第220話 宿無し
ボムボムボム
ギュルギュルギュルギュル
「見て!、中央大陸よ!。」
令嬢生徒の一人が甲板の手すりから指をさす。
航行3日目。アイシャお嬢様達を乗せた騎竜船ロアンディアル号は無事中央大陸へと到着する。中央大陸は陸地が地平線がみえるほど広大であった。俺は甲板から広大な陸地がを眺めている。ふと遠くに霞がかった細長い白い塔のようなものが竜瞳に入る。
ギャアラギャ?
(あれ何だろう?。)
「何?何?何!?、ライナ何か見えるの?。」
アイシャお嬢様は甲板の手すりから身を乗り出す。
アイシャお嬢様は初めての中央大陸の陸地にはしゃぐことが止められないようである。
ギャギャアラギャガアギャアラギャガアギャアラギャ
(ちょ、ちょっとアイシャお嬢様。危ないですから。)
テンション高めのアイシャお嬢様を俺は懸命に宥めようとする。
「あれは神竜聖導教会の本拠地、神竜大聖堂がある聖都アヴァルレイクよ。神足る竜を崇め。神竜聖導教の信徒が多く。聖竜族の故郷でもあるわ。」
隣で真珠色の髪が風で揺れているパールお嬢様が坦々と説明する。
「へえ~。神竜大聖堂か。いつか行ってみたいね。ライナ。」
ギャアラギャ
(そ、そうですね。)
俺ははしゃぐアイシャお嬢様を落ち着かせる。
騎竜船は中央大陸の陸地を上空からどんどん進んでいく。平原と丘と湖を抜け。長い塀に囲まれた町並みがみえてくる。
「あれが王都シャンゼルグよ。」
パールお嬢様が指を指す。
「凄い!。」
ギャア····
(あれが·····)
広大な塀に囲まれた街並みは東方大陸の都会の都市と比ではない。塀が東西南北4つの区画に分けられ。真ん中には巨大なお城とその後ろに教会らしき綺麗な装飾が施された白い建物がそびえ建っていた。
ヴァーミリオン商会の騎竜船ロアンディアル号が塀に囲まれた王都シャンゼルグに接近し。南側の塀をすり抜け。発着場のような場所へと降り立つ。他にも騎竜船のような飛行船が何隻も停船していた。
ロアンディアル号は発着場の空いている着場に着地する。
「さあ、お前達、さっさと船に降りろ。一年から三年の担当教官が各々の各クラスの点呼をとる。」
ぞろぞろ
カーネギー教官の指示に令嬢生徒は甲板から渡橋を使い順番に降りていく。
「ほら、ガーネット。もう船を降りるわよ。もう船酔いにならずにすむから。」
「う~む。」
スカーレット赤髪短髪のレインお嬢様がやつれた炎竜ガーネットの手を引く。
赤いタンゴドレスがよれよれになるほど窶れていた。本当に大丈夫か?。
一年二年三年令嬢生徒が船着き場の広場で担当教官達が各々クラスの点呼をとる。
「よし!、全員いるな。ここからは徒歩で王立シャンゼルグ竜騎士校に向かう。王立シャンゼルグ竜騎士校は東地区にある。此処の騎竜船の発着場は南地区だ。迷わずについて来るように。返事は!?。」
「「イエス!マーム!!。」」
「では行こうか!。」
ぞろぞろぞろぞろ
列をなして三年クラスが先頭になり。続いて二年クラスと最後にアイシャお嬢様のいる一年クラスが最後についていく。
ドシドシ
俺もアイシャお嬢様の後ろについていく。
ドシドシドシ
「ちょ、ちょっと。君それは何だい!?。」
「えっ?。」
アイシャお嬢様と一緒に歩いていた俺は街道入る直前に後ろから呼び止められる。
振り向くと王都の住人だろうか?。
むっつり顔の作業服のオッサンが立っていた。
三年二年の生徒は街道を進んでいるが。俺が街道直前で呼び止められたことでアイシャお嬢様も止まり。列をなして進んでいた一年クラスの一部は足が止まる。
「君、それノーマル種だよね?。悪いけど今、王都全体がパレードの準備の真っ最中なんだ。人化できる上位種はともかく人化できないノーマル種がその図体で出歩くと邪魔なんだよ!。悪いけどそのノーマル種を街に入れないでくれる。」
「そんな·····。」
アイシャお嬢様は青ざめる。
どうやら王都は今パレードの準備中でノーマル種は出歩けないようである。
「ちょっと、何ですの!。ライナ様を通さないとは何様のつもりですの!。」
ぷんぷん
マーガレットお嬢様が前に出て怒りで金髪ロールが揺れる。
あの~貴女様が口を挟むとより話がややこしくなるのですが·····。
マーガレットお嬢様が助け船出してくれるのは有り難いが。俺は余計に話がややこしくなるような気がした。
「ライナを通さないって言った?。ライナを通さないってことは僕に喧嘩を売るってことだよ。君の経済的にも生物的にも消すけど。いいの?。ねえ、良いよねえ?。」
