第211話 騎竜と共に····

「ここが学園長の自宅よ·····。」


      ドーーーーーーン!


都会の街並みを抜け。門戸前にとてつもない豪邸がそびえたっていた。ノーマルの騎竜サイズが普通に入り口、廊下に出歩けるデカさである。

さすがは学園長である。金を持っているようだ。狂姫時代三大陸制覇してレースで稼ぎまくった結果であろうか?。それにしてもデカすぎる。学園長1人で持て余しそうだ······。


ギャアラギャガアギャアラギャガアギャア?

(何でこんなデカい豪邸を建てたんですかね?。)


どうみても学園長1人で住むには広すぎる気がする。それに無駄にデカいし····。


「それはレッドと愛の·····いえ····忘れて頂戴····。」


マリモ教頭先生はレッドモンドさんの名を口にしそうになったがすぐに唇をつぐむ。

 

ギャアギャアギャアガアギャアラギャガアギャアラギャ?

(学園長とレッドモンドさんの間に何かあったんですか?。)


あの1人と一匹の間にただならぬ関係がありそうな気がしていた。俺はどうにも気になって学園長とレッドモンドさんと面識があるマリモ教頭先生に聞いてみる。


「ライナ····。」


突然マリモ教頭先生の視線が突き刺すような眼差しへと変わる。口調もやや冷たい。


「貴方がレッドの知り合いでも。触れてはいけない領域というものがあるのですよ。少しは配慮を考えなさい!。」


マリモ教頭に怒られてしまった。


ギャギャアラギャ·····

(す、すみません······)


学園長とレッドモンドさんのプライベートの詮索はマリモさんにとっては地雷のようである。


金具の門戸の前でインターホンの役割の魔法装置にマリモ教頭先生が触れる。


ぽおっ

『はい、何方かしら?。』


インターホン魔法装置が発光し。学園長の声が聞こえた。


「私です。学園長。学園生徒アイシャ・マーヴェラスとその騎竜ノーマル種ライナが用があるそうです。」

『用?、解ったわ。入って頂戴。』


がらがら

黒金具の門戸が自動に開かれる。

手入れされた芝生が広がる。

中心には女神なのか?噴水の像が水瓶から水を垂らしている。

メイド達が庭を手入れしている。

しかしメイド達は人間だけで人化した騎竜は見当たらない。学園長の趣味だろうか?。


「メイドの騎竜は雇っていないんですね?。」

「騎竜乗りを引退しているから必要ないのです。それに学園長は相棒のレッドしか自分の騎竜と認めていないですし。」

ギャギャア·····

(なるほど····。)


騎竜のレッドモンドさんと主人である学園長の絆はかたいようである。長い付き合いでお互い相当信頼しあっているのだと感じる。

俺とアイシャお嬢様のような関係かな。


「それにメス竜を入れるとレッドが何かの間違いが起こす可能性がありますから。」


あらら?信頼何処ですか?。

マリモ教頭先生の最後に呟いた台詞に俺はガクッと竜肩を落ちそうになる。

庭のある道を過ぎ豪邸の前に立つ。

ほんとに間近でみると更にデカった。

これいくらだろう?。うん万うん百うん億はくだならないだろう。狂姫のレースで稼いだ財力に感服する。


「ライナ、私達もレースで稼いだらこれくらいは建てたいね。」


アイシャお嬢様は何の迷いもなく目の前のこのデカい豪邸建築の将来設計を宣言する

いや、これは無理なんじゃ。これくらいの豪邸建てるのにどれだけレース出場して稼げばいいのやら。

レースといっても賞金は微々たるもの。賞金の高いレースはあるかもしれないけど。これほどの豪邸を建てるのに並大抵のお金、労力、戦績が必要な気がする。

マーヴェラス家を復興させ。貧乏脱却を目指してはいるが。正直俺は怖じ気づきそうになる。


玄関前には1人のメイドが建っていた。風貌からしてここのメイド達のチーフリーダーのようなかんじである。


「ラチェット様は客室でお待ちしております。どうぞ此方へ。」

「ありがとう。」


ベテランのメイドに促され。マリモ教頭先生は竜サイズの玄関扉を通る。続いてアイシャお嬢様と俺も通ろうとする。しかし玄関扉を入ろうとした直後邸にいた若い二人のメイドが俺の前の道をふさぐ。


