第192話 狂喜乱舞
コース
乱気流区域
びゅるるるる~~ びゅるるるる~~
山脈に囲まれてできた自然のコースにあっちこっちの物凄い風が渦を巻いている。そんな異常気象のような場所で三人の騎竜乗りと騎竜は平然と進む。目の前に所々に乱雑に広がる渦の風を何のものともせずに突き進む。
「今日も先頭ね。私達。」
「ぶっちぎりの一位じゃない?。」
「あ~あ、今日も勝ってしまうのね。」
空気を読めない読まない令嬢とうたわれるKY のチーム面々は今日も風車杯を何の苦もなくレースコースを進んでいく。乱気流とも呼べるほど無数の風の渦を巻くこの場所で。何故苦もなく平然と進むことができるかと言えば天候を操ることができるとうたわれる気象竜のおかげである。三頭の気象竜は目の前に飛行を妨害してくる渦巻く風をかきけしてくれるのである。それ以前に向かい風や追い風も気象竜の持つ天候操作で如何様にも利用することができた。故にKY のチームの騎竜乗りは何の苦労せずに風車杯のレースコースを飛行できるのである。
「そういえば風車杯の五連勝の覇者だっけ?。風姫っていう騎竜乗り来てないわね。」
「先頭に飛行してた時見かけなかったわよ。」
「所詮名ばかりの人だったんじゃないの。私達に恐れなしたとか。」
「言えてる。」
レースの緊迫する空気など三人にとって皆無だった。普通に風が多数渦巻くコースでマイペースに談笑を楽しみながら進む。正に空気読まないである。
暫く進み。渦巻く風の山脈コースを抜ける。
そこには風の力でプロペラが動く風車が何台も丘にそびえたつ草原が広がっていた。風車の真下が緑色に覆われる。
「この風車の丘のコースを越えれば風の谷の反対側に着いてめでたくゴールね。」
「呆気なかったわね。」
「今日も楽勝ね。表彰式の準備をしないと。」
三人はそう言うとおもむろに懐のポケットからリップや手鏡、コンパクトなファンデーションをとりだし勝手に化粧し始める。
パタパタ ぬりぬり
『主人よ。レース中に化粧をお止めください!。』
気象竜の一頭が苦言をていす。
「別にいいんじゃない。誰も戦闘する相手いないんだから。それに表彰式に出るんだから化粧は大事よ。」
パタパタ
KYのチームの一人の令嬢はファンデーションを顔に塗りたぐる。
他の二人は唇にリップを塗ったり。髪を束ね身だしなみを整えたりする。
はなっから優勝すると決めてかかっているようである。
三頭の気象竜は主人の行いにはあ~と何とも言えない深いため息を吐く。
ゴゴゴゴゴ
風が流れる丘に真下ある幾つもの風車のプロペラが力強く回る。
ひゅ~~~~
のどかな雰囲気の中三人は熱心に化粧に勤しんでいた。
その時
ひゅううううううううううう ガンッ!!
