第256話 王都案内⑤


「寄り道して申し訳ありません。ここが主に竜騎士が闘技大会を行っているコロシアムです。」


ドーーーン

でっかいドーム状の建物が目の前にそびえたっていた。東京ドーム並の広さとデカさである。

アルビナス騎竜女学園がある騎竜都市ドラスヴェニアには王都のようなコロシアムはない。何故なら東方大陸は主に竜騎士よりも騎竜乗りの方が比率が高いからである。東方大陸に関しては明確な王国などはなく。明確な王国、帝国があるのは中央大陸、西方大陸、北方大陸だけらしい。何故か東方大陸だけには明確な王国、国というものは存在しない。貴族の家がまばらに存在するがそれを統制統括する国はないのだ。東方大陸の貴族達を実質統括しているのは中央大陸の王族である。

商家の貴族であるパトリシアお嬢様に聞いた話だが、東方大陸は特別な保護区域になってるらしい。外界から遮断され。国や帝国からの介入をできないように過去に国ぐるみで取り決めをしたらしい。理由は当然、救世の騎竜乗りの家系であるマーヴェラス家があるからである。生前のマーヴェラス家が所有していた騎竜、神足る竜プロスペリテを国が独占しないようにと。保護という形で東方大陸を放置しているのである。国が神足る竜のような巨大な力を一国の国が得ないようにという配慮ある苦肉の策だったらしい。しかし神足る竜プロスペリテが寿命で亡くなった機にマーヴェラス家は何故か王国からの支援が打ち切られ。そして王家7大貴族は本来神足る竜プロスペリテとその救世の騎竜乗りの子孫の家系であるマーヴェラス家を守護する役目を担う為、創設された貴族だったらしい。それさえも離れていってしまったのだ。

パールお嬢様が昔7大貴族に対して相当怒っていたのもそこにあったようである。

そして神足る竜プロスペリテを所有していた救世の騎竜乗りの子孫である家系のマーヴェラス家は没落の道を辿ったということである。



「でっかいねえ。ライナ。」

ギャアギャ·······

(そうですね·····。)


広いレース場は見たことがあるけど。これ程のデカい建物を見たのは初めてである。


「行きましょう。」


ぞろぞろぞろぞろぞろ

コロシアムの正門に続く石畳の路の左右には銅像が並んでいた。コロシアムの歴代の覇者と思われる人や竜(ドラゴン)が銅像になって並んでいる。


ぞろぞろ


「あれ?ライナこれって。」


アイシャお嬢様はふと、ある銅像が目に止まる。歩む足をとめ立ち止まり。目の前の銅像をアイシャお嬢様はまじまじとみる。


ギャアラギャアギャ?ギャアラギャア

(どうかしましたか?。アイシャお嬢様)


アイシャお嬢様が熱心にみいいる銅像に俺は竜瞳の視線を向ける。


そこにはまるでナポレオンのような凛々しげな格好でポーズをとる騎竜に騎乗した騎竜乗りの女性の銅像が建っていた。

騎竜に乗る凛々しげな女性はでんと自慢するような大きなふっくらとした胸をつきだし。覇気というか過激というか。そんな性格のイメージの印象を与える女性であった。そしてその彼女を背に乗せる騎竜は筋骨粒々に発達した筋肉を漲らせて。ボディビルダーのモスト・マスキュラーのボージングをしている。


「この筋肉の騎竜って、もしかしてレッドモンドさんだよね。」

ギャアラギャア

(みたいですね。)


背に乗るでんと胸を付き出してはナポレオンのようなポーズをしている女性は恐らく若かりし頃の学園長、狂姫ラチェット・メルクライなのだろう。若かりし頃の学園長は解らなかったけど。筋肉を漲らせた騎竜は直ぐに師であるレッドモンドさんだと解った。


「えっと333回闘技大会ストロンゲスドラゴンヒューマチャンピオンだって。何か凄いねえ。」


アイシャお嬢様は銅像の下についているプレートを確認して素直に感心する。


「狂姫ラチェット・メルクライの銅像ね。竜騎士の闘技大会で唯一、騎竜乗りでありながら優勝を果たしたのが彼女よ。竜騎士科も彼女の功績には素直に称賛しているわ。今でも彼女のファンがいるくらいだし。」


オリンお嬢様が我が狂姫ラチェット・メルクライの説明をする。

本当に学園長もレッドモンドさんも昔はかなりやんちゃしていたんだなあ。

レースを主流の騎竜乗りと騎竜が純粋な戦闘である闘技大会で優勝するんだから普通にあり得ないことである。感心するが真似したくはない。特にアイシャお嬢様には絶対、闘技大会には出場して欲しくない。学園長みたいにヒャッハーになりそうなので·····。


「アイシャも出場したらどう?。狂姫の二投流が扱えるんだからいい線いくと思うよ。」


ギャッ!?

(えっ!?)