「ノーマル種のようですが。申し訳ありませんが邸内を通す訳には行きません。」

「邸内では人化できない竜を通すことはできないのです。上位種でないならお引き取りください!。でなければ邪魔にならないよう庭でお待ち下さい!。」


竜サイズが入る広々とした邸内の中なのに何故か若いメイド二人は俺を通そうとしない。

メイド達は汚物を見るような目で俺を眺めてくる。

ああ·····何か久しぶりだな。この待遇。

ノーマル種が底辺で下等な竜種であることをすっかり忘れていた。

まだ俺は街で名の通った有名な竜ではない。学園では人気はあるが。学園外を出れば途端にこのような冷遇された態度をとられる。

解っていたことだったが。暫く学園内にいたので感覚がマヒしていた。


「構いませんよ。そちらのノーマル種もレッドモンド様に用があるようなので。通しなさい。」


ベテランのメイドが二人の若いメイドに告げる。


「で、ですがノーマル種ですよ?。」 

「邸が汚れます!。」


なんか物凄くずけずけと失礼なことを言うなこの二人。ノーマル種でもお客様でしょうに。

二人の若いメイドの吐いた言葉にマリモ教頭先生のかけた凛とした眼鏡の眉間の眉がぴくぴくと不快に寄る


あっ!これ怒鳴るやつだ!?。


「いい加減にしなさい!。だから何なんですか!?。狂姫の相棒であるレッドの知り合いであるならば客人と同義。それは客人として迎え入れないとは何事ですか!。狂姫ラチェット・メルクライを怒らせたいのですか!?。」


マリモ教頭先生の怒りに満ちた怒声が邸内のホールまで届く。


「も、申し訳ありません!。」

「失礼致しました!。」


マリモ教頭の迫力と狂姫を怒らせるキーワードを入れた途端若い二人のメイドは萎縮し大人しくなってしまう。狂姫である学園長を怒らせることが相当怖いらしい。確かに普段は温厚だがレースでの本性を垣間見れば相当怖いことは想像ができる。


「貴方達は下がって頂戴。ここの対応は私がします。貴方達はまだ客人の接客というものがなん足るか解ってないようですね。身分とか階級とかはこの邸のお客様に関して関係ないことです。見た目で判断するなど愚の骨頂ですよ。ことを終えたら話があります!。今日のところ二人とも客間に待機していなさい!。」

「「畏まりました······。」」


若い二人のメイドはしょんぼりした様子で客間の方向にとぼとぼ歩いていく。


「ごめんなさい。彼等は新参者なのです。後で私がきつく言いきかせておきますので。」


メイドのチーフリーダーは申し訳なさそうに謝罪する。


「いいえ、気にしてませんよ。ライナも気にしてないよね?。」

ギャアラギャガアギャア

(はい、いつものことです。)


アイシャお嬢様の言葉に俺は深く同意する。

ノーマル種にとってこの世界は世知辛いの世の中だと重々承知している。今更文句いっても仕方ない。これは俺が選んだ道でもあるのだから。


巨大な中央階段を上がり。左側の巨大な廊下を進む。いくつもの竜サイズの扉が並んでいたが。そこを素通りして更にデカそうな大扉のある部屋へお到着する。


「此方がラチェット様専用の部屋。ドラゴンファミリーラブリビングルームでこざいます。」


ん?何でラブつけるの?。ドラゴンもつけてるけど。普通にファミリーリビングルームで良くない?。

俺は竜長首傾げ?マークを浮かべる。

ぽお

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

メイドのチーフリーダーが扉に触れると自動的に開いた。

洋風でも近代的な作りらしい。

デカイ大扉が開かれた。


「はい、あ~ん♥️」

「あ~ん♥️。」

パク

「美味しい♥️。」

「うん、美味しい♥️。」


「·········。」

「·········。」

···············


学園長が甘えるようにフォークで焼いた肉をレッドモンドさんの竜口の中に入れていた。

熱々な空気が流れる。


何だ···このラブラブバカップルのような光景は。レッドモンドさんと学園長はビックソファー寄り添うようにまるで恋人のように餌付け?されていた。

本当にこの1人と一匹はどういう間柄何だろう?。


俺とアイシャお嬢様のような関係ではあるが。それよりもラブラブである。いや、俺とアイシャお嬢様とはラブラブな関係という訳ではない。あくまで主人と騎竜の健全な関係である。断じてそういう関係ではない。俺はアブノーマルではなくノーマルを貫くのだ。ノーマル種だけに!。


