第193話 ぶりっ子嫌い

ギャあああーー!。

(竜気掌!。)


ぶおおおおーーー

バシュッ!


『そんな·····。我等のブラックリベリオン(漆黒の反旗)がこうもいとも簡単にかきけされるだと!?。』


微かな灰銀の粒子の光が纏う掌をブラック三兄妹の魔力を合わせて造り出された疑似集合魔力体に触れると一瞬にして黒い竜の型どられた魔力体かききえる。

三匹はぽつんと疑似集合魔力体が消えた痕を呆けたように凝視する。


ギャアラギャガア

(次はこちらの番だ。)


ごおおおおお~はあああ~~~

俺は気を練り込み火の精霊を呼ぶ呼吸を行う。

大気中に赤い光の粒子が集まる。


「コルト、エルゴ、スム。何を呆けているのですか!?。あのノーマル種が何かしますよ!。」


ポーカー家の長女でありリーダーのハート・ポーカーの叫びに我にかえった三匹だが。時は既に遅し。既にライナの技を繰り出す準備は整っていた。

ライナは大きく鉤爪の右腕を大きく振りかざした。


ギャあああーー!。

(竜炎掌!。)


ごおおおおお~~

うねりを帯びた炎が猛々しくブラック三兄妹の二匹を襲う。


『馬鹿なっ!?。ノーマル種が炎だすだと!。』

『兄者!?。』


ノーマル種は魔法、スキルもまともに扱えぬ最弱な竜種だと先入観をもっていた二匹だったが。目の前のライナが炎を起こした光景に動揺が隠しきれず次の対応が遅れる。

二匹の黒い周りに炎が覆う。


『あつつつつ!。』

『兄者!。熱い!。』


二匹の黒い鱗に炎がふりかかり。大火事状態である。

俺はすかさず二匹の前に飛び込む。


「くっ!。」


接近したことをいち早くき付いたポーカー家の長女ハートは剣を振りかざそうとする。


「えい!。」


じゃらじゃら ゴオン!。


アーニャお嬢様がモーニングスターのトゲ付き鉄球を投げ入れるとハートが振りかざそうとした剣に当たり。剣が鉄球の重みに弾かれハートは体勢を崩す。


「くっ!。」

ギャア!ラギャガアギャ!アラギャガアギャ

(ナイス!フォローです!。アーニャお嬢様。)


俺はありったけの気を練り込んだ掌を至近距離でブラック三兄妹長男コルトの胴体に触れる。


ギャあああーー!。

(竜破掌!。)


ドッゴおおおおっっーーーっ!。


『がっはっ!。』


ブラック三兄妹の長男コルトは呻き声を上げた。

今度の竜破掌は密度を高めた気と触れるほどの至近距離であったため。耐えることはできず。ブラック三兄妹の長男コルトは白目を向きながら竜体がぐらつかせ。そのまままっ逆さまに落ちていく。


「キャあああーーーー!。」

「ハートお姉さま!。」

『兄者!?。』

ギャギャア!

(もういっちょ!。)


すぅ~~はぁ~~~~~

俺は水の精霊を呼ぶ呼吸を行う。

近くに水場はないが、高山地帯なので大気中に漂う水蒸気で事足りる。

みるみる俺の腕に水色の光の粒子とともに水分が集まりだす。


「何なのよ!。このノーマル種は!。」


ただのノーマル種である筈の竜の素手に水蒸気が集まり水液化する様を垣間見て。次女ダイヤの表情は凍り付いたように青ざめる。


『よくも兄者を!!。』

「馬鹿っ!。エルゴ!。」


兄を倒され。かっとなってしまったエルゴは何も考えずおもむろにライナ目指して飛びかかる。

ライナは水分が集まった鉤爪の右掌をスッと狙い定めたように向かってくるエルゴにの前にさしだす。


ギャあああああーー!!。

(竜水掌)


ドッ ばあああああーーーーーーー!

ハイドロブラスターの威力同等の強力な水鉄砲が向かってくるエルゴに放射される。

ドバッ!

エルゴに強力な水圧を纏った水が直撃する。


『ぐああああーーーーっ!。』

「きゃああああああーーーー!。」


掌から放射された強力の水圧に押されダイヤとエルゴはそのまま高山地帯の追い風の方向の斜め真下の奈落へと押し流される。

その場にポーカー家の三女スペード・ポーカーとブラック三兄妹の三女スムだけがとり残される。


『ど、どど、どうしよう。スペード。私達だけになっちゃった。あんちゃん達みんないなくなっちゃったよ~。』


黒竜三女スムはおろおろとあわてふためく。


「落ち着いてスム。こういう時こそ女の武器を使うのよ!。」


ポーカー家三女のスペードはぷるんと豊かな胸を張り。何故か自信満々に堂々と冷静にスムに指示する。


武器?まだ奥の手があるのか。

俺は身構え警戒する。


じゃらじゃら

アーニャお嬢様はモーニングスターの鉄球を持ち。投げつける準備をする。


『そっか。あの作戦だね。』

「そうよ。私達しか出来ないこの作戦を今こそ実行に移す時がきたのよ。」


どうやらこの一人一匹だけの攻撃方法らしい。俺は相手の出方を見るため様子見することにした。


ブラック三兄妹の三女スムはスッと両腕をあげ鉤爪の両手を絡ませ。左頬辺りに添える。そして竜の瞼が何故か長まつ毛となり。竜瞳を何度も瞬きする。


『私みたいないたいけなメス竜に暴力振る気なのん♥️。』

「降参よ~。うっふ~ん♥️」


黒竜三女スムはすがるような上目遣いで尻尾を左右にふりふりしながらぶりっ子のような仕草をする。乗り手であるポーカー家の三女スペード・ポーカーも揃って魅惑的なポーズをする。