キリネも鬼気迫る感じで割り込んでくる。
ちょ、キリネ物騒だから。キリネが満面なニコニコ顔で相手を気圧すように睨み付ける。凄みが姉のセシリアお嬢様に似ている。流石姉妹である。
「な、何だ!?。この生徒達は。何でノーマル種なんかに肩を持つんだ?。」
ノーマル種庇おうすると貴族の令嬢生徒がいることに有り得ないと王都の住民の作業服のオッサンが驚愕する。
「どうかしたのか?。」
騒ぎを聞きつけ一年クラスを先頭で誘導していたカーネギー教官が戻ってくる。
「あんたがこの生徒の教師か?。」
「そうだが。家の生徒がなにか問題起こしたなら謝ろう。」
カーネギー教官が対立する王都の住民のオッサンとアイシャお嬢様達を見て何かを察したようである。
「今は王都はパレード準備の真っ最中だ。大事な時期なので。ノーマル種は王都の街には入れられない。」
「パレード?。そういえばそろそろ王国の建国記念日か·····。」
カーネギー教官は何処か懐かしむようにキリッとした顔が緩む。
「と、とにかく、そのまま王都の街にノーマル種は入られないから!。」
王都の住民はカーネギー教官に非難する。
「そこを何とかできないか?。頼む。」
カーネギー教官は礼儀正しく一礼する。
王都の住民のオッサンは再びノーマル種のために学園の教官が頭を下げることに狼狽えてしまう。
「そ、そのままじゃ入れられないが。荷台とかに入れて荷物として運べば問題ないはずだが······。」
作業服のオッサンはばつ悪げに頭をポリポリとかく。
え?俺お荷物なの?。
ノーマル種が荷物以下の立ち位置に俺は少しショックを受ける。
「荷台か。荷車があればよいのだが····。」
カーネギー教官は顎に手をあて考えこむ。
色々迷惑かけてすんません。
ノーマル種であることが。学園にこんだけ迷惑が懸かるとは思っていなかった。
ヴァーミリオン商会の会長さんが言っていたノーマル種は王都では生きずらいとはこういう意味なんだと今更ながら理解する。
「ご心配ありません!。私(わたくし)に良い考えが御座います!。」
突然メイドのカーラさんが満面な笑みを浮かべ会話に割り込んできた。
何か嫌な予感がするのだが····。
「貴方は確か····。アイシャ・マーヴェラスに遣えるメイドですね。」
「はい!、私めならライナをより安全により完璧により円滑に目的地である王立シャンゼルク竜騎士校に運ぶことができましょう。」
メイドのカーラさんは会釈しながらニヤリと不適な笑みを浮かべる。
後ろの方でリリシャさんが困った顔で相方の暴走を静観している。
「では荷車があるのですか?。」
「これを御覧下さいませ!。」
カーラはさも堂々と手を翳す。
手を翳した方向を見ると手綱のついた二頭の馬とそれを引く荷台ではなく檻があった。檻は前に見たよりもより強固により頑丈にできていた。どうみてもカーラさんが勝手に特注で頼んだ特別製の檻のようである。
何処からこんなものを·······。
騎竜船では檻なんか見かけなかったのに。
馬も何処で調達したのだろうか?。
俺の竜顔は半場呆れ顔を通り越してドン引きしてしまう。
財政難であるマーヴェラス家にこんな無駄遣いされると正直物申したくなる。しかし今は王都がパレードの準備中のせいでノーマル種は堂々と出歩くことが禁止されている。荷台でも荷車でもないが。俺を運んでくれるなら助かる。
正直嬉しくないが······。
「ヴァーミリオン商会の会長から二頭の馬をかりました。私目がライナを無事王立シャンゼルグ竜騎士校に運び致しましょう。」
カーラさんは満面な笑顔で進言する。
リリシャさんもカーラさんの会話の中に自分も含まれているのだと知るとはあと深いため息を吐いていた。
リリシャさん本当にお疲れさまです。
俺は内心リリシャさんの心労を労う。
「すまない。かたじけない。本来ならばこの件は学園側でフォローをするのだが。」
カーネギー教官は自分の不甲斐なさを詫びる。
「いいえ、困ったときはお互い様です。さあ!ライナ、この素晴らしいお荷台お入りないさい!。」
カーラさんは嬉しそうに荷台(檻)に入ることを促す。
またこのパターンなのね。
後、これ荷台でなく檻ですから。解ってて言っているでしょうけど·····。
俺は渋々檻に入ることにした。
ガチャン
俺が檻に入ったとたんカーラさんは頑丈で複雑そうな檻の錠に鍵をかける。しかも暗証番号付きである。
何処にも逃げないつうの。
俺は檻の中で不貞腐れる。
もうふて寝してやる!。
