第240話 特訓の成果

『ね、だから言ったでしょう。あのノーマル種は大丈夫だって。』


メラメラとオレンジ色の炎を宿した羽毛を広げ鳥のような竜がえっへんと胸をはる。オレンジのくちばしがどや顔を決める。


「まさかあのノーマル種がこんにも速いなんて····。」


鳳凰竜フェニスの主人オリン・ナターシスはスタートラインにとどまったまま茫然としていた。既に竜騎士科と騎竜騎乗り科の生徒は皆あの例のノーマル種の後を追っている。


『ノーマル種の主人が変な動作をしていましたね。何か自分の胸を竜の背中に押し付けて擦り付けていましたけど。どういう意味があるのでしょう。それにおパパイーヨ‼️と言う言葉を竜言語でノーマル種が連呼しておりましたが。その意味もよく解りません。』


魔剣竜ホロホスも奇妙な加速飛行に困惑する。


「あのノーマル種、本当面白い!。何か好きになった。」


魔剣竜ホロホスの主人ラム・カナリエは奇妙な加速飛行すをるノーマル種を気にいった。


「でも状況は改善したわけではありませんよ。フェニス。どうやら会話の中で竜騎士科もノーマル種を狙っているようですし。これは本当の意味で多勢に無勢ですよ。加勢しなくてわ。確かにあのノーマル種の加速飛行は凄いですけど。スピードに強い或いはスピードに特化した竜なら直ぐに追い付かれます。急ぎましょう!。」


オリンは騎竜乗り科だけでなく竜騎士科もあのノーマル種と他校の一年を狙っているというなかなりのピンチである。


『それほど心配しなくてもいいとおもうのだけど····。』


あのノーマル種がスピードだけが取り柄でないことは鳳凰竜フェニスは把握していた。


「おい!みたか?。」

「ああ、見た!。」

「ノーマル種があんな上位種並みのスピードを出せるわけない。どういうことだ!?。」

「俺見たぞ!。あのノーマル種の騎竜乗りが自分の胸を押し付けて擦り付けているところを。」

「何っ!?。つまりあれはアルビナス騎竜女学園があみだした新たな騎竜の加速飛行法かもしれないな。」

「それしか考えられねえ!。ノーマル種があんな加速飛行できるわけがない!。」

「俺達も試してみるか?。」

「そうだな。下等なノーマル種の騎竜乗りが出きるなら俺達にも出来ないわけがない!。」 

「よし!そうするか!。」


竜騎士科の一部の令息生徒一同大きく頷く。


      【騎竜一同】

「「「やめてくれえーー!!。女性はともかく男に背中を胸で押し付けられ。擦り付けられても嬉しくも何ともねえーーっ‼️。」」」


アイシャの加速飛行を見て。新たな騎竜の加速飛行法だと勘違いした一部の竜騎士科一同は自分達の騎竜にも試そうとする。それを相棒のオス竜の騎竜達は激しく非難する。


「シーシス、凄いねえ。あのノーマル種。変な動作して物凄くはやくなったよ。私も真似しようかなあ。」

『なっ、なななななな、なな、何てハレンチなっ!。あんな品性の欠片もない加速飛行がありますか!。全くあのような下品な加速飛行など。我が信徒でもやりませんよ。彼女には騎竜乗りとしてなんたるかを。神竜聖導教会の信徒代表として教え込まなくてはなりません。』


