第221話 実家
シャンゼルグ竜騎士校
学園長室
「良くお戻りになられました。シャルローゼ王女。」
「王女は止めて下さい。今は私はしがない学園の生徒ですから。」
シャルローゼと絶帝竜カイギスはシャンゼルグ竜騎士校の学園長室で学園長と挨拶をしていた。シャンゼルグ竜騎士校と王族とは深い関係ある。シャンゼルグ竜騎士校の創設者が歴代王族のシードス・シャンゼベルグである。本来なら王族名であるシャンゼベルグに学園名を付けるのだが。王族の権力を学園に入れるべきではないという先見者であったシードス・シャンゼベルグの判断である。それでも創設者の名を入れないことは良くないと学園側の意志もあり。間をとってシャンゼルグという略称を学園名に付けることになったのである。シャンゼルグ竜騎士校は王族と深い繋がり持つ学園ではあるが。王族の権力を学園に入れない取り決めをしている。
「狂姫のラチェットのところの学園に入学したと聞いた時は本当に心配になりましたよ。彼女は手加減を知りませんから。」
「そんなことはありません。学園長は立派な方です。」
シャンゼルグ竜騎士校の学園長ジオ二・ハスバークはアルビナス騎竜女学園の学園長である狂姫ラチェット・メルクライの同期である。バザルニス神竜帝国大学の学園長バーサラ・マクダリスとともに同期であるが。バーサラ学園長とアルビナス騎竜女学園の学園長の二人は元ライバル関係だったゆえに折り合いが悪く。いつも二人の間で板挟み状態になっている。
「なんにしても元気そうで何よりです。」
「シャルローゼ様。合宿の寝泊まりはどららにおなりなられるのですか?。」
ジオニ学園長の隣でアルビナス騎竜学園全員の生徒名簿を持ったマクシ・マム教頭が問い掛ける。
「実家から通います。本来ならシャンゼルグ竜騎士校の女子寮から通うのですが。お父様がどうしてもと。」
シャルローゼははあと深いため息を吐く。
アルビナス騎竜女学園の生徒として合宿なのだから同じクラスメイトと一緒にシャンゼルグ竜騎士校の女子寮から通いたかったのだが。父親であるオルドス国王の意向で半場強制的にお城から通うことになってしまったのだ。娘としては父親であるオルドス国王には早く子離れして欲しいものである。
「その方が宜しいでしょう。オルドス国王も大層喜ばれます。」
ジオニ学園長はニッコリ微笑む。
「そうですね。では私達は一度女子寮を見てからお城に帰ることに致します。」
「そうですか。道案内をマキシ教頭に。」
マキシ教頭が畏まった姿勢で前に出る。
「いえ、申し訳ありませんがお断り致します。シャンゼルグ竜騎士校の敷地は幼少から熟知しております。迷うことはありません。それに警護にカイギスがおりますので。」
シャルローゼの隣で角をはやし初老の紳士の姿をした絶帝竜カイギスが丁寧に頭を下げる。
「確かに王族直属の近衛騎士である薔薇竜騎士団の元騎竜であるならば警護に問題ありませんね。解りました。どうぞご自由にシャンゼルグ竜騎士校の敷地を御覧下さい。」
ジオニ学園長は笑顔で見送る。
「では失礼します。」
シャルローゼは丁寧にお辞儀をし。くるりと後ろを振り向き。学園長室の扉を目指して進む。カイギスもシャルローゼの後方を付き添うようについていく
シャルローゼは学園長室のドアノブに手をかけようとする。
「そう言えばラチェットが奇妙なことを言っていたのですが。」
ふと思い出したようにジオニ学園長の口から言葉がもれる。
「奇妙なこと?。」
シャルローゼのドアノブに手をかけようとした手が止まる。
「はい、何でも私の久しぶりの弟子でノーマル種を騎竜にする生徒いるから。宜しくだそうです。ふふ、狂姫であるラチェットも面白い冗談いえるようになったのですねえ。」
