第196話 黒光り

バァサッバァサッ


渦巻く風の山脈コースを抜け。風車が並ぶ草原の丘のコースに入る。


ゴゴゴゴゴ 


草原の丘地上に並びたつ風車のプロペラが静かにゆっくりと廻る。

しかしのどかな光景である筈の景色が今は数百の騎竜乗りと騎竜が横たわる屍の山のような状態になっていた。時には風車そのものに騎竜乗りや騎竜が引っ掛かっているものもいた。


ギャガア······

(何だこれは·····。)


俺はそんな異常で異様な光景に竜口をあんぐりと開けたままただただ茫然となる。


「ベローゼと我怒羅の仕業ね。何も変わってないわね····。」


疾風竜ウィンミーに乗るセラン先輩は険しげに眉を寄せる。

これがあの騎竜乗りと騎竜がやったのか?。

最後尾にいたからここに打ち捨ちすてられたように横たわっている騎竜乗りと騎竜は中間位置に飛行していた連中だと解る。

普通はゴールを目指してレースするのだが、ベローゼと武羅鬼竜、我怒羅という騎竜乗りと騎竜は飛行する騎竜乗りと騎竜を片っ端から戦闘をふっかけているようである。本来なら戦闘は極力避けゴールを目指していくものだ。騎竜レースはゴール到着するのが目的であり。戦闘は手段なのだ。相手の飛行を妨害するために戦闘を仕掛けるが。倒すまでにはいかない。倒すのにもタイムロスを喰らうので。あくまで飛行の妨害でとどめる。確かに俺は他の騎竜を倒してはいるが、極力時間を割かないように気を遣っている。しかしこのベローゼと武羅鬼竜、我怒羅という騎竜乗りと騎竜は戦いを楽しんでいる。先頭位置にいたのにわさわざわざ中間位置にいた騎竜乗りと騎竜を倒しているくらいである。セラン先輩がベローゼ達が出場したレースには順位は意味をなさないといった言葉の意味がようやく理解できた。つまりベローゼ達は騎竜乗りと騎竜を先頭から最後尾まで片っ端から全部ぶっ倒してしまうから順位は意味を為さないそういうことである。本当に無茶苦茶な騎竜乗りと騎竜である。


バァサッバァサッ


目の前に広がる風車の丘に横たわる竜乗りと騎竜が線を引いたようにある境に途切れる。つまりあの境からベローゼと武羅鬼竜、我怒羅達が待ち構えいるということである。


バァサッバァサッ


翼をばたつかせ途切れた境に到着する。

そこには確かにバザルニス神竜帝国の六騎特待生が風車の丘に上空にとどまっていた。


先導するように前には大剣を背中に携えたベローゼと彼女を背にのせる鬼のような二本角を左右に生やす竜(ドラゴン)がいた。武羅鬼竜、我怒羅の浅黒く鱗に覆われた竜体は何故かてっかてっかに黒光りしている。そしてやたらに筋肉が盛り上がっている。


ギャアガアギャアラギャ····

(やけに黒光りしていますね····)


色々光ったり輝いたりする騎竜を見てきたが。目の前の我怒羅という騎竜はその輝きとは何か違う気がする。強いていうならばボディビルダーのような輝き?自分で何を言っているのか意味不明である。


