである。
「何だがこの黒紫色の竜·····。」
アイシャお嬢様もまた紫黒の竜の表情が少し気になったようだ。
「··········。」
············
じっと俺とアイシャお嬢様は天井まで伸びる絵画を眺める。
「学生ですかな?。」
「えっ?」
突然アイシャお嬢様は急に声をかけられびっくりする。
後ろを振り向くとそこにはほどよい紫波を帯びた。金の白の装飾が施された祭服のようなもの着た年配の男が立っていた。
気の良さよそうにアイシャお嬢様にほどよい紫波を帯びた顔がニコニコと笑顔を向けてくる。
竜の装飾が施された豪華な冠や服装から神竜聖導教会のかなり地位のある関係者だと解る。
穏やかで満面な笑みを浮かべアイシャお嬢様に近付いてきた祭服の年配の男はノーマル種である俺に気づくと一気に満面なほどよい紫波顔が不快に歪み険しくなる。軽蔑まみれの冷たい視線を送ってくる。だが俺の竜の首にぶら下げている金のメダリオンに気付くとスッとその表情が引っ込めるように戻ってしまう。
「王族のペットの証·····。確か王族がノーマル種をペットに迎え入れたと聞いていましたが····。」
一瞬躊躇う素振りをしたが。いつもの態度なのか祭服の年配の男は穏やかな表情へと変わる。だがその内に秘めるものが。ノーマル種に対する激しい嫌悪であることは態度のはしはしで感じとれた。
「あ、はい、神足る竜の像を見たくて。」
アイシャお嬢様は元気良く返事を返す。
「なるほどなるほど。そうでしたか。信心深くなくても構いません。日々、神足る竜がこの世界を救って下さったことにいつも感謝しなくてはなりませぬ。」
祭服の着た年配の男はうっとりした顔で神足る竜の像とその後ろにある巨大な絵画を見る。
「自己紹介を遅れましたね。私は神竜聖導教会の教皇をしております。バンディアムス・アクベラレネと申します。」
「教皇様だったんですね。これは失礼致しました。」
アイシャお嬢様は貴族形式の礼儀正しい挨拶をする。
よりにもよって教皇かよ。
俺は嫌そうに竜顔をしかめる。
神竜聖導教会の最高権力者に鉢合わせするなんて運が悪い。絶対にアイシャお嬢様にあわたくない人物第一位である。
「いえいえ、そんなに畏まらないでください。私もここの神竜大聖堂には空いたに日によくお祈りを捧げにきているのですから。今日は観光ですかね?。」
「え?、あ、いいえ、私はアルビナス騎竜女学園の生徒です。今日は合同合宿で建国記念杯の出場する下見を兼ねて来ているんです。帰りにに神足る竜の像を一度見たかったんで。」
ぴく
「······なるほど。アルビナス騎竜女学園の学生で。建国記念杯ですか····。もうそんな時期でしたか····。」
バンディアムス教皇は建国記念杯というワードを聞くと眉間の白い太眉が少し寄る。
もしかして?建国記念杯というレースが嫌いなのだろうか?。
俺は竜の長首を傾げる。
「あれは王国主催の建国を祝した記念のレースですが。唯一男女兼用が許された特殊なレースです。しかしレースとは偉大なる救世の聖女と救世の蒼竜がこの唯一無二の世界を救って下さった神聖なる聖戦でもあります。そんな神聖な聖戦であるレースに王国の建国記念日とはいえ男子である竜騎士を出すことにはやはり抵抗を感じますね····。」
バンディアムス教皇は唇がへの字に曲げ。不満を露にする。
「そう···なんですか····。」
神竜聖導教会のバンディアムス教皇の言い分にアイシャお嬢様は少し複雑な表情を浮かべる。
ああ···そういう考えなのね····。
確かに神竜聖導教会の取り決めではこの異世界では男子はレースにでれないことになっていたな···。
俺は納得する。
「それよりも御覧くださいませ!。これこそ偉大なる救世の蒼竜が救世の聖女とともに大いなる聖戦を終わらせた絵画でございます!。救世の蒼竜に股がる凛々しくも勇敢に立ち向かう救世の聖女。それに対峙するは混沌と破壊と破滅をもたらす邪悪なる竜フォール!。それに付き従うは人類の最悪たる厄災を撒き散らす厄四竜(やくしりゅう)!。」
ん、厄四竜?。
俺は竜首を傾げる。
神足る竜プロスペリテと対極を為す竜がフォールという名であることも初耳ではあるが。それに付き従う災を撒き散らす四匹の竜、厄四竜など聞いたことがない。確か遥か昔にレースで世界の命運を決めたと聞かされているが。厄四竜という情報は無かった筈だが····。
「あの、厄四竜とは何ですか?。」
アイシャお嬢様も俺と同じ疑問を抱いたようである。
「おや?厄四竜を知らない?。おかしいですね。アルビナス騎竜女学園では教えてないのですかねえ?。」
バンディアムス教皇は不思議そうに首を傾げる。
「はい、世界の命運を決める戦いでは勝敗がつかないからレースで決めたとぐらいしか····。」
「なるほど。次世代の聖女達と救世の蒼竜様の歴戦の歴史を知らなかったようですね····。」
次世代?。
「神足る竜は寿命が尽きると何度も生まれ変わりこの地に誕生しました。その度にあのにっくき邪悪なる竜、フォールも復活したのです。その度に何度もこの世界では人類の世界の命運をかけた聖戦が行われたのです。しかし死と復活の重ねる度にいつの間にか邪悪なる竜、フォールとともに厄4竜という世界に災いをもたらす竜までも誕生してしまいました。その度にフォールとともに我等神竜聖導教会の信徒と王家7大貴族と他の国々の王と兵達と力をあわせ。厄四竜と邪悪なる滅びの竜フォールを駆逐していったのです。何世代も渡ってね···。」
