第257話 王都案内⑥
ぞろぞろ
北地区の高級住宅街が並ぶ貴族街の路を進む。
すれ違う貴族達は俺を目撃すると一瞬嫌そうな顔をするが。俺の長首に付けている金のメダリオンの首輪を目撃するとぎょっとした顔で大人しくなる。ノーマル種を連れていることに咜り付けようと向かってくる貴族紳士もいたが。俺の金のメダリオンに目がいくと矢張大人しくなって声もかけずに身を退いてしまう。
王族のペットの証である金のメダリオンの首輪は本当に貴族にも効果があるようで。貴族街でノーマル種を堂々と連れ歩いても。文句の一つも言わないというか出来ないのだろう。ノーマル種でも王族のペットに喧嘩を売るなどそんな馬鹿な真似は出来ないからである。
「あそこに見えるのが聖エルメシア学園です。あそこは主に私達シャンゼルグ竜騎士校の生徒とは違い。竜騎士や騎竜乗りを目指さない令嬢が通っております。神竜聖導教会の信者の貴族が多く在籍しております。」
「ようするにろくでなしのたまり場よ。」
「ちょ、ちょっと、フェニス!。」
鳳凰竜フェニスは北地区から来てからピリピリしている。鳳凰竜フェニスのオレンジ色のオバ ○のような三本のアホ毛がピンピンと鶏冠にきていた。相当神竜聖導教会が嫌いなようである。主人であるオリンお嬢様も困り果てている。
貴族街を抜けて神竜聖導教会の建物の横路を過ぎる。綺麗な装飾が施された立派な教会である。頭上には鐘と一緒に聖竜族だろうか?華麗に飛び回る装飾が施されていた。教会を抜けて北地区を覆う塀に到着する。建国記念杯の最後のフラッグ(旗)奪取地点である見張り塔である。
丁度神竜聖導教会の真後ろの方向にある。
「これで全て建国記念杯のフラッグ(旗)地点を確認出来ましたね。それでは最後に神竜大聖堂に行きましょう。広くて迷いやすいですから気を付けて。」
オリンお嬢様が神竜大聖堂の注意事項を伝える。
ギャアラギャアガアギャアラギャ?
(ノーマル種も入れるんですかね?。)
この流れ的にノーマル種はお断りみたいになりそうである。貴族がノーマル種を下等と見なしているのは解るが。まさか神足る竜を崇めている信者達まで嫌いなんてことはないと思いたいが。
「残念だけど。神竜聖導教会でのノーマル種の立ち位置は最悪よ。」
鳳凰竜フェニスにオレンジ色の細眉を眉間に寄せ。否定的な言葉を投げかける。
「どういうことですか?。」
アイシャお嬢様も神竜聖導教会のノーマル種の立ち位置が最悪と聞いて不安を覚える。
「神竜聖導教会にとってノーマル種は穢れし竜(どらごん)と認知されているわ。」
穢れし竜。読んで字のごとく嫌われていることは解る。
「上位種にはスキルは魔法扱えるけど。ノーマル種はスキルも魔法も扱えないでしょう?。神竜聖導教会にとってスキルや魔法は神足る竜が与えた偉大なる贈り物とされているわ。」
初めて聞いた。スキルや魔法って神足る竜から授かりものなのか?。この異世界の歴史を詳しく知らないからよく解らない。
「実際そうなんですか?。」
パールお嬢様は質問する。
「いいえ、それは神竜聖導教会が勝手に解釈してるだけよ。私達のスキルや魔法は神足る竜から授かったわけではなく。生まれつき備わっているものよ。私が不死の竜である故に解るもの。死んでも蘇る生命の輪廻に神足る竜の存在は関係ないわ。彼等は世界の代弁者よ。彼等の意志は世界の意志だけど。私達、竜(ドラゴン)の創造主かと言えば違うし。スキルや魔法を与えた存在でもないわ。世界の意志が私達の創造主なら解るんだけど。神足る竜は世界の御使いでしかないわ。それを神竜聖導教会の人間の連中は勝手に竜(ドラゴン)の力を与えた神の竜と解釈したの。竜のありかたを歪ませたと言っても言いわ。」
「ふええ、何か怖いですね····。」
アーニャお嬢様は神竜聖導教会の実態に怯える。
「神竜聖導教会の創設者である聖法皇竜ローマシアが神竜聖導教会を作った本当の理由はただ単に神足る竜と救世の騎竜乗りの子孫を救済することだった。人の欲望から野心から遠ざける為にね。それが結果的には神足る竜や救世の騎竜乗りを苦しめることになるんだから。本当に救えないわよ。全く···。」
「何だか哀しい話ですね····。」
レイノリアは神竜聖導教会が誕生秘話にやるせなさを感じる。
ギャギャアラギャアガアガアギャアラギャアギャアラギャアギャア
(じゃ、俺は神竜大聖堂に入るのはよしたほうがよさそうですね。)
銀晶竜ソーラさんの親友であった神足る竜プロスペリテの像がどんな姿をしているか少し気になっていたのだが。まあ、仕方ないか。アイシャお嬢様だけでも神竜大聖堂を見学すればいいだけだし。