「あれが武羅鬼竜の特性よ。あの浅黒い鱗に覆われた筋肉質の身体が黒光りすればするほど、力が強化されるの。」


セラン先輩がレア種である武羅鬼竜の特性を説明する。


「本当だ。凄く黒光りしています!。」

「ふええ、てっかてっかに黒光ってます!。」


アイシャお嬢様とアーニャお嬢様も続いて武羅鬼竜の感想を述べる。


何だろう·····。黒光りという言葉に一瞬イヤらしい響きを感じたのは俺だけだろうか?。


俺はお嬢様方が黒光りという言葉を呟いたことに少し反応してしまう。


嫌、気にしちゃ駄目だ‼️。

ただ、一般のお嬢様方が黒光りという言葉を口にしただけだ!。そこに深い意味はないんだ!。

気にしない!気にしたら敗けだっ‼️。

俺はそう俺自身に暗示をかけるように平常心を保つ。


「やっと来たな。待ちわびだぞ。風姫!。」

「できれば貴女とは二度とレースをしたくなかったんだけど。」

「そんなつれないこと言うなよ。時間潰しに出場した騎竜乗りと騎竜とやって待ってたのによ~。」


ベローゼはニヤリと好戦的な笑みを浮かべる。セラン先輩は風車の丘に散らばるように落ちて気絶している騎竜乗りと騎竜を見渡しはあっと深いため息を吐く。


「相変わらずね。貴女は。レースで戦闘するのは駄目とは言わないけど。もう少し節度を持ってレースできないの?。」

「節度?、はっ、私にとっては程遠い言葉だなあ。私と我怒羅は好きなように好きなだけ戦ってレースしてるだけだ。」

『その通り!。俺達にはルールなど無い。好きな時に好きなだけ戦う。ただそれだけだ。』


ベローゼの相棒である武羅鬼竜、我怒羅は深く同意する。

やたら好戦的な竜(ドラゴン)だな。戦闘狂のタイプとは何度かあったことがあるが···。


「それに殺されないよりはマシだとおもうがなあ。これが『無情』だったら騎竜の屍の山だぞ。」


無情?誰かの二つ名か。 


セラン先輩は無情という言葉を耳に入るとくっと唇を噛みしめ。何処か暗く伏さぎこむ。


「そうね····。無情と比べればまだまだ貴方達の方が生易しいのかもしれないわね···。」

「だろう?。」


ベローゼは手のひらを返しジェスチャーする。


「ほんと、あのいけすかねえ無情をどっかの学園の騎竜がぶっ潰してくれないかねえ。」


ベローゼは不機嫌に舌打ちする。

どうやら無情という奴とベローゼ達は反りがあわないらしい。


「いいの?そんなこと言って。貴方は腐っても六騎特待生の一人でしょう。」

「ああ、いいのいいの。私達はただ戦いやレースをするのが好きなだけで学園の下僕になったつもりもないし。」

「せ、先輩······。」


後ろに控えていた後輩の一人が困った顔を浮かべる。


「それじゃ、さっさとおっ始めようかねえ。後輩のお前達はあそこにいる風姫の後輩とやり合え。私と我怒羅は風姫と風の悪戯と楽しむからよ。」

「地土竜は解りますけど。あそこにいるのノーマル種もですか?。」


ベローゼの六騎特待生の後輩の一人は俺は冷ややかな視線を向けてくる。

どうやら俺がノーマル種であることを完全に舐めているようだ。

ほう、俺を舐めるとはいい度胸だ。なら逆に俺が舐めまわしてやろうか!?。

俺はそんなセクハラ紛いの発言を内心呟く。


「油断するな!。ミャルナ。あのノーマル種は今年アルビナス騎竜女学園の一年ルーキーの騎竜らしい。風姫がそんな嘘をつくようなやつでないことは私が充分理解している。つまりそのルーキーの騎竜乗りか、或いは騎竜に何かがあるということだ。」

「はあ?ルーキーですか······。」


ミャルナという後輩はさも疑わしげにに此方をみる。

セラン先輩とベローゼ・アルバーニャがほぼ一騎討ちとなり。俺達は六騎特待生の後輩と対峙する形となった。

戦闘の場を設ける為。セラン先輩とは離れる。


「アイシャ、アーニャ。お願いね。ベローゼと我怒羅は私達が一応抑えるけど。勝敗を決めるのは貴女達が六騎特待生の後輩に勝てるどうかにかかっているのよ。勝てたら即私達と合流して。」