ただの命乞いであった····。


··············

二対の間に数秒間の沈黙の空気が流れる······。


ひゅううううう ごぁおおおおーーー

俺は沈黙を破って竜口から空気を思いっきり吸い込み始める。

周囲の風がざわめく。


『あれ?。』


スムはライナの予想外の行動に戸惑う。

風の谷に大気中に多量に漂う黄緑の光の粒子がライナの掌に集まりだす。

後方から前方に流れる追い風も一緒に集まりだす。

ライナの風の精霊を集めた右掌をおもいっきし。力強く目の前の黒竜のメス竜目掛けて解き放つ。


ギャああああああーーーーー!。

(竜風掌おおおおおおおーー!。)


ごおおおおおおおおお〰️〰️〰️〰️!!!


「きゃあああああーーーーーーー!。」

『あ~~~れえ~~~~~!。』


びゅううううううううううううううううう~~ーーーーーーーーん!      キラッ☆


一人一匹は天高く遥か遠くまで爆風に吹き飛ばされ。最後にはキラッと一番星へと輝く。


「ふええ、何かライナさん。非道(ひど)くありませんか?。」


ふわふわ

背に乗るアーニャお嬢様が遠くに吹き飛ばされた彼等を見て何か不憫に思えた。


ギャアラギャガアギャアガアギャアラギャガアギャアギャラ····ギャ、ラギャガアギャアラギャアガアギャアラギャガアギャアラギャギャ!ギャアラギャガアギャアギャアラギャ!

(すみません。アーニャお嬢様。目の前のメス竜の態度に少し····いえ、かなりイラッときたので。アーニャお嬢様ここではっきり言います!。俺、ぶりっ子大嫌いっです!。)


俺は正直に自分の心情を伝える。


「はあ····そうなんですか····。」


アーニャはライナが何かぶりっ子に対して恨み辛みがあるのではないかと察し。これ以上詮索することをやめた。。


「ライナ、加勢にきたよ!。」


アイシャお嬢様は地土竜モルスに乗って追い風の吹く逆方向からきた。やはり幻術で後退させられたようである

ギャアラギャガアギャアラギャガアギャ

(もう片付けましたよ。アイシャお嬢様。)


俺はアイシャお嬢様に今の現状を伝えた。


「凄かったですよ。ライナさん。あっという間に倒してしまいました。」

ふわふわ


アーニャは雲の軽さを秘めた爆乳弾ませながらブラック三兄妹の戦闘した経緯をアイシャに教える。


「流石ライナね!。セラン先輩から伝言だよ。今すぐ合流すること。それとチームから引き離されることを想定してこれを所持するようにって言われたの。」


アイシャお嬢様が懐から装飾品が付いた髪止めのようなものをアーニャお嬢様に渡す。魔法具だろうか?。

アーニャお嬢様はその手渡された髪止めを髪に止める。


〘やっと、繋がったわ!。聴こえる?。〙


「ふええ、あわわわ。き、聴こえます。」


アーニャお嬢様は髪止めから突然声が聞こえたせいで。びっくりして俺の背中からバランスを崩して落ちそうになる。


『現状を教えてくれない?。』


アーニャお嬢様は会話できる状態ではなさそのうなので俺が変わりに報告することにした。


ギャアギャアギャアギャアラギャガアのギャアラギャガアギャアラギャガアギャアギャアラギャガアギャアラギャギャアラギャギャア

(えっと、ポーカー家というなの三姉妹の騎竜乗りとブラック三兄妹という黒竜に追い風のコースで交戦。何とか自分達でしりぞきました。)


俺は相手のチームの罠にはまり。アーニャと一緒に交戦したことを報告する。


〘ポーカー家のブラック三兄妹?。よく勝てたわね。彼等も強豪の騎竜乗りで有名よ。それじゃ決着つけたなら直ぐに合流して。〙

ギャアラギャガアギャアラギャギャアラギャガアギャア?

(大分タイムロスしたようですけど。大丈夫なんでしょうか?。)


ポーカー家とブラック三兄妹の戦闘は長引いていないが。それでもレースに時間をとってしまったことには変わりはない。


〘それは大丈夫な筈よ。ベローゼと武羅鬼竜、我怒羅がこの風車杯に出ている以上レースの順位で勝敗が決まることはまずないから。〙

ギャアラギャギャア?