ジオニ学園長はあの好戦的で過激な性格のラチェット・メルクライが冗談を言えるくらいユーモア溢れる学園長になったことに感動する。
シャルローゼの薄目の金髪の眉が一瞬ピクリと寄る。
その一瞬を警護役であり。相棒でもある絶帝竜カイギスは見逃さなかった。
「ジオニ学園長····。」
シャルローゼが吐いた名が何処か冷たさを帯びる。
「な、何でしょうか?。シャルローゼ様。」
シャルローゼ王女の言葉に凍てつくようなトゲものようなものを感じたジオニ学園は自分が何か粗相をしたのではないかと動揺する。
隣にいたマキシ・マム教頭も平静を保ちながらも内心冷や汗ものであった。
「ノーマル種を騎竜にする生徒ですが·····。冗談ではありませんよ。」
「はっ?。」
「では失礼します。」
ガチャン
学園長室の開かれた扉がバンと強く閉められる。
残された二人は暫くポカーンと硬直したように固まっていた。
「全く何なんですか!。冗談とは!。」
シャルローゼは廊下を憤慨ながら進み。薄目の金髪の頭部から湯気がわいていた。ここまで腹が立ったのは久方ぶりである。
「お嬢様。行儀悪う御座います。」
カイギスはシャルローゼの今さっき学園長室の行ったことを丁寧に叱る。
「解っております!。しかし!学園長の弟子となったアイシャ・マーヴェラスの騎竜であるノーマル種ライナのことを冗談とは。ああ、今思い出しても腹が立ちます!。」
ぷんぷんと怒りを露にする。それと同時にシャルローゼの張りのある豊かな胸も弾む。
「仕方ありません。貴族の中でノーマル種を騎竜にする貴族はおりませんから。特にこの王都では。」
王都の貴族や国民さえもノーマル種を下等な種、矮小と見なしている。騎竜にもなるノーマル種を王都では家畜以下程度にしか見なされていないのだ。
「さっさと女子寮に寄ったら帰りますよ!。不愉快です!。」
まだシャルローゼは堪忍袋がおさまらないようである。
カイギスははあと深いため息を吐く。
ざわざわ がやがや
シャルローゼと絶帝竜カイギスがシャンゼルグ竜騎士校の女子寮に到着すると。玄関前で生徒
達が人集りができて騒いでいた。
「お嬢様。女子寮の玄関前で何やらもめているようです。」
遠目が効くカイギスが主人であるシャルローゼに伝える。
「いったい何があったのでしょうか?。」
シャルローゼは首を傾げながらも女子寮の前まで歩みを進める。
「ですから、何とかなりませんか?。」
「無理なものは無理です!。ノーマル種を騎竜にする生徒など聞いたことがない!。女子寮にノーマル種のような人化もできない。図体がデカイだけの竜を寝泊まりするスペースなどありませんよ。お引きとり下さい!。寧ろノーマル種を騎竜する貴族などシャンゼルグ竜騎士校の合宿には相応しくないでしょうに。退学させたほうが宜しいのでは?。」
カーネギー教官はシャンゼルグ竜騎士校の女子寮の寮長に直談判するが。全然聞き入れてはくれない。
「くっ、あの寮長。サウザンド家の権限で首にしてやろうか。」
「キリネ···。」
キリネの唇が悔しそうに歪む。
その隣で幻竜ラナシスが懸命にキリネの暴走を止めようとする。
「何ですの!。ライナ様と一つ屋根の下に暮らせると思ったのに。」
ぷんぷん
「お嬢様·······。」
マーガレットは合宿でライナと一つ屋根の下で暮らせると思っていたようである。
「お嬢様······。」
「はあ~、だから言ったのに。」
パトリシアは起こるべきして起こった状況に頭を抱える。
ハーディル商会の力で何とかしたいが。ここの王都の管轄はヴァーミリオン商会である。取り次いで何とかしてもらうしかない。しかし今はパレードの準備の真っ最中。空いている宿舎の竜舎などないに等しい。
「うぬ。ライナが困っている状態に我は本当に不甲斐ない。」
