第173話 無能の意地

ざわざわ


『これは一体どういうことでしょうか!。純白の乙女とマーガレット・ベルジェインが対峙し。戦闘行われると思いきや。いきなり金貨の川の金貨がつむじ風により舞い上がり。上空にいた純白乙女達とその騎竜達を呑み込んで下に落ちて金貨の小山となり。他の純白の乙女達と騎竜も更なるつむじ風に舞い上がった多量の金貨が当たり。すり抜けた金貨が上空に止まり。頭上から豪雨の如く純白の乙女達とその騎竜を金貨の束押し流し。金貨の川があった場所へと純白乙女達もろとも流れ落ちたあああ!。今は川があった場所が大きな金貨の山へと成り果てております。こ、これは演出にしてはやり過ぎではないでしょうか?。どうなんですか?サルマニア婦人。』


実況のアルヘビラはレースだとしてもここまで障害物を設置するのはやはりレースとしてやり過ぎでないかと勘違いをする。金貨の川には怪我や溺れ防止の為の多重魔法もかけられているので心配はないが。ゴージャスエレガントカップには財界の有力者である貴族の令嬢まで出場している。騎竜レースでは怪我は当たり前なのだが。矢張財界の有力者の令嬢を怪我させるなど問題になる。だからゴージャスエレガントカップは事故や怪我など注視して未然に防ぐような防止策を施されていた。


『し、知らないですわよ!。こんなの。わたくしこんな演出施してないですわ!。』


サルマニア婦人も首をふり。金貨の川で起こった出来事に挙動不審な姿で全否定する。

言われもない訴えにサルマニア婦人も錯乱混乱していた。


『どうですか?。サルマニア婦人。あなたが馬鹿にしたノーマル種の力を。』


さらりと隣席のパトリシアは口を開く。


『なっ!。あれはあのノーマル種の仕業と言うのですか!?。パトリシア・ハーディル。』


サルマニア婦人は頬に汗が流れ絶句する。


『ええ、これだけではないですけど。』


隣の席で涼しそうなパトリシアの表情にサルマニア婦人はわなわなと赤紅の唇を歪む。


      第一コース付近

      金貨の川(今は山)


んん、やっぱやり過ぎたかなあ?。全員埋もれちゃったよ。純白の乙女達の四人とその騎竜は出来上がった金貨の山に埋もれていた。

後方に控えていた煌輝竜に騎乗する純白の乙女リーダーは呆然とまだ凍り付いたように固まっている。

本当に溺れ死んだりしないだろうなあ?。水でもなくても多量の金貨なら窒息死する可能性も否定できない。

じゃらじゃらじゃら


突然金貨の山の一箇所が金貨が流れ。こぶのように盛り上がる。


ザッ パーーン!!

金貨を飛び散り。何かが這い上がる。よくみるとそれはメイド姿のカーラさんである。埋もれた金貨の山から這い出したカーラはジロリと俺に冷たい眼差しで睨みつける。

金貨拾いを夢中でやっていたが。突然俺が風の精霊で風をおこし。金貨を使った攻撃に邪魔され。かなりご立腹のようである。カーラさんの怒りオーラがふつふつとこっちまで伝わってくる。


ちょ、仕方ないでしょうが!。これレースなんだから。カーラさんの邪魔するつもりはないけどさ。ここがレースコースなんだから当然戦闘の巻き添えになるんだから当たり前でしょうに。カーラさんの射るような鋭い視線に俺は無言の非難を込める。


「な、何なのこれは·····。」


呆然としていた純白の乙女のリーダーは肩を震わす。仲間達が一瞬にして金貨に呑み込まれ。金貨の山に埋もれしまった今の状況を呑み込めなかった。


『つまらん貴族の道楽のレースと思いきや。面白い強豪に出逢えたものだな。』


沈黙を保っていた純白の乙女のリーダーの騎竜、煌輝竜が初めて口を開く。


『最初は目を疑ったよ。何せまさかノーマル種に幾つもの精霊がつけているのだからなあ。その他にも体内にあり得ぬ精霊も飼っているようだな。』


煌輝竜の瞳孔が鋭く開く。

沈黙を保っていた煌輝竜は高見の見物をしていたのではなく俺を警戒していたようだ。出来れば油断してくれていたほうが楽だった。油断しない竜は強いと相場が決まっている。


「な、何を言っているの?。アルベッサ。あれはたかがノーマル種よ。」


どうやら煌輝竜の名はアルベッサという名らしい。言葉遣いと声音としてはオスらしい。


「現実を見ろ!。レカーリヌ。現にお前の仲間は倒されたではないか。」

「こ、これはたんなる演出よ!。私の仲間が障害物に巻き込まれたのよ。そうよ!運営を訴えてやるわ!。レースでもこんな障害物を建てるなんて!。間違っている!。お父様にも進言するわ!。」