シーシスの一方的な正義感がBoin走行を行なったアイシャを正そうと躍起になる。


「あのノーマル種にあんな加速飛行して貰えるなんて。な~んて羨ますぎるんだ!。」


美形の人化の聖光竜クリストファーはスタートラインを物凄い加速スピードで飛び立ったノーマル種を羨ましげに見つめる。


「そうか?、物凄くドン引きするんだが?。」


磁電竜オロスは半分呆れ顔で言葉を返す。


「何を言うのですか!。あんな麗しい令嬢の胸の膨らみを背中で受け止め。尚且つ擦り付けてくれるのですよ。騎竜冥利に尽きるではありませんか!。」


美形の男性姿の聖光竜クリストファーは激しく反論する。


「どういう基準だよ····。」


磁電竜オロスは呆れた竜顔を浮かべる。

時々長年付き合いである聖光竜クリストファーのことが解らなくなる。主人の方はまともなのに···。


「·····。」  

「咲夜様。」


アイシャとライナのBoin走行を目にして咲夜は押し黙る。

蛍そんな主人の様子を心配そうに顔色を窺う。


「蛍、今からあのノーマル種のこと。記憶から抹消致しますね。」

「はあ、左様ですか··。」


主人の心情など計り知ることはできない。蛍はこれ以上余計な口をださぬようと唇をきっちり締めることにした。


「ははっ、何あれ?。面白い加速飛行法ね。」


ラウラ・ベセソフィナは腹を抱えて笑う。


「だから言ったでしょう。知らない方が面白くなるって。」


落ち着いた様子で人化の三つ目が静かに閉じている三眼竜シヴァは微かに唇が綻んでいる。


「はは、まあ確かに貴方の千里眼で先を教えられるよりは実際みた方が面白いわね。これは。悪かったわね。シヴァ。」

「いえいえ、お気に召して何よりです。」


三眼竜シヴァは満足そうな笑みを浮かべる。


「ね、ねえ、ネフィン。私は何を見ているのかしら?。」


エネメリス・フェレンチェはアイシャとライナの加速飛行を見て頭が回らずただただ凍りついたように唖然とする。


「そう言う自問自答繰り返すような物言いはボケを早まらせるきっかけになりますので。やめた方が宜しいですよ。エネメリス。まあ、私も驚いてはいますけど。ただあの変な加速飛行には少し見覚えがあるのですけどねえ····。」


絶帝竜ロゾンとは同期の間柄だった精霊帝竜ネフィンはあのノーマル種の変な加速方法には多少見覚えがあった。

確か筋肉素ん晴らしい!とかいって。全身の筋肉を脈打ちながら物凄い勢いで加速飛行を行なった竜(ドラゴン)がいましたっけ。大分方向性が違いますけど。本質的には同じような気がします。



「なあ、ザイン。あのアルビナス騎竜学園の加速飛行って····。」

『多分あれはあのノーマル種だけの加速飛行法だろうな。どういう原理かしらんが。あの乗り手の騎竜乗りが胸をノーマル種の背中に押し付けたことにより。やつのパワーが一気に上昇した。俺の特性と少し近いかもな···。』

「ザインと近い特性か····。」


ゼクスは少し考え込む。


「少し······羨ましいな······。」

『はっ?。』


ぎゃああああああああーーーーーーーーーー!

(おパパイーヨ‼️おパパイーヨ‼️おパパイーヨ‼️おパパイーヨ‼️おパパイーヨ‼️おパパイーヨ‼️おパパイーヨ‼️おパパイーヨ‼️おパパイーヨ‼️おパパイーヨ‼️おパパイーヨ‼️おパパイーヨ‼️)


ひゅん!


「全然追い付けねえ!!。」

「糞!。何でたってノーマル種があんなに速いんだよ!。」


竜騎士科のフルメタルボディを着た令息生徒は物凄い速さで加速するノーマル種に追いつこうと必死にもがき。己の騎竜を急き立てる。


「くっ、これじゃ埒があかない。おい!お前ら。スピード特化した竜(ドラゴン)や、速さ自信がある竜だけ集めて奴を止めろ!。足止めできれば何でもいい。攻撃さえ出来ればこちらに勝機はある!。所詮ノーマル種だ。戦闘能力などたいしたことはない!。竜騎士科の威厳にかけて何としてでもあのノーマル種を討ち倒すんだ!!。」

「「了解!」」【一年竜騎士科一同】


竜騎士科の速さに自信有る騎竜だけが前に出てノーマル種を追う。


『我らをコケにしたことを後悔させてやる!。』

バサッ


激しい怒気を放ちスピードに長けた竜騎士科の竜達が先頭に位置するノーマル種をぐんぐんと距離を縮ませ責めていく。


「何でノーマル種があんなに速いのよ!。しかもあの他校の一年の変な行為で速くなってるし!。」


一人の騎竜乗り科の令嬢はヒステリー紛いに文句を言う。


「何処まで騎竜乗り科を馬鹿にすれば気がすむの!。絶対に許さない!!。」


騎竜乗り科もまた物凄いスピードで突き進むノーマル種に追い付けずにいた。


「私達の中でスピードが優れている騎竜はあのノーマル種を包囲して!。そしたら私達があのノーマル種の背に乗る他校の一年の騎竜乗りを一斉に叩き潰すから!。」

「もうなりふり構っていられないわ!。何としてでもあの他校の一年を叩き潰してやる!。」


   【騎竜乗り科一同】

「「「OK、私達に任せて!。」」」


騎竜乗り科の一年の中でスピードに自信のある騎竜達が先頭を陣取るアイシャとノーマル種目掛けて突き進む。

びゅうううう


「ライナ、もうそろそろ引き返し地点だね。」


目の前に王都を囲む東地区の塀が見えてきた。


ギャアラギャアラギャアギャア!

