第241話 狂姫の再来

『二丁のブーメランだと!?。』


無双竜ザインはノーマル種の乗り手が二丁のブーメランを両手にだしたことに驚く。


「二投流だと!?。」


ゼクスもノーマル種の乗り手があの三大陸制覇した騎竜乗り、狂姫ラチェット・メルクライと同じ二対のブーメランを扱うことに驚愕する。

狂姫は竜騎士科の中でも有名である。よい意味でも悪い意味でもだ。あの好戦的克つ過激な性格は竜騎士の界隈からも畏怖されている存在である。コロシアムでも333番目の優勝者であり。唯一騎竜乗りでありながら竜騎士をバッタバッタとなぎ倒し。コロシアムの頂点まで上り詰めた豪胆たる大胆な女傑である。狂姫の騎竜乗りでは三大陸制覇は有名ではあるが。王都ではその激しい狂気じみた戦いからコロシアムの優勝者のチャンピオンとしてでも有名である。

騎竜乗りが戦闘面で勝ち上がることなど本来ならあり得ないことである。竜騎士は主に戦闘に重点に置き。国を守る為に戦う。しかし騎竜乗りはあくまでレースで勝ち上がり戦績を積んで名を上げる。戦闘が重要ではなく。あくまで先に一着にゴールに到着することを優先される。戦闘はあくまで他のライバルの飛行を妨害したり蹴落とすことが目的であって。倒すことを重要視されていないのだ。故に国を守るために戦闘面を重視している竜騎士は戦闘のエキスパートである。それをバッタバッタとなぎ倒してしまうのだから狂姫の異常性が見てとれる。竜騎士の方でも狂姫は人気がある騎竜乗りである。その相棒である強靭のレッドモンドもまた王都では人気があり。筋肉質の竜騎士や筋肉好きの令嬢などのコアなファンが多いと聞く。それに似合うほど世界に五匹いるとされる最強の一角である強さもまた本物である。スキルと魔法は一切使わず。純粋に己の力と筋肉のみでのしあがった強者の竜(ドラゴン)である。そんな純粋な強さを持った騎竜だからこそ一部の竜騎士からも敬愛されている。

彼女が二対のブーメランを扱うということは実質狂姫の二投流を扱えるということである。

お遊びで扱えるほど狂姫のブーメランの二投流は甘くはない。独学でも無理な話である。話によると狂姫から二投流を学ぼうとした騎竜乗りの志願者が狂姫の非過激的な猛特訓に死者が出たとか出ないとか。軽はずみで狂姫の二投流を扱える代物ではないのだ。

それでもあのノーマル種の乗り手である他校の一年が。二対のブーメランを出したということは狂姫の二投流を扱えるということである。


無双竜ザインの言い分からノーマル種を興味をもったが。もしかしたらノーマル種の乗り手もまた化けるのではないかと。


ゼクスは好奇な目で二対のブーメランを携えるノーマル種の乗り手に視線を注ぐ。

普段強さしか興味がない竜騎士科最強の男ゼクス・ジェロニクスは久しぶりに狂姫と同じ武器を持つノーマル種の乗り手に興味を持つ。


「二対のブーメランだと!?。」


口論していたフルメタルボディの甲冑を着る一年生の竜騎士科の令息生徒も絶句する。

あの狂姫と同じ武器を出したのだ。一瞬怯んでしまい押し黙る。


「二対のブーメランですって····。」


一年の騎竜乗り科の令嬢生徒達もノーマル種の騎竜乗りがドラグネスグローブから二対のブーメランを出したことに驚くが。直ぐに我に返りぷるぷる身を震わせ怒りを露にする。


「何処まで騎竜乗りを馬鹿にすればいいの!。ノーマル種を騎竜にするにも飽きたらず。狂姫の二投流までだして。私達をおちょくるのもいい加減にしなさい!!。」


騎竜乗り科の令嬢生徒達は一斉に激しく激昂する。ノーマル種の乗り手であるアイシャが二投流を扱えるなど誰一人として思っていなかった。ただ、ノーマル種を騎竜にし。狂姫の真似事したことに一年の騎竜乗り科全員が腹が立ち。馬鹿にされたと勘違いしたのである。


ざわざわ

「動揺するな、お前ら。単なるコケおどしだ!。ノーマル種を騎竜にする他校の騎竜乗りがあの狂姫の二投流を扱えるわけがない!!。」

「そ、そうだな。あの狂姫のブーメランの二投流は過激な戦闘から誰一人として会得出来ず。相手をしたものも一切手も足も出なかったと聞く。一般のしかも他校の一年が扱える代物ではないな。」


少し動揺を隠せなかった竜騎士科の令息生徒達は直ぐに落ち着きを取り戻す。


スッ

アイシャは両手に持つ二対のブーメランを少し肩の上の位置まで掲げると。それを違和感なく静かにまるで自然体のように流すように双方の科に投げ入れる。


ひゅん

くるくるくるくるくるくるくるくるくるくる


ゆったりとしたの弧を描きながら竜騎士科と騎竜乗り科のもとにアイシャが放った二対のブーメランが向かっていく。


くるくるくるくるくるくるくるくる


バッキィ!