バンディアムス教皇は涙目で延々と語り出す。
知らなかった。
滅びと終焉を司る神足る竜フォール以外にも厄四竜というものが存在していたのか?。
アイシャお嬢様の父親であるマーヴェラス伯爵にも聞かされていない。いや、もしかしたら教えていないのかもしれない。自分の娘が神足る竜プロスペリテが復活する度に滅びと終焉を司る竜(ドラゴン)フォールと厄四竜という世界に災いを撒き散らす四匹の竜と戦わなくてならず。人類と世界の命運を懸けた聖戦を行なわらなければないという事実を自分の娘に教えられるはずもない。
神足る竜プロスペリテが寿命で尽きたのはアイシャお嬢様の生まれる前だからそんな年を空いてはいない。今の代は大丈夫と踏んでいたのかもしれない。メイドのカーラさんの話ではマーヴェラス家では暫く男子しか誕生していなかったと聞かされている。神足る竜プロスペリテが寿命で尽きた頃に女子であるアイシャお嬢様が生まれたと聞かされた。神足る竜の担い手が神足る竜の寿命後に誕生するなどと。なんとも皮肉めいた話である。その数年後にアイシャお嬢様の母親がアイシャお嬢様をおいて実家に帰ったらしい。その時王家の支援を打ち切られたのもそのタイミングだったそうである。
このまま神竜聖導教会の最高権力者であるバンディアムス教皇と話すのはまずい。はやく離れないと。
俺は何とかして神竜聖導教会の最高権力者であるバンディアムス教皇とアイシャお嬢様を話を中断させるか思考する。
「「「アイシャああー!何処!?。」」」
グッドタイミングに友人とオリンお嬢様達のアイシャお嬢様を呼ぶ声が聖堂のホールまで届く。
「あ!みんなだ!!。すみません。友人とはぐれてしまっていたので直ぐに戻りますね。。」
「いえいえ、私も生徒と話せて良い気分転換になりましたよ。」
バンディアムス教皇はニッコリと微笑み返す。
「あ、自己紹介を遅れました。私はアイシャ・マーヴェラスと申します。この竜は私の騎竜でライナといいます。ではさようならバンディアムス教皇様。」
アイシャは元気良くバンディアムス教皇に別れの挨拶をする。
「アイシャ····マーヴェラス·····。」
バンディアムス教皇は瞳孔が点となる。呆然となり固まる。
くっ!しまった!?名を知られた!。
俺はアイシャお嬢様の名前をバンディアムスに知られたことを焦り出す
「ライナ、行こう!。」
俺は走り出すアイシャお嬢様の後を追う。
聖堂に取り残されたバンディアムス教皇を俺は後ろを振り向きチラ見する。
真っ白に染まるほどショックで固まっている。
取り敢えず呼び止めたり追ってこないようである。
「何かとってもいいひとだったね。ライナ。」
ギャ····ラギャギャ
(そう····ですね。)
アイシャお嬢様の自己紹介により。アイシャお嬢様が救世の騎竜乗りの子孫である事実をあのバンディアムス教皇は知ってしまった筈だ。
何事もなければいいが·····
アイシャお嬢様の存在を神竜聖導教会に知られたこと杞憂に終わって欲しいと俺は切に願う。
アイシャお嬢様とノーマル種のライナの姿が見えなくなると顔面蒼白で立ち尽くすバンディアムス教皇が我に返る。名を名乗った娘とその騎竜の竜種がノーマル種であるという事実にバンディアムス教皇の目元が一気に崩壊したように涙の洪水が溢れだす。悲壮感と憐れみと同情交じり悲哀の満ちた表情へと顔色が歪む。
震える紫波を帯びた両手がバンディアムス教皇の顔を覆う。
「おお~~!。何たること!何たることだああー!。あの気高き美しくも光の精霊の祝福を受けし聖なる乙女。神足る竜の担い手である救世の聖女の子孫が!。よもやノーマル種という下等で!下賎で!穢らしい竜(ドラゴン)の乗り手にまでなってしまうなどとーーーーーーー!!。」
バンディアムス教皇はどっと雨粒のように涙を垂れ流し。紫波がれた顔が流れ出す涙でぐちゃぐちゃとなる。
「王国が支援を打ち切った聞かされたときは心配していたが。よもやここまで落ちぶれていたとは!!。」
おうおうとバンディアムス教皇はうちひしがれたように涙を流し泣きわめく。
「国同士が決めた誓約が無ければ直ぐにでも救世の聖女の子孫である彼女を。我等神竜聖導教会が保護するというものを。全く忌々しい国同士の誓約よ!。」
バンディアムス教皇は悔しげに歯を食い縛る。国の王同士が決めた取り決めとはいえバンディアムス教皇は激しい怒りと憤りを感じる。
バンディアムス教皇はくるりとむきを変え。神足る竜の像に跪く。指を絡ませ激しくお祈りを捧げる。
「ああ~~!。大いなる世界を救いし偉大なる救世の蒼竜よ。あの憐れに堕ちてしまった救世の聖女の子孫に祝福と!幸(さち)と!御加護を!与えたまええええええーーーーーーーーーー!。」
バンディアムス教皇はえんえんと涙が枯れ尽きるまで。神足る竜プロスペリテの像を前にして祈り捧げ懇願する。
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