オリンお嬢様の隣でラムお嬢様が提案に俺は青ざめる。


何てこと言うんですか!ラムお嬢様。これ以上アイシャお嬢様が戦闘狂みたいになったらどうするつもりですか!!。

俺は心底非難の悲鳴をあげる。


「う~ん、私は戦闘とかにあまり興味ないんだ。レースしてる方が楽しいし。」


アイシャお嬢様は笑顔でラムお嬢様の提案を断る。

ホッ、よかった。アイシャお嬢様が闘技大会に興味を持たなくて。一先ず主人が戦闘狂になる可能性が消えたので一安心である。


「それではコロシアムに入りましょう。大会や賭け試合とかは今日は開催されていないから。受付せずに入れますよ。普通は入場料を払わなくてはいけないのですけど。」


どうやらコロシアムの常時運転には受付にて入場料を払う必要性があるようである。


アイシャとライナは人がいない受付を素通りしコロシアムの内部に入る。

コロシアムのドーム内は広大な広さでノーマル種でも寸なり入れた。オリンお嬢様に案内によりカーブ状の通路を通り。階段を登り。アーチ状に客席が並ぶ観戦席に出る。


「凄い!これがコロシアム····。」


アイシャお嬢様はコロシアム内部の広さとレースとは違う雰囲気に圧倒する。


「コロシアムでは人部門のヒュール、竜部門のドラグーン、そして特定の三種類の武器をもちいて騎竜が竜騎士を乗せて闘うジョストがあります。大会はほぼトーナメント方式で行われ。大会のない日は主に荒くれ者達の賭け試合しています。賭け試合には人や竜が魔物との対決したりもします。」


オリンお嬢様は坦々とコロシアムの闘技場の説明をする。


「な、何か怖いね···。」


アイシャお嬢様はレースと違う殺伐としたコロシアムのルールに少し気圧される。


なっ····何で········?


ぱああ

広大なコロシアムの舞台場に俺の竜瞳の点が丸くなる。

あり得ないものを目撃したからである。

何の変哲もない闘技の為に使用されるドーム。そこにあり得ないものがアレーナの中心であるど真ん中に沸いているのだ。

他のものは気付いていないのだろうか?。


あれはどうみても···。


「ここのコロシアムの不思議なんです。ここで闘う騎竜も人達も。このコロシアムの舞台場で闘うと不思議と力がわいてくるんです。本来よりも数倍の力を発揮しているみたいなんですよ。」


オリンお嬢様はコロシアムの裏話のようなものを口にする。



「そんな不思議なことがあるのですね。」

「ふええ、確かに何か私の胸や肩が軽いです。」


ふわふわ

パールお嬢様がコロシアムの不思議話に少し興味を持ち。アーニャお嬢様は何処か気分がはつらつしている。


ライナは竜の図体が硬直したように固まる。



何で?、何でコロシアムの地面のど真ん中にスフィアマナン(世界の通り路)がわいているの?。



ぱあああッ

開い闘技場の真ん中に黄色の淡い光が漏れていた。

どうみてもコロシアムのアレーナの地面から沸きだす黄色染まる淡い光の粒子は紛れもなくあのスフィアマナン(世界の通り路)である。

コロシアムの闘技場のど真ん中に不自然に地面から沸いているのだ。


いやいやいや、おかしいだろ?。確かにスフィアマナンは何処でも沸いてる可能性はあるけどさ。よりにもよって王都のしかも闘いの場であるコロシアムのど真ん中で沸いているとか本当におかしい。


スフィアマナンは俺が龍の技を出す為に必要な膨大な地脈のエネルギーである。俺の世界で言う龍脈であり。異世界の万物の源のようなもので。それが普通に都会のしかも王都のコロシアムのど真ん中で沸いているのだ。普通はもっと自然溢れるところに沸いているとおもうのだが·····。



ぱああああッ


ギャ···ギャアラギャアギャアガアギャアラギャアギャアガアギャアギャアガアギャアラギャアギャアガア·····

(ま、まあ····スフィアマナンが王都のコロシアムのドームのど真ん中に沸いていても俺には関係ないことだな····。)


俺は特にコロシアムの寄る予定はないので。スルーすることにする。賭け試合することもない。金は稼げるだろうが。アイシャお嬢様が賭け事はあまり好きではない。それに純粋な戦闘に興味ないならアイシャお嬢様が気が変わって。コロシアムの闘技大会に出場するということもないだろう。

俺は一先ず王都のコロシアムにスフィアマナンのことは頭の隅に置いておくことにした。

考えても仕方ないし····。


「さあ、建国記念杯の西地区の塔を確認したら次は北地区に向かいましょう。」


オリンお嬢様に先導されコロシアムの観客席を後にする。


ぞろぞろ

観客席に続く階段を下りて。コロシアムのドームのカーブ状の長い通路をぐるりと周り。コロシアムの入り口付近である受付を目指して進む。


コツコツコツ

ぴた


カリスの足が急に止まる。

コロシアムの大理石の柱に貼っているポスターに目がいく。


「人と竜の最強を決める闘い第377回闘技大会、ストロンゲスドラゴンヒューマ開催。ヒュール部門、ドラグーン部門、ジョスト部門、どれでも募集可能。募集制限無し。竜騎士でなくても出場可能。優勝報酬は王の謁見と·····。神竜銀貨30枚···。王国内の一部の称号権利権限を与える。(範囲内で)。」


