第205話 学園長の強さ
「何だか騒しいですね····。」
学園長室から職員室に向かっていた学園長と教頭は廊下ですれ違う令嬢生徒達が何やらひそひそとおしゃべりして騒しかった。
廊下を走らないという校則があるのにも関わらず。それを破る令嬢生徒もいる。しかもその校則を破っている令嬢生徒達は何とあの風紀委員である。
「全く。騎竜乗り令嬢生徒たるものもう少し落ち着いた振る舞いができないものですかね。しかも生徒を取り締まる風紀委員が廊下を走るなど。なっていませんよ!。全く····。」
昔は優等生であり風紀委員長の経験もある教頭はおしゃべりしたり。廊下を走る令嬢達を見て不機嫌に顔をしかめる。
「何か事情があるのでしょう。そこの生徒に聞いてみましょう。」
学園長は廊下でひそひそ会話している令嬢生徒に近づく。
「どうかしたのですか?。皆さん。」
「あっ!?。学園長。おはようございます。」
二人の令嬢生徒は丁寧にお辞儀をし挨拶をする。
「はい、おはよう。それで何かあったのですか?。」
学園長は穏やかな口調で生徒に事情を聞く。
「はい、学園の敷地内に怪しげな不審竜が現れたそうです。全身筋肉質で筋肉の胸板をいつもびくんびくんさせているそうです。怖いですねえ。風紀委員も全力でその不審竜を捕まえようと躍起になっているんです。」
「不審竜ですか·····。」
ぶわああああああああ
ガタガタ ガタガタ
「きゃっ、何!?。」
「じ、地震!?。」
令嬢生徒二人は咄嗟に膝を曲げ屈む。
突然校舎が振動する。
ガタガタガタガタ
「これは······。」
カタカタカタカタ ピタっ
「おさまったようですね······?。」
教頭は揺れおさまったことを確認する。
令嬢生徒二人はしゃがんだままホッと安堵する。
学園長は窓の外の様子を確認する。学園上空を飛び去る青緑色の竜が目に入る。
「あれは······。」
エルフのリスさんと同行してアイシャお嬢様の様子を見に学園にむかう。学園の校庭では風紀委員の令嬢生徒達が見回りしていて騒がしかった。矢張何かあったのだろうか?。
「かなり物々しいですね。ぴりぴりとした空気が漂っています。」
エルフのリスさんも見回りする風紀委員の令嬢生徒達の緊迫した空気を肌に感じ取っていた。
「ふええ、一体何があったのでしょう。」
ふわ ふわ
アーニャお嬢様は不安そうに雲の軽さを秘めた爆乳を揺らす。
バサッ バサッ
ん?羽音
校庭上空に翼をばたつかせる音が聞こえた。ふと頭上見上げるとそこには太陽の日差しに当てられた輝く筋肉があった。
何だ?。
?が頭に何度も浮かび困惑する。
頭上上空にいた筋肉の塊ではなく筋肉質の騎竜が降下する。
ドシッ!
筋肉質の脚が着地すると俺とルゥ以外は警戒していた。
「やあ!ライナ。」
ギャアガアギャア·····
(レッドモンドさん·····。)
俺は久しぶりに逢う師の姿に絶句する。
容貌は全然変わっていなかった。いつも着けている似合わない黒丸い刑事みたいなサングラスに筋肉質な竜の身体。胸板をいつものようにびくんびくんさせて震わせている。
ギャアガアギャ?
(どうしてここに?)