(それはどう意味で?。)


俺はセラン先輩の意味ありげな言葉に竜の長首を傾げ困惑する。


〘それはレースコースを進めば嫌でも解ることよ。今はとにかく合流して。〙


ギャアラギャギャ

(了解しました。)


魔法具である通信用の髪止めの通話が切れる。アーニャお嬢様は態勢を戻す。


ギャアラギャガアギャアギャアラギャガアギャア

(それじゃ、行きましょうか。アイシャお嬢様。)

「アイシャさん。モルスが寝ています。」


アーニャお嬢様の指摘にアイシャお嬢様がはっと気付く。


「あっ!本当だ!?。モルス起きて!。」


スッ パーーン!!。


アイシャお嬢様はすかざす隠しもっていたハリセンで地土竜モルスの頭部をどつく。


『んがっ?。』


モルスは寝ぼけた竜顔で重たい瞼が開く。

こんな状況でよく眠れるなあ。このドラゴン。

俺は地土竜モルスの眠り癖に大いに呆れる。


「それじゃ、セラン先輩と合流しよう。」

「はい、アイシャさん。」


俺とアイシャお嬢様達は再び追い風のコースを進む。



      風車の丘コース



「くっ!バケモノが····。」


素肌を晒す鎧を着た騎竜乗りは襟首を掴みながらKYの一人を持ち上げていた。他のKYの二人と気象竜二匹は既に風車が回る地上の草原に息絶えたかのようにボロボロな姿で打ち捨てられていた。


「良い誉め言葉だ。お礼のついでに眺めの良い風車の丘の草原に招待しよう!。」


ベローゼは襟首強く掴んだままKYの一人を無造作に上空から真下に向けて投げ入れる。


ぶんっ!


『主人!。』


慌てて相棒である気象竜が追い掛ける。


『おっと、余所見するもんじゃないぞ。』


主人を追おうとする気象竜を武羅鬼竜、我怒羅がすかさず割り込み竜の拳を懐に打ち込む。

ドゴッ!


『ぎゃっはっ!。』


気象竜は武羅鬼竜、我怒羅の拳を打ち込まれ。ガクリと肩を落とし。力が抜けたようにゆっくりと主人と一緒に風車の丘に落ちていく。


『そんな·····。あの前回優勝者のKYが敗北するなんて····。』


風の谷の村長のエエチチが期待していた前回の優勝者が何処かの騎竜乗りと騎竜しかも一人一頭だけにやられてしまったことに愕然とする。


『強すぎます。何よりあの騎竜は何なんですか?。』


実況ハマナスは釘いるようにスクリーンに写る二本角の筋肉質の竜を見つめる。

素肌を晒す鎧を着た騎竜乗りも強いが。左右に二本角を生やす騎竜もまた尋常ではなかった。あの気象竜相手に一切魔法もスキルも使っていないのだ。ただ何か呟いた言葉があったが。見た感じ何ら変わっていない。ただ騎竜の筋肉が一段と盛り上がって黒光りしている気がする。


「前回の優勝者のKYってまあまあってとこね。 」

『だが騎竜がてんで駄目だ。あれで前回の優勝者なのか?。』


我怒羅は相手の騎竜のあまりにも歯ごたえの無さに不快に鼻をならす。


「それは仕方ないじゃないか?。強さにも色々あるんだろうし。あの気象竜は能力が長けていたってことだろう?。私達の純粋の強さと根本的に違うんだから。」

『はっ!。だからと言ってこうも歯ごたえ無いと飽きるわ!。』


武羅鬼竜はグロロと低く唸る。


「ベローゼ先輩。このままゴールを目指すのですか?。」


後方で控えるように先輩の戦闘の様子をみていた六騎特待生の一人、一年後輩ミャルナが口を出す。


「はあ?何を言っている。ここからが本番だろうが。」


風車の丘コースから後方から中間位置に飛行していた騎竜乗りを乗せた騎竜の群れが現れる。


「おっと、お楽しみのおでましだ。今度はお前達も加勢しろ!。一年の実戦訓練だ。」

「はあ~、やっぱりこうなるんですね。」


六輝特待生後輩であるミャルナはがっくりと肩を落とし半場諦めたようなため息を吐く。

相棒である聖霊竜ホリスラミスは白い竜口が苦笑じみたように緩む。



『申し訳ないのですが。メレン様がまだ眠っております。』


グ~グ~

もう一人の六騎特待生である一年メレン・ミラソースは神法來竜の背で呑気に未だに眠っていた。


「はあ?、だったらぶったたいても叩きこ起こせ!。主人を甘やかすな!。」



『何とか起こしてみますけど。はあ~、メレン様は眠ってしまうと中々起きないのですが。』


神法來竜ソルクベロは主人を起こそうと悪戦苦闘し始める。


「そんじゃ、我怒羅。一緒に暴れるよ!。」

『今度は歯応えあればいいがな。』


後方からくる騎竜の群れに夜叉と鬼竜は気持ち高ぶるように好戦的な視線を送る。

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