第206話 提案

ガチャガチャ


豪華な長テーブルの食卓でハウンデル家の朝の食事が始まる。長テーブルの角と角に父と娘が座り。娘の隣に人化した騎竜がならぶ。後方に給仕のメイドが控えている。ふわふわと雲の軽さを秘めた爆乳を秘めたアーニャは父親と楽しく談笑する。ハウンデル家の当主マクス・ハウンデルはごつい体格と厳格な顔立ちをしているが。家族の時間を大切にするよき父親でもあった。


ガチャガチャ


「学園で変わったことはあったか?。」


娘の学園生活の確認のためにも父親であるマクス・ハウンデルは娘アーニャ・ハウンデルに問い掛ける。


「お父様。昨日変わった竜(ドラゴン)が来ました。」

「変わった竜?。」

「はい、なんか学園に侵入してきて昨日は大騒ぎになりました!。」

「ぬあにっ!?。」


ぴくとマクス・ハウンデルの厳格な顔が険しく軋む。

神聖なお嬢様の学舎に不法侵入者などありないことだ。

学園は不法侵入者を許すとは何を考えているのだ。アルビナス騎竜女学園の防犯セキュリティに疑問を感じていたが。それは確信に変わる。学園の責任者に物申さなくてはならない。


「それでその不届きもの騎竜はどんな奴だ。話しからの流れで捕まり。問題は解決したのだろう?。」


アーニャは困ったように首を傾げる。

隣で地土竜モルスは一心不乱に朝に並べられたご馳走を平らげていく。


「ん~何か学園長が来て引き取っていきました。お父様。他の生徒がなんでも不法侵入した竜のことを狂姫の騎竜だと言ってましたけど。」


ガチャン

マクス・ハウンデルの手に持っていたナイフとフォークが突如落ちる。

父親は放心したように固まる。

一瞬食事に静寂が包まれる。


「お父様?。」


父親の異様な態度に娘のアーニャは困惑する。

ふるふるとごつい体格を震わせ。カッと鋭い眼光が放たれると突然父親の厳格な口が大きく開く。


「ぬあんだとおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!。」


ハウンデル邸内に父親の大音量の咆哮が木霊す?。


      学園並木道


「ライナ。あれからレッドモンドさんと話せた?。」

ギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアギャアラギャアギャア

(いえ、学園長が引き取ってから話す機会がないです。今日はレッドモンドさんと話すつもりですが。)

「そうなんだ。レッドモンドさんとは本当に久しぶりだよね。」


昨日の騒ぎからレッドモンドさんと逢っていない。学園長に引き取られたことは解っているのだが。学園長の住まいが何処にあるのか俺は知らない。よく考えたらそれほど学園長とは面識はなかった気がする。接点が無いとも言える。しかし師であるレッドモンドさんのパートナーという事柄から今接点できたともいえる。

学園の校舎玄関に到着する。


「じゃ、私は行くけど。レッドモンドさんに逢いに行くのは構わないけど。寄り道しないでね。」


アイシャお嬢様は俺に念を押すように注意する。


ギャアラギャアガアギャアラギャアギャアギャアギャアギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアギャア?

(やだなあ~アイシャお嬢様。俺がいつ寄り道なんてしましたか。俺は寄り道なんてしませんよ。)


「············。」


アイシャお嬢様の顔が突然真顔の無表情に固まり。ジト~と冷たい眼差しを俺にむけてくる。


ギャギャアガギャ·····

(す、すみません······。)


俺はあまりにもアイシャお嬢様の圧につい謝罪してしまう。 


「解れば宜しい。」


アイシャお嬢様はニコッと微笑む。

校舎玄関に到着する。


「じゃあ。私は行くから。」

ギャア ラギャアギャ

(はい、お気をつけて)


アイシャお嬢様と学園玄関に別れる。

さて、これからどうしようか。

レッドモンドさんを捜しにいきたいけど。何処にいるかも解らないしなあ。

暫く何処かで時間を潰すか。今日はアイシャお嬢様の野外授業がある日だし。野外授業まで自主トレでもするか。


ドドドドドーーーーーー☁️☁️☁️☁️!!


