第239話 実力


「それでは組分けレースに出る一組目の一年生出てください。」


マキシ・マム教頭の指示に三等分に組分けされた竜騎士科と騎竜乗り科そしてアルビナス騎竜女学園の一年生徒が校庭グランドのスタートラインの前に立つ。

各々騎竜に乗り飛び立つ準備をする。


     騎竜乗り科サイト


「いい、私達はあのノーマル種の乗り手が飛び立った瞬間に一斉に体当たりするのよ。ノーマル種が怯んだ隙に私達あの例の他校のノーマル種の騎竜乗りを一網打尽にするの。」

「代わり番こに私達があの他校の騎竜乗りを直接攻撃すれば教師達もリンチだと思わない筈よ。」


騎竜乗り科の令嬢生徒はノーマル種の騎竜乗りをいかにして痛め付けるかを作戦を立てていた。


『私達は個人的にあのノーマル種と戦いたのですけど。』

『私達上位種にあの下等なノーマル種が喧嘩を売ってきたのですよ!。黙ってられません!。』


騎竜乗り科一年のメスの騎竜達も校庭グランドで堂々と喧嘩を売ってきたノーマル種に激しい憤りを感じていた。


「我慢しなさい!。私達もあのノーマル種を騎竜にしている他校の一年にどれだけ屈辱を味わされたことか。」

「主人の復讐を優先して!。」

『で、でも·····。』


ノーマル種に攻撃できないことに騎竜乗りのメスの騎竜達は不平不満を垂らす。


      竜騎士科サイト


「いいか!お前ら。先ず飛び立つ瞬間に即座に俺ら竜騎士科の騎竜に喧嘩を売ったノーマル種を攻撃する。乗り手の騎竜乗りなどスルーしてしまえ!。どうせノーマル種を騎竜にしている騎竜乗りだ。大したことはない。重要なのは喧嘩を売ったあのノーマル種に対して俺達竜騎士

と騎竜がきっちり落とし前をつけることだ。」

『あのノーマル種。俺達誇り高き騎竜に喧嘩を売ったんだ。ただではすまさない!。』


グルルルル

竜騎士科の騎竜達は唸り声をあげ。各々怒りを露にする。


「騎竜乗り科はどうするんだ?。あいつらに勝つことも重要だぞ。」


フルメタルボディの鎧を着た竜騎士科の一年の一人が発言する。


「後だ。それ以前に先ず俺らの騎竜の怒りをおさめるのが先決だ。しかも都合よくこの組にはあの軍師竜ゼノビアがいない。絶好のチャンスだ。」

「軍師竜ゼノビアがいるとあの騎竜乗り科は徒党組んでやりずらくなるからなあ。」

「そもそも軍師竜って元々騎竜乗り科じゃなくて竜騎士科に相応しい騎竜だろう?。何で騎竜乗り科にいるんだよ。」

「知るかよ!家の都合なんじゃねえの。俺らが知ったこっちゃない!。」

「兎に角、俺らはあの喧嘩を売った忌々しいノーマル種をスタートの合図時に即効に片付けるんだ!。いいな。」

「「「了解!!。」」」


竜騎士科の方もノーマル種を潰す算段を立てる。


「どう?エネメリス。様子は。」


騎竜乗り科三年の赤目と茶髪のツインテールの令嬢ラウラ・ベセソフィナは騎竜乗り科のホープであり。学園のタクトの称号を持つエネメリス・フェレンチェに声をかける。


「ええ、一組目の組分けレースであの例のノーマル種と生徒が出るようね。」


一組目の組分けレースに校庭グランドで晒し者のようにされていた例のノーマル種と騎竜のりをエネメリスは気にかける。


「最初は校庭グランドで晒し者みたいにされ。どうなるかと心配していたけど。まさか相棒のノーマル種がここの全学園の騎竜に喧嘩を売るなんてね。やるじゃないの‼️。」


下等だと蔑ませれていたノーマル種が主人を守る為にシャンゼルク竜騎士校に全学科の騎竜に喧嘩(威圧(決闘の意味を持つ)を売るなど普通にできることではない。主人想いのよい騎竜だと感心する。