「はあ、またやっているのですか?。学園長。毎日イチャイチャ止めて貰えませんかね?。生徒に目の毒です。」


毒つうか特に何も感じないけど····。

人間と竜がイチャついても特にそんなに腹立たしくはない。寧ろ人間の男女がイチャつくバカップルを見ていると心の底から腹が立つ。

絶対僻みではない。


「特に気にしませんよ。教頭先生。私もライナとあんな感じですから。」


アイシャお嬢様は目の前の竜と人間のバカップルのようなイチャつきにも動じず。笑顔で平気で返す。

ええ~?、俺とアイシャお嬢様とあんな感じ何ですか?。あんなイチャイチャバカップルのようなことしているとは俺は思いたくないんだけど······。

外側からだとああ見えるのかと内心俺はショックを覚える。

健全な騎竜と主人の関係を築いていると思っていたんだけど。


「別に生徒であるアイシャ・マーヴェラスが気にしていないというならよいではないですか。それよりも用件は何ですか?。」


学園長はマイペースに言葉を吐き。マリモ教頭先生は深いため息を吐く。


「アイシャ・マーヴェラス用件を言いなさい。早々にこの甘ったるい空気から出たいたので。」


アイシャお嬢様は意を決したように前へでる。



「学園長!。いえ狂姫ラチェット・メルクライ。どうか私に二投流を教えて下さい!。」


サッ

アイシャお嬢様は誠意を込めて頭を下げる。


「なっ!?。」

「がっ!!。」

「ひっ!!。」


一瞬その場の空気が凍りつく。マリモ教頭先生はあんぐりと口を開いたまま絶句し。レッドモンドさんはアイシャお嬢様の発言に竜口が開いたまま一時停止し。付き添っていたメイドのチーフリーダーは冷静さが欠き。恐怖と怯えが入り交じった驚きの悲鳴が上がる。

なっ、がっ、ひっという変な叫びのリズムができていた。

俺は二投流を教わるのに何でここまでオーバーなリアクションとられるのか。理解できず困惑していた。


「アイシャ・マーヴェラス!。二投流を覚えたいなどど。馬鹿な考えは止めなさい!。」

「そうだぞ。ラチェの二投流を覚えるのは命を捨てるようなものだ!。」

「私は何度も死にかけました!。ラチェット・メルクライの二投流は地獄です!。悪夢です!。この世の終わりです!。若いうちに命を散らすものではありません!。」


どうやらメイドのチーフリーダーは元騎竜乗りのようで。狂姫である学園長の元弟子のようだった。

二人一匹とも意気投合したかのようにアイシャお嬢様に詰め寄りながら止めるよう説得する。


え?、二投流覚えるのそんなに命がけなの?。

俺はただ二投流を覚えるのにここまでリアクションとられるとは思ってもみなかった。どうやら二投流を覚えるのは相当命をかけなければいけないらしい。

学園長のニヤケ顔から一変鋭い表情へと変わる。


「本気なのですか·····。」


普段の暖かみの込もった声ではなく。氷のように冷たい鋭い刃のような声で問いかける。

学園長は全盛期の狂姫ラチェット・メルクライの性格に戻っていた。

そんな鋭い威圧にも屈せず。アイシャほ堂々と発言する。


「はい!。私は狂姫ラチェット・メルクライの二投流を覚えたいです!。どうか教えて下さい!。」


再びアイシャお嬢様は頭を下げる。

アイシャお嬢様の誠意のある態度に学園長の眉が上がる。


「なるほど····。覚悟はあるようですね。ですが私の二投流は易々覚えられませんよ。」

「解っています!。それでも私はライナの力になりたいのです!。」

ギャアラギャア······

(アイシャお嬢様·····)


「私はいつもライナに助けられてきました!。いつも窮地の時にライナが道を切り開いてくれました。でもそれでは駄目なんです!。私は立派な騎竜乗りを目指しています!。でもそれは騎竜に便りっきりになる騎竜乗りではありません!。私はライナと肩を並べられるほどの騎竜乗りになりたいんです!。共に歩んでいく。そんな騎竜乗りを私は目指したいんです!。お願いします!私に二投流を教えて下さい!、」


アイシャお嬢様は堂々と言いはなつ。まるでアイシャお嬢様の所だけが明光さすような輝きを秘めている。

俺はいつの間にかアイシャお嬢様はここまで成長したのだと実感する。いつも俺と一緒に少しずつ強く成長していると思っていたけれど。しかしそれは俺の思い違いであった。俺よりもアイシャお嬢様は数倍数百倍数千倍成長していたのである。


「騎竜と共に歩むか·····。ふふ、私も昔同じようなことを言いましたね。ねえ、レッド。」


狂姫ラチェット・メルクライは高圧的な態度が薄れ。まるで何か懐かしむような穏やかな顔へと変わる。


「そうだな·····。ここまでラチェと同じようなことを言える人物を久しぶりに聞いた気がする。」


レッドモンドさんも焦り帯びた竜顔いつの間にか消えていた。


「何を言うのですか!学園長もレッドも!。彼女に二投流を覚えようとするのを止めて下さい!。」

「そうですよ!。生徒をみすみす死なせる気ですか!。」


マリモ教頭先生と狂姫の弟子であったメイドのチーフリーダーも一緒に非難しあい止めようとする。

それでも学園長は穏やかな顔で会話を続ける。


「私のシゴキはきついですよ。たえられますか?。」

「望むところです!。」


アイシャお嬢様は覚悟を決めた顔で頷く。


アイシャお嬢様は狂姫ラチェット・メルクライから二投流を教わることになった。俺はレッドモンドさんから教えて貰ってない技を教わるつもりだ。もうひとつの技と一緒に。

アイシャお嬢様が強くなるなら俺も強くなる。目の前の困難も切り抜ける。それが俺の覚悟であり。アイシャお嬢様の覚悟でもある。


未熟な騎竜乗りと平凡な竜は共に成長を望む




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