第195話 頼みの綱

いよいよチーム戦が始まる。

正式にチーム同士の戦いは初めてだ。俺達は正直どうすればいいか分からない。


「アイシャ、アーニャ。ここはまず私が先行するわ。風竜族のことなら私は一番詳しいから。対応しきれなかったらお願いね。」

「分かりました。」

「ふええ、解ったです。」


ふわふわ

どうやら先にセラン先輩が先行するようである。

しかし三人三頭相手に大丈夫だろうか?。


『ふん、ウィンミー。ここが貴様の墓場となるのだ。』

『墓場?。ここ山だよ。』


ウィンミーはケロッとし竜顔で悪気ない当たり前のようなことを返す。


『くっ、貴様は何処まで我等を小馬鹿にすれば気がすむのだ。』


扇風竜シリウスの竜顔が苦渋に歪む。

おちょくっているというよりはあれがウィンミーの普通なのだろう。小馬鹿にしているつもりはないだろうが。はたからみれば挑発のようには思えなくもない。



『シリウス。奴の挑発に乗るな。あれがウィンミーの手口だ。相手をキレさせた隙に奴は卑怯な攻撃をしてくる。』

『解っている。フウライ。我等は誇り高き風竜族の戦士。あのような卑しい挑発には屈しない。』

『そう、我等は風の精霊に愛された誇り高き竜族なのだから。』


風竜族は何かやたら性格が固い竜だな。てっきりウィンミーのような軽い遊び人のような性格だと思っていたけど。


『一気に責めるぞ!。狙いはウィンミー。奴をこの高山の真下に叩き落とす!。』


三匹の風竜族は白緑色の翼を広げ身構える。

その背に乗る三人の風の民も手持ち弓と槍とパチンコを構える。


「さて、ウィンミー。指示通りに動いて頂戴。風竜族は風の魔法やスキルが得意としっているけど。三匹相手は矢張苦戦すると思うから。」

『じゃ、レース後の説教は無しの方向で。』


ウィンミーの条件にセラン先輩は不快げに眉を寄せる。


「誰のそうでこのような状況になっていると思っているのよ!。レース後の説教は確定事項よ!。」

『そんな殺生なあ~。』


ウィンミーは顔が真下にうつむきしょげている。


前の三匹の風竜族は陣を組んだ。

前列、中列、後列とくの形をした陣だった。


『我が風竜族三位一体の攻防しかと見よ!。』


スッと風竜族三ぴきは縦一列に並ぶ。そして風竜族三匹は大きく回りだす。前列中列後列と順に滑らかに円を描くように回りだす。「EXILE~」と言いそうな雰囲気である。古いから誰も解らないネタだろうが。

ぐるんぐるんぐるん


『これこそ風竜族に伝わる竜円の陣だ。』


どう見てもダンスしているようにしか見えないが。「EXILE~」と言っても違和感ない。くどいようだが。


「ウィンミー、竜巻旋風行くわよ!。」

『OK!。』


ウィンミーは白緑の羽毛のついた翼を折り畳む。


ギャアラギャアガアギャアラギャギャアガアギャア?

(シャルローゼとの競争で見せたスキルを使うのか?、)

セラン先輩は身を低くし。ウィンミーの羽毛の背中でがっちりとしがみついて固定する。

ウィンミーが全身をぐるんぐるんと高速に回りだす。

セラン先輩よく目が回らないなあ。もしかしてバレリーナの要領である一点だけ見つめることで平衡感覚を保っているのだろうか?。


ぐるんぐるんぐるんぐるるるるるるるるるギュルルルルルルル~~~~~~~

ウィンミーの背にセラン先輩は高速回転する疾風竜によって姿が視覚できないほど回転していた。


『何だ?。この技は····。』

『あんな回転してふざけているのか!?。』

『あんなに回転したら騎竜乗りは目が回るだろうが。』


三匹の風竜族はウィンミーの奇妙な動きに困惑する。

てっきりあの回転する技は風竜族特有のものかも思っていたが。どうやらセラン先輩と疾風竜ウィンミーだけの連携技らしい。高速回転特攻型と呼べる代物だろう。


ギュルルルルルルルル ドォッーーーーー!


高速回転音から爆音が放たれる。

どうやらウィンミーはソニックブームを放ったらしい。

その証拠にアーニャお嬢様の雲のような軽さを秘めた爆乳がソニックブームとともにぺちゃんこになっていた。

中身大丈夫か?。


ドォーーーーーーーーーーッ!

マッハのスピードで三匹のEXILE~している風竜族に突っ込む。

ドォオオオオオオオオオオオオーーー!