突然頭上上空から何者かが降ってきた。
『主人!?。』
KYの一人に鉄の塊が降りおろされたが。寸前に止められる。KYの一人の片手にはいつの間に剣が握られていた。
「危ないわねえ。何するのよ。」
KYの一人は特に焦ることもなく頭上から斬りつけた者を睨み付ける。
斬りつけたものは素肌を晒す鎧と整っていない髪を流し。いかにもがさつそうな性格した女である。
「ほう、油断していると思いきや。いやはや流石は前回の優勝者というわけか。その態度はふりか?それとも天然か?。何にせよ面白い。」
斬りつけた女はニヤリと不適な冷笑を浮かべる。
「いい加減に離れなさい!よ。化粧の邪魔よ!。」
KYの一人は振り払う。
襲いかかった者は大剣を軽々しく持ち上げ。真後ろへと身軽に宙をバク転する。
後方にはいつの間にか左右に二本角を生やした竜と二組の騎竜乗りを乗せた竜がスタンバっていた。
バク転した女は禍々しい雰囲気を漂わす二本角の生やす筋肉質の竜の背中へと着地する。
「ミャルナ、メレン、手をだすな!。これは私の獲物だ。」
素肌を晒す鎧を着た騎竜乗りの女は好戦的な笑みを浮かべる。
「加勢しなくて宜しいんですか?。ベローゼ先輩。」
一人の白と金を合わせた美しい聖竜族と思われる騎竜に乗った後輩が口を開く。
「こんな面白いこと譲るわけないだろ。手応えある奴等と折角出逢えたんだ。なあ?我怒羅。」
我怒羅と呼ばれた二本角の禍々しい筋肉質の竜(ドラゴン)はふんと鼻息を鳴らす。
『ふん、人間の方は強いと解るが。竜(ドラゴン)の方はどうなんだ?。』
「さあ、私は竜じゃないから解らないわ。」
『人間が強くても竜が弱いじゃ意味がないだろう?。つまらん戦いなら俺は暴れるぞ。』
「はっ、好きにするといい。私は私で楽しむから。」
ベローゼと武羅鬼竜、我怒羅は対峙するKY のチームを無視してるかのようにお構い無しに話を進める。
「ねえ?私達相手に一人一匹で戦うって言わなかった?。」
「舐められているわね。私達。」
「ちょっかい出しといて無視って何様のつもりよ!。」
空気読まない三人組の令嬢だが。会話の空気にされたことに三人は大いに憤慨する。
「お前達が前回の優勝者であることは知っている。私にとって重要なのは強いかどうかよ。それ以外はどうでもいい。」
ベローゼは吐き捨てるように返す。
「ねえ?あの人いわゆる戦闘狂っていうやつかしら。引くわ~。」
「野蛮ね。品性も欠片もないわ。」
「もう少し美しさを磨いたらどうなのかしら?。身なりも清潔感がまるでないし。」
三人組は口々に文句を並べ立てる。
「はっ、戦闘に美しさは必要か?。そう言うのは社交界のパーティーだけで充分だ。戦闘はただ力のみでねじ伏せる。ただそれだけだ!。」
ぶん
ベローゼは大剣を大きく振り払う。
『主人よ。気をつけて下さい!。こやつら得たいが知れないです。』
三人の騎竜である気象竜は目の前の武羅鬼、我怒羅の不気味な威圧感を肌に感じ取っていた。
「気にしなくてもいいわよ。こういう戦闘馬鹿は早く片付けることにこしたことないんだから。」
KY のチームの一人は余裕を見せる。
「早く片付けるか···。それは困るな·····。」
ベローゼはニヤリも薄ら笑みを浮かべ。大剣を片手に水平に置くと武羅鬼竜、我怒羅は一気にKYのチームの懐に接近する。
びゅううう
『くっ!速い!?。』
「戦闘が楽しめないじゃないか!。」
ベローゼの大剣が大きく振り払う。鉄の塊とも呼べる大きさの大剣はKYの一人の身体に触れようとするが咄嗟に反応し武装解放した剣で防いだが。騎竜もろとも吹き飛ばされる。
「キャーーー!!。」
『気圧変化。』
気象竜もろとも風車のある草原に叩きつけられると思いきや気象竜の能力で地面すれすれに止まる。
「やってくれるわね·····。」
残りのKY二人の唇が歪む。
「はは、そうこなくては。面白みがない。」
『ベローゼ。お前だけ楽しんでずるいぞ。俺にも騎竜どもと闘わせろ!。』
武羅鬼竜、我怒羅は自分だけまだ騎竜と戦闘を行っていないことに不満を吐く。
「あ、悪い悪い。騎竜乗りだけ楽しんでしまったわ。はははっ。」
ベローゼは悪びれる様子もなく高笑いする。
「くっ、舐めるじゃないわよ!。」
「私達の実力がこの程度ものだとしたら大間違いよ!。」
KYの二人はカッとなりベローゼが乗る武羅鬼竜に飛びかかる。
『これは一体どいうことでしょうか?。先頭にいた前回の優勝者KYチーム が苦戦しております。』
ざわざわ ざわざわ
実況ハマナスはスクリーンに写る先頭の様子に驚愕な眼差し向ける。
『そ、そんな焦ることもありませんよ。前回の優勝者であるKY チームの実力はこんなものではありませんから。』
解説のエエチチはKYチームを擁護するような言い方をしているが。内心動揺を隠せなかった。飛び込みのチームの騎竜乗りと騎竜それも一人一匹に苦戦をしいいられているからだ。本来ならあり得ないことである。
『主人よ。我々の力で奴の騎竜を抑えます。早々に相手の騎竜乗りとけりをつけてください。あれはヤバイです。』
「わ、解っているわよ。そんなこと。」
KY のチームの一人忌々しげにちっと舌打ちをする。
『抑える。くくく、俺を抑えると?。はははっ、出来るものならやってみろ!。なら、俺は全力で暴れてやるわ!。』
左右に鬼のような二本角を生やす竜、武羅鬼竜は厳つい竜顔が狂気に染まる。
バサッ
翼を翻したと思った瞬間既に二匹の気象竜の前に出ていた。
ドォッ! ガスッ!