「はい!解りました!。セラン先輩!。」

「ふええ!わ、解ったです。」


アイシャお嬢様とアーニャお嬢様は強く相づちを打つ。


セランは離れて行く後輩を勝利を願いながら見送る。


「まるでお前の後輩が勝つような口ぶりだな····。」


目の前の我怒羅の背に乗るベローゼは不機嫌にはんと鼻をならす。


「そうね·····。貴女に本当に戦闘で勝つには後輩と協力して勝つしかないでしょうから·····。」


セランは皮肉交じりにベローゼに吐露する。


「ほう、そこまで信頼しているか?。それほど一年ルーキーとそのノーマル種は強いのか?。」


ベローゼは一年ルーキーの騎竜乗りと騎竜に興味が湧く。


「さあ?。」


セランは掌を上げ首を傾げる。


「さあ?って······。」


そんなセランの態度にベローゼは微妙な顔を浮かべる。


「ただ、アイシャ・マーヴェラスの騎竜であるノーマル種ライナはいつも常識外れなことをレースでしでかすわ。貴方達も充分非常識だけど。彼等の非常識差と比べれば雲泥の差くらいはあるかもね···。」


実際アイシャ・マーヴェラスとその騎竜ノーマル種ライナの非常識差は本当に常識を越えていた。背中に胸を擦ることによって加速するBoin走行や。ノーマル種でありながら精霊を使役し。あの海を統べるといわれる海王竜さえもレースで勝ったというのだから本当に非常識極まりない騎竜乗りと騎竜である。

セランはいつのまにか唇が緩んでいた。


「はは、私達よりも非常識とは面白いねえ。」


ベローゼはふははと高笑いする。


『ご託はいい。さっさとやり合おうか!。ウィンミー。貴様との戦いも決着はついていなかったな。』


我怒羅はギロリと鋭い視線を白緑色の羽毛に覆われた鳥のような竜(ドラゴン)に向ける。


『敗けないよ。ガドラの鬼さん。』

『力とスピード、どちら勝るか。この場ではっきりさせよう!。』


ベコッ!。

武羅鬼竜の黒光りした筋肉が盛り上がる。くちばしから白い息が吐き出される。


「風姫、私達を楽しませてくれよ!。直ぐ戦闘が終わってしまったら面白くないからなあ。」


ブゥン!

ベローゼは身の丈の大剣を背中から外し。大きく振りかざす。


「貴方達を楽しませるつもりは毛頭ないけれど···。」


セランのドラグネスグローブの手の甲に付いた宝玉が輝く。そこからしなやかな鞭が現れる。

パシッ

セランは鞭の握りを掴むと物凄い速さで鞭をうちしならせる。


ひゅんひゅんひゅん パシッ 

俊敏な速さでうならせた鞭を左手で掴み。右手と一緒に強くビーンと鞭を伸ばす。


「長く時間は与えるつもりよ!。」


風車の丘の穏やかな風の流れが少しずつ強まる。


ひゅうううう

セラン先輩達とベローゼ達の戦いの場から少し離れた場所でバザルニス神竜帝国大学の六騎特待生一年後輩と対峙する。


「アイシャさん。またモルスが眠っています。」


アーニャお嬢様はアイシャお嬢様にモルスの状態を指摘する。


グ~ グ~

緊張感が無さすぎなのか。バザルニス神竜帝国大学の六騎特待生を前にしてまたもや地土竜モルスはレース中に爆睡していた。


「あっ!本当だ!?。モルス!起きて!。」


スッパーーーーン!

アイシャお嬢様は隠し持っていたハリセンで再びモルスの大きな後頭部を強く叩く。


『ンがッ?。』


モルスは寝ぼけた竜顔で重たい瞼が開く。


『あれ、いいですねえ。後で我が主人にも使ってみましょう。』


目の前の神がかったような雰囲気を醸し出す騎竜が呟く。

何かさらっと目の前の騎竜がとんでもないことを発言したような気がしたけど。聞かなかったことにしよう。


「はあ、よりにもよってなんでノーマル種と戦わなきゃいけないのかしら。」


六騎特待生の後輩であるミャルナははあと深いため息を吐き愚痴をこぼす。


『ミャルナ。先輩の言った通り油断してはなりません。私から見てもあの者はただのノーマル種とは思えません。』


ミャルナを乗せる騎竜は金と白の鱗に覆われた清楚そうな感じの竜(ドラゴン)にみえた。もう片方も真っ白く。オーラを放つように神懸かった雰囲気を醸し出している。別種か?。