「笑い事じゃないですよ!。そのせいで竜騎士科や騎竜乗り科双方から目を付けられているのですよ。」


濃いめの金髪の眉を寄せるエネメリスは困った顔を浮かべる。

確かに嘲笑や罵倒、冷やかしなどの罵詈雑言などが。ノーマル種の威圧でおさまったけれども。その変わり学園の全生徒、全騎竜から敵意を向けられているのだ。学園の秩序も任せられているタクトの称号を持つ騎竜乗り科代表としては気がきではない。


「まあ、大丈夫なんじゃない。あのノーマル種威圧のスキルを扱う時点で普通のノーマル種じゃないことが解ったんだし。」

「でも多勢に無勢の状況ですよ。悪い予感しかしません。」


双方の科の生徒達と騎竜を怒らせたのだ。ただではすまないような気がする。


「シヴァ、貴女の千里眼でノーマル種とその乗り手の今後の先のこと見通せる?。」


ラウラは隣でベールの服を着た額に第三の目をもち。三つ目を閉じて角を生やす女性に話しかける。シヴァという相棒の騎竜は隣で落ち着いた様子で静かに佇んでいた。

ラウラ・ベセソフィナの騎竜で千里眼の能力を持つとされる三眼竜である。レア種で竜の額に三つ目の目をもっており。三眼の瞳の特徴の竜である。

シヴァの人化した額の三つ目がうっすらと開かれる。


「このレースではノーマル種の乗り手である人間の実力がわかりましょう。ノーマル種に関して今の段階では解りません。」


三眼竜シヴァは坦々とキッパリ返答する。


「つまりノーマル種の騎竜乗りの一年生が勝つということ?。」


シヴァが遠回しな言い方をするので少しイラッとしてラウラは直球で相棒に質問する。


「それはレースの結果をみて判断して下さい。」


三眼竜シヴァは機械的に言葉を返す。


「煮え切らないわね。そういうの結果だけ言ってくれない?。」

「結果だけ言ってしまうと面白くないでしょうに。知らないことは知ってこそ楽しみが増えるものです。知らないことを先に知ってしまうと。楽しさも半分減りましょう。」


三眼竜は審理を読み説くように告げる。


「貴女って本当に頭かたいわね。」


ラウラははあっと自分の相棒に何とも言えない深いため息を吐く。


「お誉めの言葉ありがとうございます。」

「誉めてないわよ。」


ピーコックグリーンの輝く髪を靡かせ。角ををはやした少し年配の理知的な女性が平凡な緑色の鱗に覆われた竜を静かに見据える。


やっと、あの全ての精霊の力を宿したノーマル種の実力が解るのですね。これであの竜が精霊が使役できるかも判断できます。

精霊帝竜ネフィンは妖精竜や精霊竜、それを束ねる6元素の主、精霊元祖竜でさえ使役不可能な銀氷の精霊をその身に宿すノーマル種が気になっていた。彼が神足る竜ではないのは明白である。なら彼が何故全ての精霊の力を宿しているのかとても気になっていた。



校庭グランドにいる生徒達の緊張感が高まる中、観戦の場でほぼマイペースに振る舞う騎竜乗り科の令嬢二人がいた。各々の科で生徒が激しい声援を送る中、二人は勝手にお祈りを始めたり。学校の授業を終えた後の相棒からパフェを奢って貰う約束を貰って。ウキウキ気分にいるそんな二人である。

一年生の組分けレースにあのノーマル種が出ることにも二人はマイペースに談笑する。


「シーシス、あのノーマル種、出るみたいだよ。」

「無謀ですね。確かに校庭グランドでノーマル種が威圧のスキルを使ったことには驚きはしましたけど。私としては事態がより深刻により悪化したようにみえます。悪手としか言いようがありませんね。」


神竜聖導教会の熱心な信徒であるシーシス・マザラーはノーマル種に関してだけは辛辣である。

神竜聖導教会にとってノーマル種の立ち位置は神足る竜の加護も無い無能な竜とされている。炎竜族、水竜族、風竜族など精霊の加護を色濃く受け継いだ竜は神足る竜に愛された竜と神竜聖導教会の教えにはある。他にもレア種やエンペラー種、ロード種なども特殊なスキルや魔法持ちの竜もまた神足る竜の寵愛を受けた竜とされる。しかし、スキルも魔法も持ち合わせないノーマル種に関してだけは神竜聖導教会では外れもの、神足る竜の寵愛を受けぬ堕ちた竜(穢れし竜)と蔑ませれているのだ。全ての信徒はそう思っているわけではないが。ノーマル種の立ち位置は教会ではあまり宜しくない。


