第234話 磁力の電撃
わーーーー!わーーーーー!
スタートゴール地点である校庭グランドでは竜騎士科と騎竜乗り科の声援が熱を帯びる。
「ラザットの悪い癖がでているな。」
眉間を寄せ三年代表の模擬レースを出たガホード・ベーカーはちっと舌打ちする。
竜騎士科の令息生徒はレースで一着をとるよりも勝利と敗北にこだわる。レースでは一着取れれば勝利だが。竜騎士科はそれでは満足できない。確実に戦闘でまかして勝利をおさめたいのだ。
ガホード・ベーカーも最初は三年代表の模擬レースでレースで一着とるよりも騎竜乗り科とやり合うことを先決にした。しかしやり合う前に王国の弓姫に敗れてしまったのだ。今の状況は危うい。今は戦闘で勝利をおさめるよりもレースで一着をとる方が優先すべきことである。でなければ模擬レースで竜騎士科代表全員が完全敗北しかねないのだ。そうなれば最早竜騎士科の面子どころではない。誇りそのものが挫かれるのだ。だから何としてでもこの模擬レースには二年或いは一年生代表には勝って貰わねばならないのだ。
「ラザット、今は戦闘の勝敗こだわるべきでないぞ。レースに勝つことを優先しろ!。」
三年先輩の心情など露しらず。ラザット達は二匹の他校の騎竜と騎竜乗り科の騎竜と対峙する。
「ゼクス。このレースどうみる?。。」
人化せずに鎧のような鱗に覆われた竜。無双竜ザインは面白げに魔法具スクリーンにうつるレースの様子をみいいる。
「さあな。実力差としては拮抗するんじゃないか。或いはあの騎竜乗り科の磁電竜の乗り手が勝つかもな。」
ゼクスは興味なさげなぶっきらぼうな返事で返す。
『驚いたな。俺としてはてっきり騎竜乗り科のあの磁電竜オロスとその主人が先にやられると思ったが。』
実力以前にあの磁電竜オロスの主人にはやる気がまるで感じられない。闘う意志の無いものが先に敗北するなど。勝負の相場ではきまっている。
「純粋な戦闘であるならばそうだろうが。これはレースだ。ゴール到着するまで何か起こるか解らない。やる気のない騎竜乗りでも勝つときは勝つさ。」
『そんなもんかねえ。』
ゼクスの分析に腑に落ちない様子で再びスクリーンに写るレースを無双竜ザインは観戦する。
『ラザット。剣の巫女に追い付かれたぞ。』
激突竜ヘンガンは二匹の騎竜と対峙する。
「問題ない。ここで乱戦に持ち込む。」
剣の巫女の相手でも三つ巴の戦いなら勝機はある。いかにしてあの騎竜乗り科の騎竜である磁電竜に剣の巫女と剣帝竜を相手させるかである。磁電竜の雷を操るスキルは厄介である。しかしその相手を剣の巫女と剣帝竜が相手にさせれば此方に勝機が生まれる。隙をつかせたその隙に激突竜にあの二匹に激突させればいいだけの話である。
激突竜は激突、特攻を得意とする竜である。どんな騎竜でも激突竜の激突には耐えられる竜はいない。例外があるとすれば防御に特化した竜や。最強の一角とされる絶帝竜や。無双竜、幻の最強種、白銀竜などの特殊な能力、スキルを持った竜だけである。生憎、剣帝竜や激突竜は防御に特化した竜ではない。充分な勝機はある。
「どうしようか?。オロス。囲まれちゃった。」
対峙する二匹の騎竜とそれに騎乗する騎竜乗りと竜騎士に磁電竜オロスの主人であるソリシラは困った顔を浮かべる。
「今は逃げに徹した方が宜しいかと思います。剣帝竜や激突竜はほぼ戦闘特化型の竜です。二匹の戦闘特化型の竜(ドラゴン)を相手どるのは矢張此方に部が悪いです。」
