第191話 窮地

わーーーーー! わーーーー!!


『さあ、レース始まりした!。先頭に出たのは矢張前回の優勝チームKY 、最初に入る向い風のコースを難なく突き抜け。既に追い風のコースの後半にさしかかっております。いや、凄いですね。エエチチさん。』


風の谷ウィンドヒルのレース会場に設置された巨大スクリーンに写るレースの様子を確認しながら実況ハマナスは実況する。


『そうですね。しかし私は前回の優勝チームKY ではなく。風車杯五連勝の覇者である風姫がいるチームが先頭に躍り出るとおもっていましたが····。矢張·····。』


エエチチは深い落胆のため息を吐く。アンデス風のドレスに包む胸辺りが少し揺れる。


『どうかなされたのですか?。』


実況ハマナスは不思議そうに首を傾げる。


『風車杯の覇者である風姫はこの程度のものじゃないんです。風姫の相棒、風の悪戯と言われる疾風竜はその身に宿す風の能力で他の二人を先頭にまで押し上げ。ぶっちぎりの一着をもぎ取っていたんです。ですが。』


幾つかのレースの様子をスクリーンの一つに指を指す。


『風姫は追い風のコースにおります。しかもあの例のノーマル種がいません。』

『あれ?本当ですね。何かのトラブルでしょうか?。』


実況ハマナスも風姫を写すスクリーンを再度確認したが。矢張一緒にいたノーマル種は見当たらい。


『風姫と一緒にいたノーマル種はあちらにいますよ。』


ハマナスがエエチチが指さす方向に視線をむけると黒竜三匹と対峙する一匹のノーマル種がもう一台のスクリーンに写しだされていた。


『これは····まさか!?ポーカー家のブラック三兄妹?。』


ポーカー家のブラック三兄妹と言われれば黒竜三兄妹が有名である。名のある騎竜乗りの家系であるポーカー家の姉妹がこ、のレースを機に引退すると噂が流れている。ポーカー家が所有するブラック三兄妹はより強い騎竜であり。ポーカー家の令嬢姉妹も揃って強豪の騎竜乗りである。そのポーカー家と騎竜であるブラック三兄妹が風姫のいたチームのノーマル種とその騎竜乗りに対峙している。そして風姫のいた場所からノーマル種は引き離されている。ポーカー家の令嬢達とブラック三兄妹は風姫のいたチームのノーマル種を狙っていたのか?。最早これは完全な絶望的な状況である。勝ち目などない。ノーマル種一頭にレア種三頭が相手するのだ。戦いすらならないだろう。チーム制であるスリーマンセルでは互いに協力しあってレースに勝ち抜くのが醍醐味である。そしてチームから一人一頭引き離されればそれはチームとしては命取りしか他ならない。ポーカー家とブラック三兄妹はそこをついたのだろう。風姫のチームにいる数合わせである一番弱いとされるノーマル種を狙うことでチームの敗北を促したのだ。チームの中で一人一頭欠ければルール上レースでは敗北みなされる。チーム制のレースで騎竜や騎竜乗りがそのチームの一番弱い所を狙うのはレースの戦闘では定石である。だから風姫にいる数合わせのノーマル種が狙うことにはおかしくない。寧ろポーカー家とブラック三兄妹でなくても狙われた可能性があった。それほどチーム制であるスリーマンセルのレースに実力もない無能な騎竜を入れることは命取りなのである。


『だからいったんですよ。ノーマル種など足手まといしかならないと。ほら見たことか。風姫は先頭に出遅れ。数合わせであるノーマル種はチームから引き離され。今まさに危機的状況に陥ってます。数合わせにノーマル種など入れるべきではなかったんですよ。』


