第204話 マッスル竜再び


「ここがライナとあのお嬢さんが通っている学園か·····。」


ぴくぴく ぴくぴく

校門前でみなぎる筋肉震わせ。刑事のような丸い黒いサングラスをかけた竜(ドラゴン)が立っていた。発達した大胸筋の胸板をびくんびくんと脈打たせている。そんな異質で異様な姿に通学する令嬢生徒達と人化しているメイドの騎竜は気味悪そうに通りすぎていく。


「あれからかなり年月が過ぎたが。ライナは日々筋肉を鍛え上げ。精進しているかなあ?。」


びくんびくん

ふとじっと不審者をみるかのように怪しんで見つめる令嬢生徒と人化しているメイド姿の騎竜の視線に気付く。

令嬢生徒とメイド姿の騎竜の不信感を露にする視線などお構い無く。その丸い黒いサングラスかけた竜はにこやかな笑顔で令嬢生徒とそのメイド姿の騎竜に爽やかな挨拶をする。


「やあ、お嬢さん方。今日もお日がらも良いですねえ。」


竜(ドラゴン)でありながら人語で返す。

びくんびくん びくんびくん


凍りついたように固まる令嬢生徒とそのメイドの騎竜。脈打つ大胸筋を暫く直視していたが。令嬢生徒とそのメイドの騎竜ははっと我に返ると一斉に唇が動く。


「「「キャああああーーーーー!!。変態よおーー!。変態の竜(ドラゴン)よおおおおーーーーー!。」」」


アルビナス騎竜女学園の校門に絶叫というなの悲鳴が上がる。


「るぅ~るぅ~。」


俺は背中にルゥを乗せ。子供をあやすかのように左右に尻尾を振って揺らしていた。

毛並み付きの2つの柔らかな感触がリズミカルにバランスよく背中の鱗肌に伝わってくる。

目の前には人化を解いた森林で森の精気を吸収することを日課にするルゥの保護者兼相棒である緑森竜のロロさんがいる。他にもアーニャお嬢様と地土竜モルスが風車杯のお礼にきていた。


「ライナさん。本当にありがとうございます。これでモルスとの騎竜契約が継続することができました。」


ギャア······

(いいえ······。)


風車杯を優勝したことで父親に許されたのだろう。アーニャお嬢様は満面な笑みを浮かべて嬉しそうにしていた。


「ライナさんから教えて貰ったハリセンがとても役に立っています!。でもモルスが眠るときに毎度叩くので直ぐ壊れるんですよ。」

ギャアラギャ·····

(そうですか······。)


まあ、ハリセンは紙製だから直ぐ壊れるのだからあたりまえなのだけど。


「だから私、考えたんです!。紙製を鉄製にすればいいんじゃないかと。そしたら何と!モルスは一切眠らなくなったんですよ!。」


ふわ ふわ

アーニャお嬢様は何処からか取り出したのか。鉄製のハリセンを軽々しく持ち上げ。バンバンと叩く素振りしながら嬉しそうに雲のような軽さを秘めた爆乳を揺らす。


ギャ ギャギャ·····

(そ、そうですか·····)


アーニャお嬢様の後ろの方では人間の大人の女性化している地土竜モルスがガクガクブルブルと縮こまって身を震わせている。


ん~、何だろう····この娘。隠れドS?天然ドSというのだろうか·····。

俺は満面な笑みを浮かべているアーニャお嬢様を横目に微妙な竜顔を浮かべる。

モルスがもし眠ろうものならアーニャお嬢様の鉄製ハリセン一発が天国に召される可能性があるので。そりゃあ寝れれんわなあ~。

俺は後ろの隅でガクガクブルブル縮こまって震える地土竜モルスにご冥福を祈る。


···キャあぁぁ······


突然竜耳から微かな声が届く。

ん?何か悲鳴のような声が聞こえたような·····。

聴覚が優れているわけではなく至って普通のノーマル種なので森の外から聞こえてきた微かな声にライナは不思議そうに首を傾げる。


ギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャア?

(ロロさん。さっき悲鳴のような声が聞こえなかったですか?。)


俺は森の精気を吸収中のロロさんに聞いてみる。


『さあ、私は聴覚がそれほど優れているわけじゃありませんから。でもシャービド族のルゥ様なら何か気付いてるとおられるかもしれません。シャービド族は聴覚に優れていますから。』


ギャギャアラア!?。ギャ ラギャアガアギャアラギャア?