激突竜は突撃タイプの竜(ドラゴン)であり。剣帝竜は何種類の剣を出すスキルを持った攻撃系統の竜である。磁電竜オロスも確かに雷を操るスキルを持つが。他の雷竜族と違い純粋な攻撃系の雷撃を放てるわけではない。あくまで相手をシビラせ感電させるバフ系の竜である。他に磁電竜ならではのスキルを持っているが。それが戦闘に役に立つかは微妙なところである。
『お嬢、騎竜乗り科の磁電竜もおります。どう致しますか?』
「……。」
激突竜だけでなく雷竜族の磁電竜も相手するとなるとかなり難儀である。
「……。」
『なるほど、騎竜乗り科の騎竜乗りと騎竜を無視し。竜騎士科の竜騎士生徒とその騎竜に攻撃を専念すると。畏まりました。』
無言なのに一人と一匹は意志疎通が出来ていた。
『では初めましょうか。千の深き剣落ちし。闇深き魔を断ち、聖祈りしは白き刃、百と見なし千と成りて。』
剣帝竜ロゾンの瞼を閉じ瞑想する。
ギザギザした鋼の翼が大きく広がる。
『剣千想界(けんせんそうかい)!。』
ぶあああああああーーーーー!
ロゾンの周囲の空間に聖剣、魔剣、神剣、千もの剣が並び立つ。
「ふわああ!、凄い数の剣だね。オロス。一個持ってかえりたいねえ。」
『そんな悠長なこと言っている暇ないとおもいますけど……。』
何ものにも動じないマイペースな主人に磁電竜オロスはゲンナリする。
「ヘンガン準備しろ!。剣の巫女が此方に攻撃を加えてくるぞ!。」
『どうするつもりだ?。ラザット。』
三つ巴の戦闘に入るとはいえ剣の巫女と剣帝竜ロゾンをどう磁電竜オロスと戦わせるのか理解が及ばなかった。
「剣の巫女らが俺達に攻撃加えたら直ぐに磁電竜の元に突っ込め!。」
『正気か!?。またあの磁電竜とかいう竜(ドラゴン)の電撃をまともに喰らうぞ!。』
電撃を喰らう効果範囲がトゲを飛ばした箇所であることが解る。それを伝って磁電竜は雷を飛ばしている。その範囲に入れば再び感電しかねない。相手を突撃するのが得意といっても。まともな電撃を喰らうほど雷に耐性を持ってはいないのだ。
「剣の巫女が俺達を狙っているのならそれを上手く利用する。あわよくば相討ちに持ち込めるかもしれない。そしたら実質俺達竜騎士科の勝ちよ。」
『そう、上手くいくかねえ?。』
激突竜ヘンガンは主人の作戦が上手くいくなど到底思えなかった。
「……。」
『畏まりました。お嬢。』
無言の指示に剣帝竜ロゾンは頷く。
ヂャキヂャキヂャキヂャキヂャキヂャキヂャキヂャキヂャキヂャキヂャキヂャキヂャキヂャキ
突撃剣帝竜ロゾンの千も並ぶ剣の剣先が激突竜に向けられる。
狙いが一点集中するかのように全ての剣の矛先がデコが突起物のように伸びた竜、激突竜に向られていた。
『こいつは…まさかっ!?。』
激突竜ヘンガンが剣帝竜ロゾンが今何をなそうとしているのか直ぐに解った。
「丁度いいな。これなら騎竜乗り科の磁電竜も巻き込ませるのには簡単だ。」
ラザットも剣帝竜が何をしようとしているのか直ぐに察しほくそ笑む。
『千差万捌(せんさばんべつ)‼️。』
ひゅうひゅうひゅうひゅうひゅうひゅうひゅうひゅうひゅうひゅうひゅうひゅうひゅうひゅうひゅうひゅうひゅうひゅうひゅうひゅうひゅうひゅうひゅうひゅうひゅうひゅうひゅうひゅう
千の数ある剣が一斉に激突竜ヘンガンに降り注ぐ。
「今だっ!。」
ずっきゅーーーーーーーーーーーーん!