「あら?大丈夫よ。だって、貴方のぶら下げている金のメダリオン。王族のペットの証でしょ?。神竜聖導教会とて王族のペットを無下に出来ない筈よ。無下にしたら国際問題に発展すから。」
鳳凰竜フェニスはあっけらかんにとんでもないことを言い放つ。
え?俺ってそんな立ち位置なの?。
俺は竜瞳を見開き驚く。
てっきり王族のペットって王族の子守か世話係だと思っておりました。
王族のペットが特別な地位とかではなく。単なる王族の子守か王族の愛玩動物だと思っていた。
「え?ライナが王族のペットってどういうこと?。」
アイシャお嬢様は理解出来ずに頭に???マークを浮かんでいる。
もうそろそろアイシャお嬢様にネタばらし。種明かしすべきだろう。このまま隠し通すのも無理があるだろうし。,
ギャアラギャアギャギャアラギャアガアギャアラギャアギャアギャア
(アイシャお嬢様。実はシャルローゼ先輩はこの国の王女なんです。)
「王女?」
ギャアラギャアギャアガアギャアラギャアギャアギャアラギャアガアガアギャアラギャアギャアガアガアギャアラギャアギャアガアギャアラギャアガアガアギャア
(はい、実はお忍びで学園に在籍していたんです。隠していてすみません。シャルローゼ先輩が王女だということは学園では暗黙の了解のようになっていたようで。)
一部の学生はシャルローゼ先輩のことを王女だと気付いていたような気がする。
「アイシャ、ごめんね。私もてっきりシャルローゼ先輩がこの国の王女であるこということ。アイシャは知っていたと思っていたから。」
パールお嬢様はシャルローゼ先輩の事情を知っていたようでアイシャお嬢様に深く謝罪する。
「うん、それはいいんだけど。と言うことはメディアさんも王女で。ライナが乗せているマリスちゃんも王女ってこと?。」
ギャアラギャアガギャアギャギャア
(そういうことになりますね。はい。)
俺は竜首を下げてコクりと頷く。
「じゃ、ライナが今宿泊している所はあのお城ってこと?。」
ギャアラギャアガアギャア
(はい、左様で御座います。)
「た、大変だっ!?。ライナが粗相してないか!。シャルローゼ先輩に確かめないと!。」
俺が迷惑懸けていることが前提なんですね。アイシャお嬢様。
本当に自分の主人に信頼されてないと思うと軽くショックを受ける。
「大丈夫ですよ。ライナ様はマリス王女の面倒を心身になってやっております。学業の訓練疲れに関わらず文句言わずやってくれているんですよ。」
マリス王女専属メイドであるメニーさんが俺のお城での振る舞いを事細かく教えてくれて擁護してくれる。
メニーさんは温かいお心遣いに感謝感激雨霰である。
「そ、そうなんだ····。」
何とかアイシャお嬢様は俺のことを納得してくれたようである。
「じゃ、ライナは神竜大聖堂に入れるんだね?」
「そうですね。王族のペットなら神竜聖導教会も強く言って来ないでしょう。彼等にも彼等の立場と言うものもありますし。」
王城の内部事情に詳しいマリス王女の専属メイドであるメニーさんもフェニスの言い分に同調する。
「それじゃ、問題ないね。ライナ、一緒に神竜大聖堂に入ろう。」
アイシャお嬢様は笑顔で俺に言葉を投げ掛ける。
ギャ·······ギャアギャ···
(はい····そうですね····。)
うーん。これがきっかけで王家と神竜聖導教会との関係が悪化しないだろうか?。特に王族と教会の間で。国と教会の政のことなど解らないが。何か一波乱起こりそうで恐い。
北地区の神竜大聖堂の建物は丁度お城の真裏にある。神竜大聖堂の神秘的なゴシック式の建物の背後に尖り屋根が伸びるシャンゼベルグ城が見える。
「それでは私はマリス様をお城に連れて帰りますね。ぐっすりとお眠りになられているようなので。」
俺の背中で熟睡してしまったマリス王女を専属メイドであるメニーさんが代わりに背中に背負う。
ギャアラギャ?ギャアラギャ
(大丈夫ですか?。送りますよ。)
護衛も付けずに危険ではないかと俺は心配する。
「いいえ、大丈夫ですよ。神竜大聖堂は丁度お城の真裏にありますので裏口で帰ります。」
俺は建物を確認すると本当に神竜大聖堂の建物とお城の建物は近かった。ほぼお隣さんである。
マリス王女をメイドのメニーさんに託し。俺とアイシャお嬢様達は神竜大聖堂の敷地へと入る。神竜大聖堂内では白い宗教的な服装をした(おそらく神竜聖導教会の信者だろう)が熱心に参拝していた。
俺とアイシャお嬢様達は神竜大聖堂に続く大理石の路を進む。
すれ違う神竜聖導教会の信者と思われる人々はノーマル種の俺を見るとまるで穢らわしいものを見るかのような冷たい視線を向けてくる。