煌輝竜ははあ~と深い落胆のため息を吐く。


『お前の父の頼みでこのレースに出場したが。実力見誤っている時点で先はないな。』

「な、何よ!。私の事を馬鹿にする気?。騎竜だからって主人に対してそんな暴言許さないわよ!。」


レカーリヌはいきり立ち憤慨する。


『ご自由に。、別に俺はお前に遣えているわけじゃないからな。お前の父の頼みでなければこんなつまらんレースに出るつもりもなかったぞ。』

「くっ、アルベッサ····。」


純白の乙女のリーダーレカーリヌはわなわなと悔しげに唇が歪んでいる。せっかく塗りたくった真っ白な厚化粧顔もべとりと少しに崩れている。

「·······。」


やけに主人と騎竜の関係が歪だなあ。俺が戦ってきた主人と騎竜関係はお互い信頼関係で結ばれていたのに。この一人と一匹にはそれが皆無である。


『待たせたな、ノーマル種。俺は煌輝竜アルベッサ。こんな身なりだが。上品と程遠い暮らしてをしてきた騎竜だ。あんた、名は』

ギャラギャガアギャラギャガアギャアラギャガアギャアラギャガアギャラギャガアギャアラギャ

「ノーマル種のライナだ。訳あって今はマーガレットお嬢様の騎竜をしている。主人は別にいる。」

『そうか。あんたも俺と同じ境遇か。お互い苦労するなあ。無能な主人に遣わされて。見たところあんたも乗るお嬢様はお前にとって足手まといだろ?。』

ギャア!?

「ああ!?。」


カチンッ!

俺は少し頭にきた。てっきり出来の悪い主人を嗜めているとおもいきや。こいつ完全に主人を卑下にしている。出来の悪い主人をサポートするどころか。こいつは既に見切りをつけている。多分こいつは騎竜乗りを有能か無能かで判断している。乗る人間が無能だった場合アルベッサという煌輝竜は容赦なく切り捨てる。目の前は竜はそういう性格をしていた。


ギャアラギャガアギャアラギャガアギャアラギャガアギャアラギャ?

「無能であるならば主人を有能にするのが騎竜の務めじゃないのか?」

『ご冗談を。無能は何処を言っても無能なのさ。無能が有能になることはない。』


やっぱりこいつ。相手が有能か無能かで判断している。もし俺が無能なら興味を持つことなど一切なかっただろう。

ギャアラギャガアギャアラギャガアギャアラギャガアギャアラギャガアギャアラギャガアギャアラギャガアギャ

(そうか。よくわかった。だが残念だったなあ。俺は無能たぞ。魔法も使えない。能力もない平凡なノーマル種だ。)


『ふっ、ご冗談を。精霊を扱える時点で無能とは言わないさ。』


煌輝竜はくっくっと不適にあざ嗤う


ギャアラギャガアギャアラギャガアギャアラギャガアギャアラギャガ

(ただのおこぼれだよ。俺は最初はどうしようもないほど無能だったよ。)


実際俺に力を貸す精霊達もプロスペリテの名残のようなものだし。銀晶竜のソーラさんから神足る竜であるプロスペリテの精霊のことをきかされている。今でも亡くった主人の言いつけを健気に守っているそうだ。精霊達はマーヴェラス家を陰から守っていたのだ。だから俺がマーヴェラス家の騎竜になったことで俺に興味を持ち。力を貸すのも結局のところ今亡き神足る竜プロスペリテのおこぼれにほかならない。


ギャアラギャガアギャアラギャガアギャアラギャガアギャアラギャガアギャアラギャガアギャア ラギャ

(それに師に恵まれただけだ。お前が無能を否定するということは俺さえも否定することになる。だから)


『だから?。』


ギャラギャガアギャ!ギャラギャガア

(無能でお前を倒す!。完膚なきまでに。)


俺はキッパリと断言する。


『ふふっ、面白い事を言う。無能で倒すか。出来るものならやってみるがいい。俺は綺麗事をする竜ではない。全力で潰せるものならば潰す。それが俺だ。』


ギャ···ギャラギャガアギャアラギャガアギャラギャ!

(そうか·····。なら無能の全力を見せてやる!。)


俺は煌輝竜アルベッサにおもいっきり啖呵を切った。


ギャラギャガアギャラギャガアギャラギャガア

(すみません。マーガレットお嬢様。お願いしたいことがあるんですが。)


俺は小声で背中に乗るマーガレットお嬢様に声をかける。


「ああ~ライナ様♥️ライナ様♥️。」

すりすりすり

ギャラギャガアギャ!!

(話聞いて下さい!。)


びくっ

俺が少し(怒)を上げた唸り声を上げるとマーガレットお嬢様はびくっと反応する。

その後しゅんと背中に乗るマーガレットお嬢様は気落ちしたように落ち込む。そんな姿に俺はキッパリと発言する。


ギャラギャガアギャラギャガア!

(全力でBoin走行をお願いします!。)


マーガレットお嬢様は俺の指示にパッと嬉しそうな笑顔に変わる。


「了解しましたですわ!。ライナ様!。」


むにゅう♥️

マーガレットお嬢様の張りのある2つの豊かな膨らみが俺の背中に押し付けられる。


さて

ゴキッゴキッ

俺は翼を広げ鋭利な鉤爪の掌の指を動かし両手の指を鳴らす。


ギャギャア

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