(あっ、そうか!?。ルゥ。何か悲鳴のような声聞こえた?。)


「るぅ。聞こえた。校門の辺りに女性の悲鳴。今は校内に沢山の悲鳴と絶叫が聞こえる。ルゥ、少し耳が痛い。」


音に敏感なルゥは少し嫌そうに頭にある白い獣耳を両手で抑える。

学園に何かあったのかなあ?。

俺は何だか学園にいるアイシャお嬢様が心配になってきた。

ギャアガアギャアラギャアガアギャア

(ロロさん。俺ちょっと見てきますね。)


『はい、私も森の精気を吸収したら直ぐに向かいますね。』

「あっ、私もライナさんと一緒に学園に行きます。カリスを教室で待たせていますから。」


ふわ ふわ

アーニャお嬢様達も同行することになった。

俺はロロさんと別れ。森林を進み寮のある塀のトンネル方へと向かう。

森林をかき分け。アイシャお嬢様の寮と繋がっている塀のトンネルに到着する。


「おや?、ライナさんは学園に向かうのですか?。」


塀のトンネル前にエルフのリスさんと人化している妖精竜ナティと鉢合わせる。

今から学園に通うのだろう。


ギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャア

(あ、はい。何か学園が騒がしいみたいで。ルゥが生徒達の悲鳴を聞いたと言うので心配になってアイシャお嬢様の様子を観に確かめに。)


「そうなんですか?。私もナティと一緒に今から学園に通うところです。」

「ふん、よこしま竜と一緒に学園登校なんて今日は厄日よ!。」

「ちょっと、ナティ·····。」


リスは複雑そうに眉を寄せて困った顔をうかべる。

青と白のコントラストのチェッカーに染めた髪を靡かせる絶世の美女になっているナティは不機嫌にそっぽを向く。

それほど俺と一緒に通学するのが嫌なんですか?と言える雰囲気でもなかった。

俺とルゥとリスさんと妖精竜ナティとアーニャお嬢様と地土竜モルスは学生寮に繋ぐ塀のトンネルを通り抜ける。


      一年校舎廊下


ざわざわ


「何か騒がしいね。」

「何かしら?。」

「何かやけにざわついてるわね···。」


アイシャは親友のパールとレインと一緒に一年教室に向かっていた。一年校舎の廊下を通りすぎた一年令嬢生徒達が何やら緊張した面持ちでざわついている。

たたたたた!!。


廊下をかけてくるものがいた。本来なら廊下を走らないという校則があるが。それを破って走ってくるのは何故かあの三年風紀委員長のセラン先輩だった。セラン先輩は手に何やら虫あみのようなものを持っている。二人の同じ風紀委員の生徒達を引き連れて廊下をあわただしく玄関の方向へ走っていく。


「セラン先輩どうかしたのですか?。」


タッ

廊下を走るセラン先輩をアイシャは呼び止める。


「あ?あなた達、今この学園に怪しい不審竜が出没しているの。もし見つけたら通報して!。」

「怪しい不審竜?。」


アイシャは不思議そうに首を傾げる。


「ええ、その不審竜は丸い黒いサングラスをつけていて。何故だが人化していないのに人語を返して。尚且つ全身筋肉質で筋肉の胸板をびくんびくんと脈打っているというわ。危険かもしれないから目撃したら直ぐに私達に通報してね。」

「それって······。」


アイシャはそのセラン先輩の犯人像に心当たりがあった。丸い黒いサングラスと人化してないのに人語を返して。筋肉の胸板をびくんびくんと脈打つ。それは正しく私の恩人でもありライナの師であるレッドモンドさんだ。


「あのその竜(ドラゴン)、実は····。」

「それじゃ、私達は不審竜を追うから。」


アイシャが事情を話す前にセラン先輩は走り去ってしまう。

ぽつんと取り残されたアイシャははっと我にかえる。


「大変だ!?。ライナに知らせないと!。」


アイシャはあわただしく廊下を駆けていく。


「アイシャ!、何処にいくの!?。」

「もうすぐ授業よ!。」


親友の制止も振り切り。アイシャは相棒のライナのいる所まで走る。


      二年校舎教室


「何かやけに慌ただしいわね。何かあったのかしら?。」


長い白銀のブロンド髪を流し。魅惑的な容姿を醸し出す令嬢セシリア・サウザンドは不思議そうに二年教室の窓から外を眺める。窓の外の真下にある庭には慌ただしく何やら風紀委員の令嬢生徒達が走り回っていた。