「ああ、あの憐れな少女に救世の蒼竜の祝福を····。」


シーシスは何の運命で下等なノーマル種の乗り手になってしまった憐れな少女に今後の幸福を信仰対象である救世の蒼竜、神足る竜に祈りを捧げる。


騎竜乗り科の観戦の場でかんざしをさした長い艶のある濡れ鴉の髪を垂れ流す古風な令嬢が観戦する。ピンク色の明るい少し派手な制服を着ていてもその彼女の古風で清楚な雰囲気は消えることはない。隣では角をはやしたおかっぱ頭の着物の少女が静かに佇んでいた。


「咲夜様、妹君のレース残念でしたね。」


蛍は妹君が模擬レースで敗北してしまったことに残念に思った。


「まあ、仕方ないですね。私でもあのレースは予想出来ませんでしたし。それに妹もそんなに落ち込んではいる様子でもないようですし。ただ、竜騎士科が妹に何かしたらただではすみませんでしたけどね。でもまあ、許容範囲内です。」

「そ、そうですか····。」


一瞬主人である咲夜の纏う殺気に蛍は狼狽える。

レースに敗北したが。妹君の様子はいたって元気である。更なる闘争の炎に火が付いたような感じであった。


「それよりも龍族の発気を扱うあのノーマル種が出るのですね。」

「そのようです。」


龍族に伝わる技発気を扱うノーマル種に蛍も気にかけていた。


「龍族が龍誕の試練を受けずに技を教えることはないですが。あのノーマル種はどのようにして龍族の技を覚えたのでしょう?。」


龍族の技は龍誕の試練を受けなければ覚えられない。龍誕の試練は龍族にとって特別なクラスチェンジを意味を持つ試練である。何でも蛇や鯉が昇級するために受ける試練らしい。鯉と蛇がどのようにして龍になるのか解らないが。兎に角ノーマル種が龍族の技を使うなど本来ならあり得ないことなのである。にも関わらず龍族の技を実際に扱えているのだから何らかの方法で得たのだろう。


「あのノーマル種がどのような力を持つか。この目で拝見致しましょう。」


咲夜は妹ほどではないが。あの平凡なノーマル種に興味を抱いていた。



竜騎士科三年観戦のたまり場で鎧のような甲殻な鱗に覆われた竜がじっと平凡な緑色の竜を見据える。


「いよいよ、あのノーマル種の実力が解るんだな。ザイン。」

『ああ、やっとだ·····。』


人化しない無双竜ザインは鎧を纏った鱗の巨体の身をよじり興奮を抑える。


「正直、俺には普通のノーマル種にしか見えないだが。ザインにとっては違うように見えるんだろう?。」


ゼクスにとっては普通のノーマル種にしか見えないが。無双竜ザインにとっては別に見えていた。無双竜の特性もあり。強者を見極める能力があるのだ。故にあのノーマル種が無双竜ザインが強いと言ったなら強いのである。どれ程の強さかはしらないが。ザインが歓喜するほどなら相当なものである。


『ああ···俺としてはこのシャンゼベルグ竜騎士高校内ではトップかもな。』

「そんなにか!?。」


相棒の無双竜ザインの一言にゼクスは目をしばたたかせ驚く。


「じゃ、ザインがあのノーマル種と戦ったらどっちが強いんだ?。」


相棒の無双竜ザインがノーマル種に敗北するなど想像はできないが。

無双竜ザインよりも強い竜(ドラゴン)と言えば世界にいる最強の一角の五匹か。あのバザルニス神竜帝国大学の忌々しき竜(ドラゴン)、無情しか思い浮かばない。

無双竜ザインは渋い竜顔をする。


『さあな、状況によるが。あのノーマル種が強ければ強いほど。俺も更に強くなる。ならば敗ける気は全然しないな。』


ゼクスはゴクリと喉唾を飲み込む。

そう、無双竜ザインの特性はそこにある。相手が強ければ強いほど無双竜ザインの勝率が上がるのだ。


「では一年一組目のレースを開始し致します。」


マキシ・マム教頭の指示に校庭のグランド各々の一年の一組目が身を低くし。飛び立つ準備をする。竜騎士科と騎竜乗り科の一年の令息生徒と令嬢生徒は視線が例のノーマル種とその騎竜乗りに狙いを定めるように注がれる。