キンッ!


「馬鹿にはするなっ‼️」

「馬鹿にしないで‼️。」



竜騎士科と騎竜乗り科の一人が自分達に向かってきた二つのブーメランを持っていた剣と槍で弾き返す。弾き返された2つのブーメランはまたくるくると回りアイシャの手元へと戻っていくる。


「二対のブーメランは狂姫の愛用の武器よ!。一般の学生が扱える代物じゃないわ!。」

「狂姫の真似事など片腹痛いわ!。俺達が用があるのはそこのノーマル種だ!。乗り手である騎竜乗りは引っ込んでろ!。」


お互いノーマル種の乗り手であるアイシャに罵声を上げる。しかしそんな怒り心頭な双方の科にも茂もなく。アイシャはマイペースに戻ってくるブーメランを掴もうとする。


「ええい!こんな飯事に付き合いきれん!。おい、お前らノーマル種をさっさと叩き潰すぞ!。」

「貴女の茶番に付き合うほど私達は暇じゃないのよ!。ノーマル種だけでなく狂姫の真似事までして!。絶体許さない!絶体後悔させてやる!。」


竜騎士科、騎竜乗り科は各々臨戦態勢にはいる。各々の思惑に基づいて一斉にノーマル種とノーマル種の騎竜にするアイシャに攻撃を仕掛かける。


くるくるくるくるくる

アイシャの投げた二対のブーメランがゆっくり周る。戻ってきたブーメランをアイシャのドラグネスグローブを嵌めた手が触れようとした瞬間。


シゅ パーン!!


「えっ!。」

「はっ!。」


ガン‼️ グラッ


それは一瞬だった。アイシャが戻ってきたブーメランを掴もうとする手が物凄い速さで激しく弾いた。

その瞬間フルメタルボディの鎧を着た一人の竜騎士科の一年男子が騎竜の背から崩れ落ちる。


「フベル!。」


気絶しているのか。

フルメタルボディの鎧を着て表情が解らぬ竜騎士生のフベルがぐらりと竜の背から崩れ落ち。フベルは空中をまっ逆さまに落下していく。落下する竜騎士科の生徒はぴくりとも動かずそのままなすがままに地上へと落下する。

急いで相棒の騎竜がその後を追う。


くるくるくるくるくるくる

スッ パぁーーン!


後方から戻ってくるもう一対のブーメランをアイシャは物凄い手捌き指捌きで弾く。


「きゃっ!。」


ガツっ! グラッ


「なっ!?。」


次は騎竜乗り科の令嬢生徒の一人が騎竜の背から崩れ落ちる。


ひゅううううう~~~

気絶はしなかったものの自分が今何されたのか理解が追い付いていない。


「なっ、何?。何が起こったの?。確か私···痛っ!。」


彼女の頭部に激痛が走る。おそるおそる手で触れるといつの間にか大きなたんこぶができていた。


「何でたんこぶが私の頭に?。何かがぶつかったの?。」


騎竜乗り科の落下した令嬢はやっと自分が頭に何かがぶつかりバランスを崩して自分が落ちたのだと理解する。そして自分が今、何されたかも理解した。


「ま、まさか···本当にあの他校の一年。狂姫の二投流を扱うの?。」


彼女の背筋がぞくと冷たい汗が流れる。恐怖に自分が今落下していることさえ忘れる。


「な、何よ···これ?。」

「あり得ない。まさか本当に狂姫の二投流を扱えるというのか?。」


パァン!パァン!パァン!パァン!