俺はアイシャお嬢様の野外授業までグランドで走り込みのトレーニングを始める。



     学園郊外野原訓練地



「さて、今日の野外授業は三年生と一緒に合同訓練を行ってもらう。」


カーネギー教官の指示のもと。俺とアイシャお嬢様は学園の校外にある野原に来ていた。他校との合同合宿訓練の日が近いため。王都の騎竜乗りの令嬢生徒と肩を並べるためにも三年生徒と訓練するらしい。何でも中央大陸の王都の生徒はここの東方大陸の田舎の学園よりも騎竜乗りの訓練は本格的らしい。それなりの実戦訓練と設備も充実しており。殆どの王都の令嬢生徒は一年生からレースの優勝経験があるそうだ。王都では実力折り紙付きの騎竜乗り令嬢生徒が揃っている。意図を汲むならば他校に舐められない為にもここでレースの実戦経験のある三年先輩と訓練して経験積ませるのが魂胆なのだろう。


バサッバサッ


「来たようだな。」


三年生の令嬢生徒達が人化を解いた騎竜に跨がり学園方向から飛んでくる。

先導するように三年生の担任と思われる女教師が野原に降り立つ。続いて三年生達も次々騎竜が着地する。


「宜しく頼む。マスファリン。」

「カー···ネギー。宜···しく······。」


か細い声で答える。

三学年を担当するマスファリン・ベネデットは陰気な雰囲気醸し出す教師である。口下手であるが。仕事はきっちりこなす風変わりな騎竜乗りの教師である。その経歴は謎が多く。騎竜乗りであったり。竜騎士であったり、はたまた神竜聖導教の信徒だったりと経歴がどっち付かずで多種多様である。彼女の正体が一体なんなのかは誰にも解らない。


「カー···ネギー···噂の···ノーマル種何処?。」

「ん?ああ、あそこにいるぞ。」




カーネギー教官の指差すところにウォーミングアップする緑色の鱗に覆われた竜の姿がある。

それをマスファリンはじっと観察する。


「ライナはお前んとこのセランと一緒に風車杯に出場して。何でも6騎特待生の夜叉ベローゼ・アルバーニャと相棒の武羅鬼竜、我怒羅を倒したとか。あの三校祭で二年も苦しませられた竜(ドラゴン)に勝つとはなあ。今年の一年と騎竜は本当に期待ができそうで何よりだよ。」