「位置について、よーい!。」


マキシ・マム教頭は右手を頭上に上げる。


「ライナ、初っぱなからBoin走行で飛ばすよ‼️。」


闘争心に火が付いたアイシャお嬢様は俺の背中で力強く指示をする。


ギャ!ギャアラギャアギャアガアギャア

(はい!アイシャお嬢様。了解しました!。)


俺は元気よく返事を返す。


て、Boin走行。なんかものスッゴく久方ぶりのような気がする。気のせいだろうか?。アーニャお嬢様とBoin走行を失敗して以来。すこし間がたっているが。何故かBoin走行が本当に久方ぶりのような気がしてきた。


アイシャお嬢様が身を低くし密着する。


むにゅう♥️

アイシャお嬢様の柔らかな二つの感触が俺の鱗肌の背中に押し付けられる。

アイシャお嬢様はそのまま左右に身体を揺すり始める。


スリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリ


アイシャお嬢様の胸が俺の背中に左右に擦れられる。


「な、何をやっているんだ?。。」

「ちょ、あの子、何しているの!?。」


敵意むき出しのぎらついた視線を送っていた竜騎士科と騎竜乗り科の面々も突然のノーマル種の乗り手であるアイシャが胸をノーマル種の背中に押し付け。擦り付けている奇行に驚愕な目で茫然とする。

スターター役のマキシ・マム教頭も突然のアイシャお嬢様の奇行にレースを中断すべきか迷ってしまう。振り上げた手を下ろすのを躊躇う。しかし折角けしかる段取りを組み。お膳立てをしたのだからこのまま中断するわけにもいかない。狂姫の弟子というのだからまともではないことは明白である。そうマキシ・マム教頭は結論付け脳内で片付けることにした。


スリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリ


集気法で大気の気を集め。アイシャお嬢様の擦られる柔らかな胸がトリガーとなり発散される。



キタァ!キタァ!キタァ!キタァあああーーー!

漲ってキッタアあああああーーーーーーー!


ギャアアアアああああああーーーーーーー!!


虚悦悦楽の歓喜の咆哮がライナの竜口から放たれる。


「ドラグマグナ!!。」


バサッ

マキシ・マム教頭のスタート合図と同時にライナの筋肉のついた翼が大きく激しく広がる。勢いよくバタつかせ疾走しながら飛び立つ。


ギャあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーー‼️

(おパパイーヨ‼️おパパイーヨ‼️おパパイーヨ‼️おパパイーヨ‼️おパパイーヨ‼️おパパイーヨ‼️おパパイーヨ‼️おパパイーヨ‼️おパパイーヨ‼️おパパイーヨ‼️おパパイーヨ‼️おパパイーヨ‼️。)


ひゅん!

おパパイーヨ‼️という意味不明な言葉を連呼しながら猛スピードで校庭グランドから飛び去る。


ひゅ~~~

意味不明な行為と意味不明な言葉を残し。呆気にとられる双方の科の生徒達とその騎竜はその場に茫然と固まる。


「るぅ~、ライナのBoin走行だあ~!。」


ぴょんぴょん

ロロの背中でルゥが嬉しそうに飛び跳ねる。


『ふふ、相変わらず面白い飛行ですね。ライナさんは。』


先に飛び去って行くライナを微笑ましげに緑森竜ロロが見送る。


ハッ

同時に竜騎士科と騎竜乗り科が我に返る。

自分達が先を越され。取り残されたことを今正に自覚する。


すると段々とふつふつ激しい怒りがこみあがる。

自分達がノーマル種にごときに先を越され。しかも意味不明な行為と意味不明な言葉を放ち。追い抜かれたことにとてつもない激しい怒りが沸いてきた。


「「「待てや!コラァ!!。」」」

「「「まっ、待ちなさい!!。」」」


バサッバサッバサッ

一年の竜騎士科と騎竜騎乗り科双方の生徒とその騎竜は急いで平凡なノーマル種の後を追う。

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