相棒である魅華竜ソリティアは二年教室にはいなかった。トラウマを克服した彼女は授業をそっちのけで欲求不満を晴らすかのように男漁りにいそしんでいる。


「·········。」


濡れ鴉のような黒い髪を後ろに結い。大和撫子のような慎ましさと豊かさを併せ持った二つの膨らみを持つ令嬢イーリス・カティナールは無言のまま窓の外に視線を移す。


「どうかされたか?。お嬢。」


無精髭を顎に生やし。角を生やした和風の侍のような格好をしたイーリスの相棒である剣帝竜ロゾンはそんな主人の様子に心配して声をかける。

イーリスはすっと視線を上へと向ける。

それをなぞって剣帝竜ロゾンも同じく視線を窓の外の上へと視線をのばす。


っ!?·······

そこには一匹の竜(ドラゴン)がいた。その竜は凹凸部分の建物を器用に片手で掴み。片腕一本だけでぶら~んとぶら下がっている。片腕は強靭な筋肉で盛り上がり体全身を支えている。


·········。


剣帝竜ロゾンはそんな竜の様子を冷めた眼差しで暫く見ていた。


コツコツコツコツ


ガラガラ

ロゾンは少し間を開けた後、無造作に片手でぶら下がる竜の真ん前にある窓を思いっきり開ける。

冷めた視線をぶら下がる竜へと向ける。


「何をしているのだ···。お主は·····。」


ロゾンは呆れた視線で片腕だけでぶら下がるその騎竜に声をかける。


「おっ!?。ロゾンじゃないか!?。久しぶり!。」


ぶら下がった筋肉質の竜は元気よく挨拶する。


「いや、何だかなあ~。学園にいる弟子の様子を見にきたんだけなんだが。何故だがここの生徒と騎竜に追いかけまわされてなあ····。ハハハハハッ。」


学園の令嬢生徒達に追いかけ回されている状況なのにその竜はマイペースに高らかに笑う。


「はあ····お主というやつは·····。」


ロゾンは肩を落とし深いため息を吐く。


「知り合い?。」


セシリアは会話の内容でロゾンの知り合いだと理解すると警戒を緩め。身構えていた態度を解く。


「あ、はい、こやつは私のライバルで···。」


「あっ!見つけた!?。セラン先輩!不審竜を見つけました!。二年校舎の建物の壁にひっついています!。」


会話の中、真下の庭から巡回していた風紀委員の一人がぶら下がる騎竜を発見する。


「でかしたわ!。観念しなさい!不審竜!。」


セラン風紀委員長は駆け寄り風属性の魔法を詠唱し始める。


「おっと!?、これはまずいなあ···。じゃ、ここでおいとまするよ!。」


ぶら下がっていた竜はひょいと片手で身体を持ち上げると。そのまま猿のようにひょいひょいと建物の凹凸を伝ってフリークライミングの要領で移動する。


「あっ!、待ちなさい!。そこの不審竜!。」


セランは魔法を中断し。再び不審竜の後を追いかける。


「これは大事になる前に学園長に伝えたほうがよいな···。」


剣帝竜ロゾンは顔をしかめる。


「何故、学園長なの?。」


学園内の問題に学園長が出る可笑しくはないが。ロゾンの知り合いと思われる竜に何故学園長の名が出るのか。セシリアは理解できなかった。


「あ、すまぬ。いい忘れていた。あやつはレッドモンド。私にとって昔のライバルで。主人がここの学園の学園長をしておるのだ

。」

「それって····。まさかあの狂姫の騎竜?。」


セシリアは白銀の細い眉が上がる。

ここの学園長は元は凄腕の騎竜乗りであることはここの学園の生徒のなかで周知の事実であり。現にあの学園最強のシャルローゼ・シャンゼリゼもここの学園長に憧れて入学したのだ。女傑とも呼ばれ無敗とも言わしめた学園長の功績は王都でも広くしられている。その相棒である騎竜がこの学園に来訪しているのである。


「レッドモンドの用事は弟子であるライナに逢いにきたのだろうが。あの様子じゃ。逢えるどころか。不法侵入者として捕まるのも時間の問題であろう····。」


剣帝竜ロゾンははあっと再び深いため息を吐く。

あのレッドモンドという学園長の騎竜がトラブルを起こすのはこれが始めてではない様子である。


「難儀な話ね·····。」


セシリアは一応同情の言葉を投げ掛ける。でも内心は他人事のように思っていた。(実際そうだが。)