カーネギー教官は満足そうにうんうんと頷く。


「········カー···ネギー。」


ボソッとマスファリンの細い声がもれる。


「ん?どうかしたか?マスファリン。」


カーネギーは眉を上げ困惑する。


「あのノーマル種····死相が出ている。」

「ちょ、マスファリン。いきなり何の冗談だ!。」


マスファリンがいきなり期待のノーマル種に死ぬかもしれないと言われてカーネギーはおおいに狼狽える。


「今じゃ··ない··けれど。いつか死ぬ。でも···死んで生き返る··なら·····。それは···きっととてつもない力を得る····。」

「本当に何を言っているんだ。マスファリン?。気は確かか?」


意味不明なことを連呼されカーネギーは困惑する。元々変わりものであるが。今日は一弾と変だ。

死んで生き返るなど有り得ない。死んで生き返る竜と言うなら鳳凰竜があげられるが。ノーマル種が死んで生き返る話など聞いたことがない。


「気に···しないで。まだ先のことだから。」

「先って、」


三年担当教師マスファリン・ベネデットはそれ以外口にせず。三年の列に戻る。


「何なんだ?。」


カーネギー教官は首を傾げる。


「アイシャ。今日は宜しくね。」


薄めの鮮やかな金髪を靡かせる美しい美貌を持つ学園のプリンセスマドンナシャルローゼ・シャルローゼが挨拶する。


「宜しくお願いします。シャルローゼ先輩。」


アイシャお嬢様は笑顔で挨拶を返す。



「今日は私達と合同訓練ね。もし、良かったら対闘訓練は私達とやりましょう。」

「はい、よろこんで。」


アイシャお嬢様と相手するのはシャルローゼ先輩か。シャルローゼ先輩は弓使いだったな。こりゃあ良い勝負になるかもなあ。弓もブーメランも両方狩猟用だし。


「ライナ。ますます力を付けたようだな。これならば私や白銀竜に勝てるやもしれん。」


角を生やした初老の紳士が話しかける。

シャルローゼの相棒絶帝竜カイギスである。


「まだまだですよ。絶帝竜カイギスや白銀竜に戦っても俺の力はまだ通用しないと思います。」


謙遜ではなく事実を言っている。龍を出す大技があってもスフィアマナン(世界の通り路)がなければあつかえないし。銀晶竜のソーラさんから受け継いだ銀氷の精霊も完璧に使いこなしているわけではない。確かに白銀竜の戦いにおいて銀氷は対抗策になりえるかもしれない。

優勢とはいかないが。同じ土俵に立てれる筈だ。


ざわざわ ざわざわ

突然一年令嬢達と二年令嬢達が騒ぎだす。


「どうしたんだろう?。」

「人だかりができていますけど。解りませんね。」

ギャア?

(何だ?。)


「みんな学園長よ!。」

「えっ!学園長!?。」

「学園長の騎竜までいるわ!。」


学園長と騎竜?。もしかしてレッドモンドさんか!?。

学園長に連行されてレッドモンドさんの居場所が解らなかったが。あちらの方から来てくれたようだ。


でも

············

レッドモンドさんの容姿が包帯ぐるぐる巻きのミイラ化していた。ミイラの外側から丸い刑事の黒いサングラスを覗かせている。異様だ。何があったんだろう?。やっぱ学園長と何かあったのかなあ?。学園長とレッドモンドさん1人一匹のただならぬ仲に俺は入り込んで詮索しようなどという考えはまるっきし起きなかった。寧ろ何か恐い···



「学園長!?。どうして此方に!。」


カーネギー教官が慌てて学園長の前に出る。


「少し生徒達の見学したくてね。レッドも弟子の成長を見たいと要望なのだけど。宜しいかしら?」

「別に構いませんけど。教頭先生は?。」

「ああ、私の仕事場で変わりにやってくれてますよ。」


「何で私がこんなことを!。」


ぺったんぺったん

教頭は目くじらたてながら学園長室の机のまえでたまりに貯まった書類に判子をおしまくる。


「そ、そうですか·····。」


カーネギーは微妙な顔を浮かべる。

学園長が生徒の訓練を見学するのは久しぶりである。しかも相棒の騎竜を連れてである。

カーネギーは三大陸制覇した元騎竜乗りと騎竜に正直臆してしまう。


「どうやらレッドモンドは主人にこってり絞られたようだな。」


昔ライバルであった絶帝竜カイギスはレッドモンドの姿にはあと呆れ顔でため息を吐く。


ギャアギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャアギャアギャ?

(絞られたって。やっぱあのレッドモンドさんの姿。学園長の仕業ですか?。)


「まあ、だいだい····な····。」


カイギスは何処か言いにくそうに言葉を濁していた


ギャアラギャアガアギャアラギャア?

(やっぱ学園を不法侵入した件ですか?。)


俺達に逢いにきたためとはいえかなり学園側に迷惑を懸けてしまったのだし。致し方ないことだ。


「いや、それとは違う別の件だろう。まあ、あのペアには色々あるのだよ。」

?。

俺は竜首を傾げる。


ガサガサゴソゴソ。


令嬢生徒の訓練場である野原の少し離れた所から身を潜め隠れるものがいた。しかし生い茂る草からはがたいのいい体格が隠し通せず一部つきだしている。令嬢生徒達も皆学園長とその騎竜に注目していて気づかない。野原の草むらでふーふーと興奮したかのように鼻息をあらげ。興奮したように見学しにきた学園長とその騎竜を凝視している。


各々騎竜乗り同士の模擬戦闘が始まる。

三年セラン先輩と疾風竜ウィンミーの相手はエルフのリスさんと妖精竜ナティナーティか。奇妙な取り合わせだな。相性が言いか判断しかねる。ただ悪戯好きの疾風竜ウィンミーと真面目で堅物な妖精竜ナティとは相性最悪なのは解る。


「リス様宜しくお願いしますね。」


セラン先輩は丁寧にエルフのリスさんに会釈する。


「敬語使わなくても宜しいのではありませんか?。一応は私は一年後輩ですし。」

「ご冗談を。身分もありますし。それに私よりも何百年も歳上ですから。」


カチン!