「ぐあああー!」

「きゃあああ!!」

「うわああ!!。」

「いやぁああ!!。」


アイシャが戻ってくる二対のブーメランを物凄い速さの手捌き、指捌きで弾く度に断末魔のような叫びをあげながら次々双方の科の騎竜の背から生徒が叩き落とされる。


「散れ!散れ!集まると狂姫の二投流の餌食になるぞ!。お前ら速く散れ!。」


竜騎士科のまとめ役である竜騎士科生徒が集まって陣を組むことが狂姫にとってかっこうの的になってしまうことを悟る。戦場や陣を組むことに特化した竜騎士候補生ならではこその対応であった。


「私達も集まるのは危険よ!。散って!。」


騎竜乗り科も戦闘のエキスパートでなくてもこの状態がまずいと解る。竜騎士科と騎竜乗り科は互いにごちゃ混ぜになるほど空中に散っていく。


「······」


アイシャはそんな様子に顔色一つ変えず冷静に対応する。


        回想


「いいですか。アイシャ・マーヴェラス。最もブーメランにおいて一番隙ができるのは何処でしょうか?。」


狂姫である学園長の激しい猛特訓を受け。アイシャが学園長に問いかけられる。

アイシャは少し首を傾げながらも答える。


「えっと···投げて戻ってくる間でしょうか?。」


アイシャの解答に学園長は静かに首をふる。


「いいえ、違います。最もブーメランに隙ができるのは投げる時と掴む時です。故に最初は投げてもよいですが。その後は掴んだり投げたり一切しないで下さい。」

「?。あの···掴んだり投げたりしないとブーメラン使えないんですけど····。」


アイシャは学園長の意図がよく解らなかった。


「では実際例を見せますね。」


学園長はそういうと一つのブーメランを取り出し。軽く投げいれる。


ひゅん

くるくるくるくるくるくるくるくる


学園長が投げ入れたブーメランは綺麗な弧を描き学園長の手元へとゆっくりと戻ってくる。

しかし学園長は目の前に戻ってきたブーメランをそのまま激しくなぎ払うように弾いた。


スッ パぁーーンッ!


激しく弾かれたブーメランはスピードの威力が衰えることもなくそのまま別の方向へ飛ぶ。


「凄い·····。」


アイシャは一度みているが。それでも学園長のブーメラン捌きが凄いと正直におもった。


「このように掴んで投げるのではなく。そのまま威力を保ちながら力を加えるように弾くのです。ブーメランが回転する遠心力が懸かる力点を見極め。その箇所を魔力を込めた掌で力強く加えるように弾くのです。こうすると掴むことも投げる動作も必要とせずに素早くブーメランを飛ばすことが可能になります。しかし····。」


学園長は真顔でアイシャに真っ直ぐに視線を向ける。


「この二投流は極めて両手の負荷が大きい技です。ドラグネスグローブを嵌めたとしてもブーメランそのものを生身の手や指で激しく弾くのですから。その衝撃はかなりのものです。指や手の甲、掌が弾いた衝撃で激しい打ち身や血豆が絶えないでしょう。貴女の綺麗な手が痣や傷だらけでボロボロになるやもしれません。それでも宜しいですか?。」


学園長は狂姫だった頃の鋭い目つきで再びアイシャに問い掛ける。


「構いません!。私はライナと一緒に強くなると決めたんです!。ライナばかり戦わせて。これから私だけ補助ではいられないんです!。これからもどんどんと強豪の騎竜や騎竜乗りと渡りあわなくてはいけません。私はライナとともにレースに勝ち上がるためにも強くならなきゃいけないんです!。私の手がどうなろうと構いません!。綺麗な手なんてレースでは必要ですか?。私はライナと一緒に戦うためなら綺麗な手が汚くなっても構わないんです。私はライナとともに騎竜乗りとしてレースで勝ち上がります!。」


アイシャも真っ直ぐな視線で学園長の言葉を返す。

アイシャ真っ直ぐな瞳を見ると学園長の厳しい唇がふっと笑みがこぼれる。

貴女を見ていると私とレッドの昔の関係をおもいだしますね。


学園長は昔、レッドと一緒に活躍した若かりし頃のことを思い出していた。

あの頃の自分もまたレッドと一緒ならレースで何処までも行けると思っていた。

告白して。相棒が去ってしまったあの頃を惜しむように学園長であるラチェット・メルクライは思い返す。

過ぎ去ってしまった過去を静かに懐かしむ。


「アイシャ・マーヴェラス。騎竜乗りの先輩として忠告です。自分の騎竜の手綱はしっかり掴んでおきなさい。逃げないように何処にも離れないようにね。」


学園長はアイシャとライナが自分達と同じ境遇になり。些細なすれ違いで互いが離れてしまうのではないかと心配する。一つ騎竜乗りの年長者者の先輩として忠告をする。


「はい!そうします!。本当にライナはいっつも何処かにいってしまうんですよ!。自分があれだけ口酸っぱく言い聞かせているのに。勝手に何処に行ってしまうし。カーラに頼んで特注の檻を作って貰おうかなあ?。」