風の谷ウィンドヒルの村長であるエエチチは深い落胆のため息を吐く。

期待されていた風姫の活躍が数合わせのノーマル種のせいで絶望的である。


『·········。』

『エエチチさん。気を取り直して先頭の様子を観ませんか?。』


落ち込む解説のエエチチさんを気遣い実況のハマナスは先頭の実況を提案する。


『そうですね。KY のチームの活躍も観たいですし。』


エエチチは深く頷く。

二人は風姫のいるチームを忘れ。KY のチームの実況、解説することにした。


「いきなり窮地ですなあ····。お嬢様。」

「そうね。でもライナのことだから巻き返すことでしょう。いつものことですし。」


観客席で観戦するシャルローゼと絶帝竜カイギスはライナが敗北するなど微塵もかんじていなかった。


「アーニャ、頑張りなさいよ。」


カリスは親友の勝利を願う。


「ではじっくり観察するとしましょう。レア種を越える力を見せて貰います。ライナ。」


カリスの相棒である弩王竜ハウドは一点のスクリーンを直視する。


「武装解放するべきかとおもったけれど。矢張三対一では相手するのは忍びないわね。相手もあんな感じだし。」


ポーカー家の長女ハートは視線の先にはあわわわと爆乳を揺らして取り乱すアーニャお嬢様がいる。



『ここは我等にお任せよ。ノーマル種などちょちょいのちょいで倒してみせますよ。』

『兄者の手をわずわらせることもないぜ。ここは俺が出る!。』

『兄(あん)ちゃん頑張って!。』

「任せたわ。」


ブラック三兄妹の次男である黒竜エルゴが前に出る。

対峙する区域が後方から風が流れてくるのでまだ俺達は追い風のコースにいることを把握する。


「さあ、私が相手するわ。私はポーカー家の次女ダイヤ・ポーカーよ。覚悟してね。」


黒竜エルゴの背に乗るダイヤ・ポーカーはドラグネグローブから剣をだす。


「貴女も武器を出したらどうなの?。」

「え?は、はい!。」


ふわ ふわ

アーニャお嬢様もドラグネグローブの宝玉から武器を取り出そうとする。

そういえばアーニャお嬢様の扱う固有武器は知らないなあ。アイシャお嬢様と授業で一緒に訓練することもあるけど。武器を所持したことろなどみたことがない。というか相棒のモルスの居眠りのせいでまともに訓練を受けていなかったような気がする。

まあ確かにアーニャお嬢様の父親が怒るのも解る気がする。

騎竜が主人の足を引っ張るのはどうかとおもうのだけれど·····。


「武装解放。」


アーニャお嬢様がドラグネグローブの手の甲にある宝玉が光り。固有武器が現れる。


じゃらじゃら ゴロン

えっ!?


俺は不吉な重量物の音が背上に流れたので思わず長首を曲げ。アーニャお嬢様の様子を確認する


アーニャお嬢様の手に持っていたのは鎖に繋がれた巨大な丸い鉄球しかも鋭利なトゲトゲ付きのモーニングスターであった。


アーニャお嬢様は見た目に反してエゲつない固有武器を所持していた。


よりによってモーニングスターかよ·····。


モーニングスターなんてゲームの世界でしか見たことがない。

破壊力攻撃力抜群、相手にトゲトゲの鉄球を懐に打ち込めば一発でノックアウトてな代物である。

ただリーチの隙を狙われやすい弱点もある。モーニングスターはセラン先輩の鞭の攻撃系上位互換とも言えるだろう。


「貴女、見た目に反してエゲツナイ武器をお持ちのようね。モーニングスターは扱い方も難しいと聞くわ。」


対峙する黒竜エルゴの背に乗るポーカー家次女ダイヤ・ポーカーは微妙な顔を浮かべる。


「は、はい。お父様が筋肉が頼れないなら武器に心血を注げと。」


あの筋肉好きのおっさんなら言いかねないな。それなら納得できるけど。

やたら俺の筋肉に熱視線を送ってたし。

アーニャお嬢様の所持武器がモーニングスターであるのも納得できる。


「学生であってもレースでは遠慮するつもりもないわ。」


ダイヤは中型の剣を構える。


『ふふふ、一発でのしてやるぜ。ノーマル種。主人の手をわずわらせることもない。』


完全に舐められているなあ·····。

俺がノーマル種だから相手が油断してくれているんだろうが。

俺は気を練り込んだ鉤爪の掌をゆっくりと開く。

ならばその過信有効活用させて貰う。


『それじゃ。行くぜ!ノーマル種。お前はここで即レース退場だ!。』


バァサッ

黒竜次男エルゴは一気に黒い翼を広げ俺の懐に飛びかかる。

アーニャお嬢様は重い鉄球の部分をむんずと掴みエルゴに乗るダイヤ・ポーカーに投げつける。


ごおおおお じゃらじゃら

ゴッ! ガッキン!。


ダイヤはアーニャが放ったトゲトゲ付き鉄球を剣が折れないように刃を左手で支えて防御する。


「中々の筋だけど。使い方がまったくなってないわ。モーニングスターは一撃必殺のような武器。リーチもあり。ここぞという時に使うのが正しい使い方よ。相手に当てるならば確実に当たる隙を狙うものよ。それ以外は自分の間合いに接近させないように牽制に使ったりもする。騎竜が接近した時点そのモーニングスターは不利なのよ。」


騎竜乗りのベテランであるポーカー家の次女ダイヤは嗜めるようにアーニャのダメ出しを指摘する。

懐に入った黒竜エルゴはニヤリと竜口から不適な笑みがこぼれる。


『終わりだぜ!。ノーマル種。ブラック三兄妹の次男エルゴ様の力を見よ。』


エルゴの竜の右腕に黒い魔方陣が展開する。どうやら魔法を放つようだ。


『ダーク・ベせ···。』


ギャあああーー!!

(竜破掌!!。)


ドコおおおーーッ!!