縦三列にならんでいた風竜族は回転しながら突撃する疾風竜ウィンミーによって陣が崩される。


『くっ、舐めるな!。』


扇風竜シリウスは激昂する。


緑の髪とエルフのようなとんがり耳をした風の民サーレン、マレル、シレンは手持ちの弓、槍、パチンコで応戦するが全て弾かれる。

あの技、攻防速一体型なのか?。攻撃もでき防御もできてスピードもある。ほぼ無敵なのじゃないかと思える。ああいう技。俺にもあればいいんだが。生憎俺には攻撃、防御、スピードを併せ持った技はない。技のバリエーションはそれほど高くないのだ。


『くっ、攻撃が効かぬだと。』

『どうする?シリウス。』

『我等の陣が崩されるなら陣形を組む意味はないぞ!シリウス。』


天風竜フウライと烈風竜シレンの竜顔が苦渋に歪む。


『仕方ない。我等のコンビネーションアーツを実行に移す。』


扇風竜シリウスは真顔で二匹に指示する。

コンビネーションアーツ?。ブラック三兄妹がやってたやつか。どうやらコンビネーションアーツは完全にチーム戦用の連携スキルのようだ。

強力であるが俺の竜気掌でかきけすことができる。

扇風竜シリウスと天風竜フウライと烈風竜シレンは縦一列に陣を戻し。EXILE~しながらが回転を速める。

ぶんぶんぶん

まるで洗濯機が回っているかのように回転する。

風竜族って回転するのが好きなのだろうか?。


ぶんぶんぶん

三匹は並びながらグラインドするように回転すると風が巻き上がる。

俺がいる場所は所々に風が渦巻くコースである。所々に切り刻さまれそうな鋭い渦風が発生している。しかし三匹が並ぶように順にグラインドすると周囲の渦巻く風の流れがピタリ止み。風の流れが三匹の元に集まりだす。黄緑の光の粒子も集まっていた。

こんなに風の精霊が多量に集まるとは相当大きな大技が来るな。

俺はそう判断し。加勢する準備をする。

三ぴきの風竜族は疾風竜ウィンミーをぶちのめすことしか頭になく。俺達には眼中にない。チーム戦である筈なのに相手の風竜族は俺を含め二人二匹をスルーしているのだ。それなら付け入る隙は充分にある。

俺は右手に気を練り込む。


『くたばれ!!。ウィンミー!。』


最早言葉遣いに気をつかうきもないようだ。ウィンミーをぶちのめすことしか頭にない。その気持ち正直解らんでもない。


『『『パトリックストーム(戦士の乱風』』』


ごぁうオオオオオオオオーーーー!。


順にウェーブのようにグラインドする三匹の風竜から強烈な扇風が発生する。回転力を増した扇風がそのまま回転特攻する疾風竜ウィンミーに直撃する。


ごぁオオオオオオオオーーーー!

ドォオオオオオオオオーーーーッ!


ギュルルルルルルルびゅう~ バシュッ!


『うへぇっ。』


疾風竜ウィンミーは三匹の風竜族のコンビネーションアーツのスキルに押し負ける。ウィンミーの風を纏った攻防速一体型の全身の回転が止まる。


「しまった!?。」


態勢を崩されたセラン先輩は焦る。


『しめた!。このまま一気に畳み掛けるぞ!。』


扇風シリウスと天風竜フウライと烈風竜シレンはEXILE~を続けて更に回転力を増した扇風を発生させウィンミーに向けて放つ。


『ここで終わりだ!。ウィンミー!。』

『我等の悲願ここに果たせり!。。』

『あのたわけ者に天罰を!。』


風竜族三匹は勝利宣言をする。

バァサッ

俺はすかさず気を練り込んだ鉤爪の右掌を三匹が放った強烈な扇風にむけて回り込むように入る。その激しく乱舞する扇風に触れる。


ギャあああーー!

(竜気掌!。)