タイミングよく激突竜ヘンガンは突撃する。狙いは騎竜乗り科の磁電竜オロス。
ずっきゅーーーーーーーーーーーーん!
びゅんびゅんびゅんびゅん
マッハスピードで突っ込む突撃竜に千本の剣はその場その場で空振るもしつこく後を追う。数千の剣と一緒に激突竜は磁電撃竜オロスの懐へと突っ込む。
「お、オロス。ど、どうしよう!?。」
流石に数千の剣に追われる激突竜が此方に向かってくるのだから普段マイペースなソリシラでも大いに慌てる。
『まさか剣帝竜のスキルと一緒に私達を巻き込ませるつもりですか!?。』
あり得ない戦法を取られて磁電竜オロスも激しく動揺する。このままでは数千の剣が激突竜と一緒に突っ込んでくるのだ。激突竜を回避しても追ってくる数千の剣にくし刺しにされかねない。雷撃を操るが痺れ程度で。向かってくる数千の剣に対してどうすることもできない。
何か!何か方法は…。
磁電竜オロスは何が何でも回避する方法を模索する。
ずっきゅーーーーーーーーーーーーん!
「今だ!?。」
手をこまねているうちに激突竜は磁電竜のまん前に来て体当たりするわけでもなく。そのまま寸なり横切る。狙いは激突するのではなく。まるごと剣帝竜のスキルの餌食にする魂胆である。
「お、オロス!。」
『そ、そうだっ!?。』
焦るソリシラにオロスははっとあることを閃く。
ひゅうひゅうひゅうひゅうひゅうひゅう‼️
しかしまん前にはすでに数千の剣が接近していた。
バチ バチバチバチバチバッバババッバッ
ババババババババッ
磁電竜オロスは速やかに小金色の鱗から微量の電撃を放つ。
蠢く微量の静電気程度の電撃が周囲をクモの巣みたいに網目のようにはる。
『プラズ・マグネット(磁力電)‼️。』
ひゅう! ピタッ
突前飛んでくる数千の剣の動きが止まる。
「えっ?。」
魔法具スクリーンで観戦するアイシャも何が起こったか理解できない。
千の数ある剣の動きが止まるとカタカタと数千の剣が震え出す。
『何だ?何が起こってるのだ?。』
「……。」
剣帝竜ロゾンもこの異様な光景に困惑する。数千単位の聖剣、魔剣、神剣の動きが止まったのだ。全ての剣を自由に操作できる剣帝竜にとってもあり得ないことである。
カタカタカタカタ
ひゅひゅひゅひゅ
ガシャガシャガシャ ガシャガシャガシャ
ガシャガシャガシャ ガシャガシャガシャ
突然数千の剣が次々と何かに引っ張られ。一箇所一箇所に剣同士がくっつき出す。
剣が束になるように重なる。
「こいつは一体どういうことだ!?。」
竜騎士科のラザット・バラッカスは剣帝竜のスキルの餌食になるはずだった騎竜乗り科の磁電竜が無傷どころか。数千の剣そのものが次々に磁石のように互いにくっつきだしたことに困惑する。
『ふう、剣の一部が鉄製で良かったです。まさかこのスキルが役に立つ時が来るとは…。』
磁電竜オロスはホッと胸を撫で下ろす。
磁電竜は確かに他の雷竜族と違って強力な電撃、雷撃スキルを持ち合わせていない。しかしある一点だけ特殊なスキルを持ち合わせていた。それが磁力を帯びた電撃である。磁力秘めた電撃は鉄製しか効果はなく。鉄を引っ張る能力を持つ電撃といってもレースで役に立つかと言えば矢張微妙なところである。できるとすれば鉄製の武器を奪ったりすることだが。主人の主要武器がミラーなのでほぼ接近戦をすることもないので実際レースで使う場面があまりない。
『磁電竜…。確か西方大陸に生息する雷竜族で。鉄を引き寄せる特殊な電撃スキルを持ち合わせていると聞いたことはあるが…。』
