第235話 選抜

「では一年代表の方お願いします。」


マキシ・マム教頭の指示に竜騎士科と騎竜乗り科の間に戦慄が走る。全ての視線がある一点の平凡な騎竜とそれを騎竜にする騎竜乗りの少女にむけられる。

一年担任のカーネギー教官は腕を組み考え込む。このままアイシャ達を出してよいものかと思い悩む。


バッ

竜騎士科の一年の令息生徒の一人から激しく手が挙がる。


「先生、俺、あの他校のノーマル種の実力を知りたいです!。」

「あっ!?。私も!。是非、ノーマル種にする騎竜乗りの強さを確かめたいです!。ノーマル種を騎竜にするのだからその実力は確かなんでしょうけど。」

「私も!。」

「私も!。」

「私も!。」


騎竜乗り科の方からも強い要望を込めたように次々と力強く手が挙がる。

平凡な騎竜とそれを騎竜にする乗り手にぎらついた敵意のある視線が双方から向けられる。

マキシ・マム教頭は互いの科の生徒達の反応に満足に頷くと。カーネギー教官に優しく口添えするように語りかける。


「どう致しますか?。カーネギー教官。竜騎士科の令息生徒も騎竜乗り科の令嬢生徒達からもこれ程強い要望がありますけど····。」


くっ、こいつめ·····


カーネギー教官はこ憎たらしげにマキシ・マム教頭を睨む。

何いけしゃあしゃあと言ってんだと内心カーネギー教官は思っていた。

マキシ・マム教頭がアイシャ達をけしかけたいのが見得見得である。


カーネギー教官はそっぽを向き。再び考えを巡らす。このまま出したところで次に組分けの模擬レースも始まる。ならいっそのこと·····。


「·······。」


カーネギー教官は一度アイシャに視線を向けると視線に気付いたアイシャは不思議そうに首を傾げる。

そのまま直ぐに視線を外すと次は一年のスカーレット赤髪短髪の少女の生徒にむけられる。


「レイン・ルポンタージュ。行ってくれるか!。」

「えっ!私ですか!?。」


突然、お呼ばれされるとは思っていなかったのでレインは激しく動揺し困惑する。


「あ、はい。大丈夫です!。」


躊躇いながらもレインはしっかりした言葉で返事を返す。


「ガーネットも大丈夫よね?。」


一応騎竜船の船酔いもひいてるはず。


「うむ、大丈夫だ。今は絶好調よ!!。」


ぼ~ん

真っ赤な燃えるような深紅の赤髪と情熱的なタンゴドレスを着飾る人化する炎竜ガーネットはボーンとタンゴドレスの胸元から突き出る2つの膨らみ力強く叩く。


「では、頼む!。」


カーネギー教官はレイン達を指名する。


「ちっ。」

「くっ。」


一年の竜騎士科と騎竜乗り科の生徒達からは不機嫌に舌打ちしたり。悔しげに唇をかんだりする。

なるほど、アルビナス騎竜女学園一年担任カーネギー・アヴィレンスは私の意図に気付いておりましたか…。

マキシ・マム教頭は鼻に置かれた眼鏡を静かにくいっとあげる。

カーネギー・アヴィレンスがカーネギー教官の本名である。

流石は元薔薇竜騎士団の隊長をしていた方ですね。次の組分けレースに狂姫の弟子を回しましましたか。労力を残すという意味合いがあるのでしょうけど。まあ、いいでしょう。

マキシ・マム教頭は意図にないにせよ。例の狂姫の弟子が次の組分けの模擬レースに出ることに変わりはないと問題ないと判断する。


「例のノーマル種の騎竜乗りは出ないんだな。相手は炎帝と炎速か…。」

「炎帝かよ。」

「騎竜も炎竜族の炎速のガーネットが相手かよ…。」

「あの騎士の名門であるルポンタージュ家か…。」


レイン・ルポンタージュのルポンタージュ家は騎士系の貴族として有名である。名のある竜騎士がそこから輩出されている。男性は竜騎士、女性も薔薇竜騎士団の竜騎士、或いは凄腕の騎竜乗りである。騎竜もエレメント種の炎竜族で個体差があるエンペラー種やロード種、レア種等の特殊な種族である。故に名門の騎士の家系の貴族であるレイン・ルポンタージュの炎帝の名も知れ渡っている。