「久しぶりに我が弟子の顔を見に来たのだよ。立ち寄ったついでだがな。」
ぴくぴく ぴくぴく
サイドチェストのポーズをして筋肉の胸板をぴくぴくさせる。相変わらず神出鬼没な師である。もしかしてこの学園の騒ぎはレッドモンドさんのせいではないかと俺は悪い予感がした。
レッドモンドさんは俺が異世界転生してくれた女神アルピス様の紹介で鍛えて貰った竜(ドラゴン)である。俺と同じ転生者であり。よい筋肉がつきそうだというだけで竜に転生した変わり者である。
『な、なんなんですか?。この竜。人化していないのに人語かえしているです!?。』
妖精竜ナティは人化していないのに普通に人語で話す竜を気味悪そうにしている。
エルフのリスさんに関ししては何か生理的に受け付けないというような冷ややかな目をしていた。
あれで見られると俺としてはくるものがあるんだよなあ~。俺も一応変態の部類だし。
アーニャお嬢様は筋肉質の竜を垣間見てふぇ~としながらぼけ~としている。あまり状況を掴めていない様子である。
アーニャお嬢様の相棒、地土竜モルスはチラチラと主人のアーニャお嬢様の持つ鉄製のハリセンを何度も気になりながらチラ見してくる。どんだけ鉄ハリセンが怖いんだよ。
或いはお昼寝する隙を窺っているのかもしれない。昼寝に命かけるほどのことか?。
俺は微妙な竜顔を浮かべる。
「ライナ~~!。」
正門の校舎から慌ただしくかけてくる令嬢がいた。アイシャお嬢様である。校舎に親友のパールお嬢様とレインお嬢様と一緒に先に行ってたはずだが。何故だが戻ってきた。
ギャア!ギャアガアギャア
(あっ!、アイシャお嬢様。)
「はあ··はあ···良かった。間に合った····。」
アイシャお嬢様は俺の元にたどり着くと膝に手をつきはあはあと息を切らしている。
どうやら教室からここまで走ってきたようだ。
「お嬢さんも元気そうだな。」
「あっ!、レッドモンドさん。お久しぶりっじゃなかった。ライナ、大変だよ!。レッドモンドさんが!。」
「そこまでです‼️。」
突然会話が遮られ。いつの間にか令嬢生徒達に取り囲まれていた。令嬢生徒は皆武装解放して武器の刃先を俺ではなくレッドモンドさんに向けている。
「遅かった·····。」
アイシャお嬢様はガックリと落胆したように肩を落とす。
取り囲む一人令嬢生徒が前に出る。
青い髪に髪止めを止めている風姫の異名を持つ風記委員長のセラン先輩である。
セランは物凄い形相でレッドモンドさんを睨んでいる。
やっぱ学園の騒ぎの元凶は師であるレッドモンドさんのようだ。
「アルビナス騎竜女学園内の無断侵入。更には令嬢生徒に何らかの力で危害を加えた所業。許されるものではありません!。神妙にお縄につきなさい!。」
何か時代劇かかっているな····じゃなかった。早く事情を説明しないと。
ギャアガアギャアラギャギャアラギャ
(あの、セランお嬢様。すみません。)
「何ですか?ライナ。今は取り込み中です!。話しかけないで下さい!!。」
セラン先輩は今捕縛しようというところで俺に話を割り込まれ。怪訝そうに眉をよせる。
ギャアラギャガアギャアラギャガアギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャア
(この竜(ドラゴン)は俺の師でレッドモンドさんというんですが。学園に訪れたのは多分俺に会いに来たのからなんです。)
「知りあいなのですか?。しかしここまで学園を騒ぎに大きくした以上。残念ですが見過すことわけにはいきません!。」
何かセランお嬢様むきになってない?。
学園の騒ぎの中どうやらレッドモンドさんとセランお嬢様が追いかけっこか鬼ごっこを繰り広げていたらしい。(鬼じゃなく竜だけど。)
今セラン先輩は頭が血がのぼった状態である。彼女はこういう状態のときは一切話が通じないことは解っている。前に疾風竜ウィンミーの巻き添えで風の魔法で吹き飛ばされた時もこんな感じであった。
どうしようかと俺は途方に暮れる。
「お待ちなさい····。」
突然この修羅場状態に落ち着いた声が飛び交う。振り向くとそこには穏やかで落ち着いた雰囲気を醸し出す学園長が立っていた。隣にはキリッした表情の眼鏡をかけた教頭が何故かへのじに唇を曲げている。
「これは学園長。」
風紀委員の生徒は一歩下がり礼儀正しく一礼する。
「ラチェ····。」
ギャア?
(ラチェ?)