同じ西方大陸の出身である剣帝竜ロゾンは磁電竜の知識をしっていた。しかしまさか千ものの数の剣をくっつかせるほどのスキルだとは思いもよらなかった。
『これほどの数の剣ならもしかしたらイケるかもしれないですね。』
「どういうこと?。オロス。」
主人のソリシラは不思議そうに首を傾げる。
磁電竜オロスはある考えに行きつく。
相手が戦闘特化型の竜でもこの方法ならデバフタイプの竜でも勝ち目はある。
磁電竜オロスは集中する。
全神経を静電気のような電撃を発することのみに集中する。
磁電竜の小金色の鱗からパチパチと電流が漏れる。
『プラズ・マグネット(磁力電)!!』
バッバッバッ ババババババババッッ
多量の静電気のような電撃が磁電竜オロスから放電される。静電気のような電撃は停滞する千の数もある剣を巻きこむと。剣そのものが引力を帯びたように周囲の鉄製のものに吸着される。当然、フルメタルボディの鎧を着る竜騎士科のラザット・バラッカスの鎧も鉄製なので千の数ある剣の一部がラザット・バラッカスの鎧に何本も吸着される。
ガチャガチャガチャガチャガチャ‼️ ガチャ!
「ぐわあああああっーー!!。何だとっ!?。」
ラザットのフルメタルボディの鎧は何本もの聖剣、魔剣、神剣に貼り付かれる。鎧が何重の剣の重みでバランスを崩し。激突竜ヘンガンの背から落下する。
「うわああああああーーーーーーー!。」
『ラザットっ!?。』
激突竜ヘンガンは鎧が剣まみれになって落ちていく。ラザットその後を追う。
ひゅ ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ
『なっ!?私まで。』
「……っ!。」
自分の出した剣に引っ付かれるとはおもわなかった剣帝竜ロゾンは深く動揺する。
剣帝竜ロゾンは翼や鱗は鋼鉄製である故に磁電竜オロスの電気磁石のような微量の電撃が空中の千本の剣に反応し引き寄せられる。
『よし!。今です!。』
バサッ
びゅううううううーーーーーーーー!
磁電竜オロスは小金色の翼を広げ猛スピードでレースコースを進む。二匹とも引っ付いた剣の重みで身動き取れない状態である。その隙に磁電竜オロスは最後のレニオニス広場を右折する。そのまま難なくゴール地点であるの校庭グランドのゴールラインを過ぎる。
ひゅう
「一着、ソリシラ・マスタート!。」
わーーーーーーーーーー!
「やったわ!。騎竜乗り科の勝利よ!。」
「くっ、ラザットさんが敗北するなんて。」
騎竜乗り科が勝利をおさめ。騎竜乗りの令嬢生徒達は歓喜する。一方騎竜乗り科の方が悔しそうに唇を歪ませ項垂れる。
わーーーーーーー!わーーーーーーー!
「ここまで番狂わせが起こるとは…。騎竜乗りの実力というよりは騎竜の特性に助けられたという感じですかね。」
マキシ・マム教頭も二年の模擬レースの結果に意外そうに眉を潜める。
「やったーー!オロス。私達勝ったよ!。」
『おめでとうございます。お嬢様。』
久しぶりにレースに優勝したことにソリシラはハイテンションで舞い上がる。
後から剣に解放された二匹も校庭グランドに戻ってきた。
「それでは一年代表の方お願いします。」
マキシ・マム教頭の次の言葉に騎竜乗り科と竜騎士科は一斉同時に視線が動く。その視線がある一点の平凡な竜とその平凡な竜を騎竜にする他校の騎竜乗りの少女に注がれる。
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