「まあ、一年竜騎士科最強であるジェロームなら問題ないでしょうけど。」


竜騎士科の三竜騎士と呼ばれた一学年最強竜騎士ジェローム・アドレナリンなら名門のルポンタージュ家で渡り合えるだろう。だが、もう竜騎士科には敗北は許されない。三年二年生徒も竜騎士科は模擬レースで敗北しているのだ。竜騎士科は戦闘が専門だからって言い訳できるだろうが。だがそれでもプライド高い竜騎士科候補生が納得できる筈がない。ここは何としてでも一年の模擬レースで勝利を納めねばならない。


「ジェローム・アドレナリン。お行きなさい。」


竜騎士科一年担任教師が一年最強の竜騎士生徒を呼ぶ。

ジェローム・アドレナリンって、すげー名前だな…。

ライナはジェローム・アドレナリンという突っ込みどころ満載の名前にただただ衝撃を覚える。



「ふふ、出番だね…。」


前髪が見事なカール髪をしているジェローム・アドレナリンはふぉさと前髪を撫でるようにかきあげる。ギザったらしい歯がキラッと輝く


「待ってくれ。ジェロームさん。ここは俺に任せてくれないか!。」


突然ジェロームは同じ一年のクラスメイトに呼び止められる。


「君は確か…。」

「オックス・カスタムだ。騎竜はエレメント種の氷結竜だ。炎竜族にとっては北方大陸に生息する氷竜族は天敵のはず。なら俺ならあの炎帝と渡り合えるはずだ。」

「慎みなさい!オックス。確かに貴女の竜騎士や貴女の騎竜も能力としては優秀ですが。ここは一年の中でも最も優秀な成績を持つジェロームに任せるべきです。」


竜騎士科一年担任はしゃしゃり出てきた生徒、オックスを強く叱責する。

ふぁさ

ジェロームのカールの前髪をあでやかにかきあげる。


「私はかまわないよ。本来ならあの例のノーマル種とレースで戦うはずだったしね。だけど。炎帝はともかく騎竜乗り科はどうするつもりなんだい?。あちらもそれなりの手練れの騎竜乗りと騎竜を用意する筈だけど。」


一年の騎竜乗り科の手練れと言えば予想するならば鳳凰竜や魔剣竜を騎竜にするオリン・ナターシスかラム・カナリエだろうか?。乗り手の騎竜の鳳凰竜は不死の竜と言われている火属性の竜だ。殺しても復活するという特性を持つ不死の竜と言われている。傷口も直ぐに回復する驚異的な治癒能力を持つという。戦闘力はそれほど高くないが。もう片方の魔剣竜に関しては魔剣の特性を生かした戦法をとる竜である。例え北方大陸に生息する氷系スキルや魔法に長けた氷竜族でも魔剣の能力を生かす魔剣竜に関しては分が悪い。


「ぐっ、確かにそうですが…。」


オックスは歯がゆそうに歯を噛み締める。


「さて、うちは誰にしますかね?。」


騎竜乗り科の一年担任は模擬レースに誰を出すか悩む。

成績、戦績で考えるならば事実上鳳凰竜の乗り手であるオリン・ナターシスか。魔剣竜の乗り手ラム・カナリエだろう。しかし二人は竜騎士科と騎竜乗り科の諍いには消極的である。騎竜乗り科は一勝したから一応面子は保たれてはいる。それでも竜騎士科に敗北することを一年騎竜乗り科のクラスは許さないだろう。


「私が出ます!。先生。勝つ気のない優等生を出しても足手まといですよ!。」

「ルベル…··。」


オリンの前に一人の騎竜乗り科の生徒がわってはいる。

ルベル・フォーゲン。クラスの成績、戦績ではオリン・ナターシスとラム・カナリエの次に並ぶ優秀な騎竜乗り科の生徒である。騎竜も上位種で希少な指示と戦略の能力、スキルに長けた軍師竜である。


「ルベル····。」

「オリンはスッこんでて!。竜騎士科の連中に勝つ気ないなら騎乗り科にとっては迷惑よ!。」



ルベルは冷たくオリンを突き放す。


「先生、お願いします!。」


ルベルは誠心誠意頭を下げお願いする。


「·······。」

「「「私達からもお願いします!。」」」


ルベルを慕う騎竜乗り科のクラスメイトも一斉に担任に頭を下げる

騎竜乗り科一年担任の教師は考えこむ。

ここで負けても問題ないだろう。クラスの生徒もルベルが出ることに反対はしていない。勝敗の有無に関係なく。クラスが団結して納得しているのならば教師として口出す必要性もない。

