第236話 氷結の壁
ぼおおおおおおおーーーーーーーー!
炎竜ガーネットの翼から尻尾の先まで噴射口のように炎が噴き出す。
まるでジェット噴射するかの如く。噴炎を後方に撒き散らせ。ジェット並みのスピードでシャンゼルグ竜騎士校校庭グランドを突っ切る。
二匹の他の科の騎竜は取り残されたが。慌てる様子もなく。唯一慌てている様子をみせたのは騎竜乗り科の軍師竜ゼノビアの乗り手であるルベル・フォーゲン、彼女だけである。
「ちょ、どうするのよ!?。炎帝が先に行っちゃたじゃない!。」
先を越されてしまったことにルベルはあわてふためく。
『予想どおりですね。炎帝と炎速のレースの強みはスピードですから。本来なら炎竜族は火力を戦闘で勝負しますけど。彼女達の場合はその火力をスピードにまわしていますからね。本来気性の荒く喧嘩好きと言われている炎竜族の戦闘能力を彼女達は逆手にとっているということでしょうか?。』
「ゼノビア。そんな悠長な解説している暇ないでしょう!。早く追わなきゃ!。」
主人であるルベルは相棒のゼノビアを急かす。しかし軍師竜ゼノビアは全力を持ってしてても。あの炎帝のスピードには追い付けないと判断しているので落ち着きをはらっている。
しかし同時に隣で氷結竜も一緒に飛行していた。
私はともかく何故あの氷結竜はかも涼しいそうに落ち着いていられるのでしょうか?。
取り残されたのは自分だけでなく。竜騎士科の氷結竜も同様である。にも関わらず何故か氷結竜は慌てる素振りもみせない。何かを待つような仕草をしている。
これはもしや……何かしかけましたね?。
軍師竜ゼノビアは直感でそれを悟った。
軍師竜ゼノビアは洞察力もすぐれていた。
軍師竜は竜の仕草、言葉遣いなど観察し。心理を読み説くことも得意としている。知略戦略を立てることを得意とする軍師竜だが。相手の心理を見通す能力ももっている。
「炎帝がいったようだな·····。」
厚着のフルメタルボディの鎧を着こなす氷結竜の乗り手オックス・カスタムはニンマリと不適な笑みをこぼす。
『ああ、作戦通りだ。この後、炎速の炎竜が勝手に網に引っ掛かかれば。その後、俺達で一網打尽だな。』
氷結竜も同じく竜口に笑みを浮かべる。
「しかしよく考えたな。コルゴ。」
コルゴはオックスの相棒氷結竜の名である。
『炎帝と炎速のスタイルは攻撃より風竜族並のスピードだからなあ。戦闘も一応こなすが。強みは矢張スピードだからそいつを殺せば最早俺達には手も足も出ないさ。』
確かに炎速のスピードは風竜族並に驚異であるが。対策をたてていればどうとことない。
寧ろ炎竜族の暴力並みの火力が俺にとっては驚異である。個体差で決まる種族間の力量だからこそ。そこに関してだけは感謝である。
あの炎帝の炎程度では俺の零度を覆すことは不可能である。
『さあ~て、ギンギンに冷やしてやるか!。』
氷結竜コルゴの竜口が凍てついた冷笑を浮かべる。
ドゴオオオオオオーーーーーーっっ!!。
尻尾と翼が噴射口のように炎を噴き出しレースコースを突き進む。
『レイン、誰も我等に追い付いていないぞ。我等の独り勝ちだな。』
「油断しないで!ガーネット。まだゴールまで到着していないのよ!。レースはスタートからゴールに到着するまでがレースなんだから。」
『わ、解っておるわ。全く、レインは少々頑固で困る。』
「何かいった?。」
ギロッ!