流石は穢れし竜。言葉通りに穢らわしい存在感である。
暫く長い大理石の石畳の路を進むと神竜大聖堂の巨大な装飾が施された扉に到着する。
扉の左右には王女の兵とは違う白いベール服で武装した警護の兵士が立っていた。
俺とアイシャお嬢様は神竜大聖堂の巨大な装飾の施された開かれた大扉を通ろうとする。
「待て!。」
予想通り兵士に呼び止められる。
「お前達の連れているのはノーマル種だな。ノーマル種は穢れし竜。神聖な神竜大聖堂に通すわけには行かない。悪いがお引き取り願おうか。と言うか何故堂々とノーマル種が王都の北地区を出歩いてるんだ?。」
ノーマル種が王都に特に貴族達が住む北地区にいることに神竜聖導教会の衛兵が不思議がる。
「解らないのですか?。神竜聖導教会の兵のクセに。」
「何だと!?貴様っ!。」
「ちょ、ちょっとフェニス!。」
神竜聖導教会に悪感情を抱いている鳳凰竜フェニスは神竜大聖堂の門番する兵に対して挑発するようにくってかかる。
二人の神竜大聖堂の大扉の門番はいきり立つように手持ちの槍を構える。
「このノーマル種のぶら下げている金のメダリオンを見なさい!。」
鳳凰竜フェニスはまるで自分事のようにでんと自慢の胸を前につきだして偉ぶる。オレンジ色の鶏冠の三本のアホ毛がびんびんと上へ上へとつり上がる。
「金のメダリオンだと·····。それはまさかっ!?。」
「王族のペットの証!?。」
二人の神竜大聖堂の門番は絶句した目をしながら狼狽える。
「な、何故ノーマル種が王族のペットの証を。」
「いや、確か王族がノーマル種をペットにしたという噂があったが。あれ、本当の話だったのか!?。」
二人の門番は目の前のノーマル種が王族のペットであるという事実に動揺する。
「それでどうするんですか?。通すんですか?通さないんですか?。通さないなら通さないで王族との国際問題に発展するかもしれませんねえ~。」
鳳凰竜フェニスはねちねち、ねちっこく門番二人に迫る。
うっわ~、かなりフェニス性格悪いな。相手の弱いところを痛いほど突いてくる。
俺は少し引きそうになる。
それほど神竜聖導教会が嫌いなのだろう。
「くっ、ノーマル種だが。王族と揉めることは神竜聖導教会も望まない。」
「良いのか?。神竜聖導教の戒律はどうなる?。」
「別にノーマル種が神竜大聖堂に入ってはならぬという戒律はないだろう。ただノーマル種が穢れし竜と言われているだけで。神竜大聖堂に入ることは禁止されている訳ではない。ただ前例がないだけだ。上層部が何か言ってきても王族のペットだったと言い訳できるしな」
二人の神竜聖導教会の門番は話し合いで結論を出す。
「よし!通っていいぞ。だがなるべく神竜大聖堂では大人しくするように。物音を一切立てるな。」
物音立てるなって···無理があるだろに。
俺は竜なので脚音がどうしてもドシドシとなるんだけど·····。
「では行きましょうか。」
オリンお嬢様に促され。俺とアイシャお嬢様は神竜大聖堂の大扉をくぐる。
大扉をくぐった神竜大聖堂内はステンドグラスの壁と天井が広がっていた。
「凄い·····。」
「これが神竜大聖堂····。」
「ふええ、物凄く広いです。」
ふわふわ
田舎暮らしの三人は聖堂内の光景に圧倒される。
「神竜大聖堂は広いだけでなく。迷宮のように入り組んでいるから。迷いやすいので気を付けて。」
王都の詳しいカリスお嬢様は神竜大聖堂の迷宮であることを忠告する。
ぞろぞろ
確かに神竜大聖堂は広く美しいだけでなく迷いやすいほど廊下が入り組んでいる。
ぞろぞろぞろぞろ
「あれ?ライナ、ここ何処かなあ?。」
ギャ!?ギャアラギャアガアギャアラギャアギャア!
(えっ!?て、みんなもいない。まさかっ!?迷子になった!!。)
俺とアイシャお嬢様はいつの間にかみんなからはぐれ。神竜大聖堂内のステンドグラスに囲まれた廊下で迷子になってしまったようである。
「どうしよう······ライナ···。」
アイシャお嬢様は金色の眉を寄せ不安にかられる。
ギャアラギャアガアガアギャアラギャアギャアガアガアギャアラギャアガアガアギャアラギャアガアガアギャアラギャ
(取り敢えず出口を探しましょうか。歩いていればもしかしたら目的の神足る竜の像にも発見できるかもしれませんし。)
「そうだね····。そうしよう。」
ほぼ迷宮のような広さといりくんだ神竜大聖堂の広い廊下を俺とアイシャお嬢様は宛もなく進む。
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