俺は魔法を発動させる前に気を練り込んだ右掌を黒竜エルゴの胴体に打ち込む。


『ぐはっ!』


黒竜次男エルゴは空中で後退りのけぞる。腹部に衝撃波を至近距離でまともに喰らったが気絶せずに耐えていた。

流石は強豪の騎竜だ。この程度では倒れないか····。


「どうしたのっ!?。エルゴ!。」


主人であるダイヤは突然のエルゴの異変に戸惑う。

ギャアギャア

荒い息がエルゴの竜口からもれる。


『き、気を付けろ···ダイヤ。こいつ、ただのノーマル種じゃない!。ゼェゼェ····。』


過呼吸のような呼吸をしながら苦しみだすが、主人であるダイヤに警告する。


『加勢する!。エルゴ。』

『兄(あん)ちゃん。大丈夫?。』


後方に控えていた黒竜長男コルトと三女スムが駆け寄る。

三女スムは心配そうに治癒魔法をエルゴにかける。


『兄者。ノーマル種ごとき俺だけで充分だ。』

『馬鹿を言うな!。お前がここまで遅れをとるんだ。あのノーマル種がただもんではないことは明白だ!。くっ、計算違いをした。風姫がチームに入れるノーマル種がただのノーマル種でないことを気づくべきだった。』

『兄者。あやまないでくれよ。俺が油断しただけなんだ····。』

『兄(あん)ちゃん·······。』


············

何か勝手に兄妹愛のメロドラマな雰囲気を漂わしているけど。、攻撃していいかなあ?。

隙だらけなので今攻撃したら倒せる気がする。場の空気を読んで攻撃できずにいた。


「コルト、エルゴ、スム。反省するのは後にしましょう。私達はスリーマンセルのチームです。協力してあのノーマル種を倒すことにしましょう。」


ポーカー家長女でありリーダーでもあるハート・ポーカーは三匹の黒竜に優しく嗜める。


『『『はい!。』』』


「ダイヤ、スペード、陣を組みます。」

「まさか三人がかりで倒すのですか?。」

「コンビネーションアーツはあのノーマル種に勿体無い気が?。」


ポーカー家の次女ダイヤと三女スペードが困惑する。


ギャアらぎゃあガアギャ?

(コンビネーションアーツ?)


聞き慣れない言葉に俺は竜首を傾げる。


「ダイヤ、スペード、どんな相手だろうと油断せずに全力で倒す。それがポーカー家の家訓であったでしょうに。次期ポーカー家頭首になる末の妹にお手本見せなくてどうするのですか!?。」

「お姉様····。」

「お姉様····.。」


長女の言葉に妹達はきゅっと唇を閉めて身を引き締める。


「コルト、エルゴ、スム、三方に別れ陣を張りなさい。」

『『『了解。』』』


黒竜三匹は三方に別れる。

大技でもくるのか?。

俺は警戒し身構える。


『ノーマル種!。我等兄妹の絆の力をみよ!。』


黒竜三兄妹の黒い鱗の体から漆黒のオーラが放たれる。


『ブラックリベリオン(漆黒の反旗)!!。』


ぶおおおーーーーん

三兄妹の漆黒のオーラが一つに重なり。巨大な黒い竜の形となる。


『我等の魔力が重ねた疑似魔力体だ。闇属性であり。触れれば全身が行動不能のマヒ状態となる。回避も不可能だ。我等の重ねた魔力はターゲットを何処までも追い。ノーマル種我等三兄妹の陣形スキルを喰らうがいい!。』


黒い魔力に重ねてできた黒い竜はまるで意志を持つかのように俺達に向かってる。


「はわわわわわ。ど、ど、どうすればいいんですか!?。」


ふわふわ ぶんぶん じゃらじゃら

アーニャお嬢様は動揺しまくって手持ちのモーニングスターも一緒にぶんぶんと振りくる。そのせいでトゲ付きの鉄球が無造作に暴れ。俺の竜体に当たりそうになる。

ギャアラギャアガアギャアラギャアガアギャアラギャ

(ちょ、危ないですから。落ち着いてください。·)


俺は何とかアーニャお嬢様宥める。しかし目の前の魔力によってできた黒い竜は刻々と接近してくる。

魔力でできているのなら竜気掌は効く筈だ。

俺は右掌を接近してくる黒い竜にかざす。


ぶおおおーーーん


『竜気掌!!。』


俺は右掌をブラック三兄妹のオーラにより形づくられた黒い竜に触れる。


『馬鹿め!。触れればマヒするとわからないのか!。我等の集合魔力疑似体に触れること自殺行為だぞ。』


黒竜長男コルトは鼻で笑い勝ち誇ったように竜口がニヤける。。

俺は耳をかさずそのまま鉤爪の右掌を目の前のオーラの黒い竜に向けた。

ライナの鉤爪の右掌には微かな灰銀の光の粒子がもれる。




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