騎竜乗り科一年担任は頷く。


「解りました。ではこの一年代表の模擬レースは貴女に任せますね。ルベル・フォーゲン。」

「はい!、全力で騎竜乗り科に勝利をもたらしましょう!。」

「「「ルベル、頑張って!!。」」」


ルベル・フォーゲンは胸に手をあて敬礼のような挨拶をする。

同調するように一年クラスのリーダーでもあるマレスに熱い声援を送る。


「此方の騎竜乗り科はルベル・フォーゲンを出します!。」

「ルベル・フォーゲンだって!?。鳳凰竜使いのオリン・ナターシスや。魔剣士の異名を持つラム・カナリエが出ないのか!?。」

ざわざわざわざわ


騎竜乗り科の一年達も騎竜乗り科で強いとされる二人がでないことに一年の竜騎士科の面々がざわめく。


「騎竜乗り科では鳳凰竜使いのオリンも魔剣士のラムも出さないのですね。」


竜騎士科一年担任は意外そうに眉を寄せる。

騎竜乗り科で問題であった二人がでないというならば氷結竜の乗り手であるオックス・カスタムにも勝ち目はある。ルベル・フォーゲンの騎竜と言えばあのレア種の軍師竜である。確かにあの竜は強い。だが、あの竜が本当の真価が発揮するのはあくまで個々の個人戦よりも。チームプレイを有した団体戦である。正直個人戦、フリーレースにはあの軍師竜は不向きなのである。あの竜は個々の戦いでは完全な能力は発揮できないであろう。ならば氷結竜を騎竜にする生徒オックス・カスタムにも充分勝ち目はある。一学年の中で優秀なジェロームを出す必要性もなくなった。


「いいでしょう。オックス・カスタム。貴方の意気込みに免じて。この一年の模擬レースには貴方に任せることにします。ですが、出るからには必ず勝ちなさい!。竜騎士科がこれ以上敗けるわけにはいかないのです!。」


オックス・カスタムのやる気は理解するが。竜騎士科として三年二年も敗けている以上。最早後がない。この一年模擬レースに関しては絶対敗けるわけにはいかないのだ。


「イエスマイロード‼️。完璧な勝利を捧げましょう。」


オックス・カスタムは礼儀正しく足を揃え。竜騎士流の敬礼をする。


「あれれ?レースに出るんじゃないの?。」


用を足してきたジェロームの相棒の騎竜は人化の姿が小柄な中性の顔立ちのかわいらしい角を生やした男の娘のような姿をしていた。実質竜の性別としてはオスである。


「ああ、私達の出番はまだまだ先みたいだね。例のノーマル種が出ないようだから組分けレースに当たることを願うよ。」

「ふ~ん、まあ、僕とジェロームのペアならどんな相手だってへっちゃらさ。」


かわいらしい角を生やした男の娘は小さなガッツポーズをする。


「ふふ、そうだね。一年の中では僕らに勝てる相手はいないよ。」

ふぁさ、

ジェローム・アドレナリンのカールがかった前髪をギザったらしくかきあがる。

実質一年の中でジェローム達と戦える相手は竜騎士科にも騎竜乗り科の中にもいなかった。


竜騎士科の列の奥でつまらなそうに一年生徒達と教師の会話を聞いていた竜騎士科最強の男、ゼクスは相棒である無双竜ザインに声をかける。


「残念だったな。ザイン。例のノーマル種は一年代表の模擬レースには出ないようだぞ。」

『組分けレースの方にしたんだろう。騎竜乗り科にも竜騎士科にも目をつけられてるからなあ。体力を温存するためにも仕方ない判断だ。』


特に無双竜ザインは気にしていない。確かに一年の模擬レースで出ないことは多少がっかりではあるが。いくらでもあのノーマル種の実力を知る機会があるのだ。何故なら否応にも竜騎士科や騎竜乗り科からも喧嘩を売られることになるのだから。その状況を作ったのもあのノーマル種に他ならない。

本当に面白ことになりそうだ。

無双竜ザインは久しぶりに血沸き肉踊る興奮を覚える。


「では決まりしたらスタートラインに立って下さい。」


マキシ・マム教頭の指示に三人を乗せた騎竜がスタートラインに立つ。

氷結竜に乗ったオックス・カスタムは既に真っ白な雪色のフルメタルボディの鎧を着こなしていた。しかし何故だかその鎧は厚着である。氷結竜は氷竜族特有のグレシャーブルーの鱗に覆われ。氷河のような硬さと寒さを秘めた翼を広げる。


『オックス。よかったな。俺としては鳳凰竜はともかく魔剣竜が出るとかなり勝敗は危うかったぞ。』

「ああ、魔剣竜は魔剣によって属性も能力も大きく変わるからな。本当に厄介な竜だよ。」


騎竜乗り科の魔剣士の異名を持つラム・カナリエが所有する魔剣竜は彼女が持つ魔剣によって属性も能力も大きく変わる。氷結竜も属性のスキルや魔法に関して遅れはとらないが。それでも激しく苦戦する相手である。五分五分よりも少した下ぐらいの能力差があった。