「ガーネット·····。」
まだ船酔いがおさまらない炎竜ガーネットを主人であるレインが支えられていた。
「マウラ。どうしよう?。」
「セーシャ、ほっとくと宜しい。これであのノーマル種が己の分を弁えることでしょう。」
冥死竜マウラはアイシャに対する待遇の悪さに不満はあるが。あのノーマル種ライナに関しては正直どうでもいいと思っている。寧ろアイシャがこのシャンゼルグ竜騎士校の合宿に参加しない方が傷も浅いとさえ思えてくる。
「あ、アイシャ·····。」
パールはアイシャの傍で慰める。
アイシャはグッと噛み堪え。悔しさに耐えていた。
俺のせいでここまで大事になってしまった。何とかしたいけど。ただのノーマル種の俺には何も出来ない。ここは本当に我慢して野宿するしかないのだろうか?。野宿は初めてだけど。まあ竜(ドラゴン)なんだから野宿くらい何とかなるだろう。
俺は竜舎で寝泊まりすることを半場諦めていた。野宿することを覚悟した。
「何の騒ぎですか?。」
シャルローゼがもめている一年令嬢生徒の人集りに顔を出す。
「これはこれはシャルローゼ様ではありませんか!。お久しぶりで御座います。何年ぶりでしょうか。」
シャルローゼの姿を一目見るとニメバ寮長は豹変したかのようにガラリと態度を変える。
「ニメバ寮長お久しぶりです。これは何の騒ぎですか?。」
「シャルローゼ様聞いてください!。この生徒達は教師も一緒になってノーマル種を我が校の女子寮に宿泊させて欲しいと頼み込んでいるのです。歴史ある王立シャンゼルグ竜騎士校の女子寮にノーマル種など寝泊まりさせる場所などありませんよ。全く汚らわしい!。」
ニメバ寮長はあ~やだやだというな嫌悪感丸だしの表情で悪態をつく。
シャルローゼはぴくと薄目金髪の眉が眉間に寄り添いそうになるが平静を保つ。
「シャンゼルグ竜騎士校にも来客専用竜舎があった筈です。どうしたのですか?。」
「シャルローゼお、じゃなくて様。シャンゼルグ竜騎士校の来客専用竜舎は使用されてないということで。税金の無駄使いとして既に撤去解体されております。」
王族直属近衛騎士の薔薇竜騎士団の団員である獣っ娘のミリスがシャルローゼに説明する。
「そうですか·······。」
「ですから、さっさとこのノーマル種を王立シャンゼルグ竜騎士校から追い出しましょう。ノーマル種やノーマル種を騎竜にする貴族もシャンゼルグ竜騎士校の合宿には相応しくないでしょう。」
ニメバ寮長はシャルローゼに同意を求める。
「では私がノーマル種ライナを引き取りましょう。私なら合宿が実家通いなので問題ないで筈です。」
「はっ!?。」
ニメバ寮長はシャルローゼの言葉に絶句する。ニメバ寮長はシャルローゼの素性を知っていた。シャルローゼはこの国の第一王女シャルローゼ・シャンゼベルグである。この国の正統な王位後継者でもあり。高貴な彼女が下等で無能なノーマル種を引き取るといったのだ。それはつまり上位種でもない下賎な竜をお城に招くということである。
「なっ、しゃ、シャルローゼ様。それはあ、あまりにも勿体なさ過ぎる気が。」
ニメバ寮長はシャルローゼ王女を静止しようとする。たかだかノーマル種の寝床のためにノーマル種をお城に泊めさせるなど有り得ない。
キッとシャルローゼはニメバ寮長を冷たく睨む。
「勿体ないとは何ですか?。かわいい後輩の騎竜が泊まるところないと困っているのです。先輩として助けるのが当たり前です!。カイギス宜しいですね?。」
「お身心のままに····。」
絶帝竜カイギスは反論することもなく丁寧に会釈する。
「あがっ!。」
ニメバ寮長はシャルローゼのあまりにも常識外れな提案にショックのあまり凍りついたように気絶する。
わーーーーーーー!