カーラさんの特注の檻の中で俺はふて寝することにした。
「では行こうか。」
カーネギー教官の指示の元再び一年クラスは東地区にある王立シャンゼルグ竜騎士校へと向かう。
ガラガラ
「ママ、見て!。檻の中にノーマル種がいるよ!。」
「まあ、見世物として出すのかしら?。でもノーマル種なんて見世物にもならないのに。」
「無能なノーマル種が何でこんな頑丈で豪華な檻に入れられてるんだ?。勿体なさすぎだろ。」
「ノーマル種なんかパレードに不釣り合いだろ。入れさせるなよ。」
「ノーマル種より竜化した上位種のレア種やエンペラー種がみたいのに。何が哀しくて貧乏臭いノーマル種を見なきゃならんのか。」
「まあ、低俗なノーマル種ですこと。貧乏が移りますわ。」
案の定俺に対する野次、暴言、悪口が絶えなかった。王都の連中はどうやら本当にノーマル種を見下しているようである。それが階級が上がる度に色濃くなってくる。
キリネは俺が悪口を言われていることが相当腹ただしくおもったのか。あの顔は覚えたぞ。あの顔は忘れない。後で処理しようと物騒なことを口にしている。人化している相方の幻竜ラナシスさんがキリネの暴走を優しく疎めている。
ラナシスさんキリネのこと本当にお願いしますね。本当に経済的にも生物的にも消しそうで怖いです。
ガラガラガラガラ
王都のパレードの準備に勤しむ南地区の街道を進む
カーラさんは有頂天に檻付きの馬車を気分よく引いている。すれ違う王都の住人はほぼ冷ややかな目をしている。そんな空気などお構い無く。そんなの関係ねえ~!そんなの関係ねえ~!見たいな感じでカーラさんは意に介さない。
本当にカーラさんのメンタルは氷か鋼鉄でできているんではなかろうか?。
南地区と東地区の境の塀を潜り東地区に入る。東地区にはほぼ住宅街などなく。東地区全体が学園の敷地のようであった。
ガラガラガラガラ
一年クラスが王立シャンゼルグ竜騎士校の正門に到着する。既に三年二年令嬢生徒達は正門前に集まっていた。
「ふぅ~、少しトラブルがあったが。何とか到着したようだな。」
王都で起こるであろうノーマル種の問題にカーネギー教官は解決してホッと胸を撫で下ろす。
俺もやっとカーラさんの特注の檻から解放される。カーラさんが俺が檻に出ることが未練たらたらだったけど。そんなこと知ったこっちゃねえ!。
王立シャンゼルグ竜騎士校はアルビナス騎竜女学園よりも数倍敷地が広かった。運動場やレース場なようなものが幾つも見える。正門の奥に巨大な装飾が施された見事な校舎が見える。あれが王立シャンゼルグ竜騎士校なのだろう。
「カーネギー副団長!、お久しぶりです!。」
カーネギー教官にはきはきした挨拶の声が飛び交う。
カーネギーは声の方を振り向くとそこには細長い猫耳をぴくぴくと嬉しそうに揺らす獣人の娘がいた。
「久しいな。ミリス。」
どうやらカーネギー教官の知り合いのようである。それにしても初めて獣人と出逢ったな。ルゥも一応獣人にはいるのだが。ルゥに関しては獣よりの獣人である。しかしミリスという獣人は猫の獣耳を頭についた他は尻尾だけ残して。人間の特徴を持つ紛れもなく獣っ娘と呼ばれる存在であった。
「カーネギー副団長もご健在で何よりです。薔薇竜騎士団の仲間も逢いたがっていましたよ。」
「副団長は止めてくれ。もう私は薔薇竜騎士団を引退して。今はしがないアルビナス騎竜女学園の教師をやっているのだから。」
「そんなことありません。私にとって副団長は今でも副団長です!。」
カーネギー教官は眉を寄せ困った顔を浮かべる。カーネギー教官はどうやら薔薇竜騎士団の副団長をやってたらしい。
「ささあ、アルビナス騎竜女学園生徒御一行様お待ちしておりました。私、王立シャンゼルグ竜騎士校の寮長を務めさせております。ニメバ・ラブホと申します。」
少し派手めな貴族風の身なりをした年配の女性が正門の中から現れる。
「旅の疲れもあるでしょう。今日はゆっくりお休み下さい。明日には我が校の生徒達と交流の手筈になっておりますから。皆様には宿泊施設として我が校自慢の女子寮に用意しております。騎竜乗り科の生徒達や薔薇竜騎士候補生も寝泊まりしております。快適で豪華な部屋も用意しておりますで充分満足できるでしょう。」
王立シャンゼルグ竜騎士校の寮長はまるで旅館の女将のような親しみのある接客をする。
寮長を先頭にアルビナス騎竜女学園生徒一行はついていく。
俺も最後尾の方へ行儀よくついていく。
ふと寮長ニメバ・ラブホが俺にチラっと視線を向ける。
ん?