レインの鋭い赤い瞳の視線がガーネットの背中を突き刺ささる。
『い、いいえ!。何も言っておりません!。はい!。』
ガーネットはおもわず敬語で返してしまう。
「はあ…それにしてもこうも誰も追ってきていないのも妙ね。私達にスピードについてこれないのも解るけど。それでもあの氷結竜と軍師竜が何も仕掛けて来ないのはおかしすぎるわ。」
軍師竜は戦略と知略に長けた竜である。最も頭脳戦を得意とする竜(ドラゴン)だ。レースで何か仕掛けて来るとおもっていた。しかし会話を少し盗み聞きしてしまったが。どうやら軍師竜にとってこのレースは意図したものではなかったようである。作戦も準備も立てていないと自分の主人を叱りつけていた。
残りの問題である氷結竜に関しては少し悪寒が走った。レインの悪寒は悪いときによく当たる。氷結竜の氷竜族は炎竜族の天敵である。相対する属性故に相性が最悪だ。苦戦することは間違いない。
ドゴオオオオオオーーーーーーーー!!!
紅い翼から尻尾の先まで噴炎口のように炎放射しながらシャンゼルグ竜騎士校の敷地を進む。
レイン達は整備されたシャンゼリグ公園上空に差し掛かる。
『まだ、追ってきてはおらんぞ。諦めたのではないか?。』
「変ねえ。スピードが此方が上と言ってもこうも攻撃してこないなんて。」
レインも首を傾げ眉を寄せる。
スピードが此方が上でもいくらでもやりようはある。氷結竜は7大属性にはない氷のスキルや魔法を持ち合わせている。しかし氷結竜の扱う氷のスキル、氷の魔法は白銀竜や銀晶竜が使役する銀氷の精霊の劣化版と聞いたことがある。昔、北方大陸で氷竜族とよばれていなかった竜達が白銀竜や銀晶竜からスキルと魔法を真似たことで氷を操る力を得たそうだ。白銀竜或いは銀晶竜の銀氷の精霊を使役した魔法やスキルは全てのあらゆる攻撃、魔法、属性を無効果し。無力化するという。それと一緒に氷も操ると。氷竜族はその氷だけを真似たのである。銀氷の精霊の劣化版といっても。そのスキルと魔法の威力は巨大である。あらゆるものを凍てつかせ凍りつかせるのである。炎竜族の炎さえも場合によっては凍らせてしまうのだ。ガーネットの祖父、業炎竜ボルゲンさんも若い頃に氷竜族とレースしたことがあるようで。二度と戦いたくないと愚痴をこぼしていた。
それほど氷竜族は炎竜族とは相性は悪く。苦戦を強いいられる相手なのである。
『なあ~に、レイン。我等に恐れおののいたのであろう。』
ガーネットはふふん鼻息交じりに偉ぶる。
こういう調子こいてるときに私達いつも敗けているのよねえ。
ガーネットの背中にレインは白い視線を向ける。
相棒ガーネットが調子こいてるときは大抵レースに敗北しているのだ。
寧ろガーネットが調子こく台詞が死亡フラグなような気がする。
『我等はこのまま他校の二匹を引き離し。このまま一人勝ちだ!!。』
脚を折り畳み紅いくちばしを前に出す。
『獄炎噴の翼!!。』
ドゴオオオオオオーーーーーーーー!!!
噴炎の威力が増し更にスピードが増す。
ゴオオオオオオオおおおおおおおおおおおおーーーーーー「ぶべらっ!」
べちゃあ
「えっ!?。」
突如ガーネットが猛スピードでシャンゼリグ公園を右折して。上空を突っ切ようとした途端ガーネットがまるでカエルがガラスにへばりついたよう様な姿で飛行が止まる。それはまるで目に見えない壁が真ん前にあるような…。
「ガーネット。どうしたの!?。」
『ふはふははふふはふはふふふはは(何か目の前に硬い壁のようなものにぶつかった)。』
ガーネットは見えない壁にぶつかりへばりついた感じで竜顔と身体が崩れている。
「壁?。」
レインは恐る恐る何かがガーネットの飛行を妨害する壁のようなものに触れる。
それはヒンヤリ冷たかった。一応防寒仕様でもあるドラグネスグローブからでも伝わる冷たさである。
「これは…氷の壁?。」
それは視界では解らないほど透明度の高い氷の壁だった。それがガーネットの飛行を邪魔をしたのだ。
「ガーネット。一旦後ろに離れて。」
バサッ!