「何を言っているの。ホリスラミス。どう見てもただのノーマル種でしょ。東方大陸の学園も何を考えているのかしら。よりにもよってノーマル種を騎竜にすることを許すなんて。」


ミャルナという後輩は完全に俺を舐めきっていた。ノーマル種だから弱竜とみなしているのだろう。


『それよりもメレン様がいまだお目覚めにはなりませぬ。』


眠りこけている主人を背に乗せる真っ白な神懸かった雰囲気を醸し出す騎竜がミャルナという後輩に告げる。


「もう、いい加減にしてよ~。メレン。貴女が戦闘に参加してくれないと私の負荷が大きいのよ!。ベローゼ先輩の加勢だってほとんど私が処理してるじゃないの!。」


ミャルナという六騎特待生後輩は騎竜の背に眠っているメレンにわめき散らす。

何やらあちらも気苦労しているようだな。

同輩がレース中に居眠りしていることが原因のようだけど。


『何かあの人に親近感がわきますね···。』


地土竜モルスは目の前で居眠りする六騎特待生後輩に対して微笑ましそうに眺めている。

同じくレース中に居眠りする地土竜モルスが同じく居眠りする騎竜乗りの令嬢に親近感が沸いているようであった。


そうですね。なら、勝手に眠ってしまうこっちの気苦労も分かって欲しいんだけど·····。


俺は内心そう不平不満を言う。

六騎特待生の後輩はほんの諍いあったが。どうやらクラスメイト起こすこと事態諦めたようである。気を取り直したかのように此方を睨む。


「戦闘する前に名乗らせて頂きます。それがバザルニス神竜帝国大学の礼儀ですから。」


俺を舐めている六騎特待生後輩の一人が自己紹介を始める。


「私はバザルニス神竜帝国大学六騎特待生一年ミャルナ・パラライチです。そしてこのこは私の相棒、聖竜族のレア種聖霊竜ホリスラミスです。」

『私は聖霊竜ホリスラミスと申します。宜しくお願いします。』


聖霊竜ホリスラミスは丁寧に長首を下げお辞儀をする。

聖竜族?。やっぱ別種か。ということは隣の神懸かった雰囲気を醸し出する竜も同種なのか?。

聖竜族がどんな竜種か知らないが。何処か神聖な感じがする。


『私は神童メレン様に遣える騎竜。聖法來竜(せいぽうりょくりゅう)ソルクベロと申します。今の私の背に眠っているのがメレン・ミラソース様です。今は眠っておらっしゃいますが。お目覚めなられましたらちゃんとご挨拶をさせますので。)


ソルクベロという騎竜は申し訳さなそうに俺達に告げる。


「私はアルビナス騎竜女学園一年、アイシャ・マーヴェラスです。乗っているこのこは地土竜モルスといいます。」

『ふああ、宜しく·····。』


地土竜モルスは気だるそうに挨拶する。。


「わ、私はアーニャ・ハウンデルと言います。」

ギャアラギャアガアギャア

(俺はノーマル種のライナだ。)


続いて俺とアーニャお嬢様が自己紹介の挨拶をする。


「貴女達に構ってはいられません!。早々にけりを付けます。早くベローゼ先輩に加勢しにいかないと。」


どうやらあちらの後輩も俺達と同じ考えのようである。

ミャルナはドラグネグローブから剣を取り出す。黄色の光の粒子が剣身に集まっている。聖剣か何かだろうか?。

その騎竜達にも黄色の光の粒子が集まっていた。どうやら聖竜族は光の精霊の加護があるらしい。今の俺の段階で光の精霊に対抗できる闇の精霊をしいた技は身に付けていない。光の精霊と闇の精霊を本質を知らないからだけど。

さて、何処までできるか·····。

カッ!

ブン!

ぢゃらぢゃら ゴロン。

アイシャお嬢様とアーニャお嬢様もドラグネグローブから固有武器であるブーメランとモーニングスターを出し身構える。


二人二頭同士の戦いが風車が並ぶ丘の上空で始まろうとしていた。




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