(このまま一気に行きましょう!。)


このままなら戦闘せずに無事ゴールに着きそうである。何か後ろから竜騎士科と騎竜乗り科の生徒達と騎竜が物凄い形相で迫ってきてるような気がするが···。


後ろ向きでも突き刺すような鋭い視線を肌で感じ。

ライナは強烈な殺気に後ろをみないことにした。


ひゅんーー

俺とアイシャお嬢様は猛スピードで目の前の東塀の目と鼻の先まで到達する。後は此処でUターンするだけだ。

ライナは引き返し。背を聳えた立つ東の塀に向ける。


「そこまでだ!!。」

「そこまでよ!!。」


俺とアイシャお嬢様が東地区を囲む塀の引き返し地点から引き返そうとすると。取り囲むように一斉に竜騎士科と騎竜乗り科の一年生達が包囲する。

他のアルビナス騎竜女学園の生徒にも目も暮れず俺達だけを狙っているようだった。


「アルビナス騎竜女学園のノーマル種の一年、貴方にはここで終わらせる!。私達騎竜乗り科をここまで泥を塗ったことを結して許さない‼️。」

「アルビナス騎竜女学園のノーマル種。貴様が俺達の竜騎士科の騎竜に喧嘩を売ったことを解ってるぞ!。我等の誇りを汚したことを後悔させてやる!!。」



互いに言い分を言い放ち。激しい怒りで激昂する。


「追い付いたわ!。」

「我等も加勢するぞ!。」


バサッバサッ

後方から新手のスピードに特化していない騎竜持ちの竜騎士科と騎竜乗り科の一年が双方の科の包囲網に合流する。


「さあ!覚悟しろ!ノーマル種‼️。」

「さあ!覚悟しなさい!ノーマル種の騎竜乗り!。」


竜騎士科と騎竜乗り科の一年のまとめ役である生徒が揃って宣言する。


むっ!?

竜騎士科と騎竜乗り科は隣の存在に気付き互いに睨み合う。


「ちょ、ちょっと!、邪魔しないでよ‼️。竜騎士科!。」

「そっちこそ邪魔するな!。騎竜乗り科!。ここは我等竜騎士科が誇りを取り戻すための真正な戦いだ!。」


多勢に無勢な戦いに真正もなにもないだろうに。

俺は呆れた竜顔を浮かべる。

どうみてもよってたかっての多勢に無勢な包囲網である。


ギャーギャー わあーーわあーー


竜騎士科と騎竜乗り科の面々は互いに口喧嘩を始め。激しい口論になる。


「いい加減にしなさい!。竜騎士科。このノーマル種の騎竜乗りは私達のターゲットなの!。邪魔しないで!!。」

「黙れ!騎竜乗り科!。あのノーマル種は俺達の獲物だ。横取りするな!!。」


ガミガミ‼️ ギャアギャア‼️

互い互いに双方の科の口喧嘩がヒートアップする。


さて、ここからどうするか···。どうやら一年の騎竜乗り科も竜騎士科も俺達を狙っているようだが····。

ここは精霊を使ってまとめて片付けるか。或いはBoin走行で逃げ切るという手もあるが。スピードで東地区の塀まで追い付いてないところをみると。それほど速いスピード特化した騎竜はこの組の一年にはいなさそうである。


ライナは考え込む。

戦うか逃げるかどちらか一択である。


う~む

俺は腕を組みを長首を傾げて考え込む。


「ライナ、ここは私にやらせて。」

ギャ!?ギャアラギャア?

(えっ!?アイシャお嬢様?。)


突然俺の背に乗るアイシャお嬢様が発言する。

アイシャお嬢様は冷静な雰囲気を醸し出し。目の前で口論している多勢に無勢な竜騎士科と騎竜乗り科の包囲網にも意に介していない。


「ライナ、学園長の猛特訓の成果を見せる良い機会だよ。私が強くなったところみせてあげるね!。」


アイシャお嬢様はやる満々な様子で既に臨戦態勢な状態であった。


ギャギャラギャ···

(そ、そうですか····)


血の雨降らなきゃいいけど····。

アイシャお嬢様に限ってそんなことはないとおもうけど。猛特訓を受けたの相手があの学園長だ。容赦ないというか過激と言うか。

俺は双方の科が五体満足無事であることを切に願う。


アイシャは宝玉のついた両手を真下に広げる。


「武装解放‼️。」


ぱあああ

アイシャが叫ぶと宝玉のついた両手のドラグネスグローブに淡い光が放たれる。


パシッ

光がおさまるとアイシャお嬢様の両手は二対のブーメランが握られていた。



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