レインの指示に紅い翼を広げ。ガーネットは少し後退する。
「ガーネット!炎を吐いて。」
『炎だと?。』
レインの指示に炎竜のガーネットの竜首をかしげる。
「早く!なるべく全体いきたわるように。」
レインの指示に?マークの頭を浮かびながらも炎竜族特有の炎のブレスを吐く。
ぶわああああああああああ
『何じゃこりゃあ!?。』
「やっぱり······。」
炎竜ガーネットの炎のブレスで透明度の高い氷の壁の全容が明らかになる。視界にはシャンゼリグ公園一帯が透明な氷の壁の迷路のようにいりくんでいる。それはまるでガーネットの通行を妨げているようだった。
「しくったわ。氷結竜が既に罠を張っていたのね。」
レインは険しげに赤眉を寄せる。
『罠だと?。そんな時間も余裕もなかった筈だが····。』
選抜で選ばれてから罠張るだけの時間の余裕もないはずだ。竜騎士科で何やら誰が出るか揉めていたようだし。あの氷結竜出ても出れるかどうかも解らない状態で罠を張るなどあり得ない
「おそらく瞬時に氷の壁をつくったみたいね。氷結竜にはそんな能力があると聞いたことがあるわ。」
氷結竜は水分があれば遠くからでも氷を作り出すことが可能だと聞いたことがある。ただそれは氷結竜だからこその能力である。氷竜族でも氷河竜や霧氷竜、氷海竜など氷竜族の中で各々スキルも魔法も能力も異なるという。氷竜族は北方大陸で独自の進化を遂げた竜である。
『こんなもの直ぐに炎で溶かしてやるわ!。』
炎竜ガーネットは魔法の詠唱を開始する。
火の精霊である赤い光の粒子が炎竜ガーネットの周りへ集まり出す。
大きな赤い魔方陣が展開される。
『修行を重ねてある程度コントロールできとるのだ。喰らうがいい。我が最大火力!。』
『ボルケイノピィラー(噴炎の火柱)』
ドーン!ドーン!ドーン!
地面からマグマ熱の火柱が上がる。
地面から出たマグマ熱の火柱が透明度の高い氷の壁の迷路を炎で貫く。
ドーン バリバリ しゅうううう
ピキバキパキッ パキパキパリパリ
しかし溶かしたと思った透明な氷の壁が瞬く間に瞬時に再生する。
ギャア!?