アイシャは長年ライナに対する不平不満が吐露する。


「そういう意味で言ったのではないのですがねえ····。」


アイシャの様子に学園長は複雑な表情で苦笑する。

彼等の一人一匹の関係は私達のようにならないのかもしれない。それでも学園長は自分達の

ようにたった一つのボタンの掛け違いですれ違ってしまった関係と同じにならないことを願う。


·············


校庭グランドで一年の一組目のレースを魔法具スクリーンに観戦していた竜騎士科と騎竜乗り科は皆声援を送ることさえ忘れ騒然となる。

それもそうであろう。互いにノーマル種を騎竜にする底辺の貴族と思われる騎竜乗りがあの狂姫ラチェット・メルクライの二投流を扱ったのだ。しかも多勢に無勢な状況化で各々の科の生徒達を物凄い速さを秘めたブーメランで次々と騎竜から地上にけ落としている。

シャンゼルグ竜騎士校全生徒は皆自分達は夢か幻を見ているのではないかと錯覚を覚える。


「な、何よ····これ?。」


騎竜乗り科一年の軍師竜ゼノビアを相棒とするルベルはスクリーンに写るレースの光景に口をあんぐりと開けたまま呆然とする。


「あのノーマル種の乗り手が。まさか狂姫の二投流を扱うとは···。」


しっかりした軍服のような服装をした角をはやす理知的な女性の人間の姿をした軍師竜ゼノビアは戦闘能力が未知数であるノーマル種を注視していたが。まさかノーマル種の乗り手である彼女がここまで強いとは予想外であった。竜騎士科も騎竜乗り科も双方手も足も出ない様子で苦戦をしいられている。互いの科が手を組んで対抗すれば少しは勝率が上がるだろうが。いまの関係ではほぼ無理だろう。あそこまで陣形や統率が乱されればこの先勝つことはほぼ不可能である。


「何でノーマル種の乗り手が狂姫の二投流を使えるのよ!。おかしいじゃない‼️。」


最弱な騎竜を持ちながらその乗り手は狂姫の二投流を扱えるのだ。そんな強者のくせして最弱の騎竜に乗っているなどあり得ないとルベルは激しく反発する。普通は腕のいい騎竜乗りはそれに相応しい騎竜を持つものである。特に貴族社会では。


「まあ、あのノーマル種の乗り手が貧乏か或いは家が没落して。ノーマル種しか買えなかった事情があるのかもしれませんね。それに最弱といってもあのノーマル種の加速スピードには目に余るものがあります。上位種の平均スピードを軽く越えておりますよ。あれに追い付くには風竜族並みのスピードが必要かもしれませんね。或いはスキルか魔法か···。」

「何処まで非常識な騎竜と騎竜乗りなの!。」


ルベルは怒りかんかんになるほど怒りだす。


今の段階ではあれを対抗するには骨がおれそうですね。ルベルの性格上あのノーマル種の他校のペアと対決することを諦めることはないでしょうが。ならばいずれぶつかるであろう相手に情報収集を専念することに致しましょう。相手を能力が高いのであればそれなりの対応策、対抗策をしいいらねばなりません。能力を持った竜ならその特性や戦闘能力を活かして勝つでょうが。しかし私の場合は作戦と戦略、準備を重ねて手探り勝率を上げてゆきます。結して己を驕らず。目の前の現実を受け入れ詮索する。それが私のスタンスですから···。

軍師竜ゼノビアは攻略対象であるアイシャとノーマル種ライナをじっくりと隅々まで観察し続ける。


「まさか···ここまで狂姫、学園長の二投流を扱えるとは···。」


カーネギー教官は目が見張るほど驚く。

学園長に猛特訓していると聞いて心配していたが。ここまで学園長のあの二投流を扱えるとはおもわなかった。


「まるで全盛期のラチェット・メルクライを見ているようねえ~♥️。」


ぷるんぷるん

張りのある艶かしい2つの胸を揺らしヴェルギルは素直に関心する。


「狂姫の···再来···。」


マスファリンは片言に告げるとカーネギー教官は少し顔をしかめる。


「正直アイシャ・マーヴェラスが狂気の再来にはなって欲しくないんだかなあ~。まあ、しかし、あれなら竜騎士科や騎竜乗り科の内輪揉めにも巻き込まれることもないだろう。巻き込まれてもあのペアなら問題なさそうだ。」


カーネギー教官はほっと安堵の息を漏らす。


スクリーンに竜騎士と騎竜が次々に落とされる様子をカーネギー教官は安心満ちた目で観戦する。


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