掌から微かな灰銀色の光の粒子が漏れる。

パアンッ!。


『なっ!?。』

『馬鹿なっ!?。』

『我等の風が消えた······。』


三匹の風竜族は竜口が開いたまま唖然とする。


『隙ありーーー!。』


ウィンミーは再び竜巻旋風のスキルを発動させ三匹に突っ込む。


ドオオオおおおおーーーーーッ!!。


『『『ぐああああああーーーー!!。』』』


強力なぶちかましを喰らった風竜族の三匹は回転力が加わった風に巻き込まれ。吹き飛ばされたまま山脈の奈落へと落ちる。


「「「キャあーーーーーー!、」」」


風竜族三匹の背に乗る三人の風の民が絶叫する。


『くっ、申し訳ありませぬ。風神竜様。あのうつけ者をこらしめることができませんでした·····。』

『奴に天罰を与えられぬとは·····。』

『く、無念·····。』


三匹の風竜族は悔しさを滲ませながら山脈の奈落へとゆっくりと風に流されていく。


『勝~~利っ!!。』


バァサッ

疾風竜ウィンミーは白緑色の翼を広げ。勝ち誇ったように歓喜のキメポーズをする。


「コラッ!。」


それをセラン先輩に激しく叱咤される。

何だろう·····。ここまで嬉しくない勝利はあっただろうか?。

もとはといえばこの状況を招いた元凶は全部こいつのせいなのに·······。

有頂天に勝ち誇る疾風竜ウィンミーに俺は冷ややかな冷たい竜瞳を向ける。


「さあ、アイシャ、アーニャ行きましょう。次が最終コースの風車のある丘よ!。」

「「はい、セラン先輩!。」」


渦巻く風のコースを終え。風車の丘へと向かう。


     最終コース風車の丘


「何なのよ·····これ···。」

「し、信じられません····。」


放送席で実況ハマナスと解説のエエチチは凍りついたように愕然とする。

映像に写る多数の風車がそびえたつ草原にはボコられ。気絶、或いは意識を失った騎竜乗りと騎竜が沢山横たわっていた。騎竜乗りと騎竜の姿は戦闘によって傷だらけである。騎竜に関しては殴られ蹴られたような打撲痕が無数に残っている。

その上空には涼しい顔をした騎竜乗り三人と三匹がいる。


「相変わらずですね。夜叉と鬼竜は。」


映像に写るその様子をシャルローゼは眉を寄せ険しげに観戦する。


「左様でございますね。」

「何なんですか!?。あの騎竜と騎竜乗りは!。もう無茶苦茶ですよ!。」


戦闘の様子を一部始終見ていたカリスは青ざめる。夜叉と言われた騎竜乗りと鬼竜と呼ばれた竜は後方から来た全ての騎竜乗りと騎竜を倒してしまった。確かにチームにいた他の二人と二匹の騎竜乗りと騎竜も充分に強かったのだが。あの夜叉と鬼竜という騎竜乗りと騎竜の強さは以上である。魔法もスキルも使わず全て剣技と肉弾でねじ伏せたのだ。後方から来た騎竜乗りと騎竜も充分な実力を持っていた。なのに魔法もスキルも何故かあの夜叉と鬼竜に効かなかったのだ。いや、ダメージが通っていないように見受けられる。カリスは鬼竜と呼ばれる竜(ドラゴン)が以上に黒光りしているのが気になった。


「あれが暴虐と呼ばれた夜叉と鬼竜なのですよ。全てを騎竜乗りと騎竜を力でねじ伏せる。しかも戦闘狂であり。レースに出場した騎竜乗りと騎竜を見境なく攻撃する。全然変わっていませんね·····。私とセランと卒業した一年先輩で抑えてやっと倒した相手ですけれど·····。」


シャルローゼは深刻な表情で重く唇をつぐむ。


『もうこんなのレースじゃないわ!。ただの虐殺よ!。誰か!、誰かあの野蛮な騎竜乗りと騎竜を止めてえええーー!。』


解説のエエチチは放送席で先頭の騎竜と騎竜乗りに対して非難の嵐のように訴える。

風車杯の観客席も歓声どころか暗く重い空気が流れていた。口をつぐみ皆沈黙を保っている。


バァサッバァサッ

しかし一つの魔法具のスクリーンに写るレース映像に3つの影がうつる。


「あれを見て!。」


それに気付いた観客席の一人が指を指す。

風車の丘コースの後方の様子を写すスクリーンに三匹の騎竜の姿が写っていた。よくみると先頭には白緑色の羽毛に覆った鳥のような騎竜と後方に二匹は大きな茶色の巨体をした竜と緑色の平凡な色をしたノーマル種の姿があった。


観客席から一気に歓声がわきだす。

うつむいて落ち込んでいた風の谷の村長エエチチもそんな観客に様子に気付き。ふっと視線を三頭写り込む映像に移す。


『風姫····。』


それは紛れもなく風車杯五連覇をなし遂げたあの風姫である。


『そうよ!。貴女達がいたわ!。貴女達ならあの野蛮な騎竜と騎竜乗りを倒せるわ!』


エエチチの瞳に生気が宿る。


『貴女達が頼みの綱よ!。どうかあの野蛮な無法者の騎竜乗りと騎竜をぶっ倒して!。』


エエチチは放送席から懇願交じり声援をおくる。


「ふふ、来たわね····。」

『楽しみだな。ベローゼ。』


夜叉と鬼竜は風車が並ぶ丘の空で好敵手の来訪を好戦的な冷笑を浮かべながら待ち構える。

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