リストルアネーゼの表情が冷たく凍る。


「どうかなさいましたか?。リストルアネーゼ様。」

「いえ、何でもありません。今日の訓練全力でお相手致しますので宜しくね。ふふふふ。 

「何か恐いです。。リストルアネーゼ様。」

「ふふふふ。」


セランの背中に悪寒が走る。知らぬ間に彼女の地雷を踏んだようである。


「今日の相手は悪戯好きのウィンミーですか?。貴女の主人に成り変わり私がみっちりしつけ直してさしあげるです」


妖精竜ナティのエナメル色の角がぴんと逆立つ。


「ええ~やだよ~。しつけなんてセランだけで充分だよ。」


ウィンミーは嫌そうに悪態をつく。

一年令嬢生徒と三年令嬢生徒は互いに訓練する相手を決め模擬戦闘始める。


「えい!。」


シュッ! くるくるくるくる

アイシャお嬢様はブーメランを投げる。

投げたブーメランは弧を描き間をとって離れているシャルローゼ先輩に向かう。

シャルローゼはアクロバティックな動きで回避し。すかさず武装解放した弓で魔力でできた矢を射る。


ビン

弦が弾け光の矢がアイシャお嬢様の元へと向かう。アイシャお嬢様はブーメランを投げてがら空きとなった状態だったが光属性の防壁魔法で未然に防ぐ。


「大分様になりましたね。アイシャ。」

「いえ、まだまだです。ライナはどんどん私の知らない内に強くなっています。私もおいていかれないように強くならなきゃ!。」


ふふ、まるで互いに天秤のようにバランスよくなりたっているのですね。お互い共に強くなろうと互い互いの成長に釣り合おうする。正に人と騎竜のあるべき姿なのでしょう。少し羨ましくもおもいます。


「どうですか?レッド。私の学園の生徒達は?。」

「悪くないな。戦闘での筋はいい方だ。」


学園長と包帯ぐるぐる巻きのレッドモンドは熱心に一年三年令嬢生徒達の訓練を観察する。


「ただ····。」

「ただ?。」

「矢張お前と比べると気迫と言うか闘気がないな。」


レッドモンドは確かに三年令嬢生徒と一年令嬢生徒の戦闘の筋は悪くない。しかし彼女達の闘気と言うべきか闘争心と呼べるものが全くもって足りなかった。訓練でありレースでもないのだから良いのかも知れないが。どうみてもお上品な戦いに見えてしまうのである。お嬢様学校だからそれはそれでいいのかもしれないが。


「そうですね。健全な戦いなら問題ないのでしょうが。ただそれだと無情には勝てないでしょうね。」


学園長は深いため息を吐く。


「そんなに強いのか?。」

「ええ、最悪なほどに。」


一年一度開催される行事三校祭。三大陸の学校が集いレースを行う三校対抗レース。そこで無情という竜に三年間敗北し。苦渋を舐めさせられているという。本来なら令嬢生徒と一緒に騎竜も卒業するのだが。いまだバザルニス神竜帝国に在籍している。何故なら無情の所有者である7大貴族のミリアネル家は姉妹がいるからである。今の乗り手であるロファーシア・ミリアネルが卒業しても末の妹が無情を引き継ぐだろう。あれは乗り手を駄目にする騎竜である。乗り手の才能を伸ばさず。乗り手の才能をおのが意志で食い潰す。正に最悪という言葉にふさわしい竜(ドラゴン)である。

学園長の紫波を帯びた穏やかな瞳が一寸に光が過る。


「レッド。このままでは次の三校祭はアルビナス騎竜女学園は必ず敗北します。だから少し協力して貰います。」

「ラチェ······お前、まさか·····。」


相棒の意図を察したレッドモンドはサア~と血の気が引く。


「生徒達に少し活を入れることにいたしましょう。」


学園長の穏やかな紫波の顔から窺える瞳には微かな闘気の光が芽生えていた。

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