ふいにレッドモンドさんの竜口からこぼれた言葉に俺は首を傾げる。
ラチェとは学園長の名だろうか?。
レッドモンドさんは学園長の顔を一目見ると驚いた様子で狼狽えていた。寧ろ何処かばつの悪そうに気まずそうにもしている。
「学園長。学園を不法侵入した竜です。今捕縛する所です。」
セラン先輩風紀委員長として現状報告する。
「そうですか······。」
学園長はチラリとレッドモンドさんを見る。ギクッとした感じでレッドモンドさんは挙動不審に長首を曲げそっぽを向きキョドる。
一体この人とこの竜はどんな関係なんだろう?。あそこまで狼狽えてキョドるレッドモンドさんは見たことがない。
「セラン・マカダイン。その竜(ドラゴン)を捕まえる必要性はありませんよ。」
落ち着いた口調で学園長はセラン風紀委員長に告げる。
「それはどういう意味で?。」
セラン先輩は眉を上げ聞き間違いかと思った。普段は学園長は温厚で優しい性格をしているが。規則には厳しい方である。特に犯罪まがいに関しては許したことはない。貴族の権力なければ厳しく律するいとわはない方であるが。権力かざし学園を我が物とする令嬢生徒にはいつも頭を悩ませたりする。例えるならキリネ・サウザンドやエリシャ・ハフバーレのような上級貴族が良い例であろう。騎竜乗りの貴族の学園が騎竜乗りの中で権力のある令嬢生徒を相手するにはそれほど気苦労が絶えないのである。この騎竜乗りの貴族社会では致し方ないことである。だが不法侵入した竜をおとがめ無しとは納得いかない。どうみてもこの筋肉質の容姿の竜が身分が高いとは思えないからである。貧乏性がないしにしてもいつも胸板を脈打つ変な竜が身分の高い騎竜である筈がない。
学園長はゆっくとりと静かに口を開く。
「何故ならその竜(ドラゴン)は私の騎竜だからですよ。」
ざわざわ
周りの風紀委員の令嬢生徒達が騒ぎだす。
「学園長の騎竜って?。」
「まさか狂姫の····。」
風紀委員達は口々に騒ぎだす。
「セラン風紀委員長。連れていっても構いませんか?。色々と私のその騎竜と話があるので。」
「はっ、学園長の騎竜なら特に申すことはありません!。」
セラン風紀委員長は大人しく身を退く。
不審竜の正体が学園長の騎竜であるのなら何も言えない。というよりは学園長はニコニコと笑顔を浮かべているが。その奥に秘められる圧に正直セランは気圧されてしまったのである。笑顔ではあるが内心かなり怒っている。もう逆鱗に触れるほどに。怒りの感情に顔に出すものと出さないもの二通り存在する。どちらの怒りが怖いかと言えば勿論後者の顔に出さない怒りである。感情をさらけ出す怒りより顔にも出さない怒りがの方が断然怖く恐ろしいのである。前に顔に出さない怒りを親友のシャルローゼから見たことがある。あれは本当に恐ろしかった。粗相したのはいつもの自分の相棒である疾風竜のウィンミーではあるが。シャルローゼのお気に入りの愛用の弓に落書きをしたことにシャルローゼはニコッと笑顔のままウィンミーの人化の頭にそっと手を添え。ガシッと鷲掴みするとニコニコ顔でアイアンクローをくらわせ。ギリりと締め付け。ねぇ?綺麗にして下さる?ねぇ?綺麗にして下さる?という言葉を何度も連呼し続けるのだ。そりゃあ恐ろしいという言葉に片付けられないほど身が凍えた。
今の学園長はそんな状態である。
私の怒りなど比べものにならないくらい怒っていらっしゃる。
「それでは行きますよ。レッド····。」
「はい·······。」
学園長にレッドモンドは大人しくてくてくとついていく。
パンパン
教頭が手打ちする。
「ほら、貴女達ももうすぐホームルームが始まるのですから。さっさと教室には戻りなさい。」
教頭に促され。風紀委員はぞろぞろと校舎へと帰る。
レッドとはレッドモンドさんの愛称なのだろうか?。レッドモンドさんは学園長の言葉に素直に聞いて大人しく連れて行かれた。
本当にあの1人と一匹の間に一体何があったのだろう?。
「でも良かったね。ライナ。レッドモンドさんがお咎めなくて。」
ギャアギャ·····
(そうですね·····)
ただ捕縛されるよりも不憫におもえるのは気のせいだろうか?。
俺は学園長の連れていかれるレッドモンドさんの背中が段々と小さくなり。なんだかいたたまれなくなる。
「まさかあの変な騎竜が学園長の狂姫の騎竜だなんて·····。」
セラン先輩は学園長と変な騎竜をまじまじとみる。
「学園長が狂姫と呼ばれた騎竜乗りだと解るんですけど。強いんですか?。」
俺はレッドモンドさんのレース経験など知らない。絶帝竜のカイギスや剣帝竜ロゾンとは昔ライバル関係であり。最強の一角の一頭だと知っていたが。レースのペア相手がまさか学園長だったとは初耳である。
「強いってもんじゃないわよ。無敗とも呼べるほどレースを連勝し。唯一東方大陸、中央大陸、西方大陸。三大陸制覇を為し遂げた偉業の騎竜乗りよ。今でも狂姫である学園長のことを憧れる騎竜乗りや貴族は後をたたないというわ。」
そんなに学園長は凄い騎竜乗りなのか?。レッドモンドさんが最強の一角の騎竜なら人間最強の騎竜乗りは学園長なのだろうか?。普段温厚で温和な雰囲気を持つ学園長には想像できない。きっとレースも並大抵の強さではないだろう。
狂姫と呼ばれた学園長とレッドモンドさんか····。一度レースしてみたいなものだな·····。
まだ未知数な学園長とレッドモンドさんのレースの実力を正直俺は本当に知りたいと思った。
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