「何だとっ!?」
ガーネットは溶かしても再び凍りつく壁に動揺する。
「やっぱり氷結竜は水分があれば何処にでも凍りつかせて氷を生み出せるのね。」
レインは険しく唇が歪む。
『どうしたらよいのだ!?。』
溶かしても凍りつくなど炎竜であるガーネットも対処できない。
「方法があるとしたらここの一帯にある全て水分を根こそぎ無くすことでしょうけど…。」
そんな芸当できるのはガーネットの祖父、業炎竜ボルゲンさんくらいである。
びゅうううううううううう
突如吹雪音が後方から流れだす。
肌が凍りつくような肌寒さを感じる。
「もう追い付いたのね。」
レインは後方からくる罠を張っていた張本竜である竜を険しげに睨む。
「おう?、どうやら上手く網に引っ掛かってくれたようだな。コルゴ。」
『予想通りだな。スピードを殺してしまえばこっちもんよ。後はじっくり冷して凍らせて倒しちまえばいい。』
真っ白な雪色の厚着のフルメタルボディを着こなす竜騎士科の令息生徒オセット・カスタムとグレシャーブルーの鱗に覆われた騎竜が姿を現す。
バサッバサッ
氷結竜が通りすぎた地上の後は何故かじわじわと凍りついていた。
「う、うう…寒いよ。ゼノビア。」
ぶるぶるぶる
氷結竜の後方で飛行する軍師竜ゼノビアの主人であるルベルはぶるぶると寒さで身体全身を震わせていた。それ同時に二つの胸の膨らみもぷるぷる震える。
『仕方ないですよ。氷結竜の特性では場を凍らせるというものがありますから。あっ!、いっときますけど場を凍らせるというのは別にあっちの意味ではありませんからね。』
「わ、解ってるわよ!そんなこと‼️。そ、そそそ、それよりも何とかしてちょ頂戴!。さ、ささ、寒さで凍え死にそう·····。」
ルベルは歯をカタカタさせ。シバンリングしながら身を震わせている。
『はあ~、仕方ありませんね。ではタイオーン(赤外線の熱)!。』
軍師竜ゼノビアは魔法を詠唱する。軍師竜ゼノビアの竜身が赤外線のように輝きを放つ。鱗の皮膚がポカポカと暖かくなる。
『これで大分マシになったでしょう?。魔力の余力は残したかったのですけど。まあ主人が凍え死ぬよりはましでしょうから·····。』
「あ、ありがとう。ゼノビア。それより炎帝に追い付いたんだからさっさと追い抜きましょうよ。竜騎士科の連中もターゲットを炎帝に向けているようだし。」
ルベルはチャンスだと不適な笑みを浮かばせる。
そんな主人に軍師竜ゼノビアははあ~と何とも言えない深いため息を吐く。
『無理でしょうね。このシャンゼリグ公園一帯にも見えない氷の壁を張っているでしょうし。この先も罠張っていないという確証もない。私達が彼等の戦闘中に追い抜こうものなら氷結竜の冷気の餌食になりますよ。私の観点から見てもまだ氷結竜は隠し球を持っているような気がしますから。』
「そんな·····。」
ルベルは青ざめ肩を落とす。
「残念だったな。炎帝。あんたの強みであるスピードを殺したぞ。」
厚着の雪色のフルメタルボディの鎧を着こなすオセット・カスタムは不適な笑みを浮かばせる。
「まんまと食わされたわ。まさか既に罠を張ってるとはね。」
レインは悔しげに唇を引き締める。
『炎帝の炎速もこの程度か?。もう少し骨があると思ったがな。』
『何じゃと!?。』
氷結竜コルゴの挑発に炎竜ガーネットは怒髪天並に切れそうになる。
「ガーネット。冷静に!。ただの挑発よ。」
『うむ、解っておるわ。』
レインの言葉に直ぐに怒りの矛を納め。ガーネットは冷静さを取り戻す。
「さすがはルポンタージュ家のご息女だ。残念ながら騎士系の家系でも手加減するわけにはいかない!。竜騎士科は後がないんでね。」
オセットはポール・アックスをドラグネスグローブから取り出す。
「御愁傷様。騎竜乗り科達と喧嘩でもしてるの?。端からみても解るけど。」
竜騎士科と騎竜乗り科が仲が悪いのは外部からみても明白である。
「喧嘩ではない。お互いの尊厳を賭けての戦いだ。退くわけにはいかない…。」
「はあ、そうですか····。」
そんな下らない理由で親友を貶めたのなら此方とて我慢するつもりも毛頭ない。
「ガーネット!。全力で行くわよ!。」
『ああ、解っておる!。氷結竜など我の火力で溶かしつくしてやるわ!。』
レインの鼓舞に同調し炎竜ガーネットの炎が燃え上がる。
『俺を溶かすと言ったか?炎竜。貴様程度の炎でこの俺を溶かすことは不可能だ!。逆にギンギンに凍らせてやるわ!。』
凍てつく冷気と熱気を帯びた炎、二匹の竜(ドラゴン)が激突する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます