第237話 絶対零度防御


『レイドヘルウェーブ(炎獄の波動)』


ぶあああああーーーー、

炎竜ガーネットはウェーブ状の炎を放つ。


『フリージングウェーブ(氷結寒波)!。』



ひゅううううう

対して氷結竜コルゴは強烈な凍てついた寒波の吹雪を放つ。凍てついた寒さが辺り一面を注ぎ凍らせる。


ぶあおおおおおおおーーーー

パキッパキパキパキパキ ぶしゅうう


炎のウェーブが強烈な寒波の吹雪により冷やされる。炎のウェーブの火力が段々弱まり。炎は小さくなり鎮静して消えてしまう。



『ぐぬ、けされた!?。』


炎竜ガーネットの深紅の竜顔が苦渋に歪む。


『残念だったな。炎帝の炎竜。その程度の火力では俺を溶かすことはできないぞ。』


氷結竜コルゴは竜口から余裕の笑みを浮かべる。


『くっ、調子に乗るな!。我等の実力はこの程度のものではない!。』

『はっ、ならその実力とやらを出してみろや。全て俺の零度でギンギンに凍らせてやるわ!!。』


氷結竜コルゴはグレシャーブルー色の翼を大きく広げる。


「ライナ。レイン、大丈夫かなあ?。」


わーーーーー! わーーーーーーー!


校庭グランドは双方の科から声援がわく。

アイシャお嬢様もスクリーンに写るレインお嬢様達のレースの様子に戦況が著しくないことを察する。

あの氷結竜は氷を操るのか?。水属性でもなく水の精霊を使役しているわけでもないな。銀氷の精霊か?。それにしてもあの氷結竜の周りの光の粒子は灰銀色はしてないな。

ライナは不思議そうに竜首を傾げる。

氷結竜コルゴの周りには微かに精霊の名残である粒子の光は見えていた。しかし白銀竜や銀晶竜の使役するという銀氷の精霊とは違う気がする。どちらかと言えば氷結竜が使役する精霊は銀氷の精霊の不完全なもののようにも見えた。


「ガーネット!。落ち着いて!。敵の思うつぼよ!。」

『ぐぬ、し、しかし····。』


主人であるレインの叱咤に炎竜ガーネットの怒りは我に返ったようにおさまる。


「残念だけど。あの氷結竜にはガーネットの火力じゃ敵わないわ。」

『ぐぬぬ。』


レインのレースでの冷静な戦闘の分析に炎竜ガーネットの竜口が悔しそうに歪む。


「この氷の壁の迷路でガーネットの強みであるスピードを殺されたのなら私達ができる戦法はたった一つよ。それすなわち氷結竜の乗り手を倒すことよ!。」


今できる戦法はそれしかない。なるべく接近戦に持ち込み。氷結竜の乗り手である竜騎士オセット・カスタムをレインが倒すしか手段はなかった。あの周りに張り巡らされた氷の壁の迷路は一応ガーネットの炎でも溶かすことができる。ならば溶かしながらも近づきつつ。私がじきじきに氷結竜の乗り手であるオセット・カスタムを倒すしかない。戦闘経験なら自信がある。レインの家は名門の騎士系のルポンタージュ家である。戦闘の英才教育なら王都の以上である。

レインはドラグネスグローブから取り出した剣を持ち身構える。

厚着のフルメタルボディの鎧を着る竜騎士生徒に狙いを定める。あんな厚着で全身防御の鎧でも一撃で決める技をレインはルポンタージュ家から会得していた。近づきさえすれば何とかなるはずだ。


「ガーネット、なるべく氷結竜に近づいて。そしたら私は氷結竜の乗り手の竜騎士科の竜騎士に一撃を加えるから。」

『解った!。』


炎竜ガーネットは翼を広げ。くちばしを前にだし。脚を畳み。尻尾をピーンと垂直に伸ばす。


『獄炎噴の翼!!。』


どおおおおおおおーーーーーーー!!!。


尻尾と翼の後部から炎が噴き出る。

どごおおおおおおーーーーーーーーーーーーー


ジェット噴射するかの如く。ガーネットの竜の身体がもうスピードで氷結竜のいる空中を目指す。


ぼおおおおおおおおお

ガーネットは竜口から炎を吹き出しながら進む。


『溶かして再生するなら溶かしながら進めばいいことだ!。待ってろ!。我が貴様に絶対引導を渡してやる!。』


ずおおおおおおおおおおおおおおーーーーーー


ガーネットはスピードは氷の迷路で落ちたが噴射する炎とともに確実に氷結竜を目指して少しずつ突き進む。


『おうおう、無駄なことをしているようだな。』

「コルゴが得意とするスキルは別に氷の壁でできた迷路じゃないんだかな····。」


オセットは苦笑する。

氷結竜コルゴにはまだ奥の手のようなものがあった。まだそれさえもこのレースには出していない。


「ルポンタージュ家のご息女は接近戦が目的らしいな。だが無駄だ。コルゴが氷結竜である限り。そしてコルゴの氷がある限り俺達は敗けない。」

『あの炎竜に身の程を知る良い機会だ。』


ニヤリと氷結竜のグレシャーブルーの竜口が不適な笑みを浮かべる。


ぼおおおおおおおお

しゅうううううう


氷の蒸気を発しながら次々と透明度の高い氷の壁を溶かしながらガーネットは突き進む。


「いいわ!。もうすぐ氷結竜の懐に辿り着くわよ。」

『待ってろ!。我等のチームワークをみせてやる!!。』


スカーレット赤髪短髪のレインは炎熱を帯びた炎竜ガーネットの背中にしがみつき。剣を身構える。レイン全ての魔力を剣に込める。


どおおおおおおおーーーーーーーーーーー

しゅううううううううううううう 


蒸気が炎竜ガーネットと氷結竜コルゴの間に沸き立つ。

炎竜ガーネットは氷結竜コルゴの真ん前に到着する。


『とった!。』


ガーネットが叫ぶとすかさずレインは手持ちの剣を氷結竜の乗り手であるオセット・カスタムに振りおろす。


「アグセントベルフェルニア(限界なる速さの境地)!。」


カッ!

レインの剣が光輝く。ルポンタージュ家に伝わる剣技、魔力貯めた光速剣である。精霊の力ではなく。純粋な己の魔力をスピードに変換した光速剣である。目にも止まらぬ速さ故に視認することは不可能。あっという間に斬られる故にアグセントベルフェルニア、古代語で限界なる速さの境地と名付けられたのだ。ルポンタージュ家に伝わる奥義の一つである。


スン

剣身が視認できないほどのスピードでレインの剣技が炸裂する。しかし厚着のフルメタルボディの鎧を着こなすオセット・カスタムは微動だにもせず。余裕の笑みを貫く。


すうーーーーーーーーガキンッ!!


何かに当たった。相手にしていたオセット・カスタムの着ていた硬そうな厚着のフルメタルボディの鎧ではない。その前に何か硬い頑丈なものにぶつかったのだ。


「な、何ですって!?。」


レインは絶句する。

何か硬いものにオセット・カスタムに向けた剣身が止められた。その変わりその止めたものが形が露になる。

それは結晶の姿をしていた。宝石のよう結晶ではない。氷の結晶、氷晶とよべるものが硬く頑丈に拒絶するようにレインの剣を止めたのだ。

ピキピキパキパキ

レインの剣が氷晶に触れ真っ白にカチカチに凍りつく。


「残念だったな。コルゴのバッシブスキル、アプソリュート"ZERO"DF(絶対零度防御)にはどんな攻撃も通用しない。確実に物理攻撃を弾き返し凍らせる。魔法で放っても。ちょっとやそっとのことでは壊れない。」

『俺の零度の氷晶を壊すには炎竜族の高密度な炎か、或いは強力なパワータイプのスキル。またまた或いは空間系操作系スキル持ちか。またまたまた或いは白銀竜や銀晶竜が使役する銀氷の精霊を使うしかない。だがどれをとってもあんたには無理な話だな。つまり炎帝と炎速は俺達に勝ち目はないということだ。』


氷結竜は勝ち誇ったように竜口がつり上がり笑みを浮かべる。


『ぐっ、ふざけるな!。』


ぼおおおおお

ガーネットは近距離で竜口から炎を吐き出す。しかし自動的に氷晶が炎を防ぐ。


『無駄だと言っている。この程度の炎で俺の氷晶が溶けると思ったか?。舐めてんのか!。』

「くっ!この。」


キンキンキンキンキンキン


硬い氷を打ち付けるようにレインの強烈な剣技が炸裂する。しかし自動的に発動する氷晶はレインの剣を未然に防ぎ。レインの剣身を凍り付かせる。


カチカチカチカチ

レインの剣は真っ白に凍りつく。


「ふっ、確かにルポンタージュ家の剣技は王都に並ぶほど優れている。しかし!当たらなければどうとこともない!!。」


オセットもまた氷結竜コルゴと一緒に勝ち誇る。


わーーーーーー!わーーーーーーー!


レースの様子を校庭グランドのスクリーンから観戦する竜騎士科の令息生徒達は更に盛り上がりが増す。


わーーーーーーー!


あれ、本当に反則だよなあ~。アプソリュートゼロディフェンスだっけ?。どうみても厨二まっしぐらなスキル名だし。

しかも自動発動型の氷のシールドに尚且つ零度並みの凍りつく作用まであると。どんだけチートなんだよ。

うちは色々努力して技を覚えているというに。これだからチート竜は·····。

ぐちぐちぐち


ライナは氷結竜のあまりにも強力な自動発動型の防御スキルにやさぐれてしまう。


『矢張奥の手をお持ちでしたか····。アプソリュート"ZERO"DF(絶対零度防御)、強力な防御系冷凍スキルですね。あの強固な防御を誇る絶帝竜カイギスにも匹敵しそうです。しかも発動型ではなく。攻撃されたら瞬時に氷晶が現れ。防ぐ自動発動型のスキルとは···。なんともまあ、えげつないスキルをお持ちだ。』


軍師竜ゼノビアの竜顔は渋い顔を浮かべた。

軍師竜ゼノビアは鋭い洞察眼で竜騎士科の氷結竜が奥の手を持ち合わせることにいち早く感付いていた。しかし明確な能力は解らなかっため。それを実際目にして納得する。


「ゼノビア、これからどうするの?。あの氷結竜の対抗策とかあるの?。」


軍師竜ゼノビアの背に乗る騎竜乗り科の一年ルベルは心配そうに声をかける。


『お手上げですね。特に材料が足りない。あの自動発動型バッシブスキル、アプソリュート"ZERO"DF(絶対零度防御)に関しては弱点があるかと言えばはっきり言って無いです。あるとすればあのスキルに対等に渡り合えるスキル持ちでなければ打破することは不可能でしょう。幾つかのスキルを重ねあわせて攻略する手も無くもないですが。私の場合は矢張材料が足りない。地形を利用するにも氷結竜が滞在しているこの領域は全て凍りついていますしね。ほんと全くもってお手上げですよ。」

「そんな····。」


ルベルは相棒に成す術無いと断言され絶望する。


「まだ敗けていないわ!!。私達は戦える!!。」

『そうだ!。たかだが強固な防御スキル持ったとろで攻撃できなければ決着はつかぬぞ!。』


レインと炎竜ガーネットは威勢よく竜騎士科のオセットと氷結竜コルゴに反発する。


「攻撃できないねえ~。」

『炎帝、炎速、お前ら何か勘違いしてないか?。俺等の網にかかっている時点で、既にお前らは俺等の術中にはまってんだよ!。』

「騎竜乗り科の奴らと一緒に一網打尽にしたかったんだがな。流石は軍師竜ゼノビアだな。俺達の攻撃範囲を見計らって微妙なところを立ち位置にしている。あそこは確実に俺達の攻撃範囲外だ。まあ、これ以上俺達と戦っても無駄と判断したことに関しては称賛するがなあ。」

「何を言っているの!?。」

『勝ったきになるな!。我等はまだ敗けておらぬぞ!。』

『敗けてない?ふん!ならば今此処で敗けるがいい。俺の零度はあらゆるものを凍らす。例え炎でもなあ。炎竜族は氷竜族の天敵とよくいわれているが。それはお互い力が拮抗しているときだけだ。力の落差が激しければ簡単に決着はつく。』