武羅鬼竜、我怒羅は狂気の笑みを浮かべながら二匹の竜を素手と脚のみで殴り蹴りつける。
『ぐはっ!』
『ぎゃはっ!。』
気象竜はなす術なく武羅鬼竜の素手と脚で攻撃され身悶えしてのけ反る。
「な、何しているのよ!」
「しっかりしなさい!。」
KY チームの騎竜乗りの令嬢は相棒の気象竜に激しく叱咤する。
『くっ!この!サンダークラウド(雷雲)』
もくもくもくもく ゴゴーーン!
武羅鬼竜の近くに曇が出現し白い稲光を放つ。
『ほう、こいつが気象竜の気象魔法か?。』
武羅鬼竜は面白げに気象竜が行ったスキルをみいいる。
『それだけではないわ!。気象竜は天候を操ることができる竜(ドラゴン)だ。精霊を使役する精霊竜や妖精竜とは違い我等は天候そのものを操る。精霊など必要としない。故に何処でも使えるということだ。』
『我等の力を見くびるな。続けて私の魔法も喰らうがいい。』
もう一匹の気象竜が詠唱を行う。
魔方陣が展開される。
『ヘイル・ストーム(雹の雨)!。』
ゴゴーーン! ビリビリ!
ひゅうううーー パンパンパンパン
二方から雷雲の雷と氷の塊が武羅鬼竜の筋肉質の竜の身体に注がれる。
雷と雹が同時に当たるが武羅鬼竜は防御もせずに生身で受け止める。
『こやつら。何故?魔法やスキルで防ぎもせずに生身で攻撃を受けるのだ。』
防御の素振りを一切みせない二本角の筋肉質の竜(ドラゴン)に二匹の気象竜はその異常性に怖じ気を覚える。
『魔法?スキル?。そんなものは俺達には必要ない。闘いは力だけで充分だ。ただ力のみでねじ伏せる。シンプルだろう?。』
『この脳金が!。』
気象竜は武羅鬼竜、我怒羅に罵声を上げる。
『脳筋で結構。鬼の力を宿すとも詠われた我が武羅鬼竜の力を特と味わえ!。』
武羅鬼竜、我怒羅は強烈な威圧感を放つ。
気象竜は警戒し空中で間合いをとる。
『鬼気怪怪(ききかいかい)!。』
武羅鬼竜の筋肉がボコッと膨張し盛り上がる。盛り上がった筋肉がしなやかに黒光りを放ち。武羅鬼竜、我怒羅の竜口が蒸気とも呼べる息がもれる。
···········
警戒していた気象竜だったが。武羅鬼竜の周囲に何の変化もない。
『何だ?。ただのこけおどしか·····。』
武羅鬼竜に内心恐れを抱いていた気象竜はホッと安堵する。
『戻りましたよ。』
地上に叩き落とされそうになった気象竜とKY の一人が再び合流する。
『よし!我等で奴を畳み掛けるぞ。奴のスキルなどただのこけおどしだ。おそれるこことはない!。』
「「「私達KYのチームの力を見せてやるわ。」」」
KYチームの令嬢三人と気象竜三ぴきは闘争心むき出しで目の前の二本角の筋肉質の竜と素肌晒す鎧の騎竜乗りに突撃する。
「我怒羅、暴れるわよ!。」
『言わずとも!。』
武羅鬼竜の竜口から蒸気を発するような白い息がもれる。
バサッ
我怒羅が翼を翻した途端。三ぴきの気象竜の目の前に現れる。
『ぐっ、矢張速い!。』
『IT'S、A、パワー!!。』
武羅鬼竜、我怒羅は盛り上がった腕を振り上げ。拳を気象竜の脇腹に打ち込む。
ドゴっ!