俺の姿を見たん途端にこやかな顔が一気に不快な顔へと変わる。
「ふん!。」
ニメバ・ラブホは不機嫌に鼻を鳴らす。
何か感じ悪いなあ~。
王都に入ってからノーマル種に対する偏見、差別、嫌悪感が増している気がする。ノーマル種が無能で下等な竜種であることはに認識しているが。ここ王都ではノーマル種に対する対応が相当冷たい。
寮長に案内され広大なシャンゼルグ竜騎士校の敷地を進む。
今日は休日なのだろうか?。シャンゼルグ竜騎士校の生徒は一度も見かけなかった。
「到着致しました。」
目の前には綺麗な装飾を施された建物がある。寮というよりは大きな年代のある図書館のようであった。
玄関の上部には女神像のようなアーチがある。
「ではアルビナス騎竜女学園一行様お入り下さいませ。豪華で快適な部屋を用意しておりますので。」
三年令嬢から順に女子寮に入っていく。
あれ?シャルローゼお嬢様がいない。
いつの間にか三年のクラスにシャルローゼお嬢様の姿がなかった。相棒である絶帝竜カイギスもいない。
俺は竜首を傾げる。
三年二年と次々に令嬢生徒と人化した騎竜が入っていく。
「あの、寮長さん。」
アイシャお嬢様が王立シャンゼルグ竜騎士校の寮長に駆け寄る。
「何でしょうか?。」
ニメバ寮長はにこやかな笑顔で対応する。
「ライナなんですけど。あ、ライナと言うのはノーマル種で私の騎竜なんですけど。ライナが入れる竜舎とかありませんか?。」
ノーマル種を騎竜にしていると聞いた途端、ニメバ寮長の親しみのある笑顔がスッと消える。アイシャお嬢様に対する視線が冷たいものへと変わる。
「ありませんよ。」
「えっ?。」
アイシャは戸惑う。
「確かに王立シャンゼルグ竜騎士校には来客専用竜舎がありましたが。来客にノーマル種をつかうものなどいませんし。税金の無駄遣いと言うことで撤去解体されました。」
「そんな·······。」
アイシャお嬢様は青ざめる。
「今のは時期は王国の建国記念日のパレードの準備の真っ最中ですから何処も竜舎は満舎じゃないでしょうか?。」
ニメバ寮長はまるで追い討ちをかけるようにアイシャお嬢様をまくし立てる。
「ミリス、どういうことだ?。私は事前に伝えたはずだぞ。」
カーネギー教官は薔薇竜騎士団後輩であったミリスに詰め寄る。
ノーマル種を騎竜にするアイシャ・マーヴェラスの件を事前に王立シャンゼルグ竜騎士校に伝えていた。
「も、申し訳ありません!。てっきり私も学園長も冗談だと思ってしまって。」
「冗談って········。」
カーネギー教官は苦虫を噛み砕いたように顔をしかめる。
「まあ、ノーマル種のことですからどっかの平原に置けば勝手に野宿しますよ。何せノーマル種ですから。」
ニメバ寮長のノーマル種にたいする偏見、嘲り込めた言葉をアイシャお嬢様に容赦なく投げかける。
アイシャお嬢様はぐっと悔しさを耐えるように唇を噛み締める。
来て早々宿無しかい!。
俺は王都でノーマル種がとことん風当たりが悪いことを痛感する。
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