       校舎中庭


学園最強のプリンセスマドンナであるシャルローゼ・シャンゼリゼは相棒であり執事の絶帝竜カイギスと一緒に中庭にいた。風紀委員長であり親友でもあるセランと一緒に学園に侵入したとされる竜を捜す為である。


「ここにはいないようね。」

「そうですね。しかしこのご時世に不法侵入する者、しかも竜(ドラゴン)とは。そんな話聞いたことがありませんな。」

「そうね。ここは確かに警備は薄いけど。生徒達は自分の身を守れるくらいは弱くないのですけどね。」


騎竜乗りは一般に比べて戦闘能力は低くない。何故なら騎竜乗りや騎竜を相手に闘いレースをするのだからその体力や戦闘能力は他の一般令嬢や一般市民とは比較にはならない。大の兵士三人位なら圧倒できるのだ。騎竜乗りの英才教育として護身術や武術を幼い頃から身につけている。


「む?、お嬢様お気を付け下さい。何かが来ます!。」


カイギスは気配を感じ主人に危険を伝える。

カイギスの言葉にシャルローゼは瞬時に警戒し。ドラグネスグローブの武装解放した弓を構える。魔力で作り出した矢を弦に絡ませる


「ふんっ!。」


ドッ スンッ!!······。


ぴくぴく·····ぴくぴく····


それは真ん前に降ってきた。

ひきしまった筋肉の脚を踏みしめるようにして着地し。竜は奇妙な丸い黒いサングラスをかけていた。竜でありながら強靭な筋肉を膨張させ。何故か異様にその筋肉が太陽の光により反射しテカっている。胸に発達した大胸筋の筋肉の胸板がびくんびくんと脈打っている。それはまさに肉塊?呼べるのに相応しい竜(ドラゴン)だった。


「·········。」


ぴくぴく ぴくぴく

シャルローゼは正直どうするか迷った···。攻撃してもよいものかと。構えた弓も張った弦も躊躇いがあった。確かに怪しげで異様な出で立ちをした竜なのだが。レース経験豊富な彼女だからこそ解る。この竜はただ者ではないと。相棒であるカイギスの様子を窺う。シャルローゼはカイギスの行動で判断しようと思ったのだ。絶帝竜カイギスは自分よりも遥かに歳上で経験豊富な騎竜である。このような状況の対処にはなれている筈だ。


「·········っ?。」


シャルローゼは視線をカイギスの顔に向けると。カイギスの白ひげを生やした紫波がれた顔が何故か覚めていた。おもいっきり冷めていた。どれくらい冷めていたかというとそれはもう場が白けるほどに。

絶帝竜カイギスは呆れを通り越した白い目を中庭に降りたった筋肉を漲らす竜に注ぐ。


「レッドモンド····。何故ここにおる?。というか学園の不審竜の騒ぎは貴様の仕業か?。」


びくんびくん

胸板の筋肉を脈打っている竜はカイギスの存在に気付く。


「おっ!?。カイギス、矢張ここにいたのか?。弟子のライナはどうだった?。」


絶帝竜カイギスの問いに関係なくレッドモンドはあっけらかんな態度で接してくる。


「·····ああ、強かったぞ。お前の弟子は···。精霊を使役できたときは驚きはしたがなあ。しかも龍も出してまうなんて。お前の弟子は一体どんな修行すればああなるんだ····。」

「ほう、精霊も使役できるのか?。しかも龍もだせると。ライナが予想斜めなような成長を遂げて師としてホントに頼もしいことだな·····。」


弟子の成長にレッドモンドは胸板をぴくぴくさせうんうんと素直に頷いて喜んでいる。


「それよりも何故こんな騒ぎを起こした!。普通にライナに逢いにこれなかったのか?。」

「いやなあ~。ライナに逢いに来て。ただ校門前でお嬢さん方に朝の挨拶しただけなのだが。そしたら悲鳴上げられて。守衛やら生徒やら追いかけ回され。いつの間にかこの様だよ。何故だろう?。」


レッドモンドは不思議そうに首を傾げる。


カイギスはこの状況に納得した。

レッドモンドは本人ではなく本竜はいたって普通な対応をしてるようだが。昔は都会の道端でしょっちゅう衛兵に捕まっていた。捕まる理由は見た目からして怪しい竜(ドラゴン)だからである。視力は良いのに何故か黒い丸いサングラスをかけているし。筋肉の胸板をいつもびくんびくん脈打っているし。人化してないのに人語を返す。これが怪しい竜(ドラゴン)と言わずして何と言うのだろう。