『本当はあの身の程知らずのノーマル種の相手をしたかったんだかな。』


校庭で自分達に喧嘩を売る行為をされて氷結竜は黙っていられなかった。威圧のスキルを使えることには驚いたが。それでも無能で下等なノーマル種に喧嘩を売られたという事実に上位意識の強い氷結竜は我慢ならんかった。


「あの例のノーマル種にはいづれ授業が合わさった時叩き潰すさ。今はこのレースに集中してくれ。竜騎士科はもう後が無いんだ。必ずこの一年の模擬レースには竜騎士科が勝利をもぎ取らねばならないんだ。」

『へいへい。解ってるよ。ほんと人間という生き物は面倒臭いな。』


氷結竜は人間同士の諍いは本当に面倒臭いと思っていたが。主人の要望には素直にきくつもりである。


『全く…何て無謀なことをしたんですか?。ルベル。』


ルベル・フォーゲンが乗る下には凛とした振る舞いと風貌をもったヒヤシンス色の鱗に覆われた竜が立っていた。

相棒である軍師竜ゼノビアは厳しい口調で主人であるルベルを叱る。


「仕方ないじゃない!。オリンもラムも真面目に竜騎士科とやり合おうともしない。私達騎竜乗り科と竜騎士科がどういう立場であるか解っていないのよ!。」

『それとこれとは話しは別です!。相手はあのエレメント種の炎竜と氷結竜ですよ。私があの2匹に戦闘で勝てるわけないでしょうに。』

「そこは何とか貴方の知性、知識でどうにかなるんじゃないの?。頼りにしているから。」


主人であるルベルの言い分に軍師竜ゼノビアは大いに呆れ果てる。


『ルベル。言っときますが。私の戦闘は知略と戦略で組むことで成り立っているのです。準備も作戦もたてずにレースに勝てるほどあまくはないのですよ。そういうのは本当に能力や力を持った騎竜がやることです。私は竜の戦闘能力はそれほど高くないことが。貴女は一番理解しているでしょうが!。』

「だ、だって。」

『だってもへったくれもありません!。兎に角、一応レースにはちゃんとでますけど。期待はしないで下さい。』

「う··うう…··。」


主人であるルベルは半べそかきそうになるほど落ち込む。


はあ·····それにしても炎竜と氷結竜ですか…。


属性が相対する竜ですね。炎竜族に関しては個体差が竜種に分けられる程違いがありますけど。氷竜族に関しては名前の違いで既に能力もスキルも決まっています。炎帝と炎速はスピードの強みの戦略をたてていますが。あの炎速の炎竜の火力に関しては炎竜族の中では低い方です。それが氷結竜相手に仇とならなければよいですが…。二匹の勝敗など本来なら自分にとっては関係ないことだが。どうしても性格の性分として二匹の戦闘スタイルを分析解析してしまう。


「ガーネット。相手はシャンゼルク竜騎士校の竜騎士科、騎竜乗り科の生徒よ。どちらもレースと戦闘のエキスパートよ。油断しないで。」

『決まっておる。全力でぶつかるまでだ。それに我の勇姿を見せることでライナはまた惚れ直すかもしれぬ。』


むふふとガーネットの竜の深紅の真っ赤な鼻が伸びる。

それを油断していると言うのだけど…。

レインはガーネットの状態に不安を覚える。


ふむ、予想通りのレースではありませんが。これはこれで面白くなりそうですね。

狂姫の弟子とノーマル種の実力を直ぐに見れないのは残念ではありますが。これはこれで面白いとりあわせである。

戦略と知略に長けた軍師竜、北方大陸に生息する独自のスキルと魔法の生態系をもつ氷竜族の氷結竜。固体差が激しく固体によってはエンペラー種にもレア種にもなる炎竜族の炎竜。とても面白いレースになりそうです。

マキシ・マム教頭は校庭グランドのスタートライン横でスッと右手を頭上へとあげる。


「よーい。」


三匹の各々の騎竜は身を低くし。翼を広げ飛び立つ準備をする。


「ガーネット。最初から飛ばすわよ!。」

『解っておる!。』


ガーネットはぴーんと後方に尻尾を立たせる。

真っ赤な尻尾と翼にちりちりの赤い光の粒子、火の精霊が集まりだす。


「ドラ(以下略)!!。」

『獄炎噴の翼!。』


ぼおおおおおーーーーーーー!

炎竜ガーネットの尻尾の先と翼から勢いよく炎が噴き出した。




 

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