じっとカリスは釘入るように闘技大会の募集要項を見つめる。


「開催日は·····合宿期間中の最終日前か····。」


カリスの長い栗色のポニーテールの髪がコロシアムドーム内の吹き抜けの風で一瞬揺れる。


「ふええ、カリス。どうかしたの?。」


ふわふわ


ぼーとポスターの前に立ち尽くすカリスを心配そうに親友のアーニャが話しかける。


「カリス?。」


主人の様子に弩王竜ハウドも小さな青い眉が寄る。

ぐ~ぐ~

地土竜モルスは倒立しながら器用に眠っている。


「何でもないわ。行きましょう!。」


カリスはスッと止めた足を再び動かし歩きだす。


「ふえ?。」

「······。」


カリスの唇がきゅっと締まり。何かを決意したかのように両手がぎゅっと強く握り締められる。

瞳には光を宿し。カリスは目的が定まったようなスッキリとした表情を浮かべていた。


これが後にライナに新たな受難を引き寄せるとは。今のライナには知る由もなかった。



···························


西地区のフラッグ奪取地点である西の塀塔に到着し。西塀塔を確認する。

建国記念杯のせいかより鮮やかに飾り付けされていた。塀塔の頂上には吹き抜けような空洞があり。きっとそこに多量のフラッグを置くのだろう。目の前には番人と呼ばれる騎竜に乗った騎竜乗りか竜騎士が配置されるそうだ。そこをくぐり抜けて塀塔の頂上の吹き抜けにあるフラッグ(旗)を奪取するのだ。


「西の塔を確認しましたね。さて、次はいよいよ北地区です。あそこは貴族街や。神竜聖導教会の教会や神足る竜の大聖堂があるわ。」

「神足る竜の大聖堂か。行ってみたいね。ライナ。」

ギャラギャギャ·····

(そ、そうですね·····。)


俺は曖昧にアイシャお嬢様の返事を返す。

正直神竜聖導教会にはアイシャお嬢様を関わらせたくないのだが。アイシャお嬢様が救世の騎竜乗りの子孫なら神竜聖導教会はきっと放っておかないような気がする。救世の聖女として救世の騎竜乗りが崇めているなら。その子孫であるアイシャお嬢様は神竜聖導教会にとって信仰対象である。アイシャお嬢様が救世の騎竜乗りの子孫と解れば大変なことになる。


「正直、北地区には行きたくないのよね。神竜聖導教会の信者、信徒がうようよいるんだもの。」


鳳凰竜フェニスはメラメラと燃えるようなオレンジ色を鬱陶しげにかきわけ顔をしかめる。


「そう邪険にしないの。フェニス。彼等はただ信仰対象である神足る竜と救世の聖女を熱心に崇め信仰しているだけなんですから。」

「何言ってんの。オリン。そのせいでうちのスラムの孤児院の子供達が弾きものにされているんじゃないの。あいつらが普通に慈善事業でスラムの孤児を引き取って入ればこんなことにはならなかったのよ!。神竜聖導教会は孤児を選別して。自分達専用の孤児院に入れるべきかどうかふさわしいか決めているんだから。ふざけんじゃないわよ!。」

「·········」


鳳凰竜フェニスは神竜聖導教会の孤児の受け入れのやり方に激しい憤り感じていた。

怒りの熱気が此方まで感じとれる。


「神竜聖導教会の創設者であらせられる博愛や慈愛に満ちた千年もの寿命をもつ竜、聖法皇竜ローマシア様はそんな方ではないのですがねえ。」


聖竜族を束ねるという千年聖竜と呼ばれる聖法皇竜ローマシアは人も竜も平等に接する慈悲深き竜(ドラゴン)だと聞いている。


「自分の信者や信徒のかじ取れない時点で既に終わってるわよ。あの竜(ドラゴン)。」

「フェニス·····。」


鳳凰竜フェニスの言い分に困った顔を浮かべる。


「まあ、とりあえず北地区を案内致しましょう。アイシャは神足る竜が奉る神竜大聖堂に行きたいのね?。」

「そう、神足る竜の像とか見てみたいし。」

「折角ですので神竜聖導教会には寄りたい方いますか?。」


オリンは他の生徒にも確認する。


「アイシャが行かないなら私もいいです。」

「私も別にいいわ。」

「ふええ、私も特に用がないです。」

「私は教会は少し苦手だから····。」

「お嬢様が行かないのなら私も遠慮します。」

「特に教会知りたいことはないんですね。」

「美味しい食べ物があれば行きます。」

「私はマリス様の面倒みるので精一杯です。」

スーー スーー



何かあまり神竜聖導教会が人気ないですけど····。

これでも信者数は世界の三割があるはずなんですが·····。

オリンは苦笑する。


「では王都の北地区に参りましょう。」


アイシャ達は最後の塀塔を確認するため貴族街と神竜聖導教会の拠点がある北地区へと向かう。

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