『何を言っておるのだ?。』


炎竜ガーネットは氷結竜の言い分に激しく憤りを覚える。


『解らないのか?。お前は炎竜族としては弱いといっているんだ!。』

『貴っ様あああーーーーーーー!!。』


ガーネットの紅の竜顔が激昂し。炎が身体を包む。


「ガーネット!。」


レインは火の精霊の加護により火傷などすることなく無傷であるが。ガーネットは既に冷静さを失っていた。


『炎光石化(フレイトニングラッシュ)‼️。』


炎竜ガーネットは火だるまになりながらタックルする。


『俺の氷竜族、最強奥義で終わらせてやるよ!。』


氷結竜コルゴのグレシャーブルーの鱗が凍てつきながら輝きだす。


『我が氷結竜、最強奥義"』


氷結竜の身体が零度の冷気に染まる。


『氷凍(こおりごお)り"!!。』


奥義名ダッさあー!。

何でそこだけ名前がダサいの?。何気にダジャレも入ってるし。


わーーーーー!わーーーー!

ライナは最初は氷結竜が最初にカッコいいスキル名を言っていたのに。最後の最後に氷結竜の奥義のようなものがダジャレが入るほどダサいことに微妙な竜顔をする。


ピキッ パキパキパキパキ カキン!


火だるまとなって突っ込んだガーネットはみるみる凍りつく。氷に覆われ氷塊のように氷になって固まる。


「ガーネット!。」


背中に乗るレインは叫ぶ。

凍りついたのはガーネットだけだった。


「安心しな。氷付けにしただけだ。死んじゃいない。氷が溶けるのだいたい30分くらいだな。その間に俺達はゴールに到着させて貰うぜ。」

「くっ。」


レインは悔しそうに口を歪ませる。


「竜騎士として手合わせしたかったがな。生憎これはレースなんでね。戦闘の勝敗には意味がないんだ。先に行かせて貰うぞ。」

『そう言うことだ。』


竜騎士科のオセット・カスタムと氷結竜コルゴは捨て台詞を残しその場を去ってしまう。


ひゅううううう

とり残されたスカーレット赤髪短髪レインは氷付けに固まる相棒を静かに見据える。


「ガーネット、私達はまだまだね···。でも諦めないで。一緒に頑張りましょう···。」


敗北をまだ理解できぬ氷付けされた自分の相棒に優しく静かに寂しげにレインは励ますのだった。


「くっ、悔しい!。私達が何もできないなんて!。」

『これにこりたらもう少しは考えて行動してくださいね。ルベル。ただの感情論ではレースには勝てないのですから。作戦や準備が必要なのですよ。』

「わ、解ってるわよ。」

ぷい


ルベルは不貞腐れたようにそっぽをむく。


『はあ~。』


軍師竜ゼノビアは深いため息を吐いてしまう。

それにしても炎竜族の個体差ですか。確かに個体差で能力、竜種は決まってしまいますけれど。それでも能力が低い炎竜族に関しては氷結竜に勝てる要素は一つだけあるのですがね。それに気付けるかどうか·····。

軍師竜ゼノビアは能力の低い炎竜族でもたった一つ氷結竜に勝つ方法を知っていた。ただ好戦的でプライド高い性格の炎竜族はそれを結してやらないとふんでいる。もしそれをやれば絶対あの氷結竜にさえ勝つことが可能なのである。



わーーーーー!わーーーーーー!


「流石は氷結竜の竜騎士、オセット・カスタムさんだ!。我等竜騎士科に勝利をもたらしてくれた!。」


わーーーー!わーーーー!

竜騎士科の令息生徒達は一年の氷結竜の乗り手であるオセット・カスタムが勝利を確実になったことに盛大に盛り上がる。

騎竜乗り科の令嬢の面々は皆悔しげに唇を歪ませている。


ふむ、最後の一年の模擬レースは竜騎士科の勝利で終わりましたか。これで竜騎士科の誇りだけは失わずにすみましたね。


マキシ・マム教頭は他校と竜騎士科と騎士竜乗り科の合同模擬レースが穏便にすんだことに多少は安堵する。


さて、次は組分けレースですか·····。

狂姫の弟子とそのノーマル種の実力を確かめる良い機会です。

存分に暴れて貰いましょう。

マキシ・マムはじっと問題となっている他校の一年とそのノーマル種に視線を向ける。


少し落ち込でいる金髪の少女を平凡な緑色の鱗に覆われている竜が慰めていた。


マキシ・マム教頭は我が校に来訪した異分子或いは異端児が加わることで。どう学園が変わる楽しみであった。


さて、吉と出るか凶でるか見物ですね····。










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