校門で悲鳴上げた令嬢生徒達も追いかけて掴まえようとする風紀委員の生徒達の気持ちも解らんでもない。昔それで身なりの注意したのだがレッドモンドは聞き入れてくれなかった

これは俺のポリシーだからと訳の解らぬことを抜かして断固として格好変わることを拒否したからである。レッドモンドの主人も大雑把な性格でレッドモンドの容姿を気にせず寧ろ逆に誉めちぎるくらいである。


「はあ····。とりあえず学園に事情を伝えませんとな····。」


絶帝竜カイギスはどう学園に事情を伝えるか迷った。一番手っ取り早いのはこの解らずやの単細胞の筋肉竜を主人である学園長が引き取って貰うことが早期解決なのだろうが。

ただここまで騒ぎを大きくしてしまった以上沈静化するにも時間が懸かるだろうし。

カイギスは段々頭が痛くなってきた。

頭痛の種というならまさにこのことだろう。


「カイギス!。レッドモンドってもしかして学園長の?。」

「左様でございます·····。」


隣で会話を聞いていたシャルローゼの表情はパアッと明るくなる。何故なら憧れであった学園長の騎竜をその目にすることができたからである。格好が変でも憧れの騎竜乗りの騎竜ならシャルローゼには関係なかった。


「見つけた!。不審竜!!。」


風紀委員の令嬢生徒達は中庭を取り囲むようにして現れる。狙いは筋肉もりもりの竜(ドラゴン)である。

風紀委員の令嬢生徒達は皆一斉に筋肉もりもり竜に詠唱し魔法を放とうとする。


「止めて下さい!。この方は怪しい竜ではありません!。」

「シャルローゼ先輩!。危険です!。御下がりください!。」


最早シャルローゼの話を風紀委員の生徒達は聞きいれない。掴まえることしか頭にない。


「はあ、こりゃあ。本当に不味いなあ~。こんな大事にするつもりはなかったんだが。仕方ないか·····。」


レッドモンドは何かを決めたかのように身体の筋肉が引き締まる。


「レッドモンド!。何をするつもりだ!?。」


カイギスは焦った。レッドモンドは生徒に何かしようとしたからだ。


「大丈夫だ。カイギス。危害は加えない。ちょっと気迫を飛ばすだけだ。」


レッドモンドはすっと竜瞳の瞼を閉じる。


パン パン パン

レッドモンドの全身の筋肉がテカり膨れ上がる。

レッドモンドは竜口を大きく吸い込み。

大きく吐き出すように叫んだ。


「むわあああああああああ~~すっるううううううう~~~~~~~~!!。」


ぶわあああああああーーーーーーー!!

レッドモンドが人語で叫ぶと強烈な圧が全身の筋肉から放たれた。


ぶああああああーーーー!


ざわわわわわわ ガタガタガタガタッ 

中庭の植木のざわめき。校舎の窓がカタカタと揺れ出す。


「「「「きゃあああーーーーーーーーーーーー!!。」」」」


魔法を放とうした風紀委員の令嬢生徒達は驚きのあまり全員尻餅をつく。

何かされた訳でもなく。何故かとてつもなない圧が彼女達を襲ったのだ。尻餅をついた風紀委員の令嬢生徒達は何故かガクガクと足の震えが止まらない。


バァサッ

レッドモンドは翼を広げジャンプする。

学園中庭上空で一時停止する。。


「カイギス。何か大騒ぎになったから。俺はもう帰るわ!。」

「誰のせいだと思っとるか!。このたわけ!。」


カイギスはいつもの執事の上品なくちぶりではなく素とも言えるような罵声をあげる。

レッドモンドはニヤリと竜口に笑みを浮かべ。校庭方向へと飛び立っていった。


風紀委員全員はぽつんと全員中庭で尻餅をついたまま取り残され唖然となる

唯一レッドモンドの姿を憧れ交じりの勇姿をみるかのようにうっとりとした表情でシャルローゼ・シャンゼリゼは見惚れていた。


「流石は学園長の騎竜ね。凄いわ!。」


シャルローゼは嬉しそうに飛びっきり笑顔で誉める。憧れの騎竜乗りの相棒の強さをこの目で確かめることができたからである。

そんな主人を姿を遠目で何とも言えない微妙な表情をカイギスは浮かべる。


「左様ですな········。ただ···。」


そっとレッドモンドが飛び立った方向を遠目で眺める。


「絶対正直全く持って真似したくありませんがな·····。」


それが絶帝竜カイギスの心底思う正直な感想である。



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