パチパチパチパチパチパチ
一年令嬢生徒達からシャルローゼに対する称賛の声があがる。
トラブルが解決して一年令嬢生徒達は気分よく女子寮に入っていく。
わいわいわい
「シャルローゼ先輩ありがとうございます!。」
アイシャは深々と頭を下げる。
「いいえ、困ったときはお互い様です。実家は広いですからライナの寝床にする場所は充分に確保できますよ。」
シャルローゼはニッコリと微笑む。
「ライナのこと宜しくお願いします!。」
「はい!責任持ってお預かり致します。」
二人は笑顔で承諾しあう。。
俺の身柄はシャルローゼお嬢様の実家に引き取られることになった。
なんとか野宿だけはまぬがれたようである。
主人であるアイシャお嬢様から離れ。シャルローゼお嬢様と絶帝竜カイギスと一緒にシャルローゼお嬢様の実家へと向かう。シャンゼベルグ竜騎士校の広大な敷地を西へとすすむ。南地区がある南側にある正門を通るのではなく。西側の西門を通って中央地区の真ん中らへんの場所にシャルローゼお嬢様の実家があるそうだ。
どしどし
ギャアラギャギャガアギャアラギャガアギャア?ギャアラギャガアギャアラギャ
(カイギスさん。本当に宜しかったのですか?。何か御迷惑かけてしまって。)
俺(ノーマル種)のせいで学園に多大な迷惑をかけてしまった。王都ではノーマル種の風当たりが悪いことをしみじみ実感する。
落ち着きを帯びる絶帝竜カイギスの初老の紳士姿から静かに口が開かれる。
「気に病むことはない。お嬢様が決めたことだ。それにああするしか解決はできなかっただろう。」
ギャギャア····
(そうですか·····。)
「ただあの通りノーマル種の立ち位置は王都では更に悪い。シャンゼルグ竜騎士校では私達も一応フォローはするが。お主の主人に関しては。」
ギャ!ギャアラギャギャ!
(はい!全力で守ります!。)
俺がノーマル種であることが主人であるアイシャお嬢様更に傷付ける可能性がある。あるとはは思いたくないが。シャンゼルグ竜騎士校で悪質な虐めに晒されるかもしれない。
俺はアイシャお嬢様を全力で守ることを心に誓う。
「なら私から何も言うまい。」
絶帝竜カイギスはライナの覚悟の竜瞳を見て静かに口を閉じる。
「着きましたよ。」
絶帝竜カイギスとの会話の中。いつの間にか目的地に着いたようである。
「ここが実家です。」
シャルローゼお嬢様は満面な笑顔で目の前にある自分の実家を紹介する。
ドーーーーーーーーーーーン!
ギャ!?
(はっ!?)
俺の竜瞳が点になる。目の前の竜瞳の先には実家と言うよりは頑丈なブロックの塀に囲まれた巨大な建物が建ってた。塀の奥には美しい装飾が施された壁と屋根と何本もの塔のように並び立つ巨大なお城が目の前にそびえ立っていた。
実家って·····。
ここ、どうみてもお城なんですけど······。
どうみてもこれは実家ではなくお城である。
今どきお城を実家と呼称するのが流行っているのだろうか?。
そんな流行聞いたことがない。
もしかしてとは思っていたけれど。シャルローゼお嬢様は本当に王女様だったのか?。あだ名というか二つ名がプリンセスマドンナと呼ばれていたが本当に王女様だったとは···。
確かに気品とか上品さとか礼節さが王族らしい雰囲気は醸し出してはいたけれど。
「では行きましょうか。」
シャルローゼお嬢様ではなくシャルローゼ王女様に促され。城門目指して俺の竜の脚を動く。尻尾を振りながら王女と王女の相棒である竜の後ろについていく。
ライナは目の前の実家というなのお城へと歩みを進める。
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