ぎゃはっ!
「ザイア!?。」
ザイアという気象竜の名をKYの主人が叫ぶ。
「あんたも手元がお留守よ。」
拳を打ち込み怯んだ気象竜の背に乗るKYの一人をベローゼは大剣を大きく振り上げ斬りつける。
「くっ!。」
ギン!
瞬時に剣で弾き返したが。大剣の重みにKY の騎竜乗りは手に痺れをきたす。
「はっ、はははっ。楽しいなあ~。」
ベローゼは愉快に悦に入る。
「この!。」
「調子に乗るなあ!!。」
残りの二人は激昂し気象竜を股がり。同時にベローゼに斬りつける。
ベローゼは二本の剣を同時に大剣で受け止める。
「何だと!?。」
二本同時に剣を受けてもベローゼの大剣はびくともしない。逆に押し負ける。
「ん~、剣技はいいんだが。力がなあ~。お嬢さん方、肉はちゃんと食べているかい?。」
ベローゼは余裕で軽口を叩く。
「くっ!。」
KY 二人は悔しげに唇を噛む。
『おっと俺も忘れちゃ困るなあ。』
ベローゼが剣を受け止めている最中でも気にせず武羅鬼竜、我怒羅はKY 二人が乗る気象竜に攻撃を加えようとする。
『おるあ~!。』
武羅鬼竜の拳のラッシュが二匹の気象竜を捉える。
ドドドドドド!
『ぐはっ!』
『ぎゃはっ』
武羅鬼竜の止まることのない拳のラッシュに気象竜二匹は思わずその場を離れる。
「こらっ!私達はまだあの女を攻撃してないでしょうが!。」
KY 二人はベローゼとの戦闘が中断されてしまったことに憤慨する。
『も、申し訳ありません····。』
気象竜二匹は主人の足を引っ張ってしまったことに素直に謝罪する。
『ベローゼ。人間はともかく騎竜はあまりにも弱すぎないか?。お前は満足そうだが。俺は不満足だぞ。』
我怒羅は不機嫌に鼻息を鳴らす。
「仕方ないじゃない。騎竜乗りが強くて騎竜が弱いってよくあることだし。逆も然りよ。」
このレースの中で騎竜乗りと騎竜の間に実力差があるのはよくある話である。両方を兼ね備えた騎竜乗り、騎竜は本当に希である。
『はあ~、俺としては騎竜も強い方が良かったんだがなあ。これでは不完全燃焼だぞ。』
「それじゃ、風姫とやり合う前の前菜と考えればいいんじゃない。私はこのKYの戦闘は風姫とやり合う前の肩慣らしとしか思っていないから。」
『なるほど。それはいい考えだ。』
武羅鬼竜はニヤリと不適に竜口が笑う。
「前菜·····」
「肩慣らし····。」
「弱い······。」
KY 三人の肩がふるふると怒りうち震える。初めて前菜、肩慣らし、弱いと侮辱されたのだ。空気を読まない三人だったがこればっかりはカアーと頭に血が昇り。三人は怒りに激昂する。その気象竜も主人の侮辱ととれる言葉に牙をむき出しに唸り声をあげる。
「「「舐めるんじゃないわよおおーーー!!。」」」
『『『主人を侮辱するな!!。』』』
三人の三ぴきの怒声が上がる。
「あら?知らぬ間に煽っちゃったなあ。」
『煽って強くなるなら世話ないがなあ。』
好戦的な騎竜乗りと騎竜は怒り狂う三人三匹を前にしても何も動じることはなかった。
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